% つるべ落としのからくり

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\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage{tikz}

\begin{document}

\section*{◆つるべ落としのからくり◆}

\subsection*{秋の夕暮れ}

$11$月ごろの夕暮れどきは、あっという間に暗くなることから釣瓶(つるべ)落としにたとえられます。つまり釣瓶---井戸水をくみ上げるときに使う桶---が滑車によって勢いよく落ちるように一気に暗くなることを意味しています。夏の夕暮れどきがいつまでも明るいのに比べ、確かに秋の夕暮れが早いことは実感しているのではないでしょうか。

冬は昼の時間が短いから夕暮れが早いことは自然に感じるかもしれません。それはある意味自然には違いないのですが、それなら昼の時間が最も短くなる冬至のころ---$12$月下旬---がつるべ落としを最も実感できるはずです。でも、実際の感覚はそうではないでしょう。これは気のせいでも何でもなく、きちんとした仕組みがあるのです。仕組みの解明には面倒な計算が必要ですが、計算に頼らず目で見て理解できるように頑張ることにします。

\newcommand{\Earth}[1]{
\begin{scope}[shift={(#1, 0)}]
\draw[thick] (0, 0) circle [x radius=1, y radius=1];
\draw[thick] ({cos(-23.5)}, {sin(-23.5)}) -- ({cos(156.5)}, {sin(156.5)});
\draw ({cos( 66.5)}, {sin( 66.5)}) node[above right] {\tiny$N$} -- ({2*cos( 66.5)}, {2*sin( 66.5)}) node[left] {\fbox{\tiny{自転軸}}};
\draw ({cos(246.5)}, {sin(246.5)}) -- ({2*cos(246.5)}, {2*sin(246.5)}) node[above right] {\tiny$S$};
\end{scope}
}
%
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.5]
\fill (0, 0) circle [x radius=0.25, y radius=0.25]; % 太陽
\foreach \x in {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7}
\draw[ultra thick] ({0.35*cos(45*\x)}, {0.35*sin(45*\x)}) -- ({0.6*cos(45*\x)}, {0.6*sin(45*\x)});
%
\draw (-10, 0) -- (10, 0) node[below, pos=0.05] {\scriptsize{夏至の頃}} node[above, pos=0.25] {\fbox{\tiny 公転面}} node[below, pos=0.95] {\scriptsize{冬至の頃}};
\Earth{-11}
\Earth{ 11}
\end{tikzpicture}
\end{center}

薄暮の時間帯が生じるのは、地球が丸い形をして自転をしていることが主な理由でしょう。問題は自転軸が公転面に対して垂直でないことです。鉛直方向に対して約$23.5$\textdegree 傾いているようです。下の図はこれを北極方向から見下ろした様子です。宇宙ではどっちが上か下かわかりませんが、ここでは北極面が上面と見ました。

