% 正しい?そして難解な角度の測り方
\documentclass[a4j]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{\sf tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\usepackage{pict2e}
\begin{document}
\section*{◆正しい?そして難解な角度の測り方◆}
\noindent
(「比の無い所に正弦は立たない」からの続き)
私たちは三角比の話題から始めて、混沌とした世界に踏み込んでしまったようです。せっかく角度について共通の認識が得られたところなのに、もしかしたら角度の何たるかを理解してないのではという懐疑心まで芽生えてしまいました。何でこんなことになるかといえば、角度が普通の物差しで測れないからなのです。だから分度器などといった道具が必要なんですね。でも、本当のことを言えば、角度の単位はラジアンで十分なんです。ちょっとぐらいニワトリとタマゴの関係を含んだとしてもです。
けれど少しだけ無茶をしたくなりました。それは角度を定規で測ろうとするものです。角度って定規で測れるの? ええ、もちろん測れます。かなり無理をしますけどね。そして先に結論めいたことも言えば、結局角度はラジアンでよいとなるのですが。
それでは始めましょう。
まず、角度は$2$本の直線で作られること、そして直線の長さには無関係であることに注意します。直線の長さが角度の大きさに影響を与えないので、直線の長さを習慣に従い$1$とします。それで、$2$本の直線(正確には線分と呼ぶべき線)の先端を重ねれば角度のできあがりです。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=1.5cm
\begin{picture}(6, 1)
\put(0, 0){\line(1,0){1}} %角1
\put(0, 0){\line(891,454){.89}}
\begin{picture}(2.5, 0)\end{picture}
\put(0, 0){\line(1,0){1}} %角2
\put(0, 0){\line(0,1){1}}
\begin{picture}(2.5, 0)\end{picture}
\put(0, 0){\line(1,0){1}} %角3
\put(0, 0){\line(-454,891){.45}}
\end{picture}
\end{center}
さて、角度の大きさは左から順にいか程? 左は$30^\circ$ぐらい\ldots 。おっと、ちょっと待って。ここでは一から角度の測り方を決めたいのです。一周を何等分かする${}^\circ$などという決め方はあやふやでいけません。もっときっちり測りましょう。きっちり測るには定規が一番。定規で測れる場所というと、$2$本の直線上が最適でしょう。そこで真横に置かれた線は固定して、もう$1$本の直線の位置を考えましょう。
固定した直線の長さは$1$でした。そこで角度の大きさを、固定した直線の左端を$0$、右端を$1$として測るのはどうですか? もちろん、固定されてないほうの直線の位置によって、角度の大きさが決まります。ですから、動くことができる直線の先端から真下を見て、固定された直線の目盛りを読み取ることにするのです。角度が大きくなると$0$の左側にいきますが、その際はもちろん負の値で対処します。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=1.5cm
\begin{picture}(6, 1)
\put(0, 0){\line(1,0){1}} %角1
\put(0, 0){\line(891,454){.89}}
\put(.891, 0){\dashbox{.05}(0, .454){}}
\put(.891, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$0.89$}}
\begin{picture}(2.5, 0)\end{picture}
\put(0, 0){\line(1,0){1}} %角2
\put(0, 0){\line(0,1){1}}
\put(0, 0){\makebox(0, -.1)[t]{$0$}}
\begin{picture}(2.5, 0)\end{picture}
\put(0, 0){\line(1,0){1}} %角3
\put(0, 0){\line(-454,891){.45}}
\put(-.454, 0){\dashbox{.05}(0, .891){}}
\put(-.454, -.1){\makebox(0, 0){$-0.45$}}
\end{picture}
\end{center}
図ではおよその値でしか読み取れませんけれど、あるひとつの角度に対して、間違いなくひとつの数値が与えられます。数値は、$2$本の直線が重なったときが$1$で、$2$本の直線が平らに開いたときが$-1$ですから、角度の大きさは$1$から$-1$の間の実数となるわけです。
勘が働けば「これって$\cos$の値じゃないか」と思うはずです。もちろん、その通りです。つまりここで言う角度は、従来の角度を経由せずに$\cos$の値を求めていることになります。もし、ひとつの角度の大きさを測ることを考えたら、いま定義した測り方は大変精密です。
と言うのは、従来の角度の測り方は、一周を等分する場合でも周長で角度を測るラジアンの場合でも、いずれも曲がったものを分けるという作業を強いられます。これはかなり困難なことなのです。一方、新たな角度の測り方は、直線を分ける作業で済んでいます。これは従来の測り方にくらべると、簡単にしかも精密に測れることを意味するのです。
でも、良いことばかりではありません。それは、$2$つの角を比較するときに表面化します。
角度を$1$から$-1$の実数で表すことは問題ないのですが、ここで使われる実数は、私たちが日常使う数と同じです。私たちには、$0.5$は$1$の半分であり、$0.5$が$1$より小さいという意識があります。しかし、新たな角度の測り方ではそうなっていません。従来なら$30^\circ$と$60^\circ$は$1:2$の比を持ちます。ところが、新たな角度(つまり$\cos$に相当する値)では$0.865:0.5$の比です。扇形を描けば分かるように、中心角が$30^\circ$と$60^\circ$なら扇形の大きさも$1:2$となり、角度の数値と扇形の大きさが直感的に分かる仕組みを備えています。でも、角度が$0.865:0.5$の比のときに扇形の大きさが$1:2$になる、と言っても実感がわかないでしょう。せっかく精密な測量ができても、比較が従来と違うのではありがたみが薄れてしまいそうです。
その解決に良いものがあります。関数によって角度の変換を行うのです。幸いにも、新たに考えている角度はひとつの角度にひとつの数値が、また逆にひとつの数値にひとつの角度が対応しています。ですから新たな角度$\omega$の値を、日常の感覚に合致するようなものに変換することができるはずです。
では、$\omega$からどのようなものへ変換すると良いのでしょう。それには円周が最適です。円周の長さは完全に角度の大きさと連動しています。角度が倍になれば円周も倍になるので、日常の感覚にも合致します。そこで新たな角度$\omega$を円周の長さ$\theta$に変換する関数$f$を用意しましょう。これにより
\[
\theta = f(\omega)
\]
が定義できますね。
またまた勘が働けば$f$は$\arccos$を意味してることに気付くでしょう。すなわち、ここでの変換は$\cos\theta$の値から$\theta$の値を求めているのです。
結局のところ、新たに$1$から$-1$の範囲で直線的に測れる角度を導入したものの、それを日常感覚に合わせるために、いわゆるラジアンに相当する円周へ変換してしまいました。直線で測定する新たな角と円周は一対一対応ですから、どちらを角度の定義としても同じことです。
何だ、仰々しいことを言ってただけか。詭弁だね。こうとられても仕方ないでしょう。でも、一周を $360^\circ$とする角の測り方は、数学的な根拠を尋ねられたら返答に困ることは事実です。数学的もしくは数字的な根拠からすれば、一周は$1$とするのが自然かもしれません。おそらく数学は「始めに$1$ありき」で始まったものでしょうから。そして$1$に対して負の数$-1$があり、虚数$1i$があるのです。その点では一周$2\pi$のラジアンも中途半端の値と言わざるを得ません。しかも測りづらい曲線を測っています。どう考えたって一周が$1$から$-1$の数値を取るほうが数学的でしょう。しかも測りやすい直線を測るのですからね。
でも、やっぱり角度は${}^\circ$から入るのが一番なんだろうなあ。
\end{document}