\newcommand\NEarth{
\draw[thick] (0, 0) circle [x radius=1, y radius=1];
\fill ({sin(23.5)}, 0) circle [x radius=0.03, y radius=0.03] node[below] {\tiny{N}}; % 北極
\draw[dashed] ({sin(66.33)*sin(23.5)}, 0) circle [x radius=cos(66.33)*cos(23.5), y radius=cos(66.33)]; % 北極圏66.33度
\draw ({sin(35)*sin(23.5)}, 0) circle [x radius=cos(35)*cos(23.5), y radius=cos(35)]; % 北緯35度
\draw[shift={(0.25, 1.15)}, ->] (0, 0) arc[radius=1, start angle=75, end angle=105] node[left] {\fbox{\tiny 自転方向}};
}
%
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=1.8]
\fill (0, 0) circle [x radius=0.07, y radius=0.07] node[below] {\tiny{太陽}};
\draw[shift={( 0.75, 1)}, ->] (0, 0) arc[radius=1, start angle= 45, end angle=135] node[left] {\fbox{\tiny 公転方向}} node[midway, above] {\small{春分の頃}};
\draw[shift={(-0.75, -1)}, ->] (0, 0) arc[radius=1, start angle=225, end angle=315] node[right] {\fbox{\tiny 公転方向}} node[midway, below] {\small{秋分の頃}};
%
\begin{scope}[shift={(-2.5, 0)}]
\NEarth
\draw (0, -1.6) -- (0, 1.6);
\node at ( 1.35, 0) {\small{夏至の頃}};
\draw[dashed] (-0.35, -1.6) -- (-0.35, 1.6) node[pos=0.05] {\scriptsize{夜   薄暮帯}};
\foreach \x in {1, 2, 3, 4, 5} \draw[ultra thin] (-1.6+0.25*\x, -1.6) -- (0, 0-0.25*\x);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6} \draw[ultra thin] (-1.6, -1.6+0.25*\y) -- (0, 0+0.25*\y);
\foreach \y in {1, 2, 3, 4, 5} \draw[ultra thin] (-1.6, 0+0.25*\y) -- (0-0.25*\y, 1.6);
% cos(35)^2 = 0.671, cos(23.5)^2 = 0.840, 2*sin(35)*tan(23.5)/cos(23.5) = 0.543, sin(35)^2*tan(23.5)^2 = 0.062
\draw[domain=0:-0.35, ultra thick] plot (\x, {sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)}) node[right] {$L_s$};
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(2.5, 0)}]
\NEarth
\draw (0, -1.6) -- (0, 1.6);
\node at (-1.35, 0) {\small{冬至の頃}};
\draw[dashed] ( 0.35, -1.6) -- ( 0.35, 1.6) node[pos=0.05] {\scriptsize{薄暮帯   夜}};
\foreach \x in {1, 2, 3, 4, 5} \draw[ultra thin] (0+0.25*\x, -1.6) -- (1.6, 0-0.25*\x);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6} \draw[ultra thin] (0, -1.6+0.25*\y) -- (1.6, 0+0.25*\y);
\foreach \y in {1, 2, 3, 4, 5} \draw[ultra thin] (0, 0+0.25*\y) -- (1.6-0.25*\y, 1.6);
% (x - sin35sin23.5)^2/(cos35cos23.5)^2 + y^2/(cos35)^2 = 1
\draw[domain=0:0.35, ultra thick] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)}) node[above left] {$L_w$};
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

夏至の頃と冬至の頃の光の当たり方が図示されているものとして見てください。北極点(N)周りの破線円は北極圏を、その外側の楕円は東京の緯度---$北緯35$\textdegree 線---を表しているとします。

さて、夏至の頃・冬至の頃を並べた図に戻って、薄暮帯となっている部分が薄明るい領域です。太陽は見えないけれど、まだ明るい時間帯であるところです。正確に計算したわけでなく、およそのイメージで描いてあります。それでも十分でしょう。夏至の頃、$35$度線が薄暮帯を通過する長さ$L_s$と、冬至の頃のそれ$L_w$を比べてください。明らかに$L_s > L_w$となっています。地球の自転速度は一定ですから、長さ$L$が短いほど薄暮帯にいる時間が短い---すなわち早く暗くなる---ことになります。したがって、冬至の頃は夏至の頃より日暮れは早く進むのです。

では冬至の頃が最短の長さ$L$かというと、そうではありません。一定幅の領域が円周にかかったとき、弧の長さをいちばん短く切り取るのは薄暮帯---正確には薄暮帯の中心線---が円の接線に直交するときです。別の言い方をすれば、薄暮帯の中心線が円の中心を通るときです。下図ではたしかに$L_a > L_f$となってますね。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=2]
\begin{scope}[shift={(-2, 0)}]
\NEarth
\draw[->, ultra thick] (0, 1.6) -- (0, 1.4) node[right] {\scriptsize{太陽光}};
\draw (-1.6, 0) -- (1.6, 0);
\draw[dashed] (-1.6, -0.35) -- (1.6, -0.35) node[above, pos=0.1] {\scriptsize{薄暮帯}};
\foreach \x in {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15} \draw[ultra thin] (-1.6+0.2*\x, 0) -- (-1.6+0.2*\x, -1.3);
% cos(35)^2 = 0.671, cos(23.5)^2 = 0.840, 2*sin(35)*tan(23.5)/cos(23.5) = 0.543, sin(35)^2*tan(23.5)^2 = 0.062
\draw[domain=-0.5226:-0.45, ultra thick] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)}) node[right] {$L_a$};
\node at (0, -1.4) {\small{秋分の頃}};
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(2, 0)}]
\NEarth
\draw[->, ultra thick] (-0.064, 1.6) -- (0, 1.4) node[right] {\scriptsize{太陽光}};
\draw (-1.6, -0.65) -- ( 1.6, 0.65);
\draw[dashed] (-1.6, -1.03) -- (1.6, 0.27) node[above, pos=0.1] {\scriptsize{薄暮帯}};
\foreach \x in {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15} \draw[ultra thin] (-1.6+0.2*\x, -0.65+0.081*\x) -- (-1.6+0.2*\x, -1.3);
% cos(35)^2 = 0.671, cos(23.5)^2 = 0.840, 2*sin(35)*tan(23.5)/cos(23.5) = 0.543, sin(35)^2*tan(23.5)^2 = 0.062
\draw[domain=-0.498:-0.35, ultra thick] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)}) node[left] {$L_f$};
\node at (0, -1.4) {\small{秋分〜冬至の頃}};
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

では、$L$が最短となる日はいつでしょうか。それは秋分から冬至の間のどこかですが、この日!と特定するのは難しいものがあります。というのは図に示した薄暮帯において、実線側が日没であることはよいとしても薄暮と夜の境目である点線側の特定が困難だからです\footnote{天文学では、太陽の高度が$-18$\textdegree から$0$\textdegree までの時間帯を``薄明時間''と定めているようです。}。薄暮と夜の暗さの違いは人それぞれ感じ方が異なるでしょう。よって、この幅の取り方によって薄暮帯が弧の接線に直交する時期が異なります。秋分と冬至の中間を目安とするならば、それは$11$月$5$日前後ですから、この時期の夕暮れがつるべ落としを最も実感できる頃ではないでしょうか。

ところで、いまは薄暮帯にかかる$L$の長さについて考えていますが、夜明け側でも夕暮れ側と同じ長さ$L$が薄暮帯にかかっているはずです。夜明け側では、つるべ落としの逆の状況---明るくなり始めたらすぐ日の出になる---が生じていると思われます。しかし、明け方は夕暮れと違って活動している人は多くありません。それに、急に暗くなると---特に照明が十分に整っていなかった昔は---何かと不都合なこともあったと思われますが、急に明るくなって困るのは良からぬことをしている輩(やから)ぐらいでしょうから、つるべ落としのように話題に上らないのも頷けます。

\subsection*{日没の早さと夜の長さ}

冬は日没が早く夜の時間が長い。夏は日没が遅く夜の時間が短い。このように一年は日の出・日の入の時刻が早くなったり遅くなったり、また、夜の時間が長くなったり短くなったりしています。すると自然な考えとして、夜の時間が最も長いのは日没が最も早く、日の出が最も遅いからと思うでしょう。でも実際は少し違っています。

夜の時間が最も長い(日中の時間が最も短い)のは、これまで見てきた図からもわかるように冬至の頃です。なぜなら、影の部分に含まれる35度線の弧がいちばん長くなるからです。逆に夜の時間が最も短い(日中の時間が最も長い)のは夏至の頃です。実際、東京における夜の時間を$(日の入時刻)-(日の出時刻)$で調べてみると、$12$月$20$日あたり(冬至の頃)が$14$時間$15$分ほどで最も長く、$6$月$20$日あたり(夏至の頃)が$9$時間$25$分ほどで最も短くなっています。

しかし、日の出・日の入の時刻に関してはそうではありません。東京において、日没が最も早いのは冬至より前の$12$月初頭で、おおむね$4:30$\,p.m.。冬至よりさらに数分早く日が沈みます。一方、日の出が最も遅いのは冬至より後の$1$月初頭で、おおむね$6:50$\,a.m.。冬至よりさらに数分遅く日が昇ります。夜の長さが最長である冬至の頃とは$2$週間ほどずれが生じています。どうして、そんなことになるのでしょうか。

おそらく私たちは、日の入時刻と日の出時刻は同じような割合で早くなったり遅くなったりするものと思っているのでしょう。そのため夜の時間が最も長いときは、日の入は最も早く、日の出は最も遅くなると感じるのです。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[x=0.27mm, y=2mm]
\draw (-40, 0) -- (-40, 24);
\foreach \y in {0, 6, 12, 18, 24} \draw (-40, \y) -- (-36, \y) node[left] {\y :00\,};
\draw (-40, 12) -- (400, 12);
\foreach \x in {0, 90, 180, 270, 360} \draw (\x, 11.6) -- (\x, 12.4);
\foreach \x / \s in {0/春分, 90/夏至, 180/秋分, 270/冬至, 360/(春分)} \draw (\x, 12.4) -- (\x, 11.6) node[below] {\small{\s}};
%
\fill (260, 16.5) circle (1.5pt) node[above] {\small{16:30}};
\draw[dashed] (270, 6.7) -- (270, 16.4);
\draw (280, 6.7) circle (1.5pt) node[below] {\small{ 6:50}};
%
\draw[domain=0:360, thick] plot (\x, { sin(\x+14)+17.5}) node[above] {日の入};
\draw[->] (135, 18 ) -- (135, 24 ) node[pos= 0.6, right] {\small{(夜)}};
\draw[->] (135, 4.9) -- (135, 18 ) node[pos= 0.6, right] {\small{(昼)}};
\draw[->] (137, 0 ) -- (137, 4.9) node[pos= 0.6, right] {\small{(夜)}};
\draw[domain=0:360, thick] plot (\x, {-sin(\x-14)+ 5.7}) node[below] {日の出};
\end{tikzpicture}
\end{center}

たとえば秋。日の入時刻が徐々に早くなると同時に日の出時刻は遅くなります。しかし実際は、早くなる割合と遅くなる割合は同じではなく、日の入時刻の進み具合と日の出時刻の進み具合は異なっているのです。このことは、日々の日の入時刻と日の出時刻をグラフに表したとき、完全な上下対称にならないことを意味します。なぜでしょうか。

地球は一定の速度で一日$1$回転しているわけですから、$1$時間あたりの回転量は一定です。ただ、地球は同時に公転もしているので、太陽を真正面に見た位置から$360$\textdegree 回っても再び太陽は真正面に見えません。公転によって地球は$1$\textdegree ほど動きますから、$361$\textdegree ほど自転しないと再び真正面に太陽は来ないのです。このことは時刻の進み具合に少なからず影響を与えるかもしれません。でも、自転軸が公転面に対して約$23.5$\textdegree 傾いている影響の方が大きいでしょう。

そこで、もう一度地球を上方向から見下ろした図を見ることにします。図は、冬至の昼夜境界線とその前後数週分の昼夜境界線を重ねて描いたものと考えてください。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=2.2]
\NEarth{0}
\draw (0, 1.6) -- (0, -1.6) node {\small{冬至(T)}};
\draw (-0.8, 1.5) -- ( 0.8, -1.5) node {\small{数週後(A)}};
\draw ( 0.8, 1.5) -- (-0.8, -1.5) node {\small{数週前(B)}};
\foreach \x in {1, 2, 3, 4, 5} \draw[ultra thin] (0+0.25*\x, -1.6) -- (1.6, 0-0.25*\x);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6} \draw[ultra thin] (0, -1.6+0.25*\y) -- (1.6, 0+0.25*\y);
\foreach \y in {1, 2, 3, 4, 5} \draw[ultra thin] (0, 0+0.25*\y) -- (1.6-0.25*\y, 1.6);
%
% (x - sin35sin23.5)^2/(cos35cos23.5)^2 + y^2/(cos35)^2 = 1
\draw[domain=0.42:0, ultra thick, ->] plot (\x, {sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (0.8, 0.72) node[left] {\tiny{日の出時刻B}} (0, 0.84) node[left] {\tiny{日の出時刻T}};
\draw[domain=0:-0.31, ultra thick, ->] plot (\x, {sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\node[left] at (-0.3, 0.58) {\tiny{日の出時刻A}};
%
\draw[domain=-0.42:-0.5226, ultra thick] plot (\x, {sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (-0.4, 0.42) node[left] {\tiny{(真昼B)}} (-0.5, 0) node[left] {\tiny{(真昼T)}};
%
\draw[domain=-0.31:0, ultra thick, ->] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (-0.3, -0.58) node[left] {\tiny{日の入時刻B}} (0.1, -0.88) node[left] {\tiny{日の入時刻T}};
\draw[domain=0:0.42, ultra thick, ->] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\node[left] at (0.8, -0.72) {\tiny{日の入時刻A}};
\end{tikzpicture}
\end{center}

\newcommand\arc[1]{\put(8, 0){\makebox(0, 10)[t]{$\frown$}}\kern1.5pt{\textrm{\small#1}}}

さて、$35$度線が境界線と交差するところが日の出$\circ$と日の入$\bullet$にあたります。図で、日の出時刻B$\to$Aと日の入時刻B$\to$Aを通して見ると、移動量---すなわち弧の長さ---は等しいようです。しかし、冬至を中心に分割して見れば少し違った様子を見ることになります。

まず、日の出時刻の移動量B$\to$T(日の出\arc{BT})と日の入時刻の移動量B$\to$T(日の入\arc{BT})を比較してみましょう。日の出時刻・日の入時刻は共に地球の自転方向に移動していますが、日の出時刻・日の入時刻が共に遅くなるわけではありません。なぜなら、同時に真昼の時刻も円周上を真昼時刻の移動量B$\to$T(真昼\arc{BT})だけ移動するからです。図では、日の出\arc{BT}が日の入\arc{BT}より大きいことが読み取れますが、これが真昼\arc{BT}より大きければ時刻は遅くなり、もし真昼\arc{BT}より小さければ時刻は早まるのです。

それは次の理由からです。真昼時刻B、Tがたとえば$12:00$とすると、日の出時刻B、Tは$12:00$より何時間か前になります。もし$(真昼\arc{BT})<(日の出\arc{BT})$であれば、日の出時刻Bは日の出時刻Tよりさらに前になるはずです。

冬至前で比較する限り、$(日の入\arc{BT})<(日の出\arc{BT})$のようです。では、真昼時刻の移動量はどのように変化するでしょうか。真昼が日の出と日の入の中央だとすれば、真昼\arc{BT}が
\[
(日の入\arc{BT})<(真昼\arc{BT})<(日の出\arc{BT})
\]
と考えて差し支えないと思います。つまり$(真昼\arc{BT})<(日の出\arc{BT})$が言えますから、日の出時刻TはBより遅くなります。その上、冬至前後の比較で$(日の出\arc{TA})<(日の出\arc{BT})$になっているので、日の出時刻の変化量は減少傾向にあるようです。

このことは、いま$(真昼\arc{BT})<(日の出\arc{BT})$であっても、いずれ$(真昼\arc{BT})=(日の出\arc{BT})$になるときが来るということです。すると、そこが日の出時刻の遅れが止み、日の出時刻の移動量が増えていく転換点となります。しかし、この図だけでは的確にその日を示すことはできません。

別方面からも考える必要がありそうです。今度は冬至後において、日の出時刻の移動量T$\to$A(日の出\arc{TA})と日の入時刻の移動量T$\to$A(日の入\arc{TA})を比較してみましょう。この場合は$(日の出\arc{TA})<(日の入\arc{TA})$であり、真昼\arc{TA}との比較で、冬至後は日の出時刻は早くなる方向にあることがわかります。

結局、冬至前に遅くなり続けた日の出時刻がどこかの時点で転換し、冬至後は日の出時刻が早くなり始めるわけです。だったら冬至が転換点ですよね? いいえ、ちょっと違うんです。

説明のために、注意すべきことがあります。真昼\arc{BT}が日の出\arc{BT}と日の入\arc{BT}の中央だとしても、$(日の出\arc{BT})=(真昼\arc{BT})+\alpha$、$(日の入\arc{BT})=(真昼\arc{BT})-\alpha$、``ではない''からです。なぜなら、冬至における日中の長さ---一年でもっとも短い---よりその前後の日中の長さの方が確実に長いので、日の出\arc{BT}・日の入\arc{BT}は真昼\arc{BT}に対して相殺される$\pm\alpha$を加味したものより``若干長い''はずだからです。したがって、日の出\arc{BT}が減少して真昼\arc{BT}に等しくなるまでには若干余分な時間が必要で、そのために遅進が止まる時点が冬至後になるのです。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=1.9]
\begin{scope}[shift={(-2.25, 0)}]
\NEarth
\draw (0, 1.6) -- (0, -1.6);
\draw[thick] (-0.401, 1.5) -- (0.401, -1.5) node {\small{(冬至)\bf{冬至の少し後}}};
\draw (-0.866, 1.5) -- (0.866, -1.5);
%
% cos(35)^2 = 0.671, cos(23.5)^2 = 0.840, 2*sin(35)*tan(23.5)/cos(23.5) = 0.543, sin(35)^2*tan(23.5)^2 = 0.062
\draw[domain=0:-0.32, ultra thick, ->] plot (\x, {sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (0.1, 0.85) node[left] {\tiny{日の出B}} (-0.3, 0.55) node[left] {\tiny{日の出A}};
%
\draw[domain=-0.5226:-0.44, ultra thick] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (-0.5, 0) node[left] {\tiny{(真昼)B}} (-0.4, -0.42) node[left] {\tiny{(真昼)A}};
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(2.25, 0)}]
\NEarth
\draw (0.866, 1.5) -- (-0.866, -1.5);
\draw[thick] (0.401, 1.5) -- (-0.401, -1.5) node {\small{\bf{冬至の少し前}}(冬至)};
\draw (0, 1.6) -- (0, -1.6);
%
% (x - sin35sin23.5)^2/(cos35cos23.5)^2 + y^2/(cos35)^2 = 1
\draw[domain=-0.44:-0.5226, ultra thick] plot (\x, {sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (-0.4, 0.42) node[left] {\tiny{(真昼)B}} (-0.5, 0) node[left] {\tiny{(真昼)A}};
%
\draw[domain=-0.32:0, ultra thick, ->] plot (\x, {-sqrt(0.671-\x*\x/0.840+0.543*\x-0.062)});
\draw (-0.3, -0.55) node[left] {\tiny{日の入B}} (-0.1, -0.88) node[right] {\tiny{日の入A}};
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

イメージとしては左図のように、冬至の少し後の日における日の出\arc{BA}が、対応する真昼\arc{BA}に等しくなります。つまり、このあたりが日の出時刻が遅くなり続けて、移動の変化量が$0$になった時点、すなわち日の出時刻が一年で最も遅くなった時点です。実際は$1$月初頭がこの時期にあたります。

日の入時刻についても同様です。$(日の入\arc{BT})<(真昼\arc{BT})$なので、日の入時刻TはBより早くなります。また、$(真昼\arc{TA})<(日の入\arc{TA})$なので、日の入時刻AはTより遅くなります。冬至前に早くなる方向から冬至後に遅くなる方向に転じるわけですから、冬至付近で$(日の入\arc{BT})=(真昼\arc{BT})$となって遅進が止まります。この場合も、日の入\arc{BT}は真昼\arc{BT}に対して相殺される$\pm\alpha$を加味したものより若干多めなので、日の入時刻の移動量が増加して真昼時刻の移動量に等しくなるまでには、若干少なめの時間で十分ということになります。少なめの時間でよいために遅進が止まる時点は冬至前です。

イメージとしては右図のように、冬至の少し前の日における日の入\arc{BA}が、対応する真昼\arc{BA}に等しくなります。つまり、このあたりが日の入時刻が早くなり続けて、移動の変化量が$0$になった時点、すなわち日の入時刻が一年で最も早くなった時点です。実際は$12$月初頭がこの時期にあたります。

以上のことは夏至の前後においても当てはまることで、昼の時間がいちばん長くなるのは夏至の頃であっても、日の出時刻が最も早い時期と日の入時刻が最も遅い時期は少し前後にずれるのです。

もっとも、これらのことをきちんと正確に計算しようとすると大変です。なぜなら、自転や公転には少々のぶれがあったり一年が$365$日強であったりと、細かな補正がたくさんあるからです。実際、日の出時刻や日の入時刻を調べてみると、日の出・日の入の時刻はサインカーブのように変化するものの、夏至・冬至の頃の昼や夜の長さは多少ぶれる傾向があるようです\footnote{日の出/日の入の時刻は太陽の``上縁''が地平線から出る/沈む時刻なので、太陽の``中心''が地平線上にある時刻とは$1$分ほど早く/遅くなるようです。また、大気の屈折による影響も含めると実際の日の出/日の入の時刻は、$3$分ほど早く/遅くなるようです。}。夏至・冬至の頃は、時刻の進み・遅れの変化が少ないことが原因でしょう。

以上、直感に頼る部分が多いものの、つるべ落としにまつわる理屈を数式抜きで試みてみました。なんとかなったのでしょうか。

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