% 三角関数がなんぼのもんじゃい

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\begin{document}

\section*{◆三角関数がなんぼのもんじゃい◆}

関数と言うとまゆをひそめる人がいるでしょう。それが一次関数ならまだしも、三角関数と聞けば嫌な気持ちになる人です。確かにある意味において三角関数は複雑な世界を持っています。しかし数学の世界では、ものごとをわざわざ複雑にするようなことはありません。むしろ複雑だから取り扱いを簡単にしたり単純なモデルで考えるようにしているのです。もし複雑なことをやっているとしたら、一旦は単純にしたものの、その奥には深遠な世界が広がっていたからです。つまり、ものごとを単純化してとらえてみたら、それをきっかけにさらに複雑な世界に踏み込むことができたと考えればよいでしょう。三角関数もそんな世界です。

一口に三角形と言ってもさまざまな形をしたものがあります。これら三角形の性質を調べようと思えば、気の遠くなるような種類の三角形を調査しなくてはなりません。もちろんそれは不可能なことです。では、三角形の性質を調べることはあきらめなくてはならないのでしょうか。そんなことはありません。そのために有用なひとつの事実があります。

\[
\gt すべての三角形は直角三角形に分割できる
\]

この事実により、どんな三角形でもその三角形を構成している「直角三角形の性質」を受け継ぎます。これは直角三角形を調査すれば、すべての三角形を調査することになるでしょう。ただし直角三角形も無数にあります。しかし任意の三角形を無造作に調べることを思えば、直角三角形だけに絞って考えることがどれだけ有利かわかると思います。では、早速直角三角形を調査してみましょう。

ところで直角三角形を特徴づけるものは何でしょうか。図のような直角三角形は辺の長さは違っていますが形は同じです。

\def\sampleTriangle#1#2#3{
\put(0, 0){\line(1,0){4}}
\put(4, 0){\line(0,1){3}}
\put(4, 3){\line(-4,-3){4}}
\put(3.7, 0){\framebox(.3, .3){}}
\put(.65, .1){\makebox(0, 0)[b]{$\theta$}}
\put(2, -.1){\makebox(0, 0)[t]{#1}}
\put(4.1, 1.5){\makebox(0, 0)[l]{#2}}
\put(2, 1.6){\makebox(0, 0)[rb]{#3}}
}

\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=.5cm
\begin{picture}(16, 8)(0, -1)
\sampleTriangle{$4$cm}{$3$cm}{$5$cm}

\begin{picture}(8, 0)\end{picture}

\unitlength=1cm
\sampleTriangle{$8$cm}{$6$cm}{$10$cm}
\end{picture}
\end{center}

このように各辺の長さは違っても、形が同じ図形は同様の扱いをします。もう少し専門的な言い方をすると、このような図形を「相似」であるといいます。相似な図形は辺の長さは違いますが、拡大・縮小をすることでまったく同じ図形になります。つまり重要なのは辺の長さではないのです。重要なことは角の大きさが等しいことと、辺の「比」が等しいことです。今の図を例にとれば辺の比はいずれも「$底辺:垂辺:斜辺 = 4:3:5$」になっています。

辺の比を問題にする場合は、その比が$4:3:5$であることと$\displaystyle 1:\frac{3}{4}:\frac{5}{4}$は同じことを意味します。もちろん$\displaystyle \frac{4}{3}:1:\frac{5}{3}$と言っても同じことです。そこで直角三角形の辺の比を考えるときは、どこかひとつの辺を 1 に決めておくと三角形の違いを比較しやすくなるでしょう。どの辺を1にしてもかまわないのですが、後々のために斜辺を$1$に決めておきます。すると先の三角形の辺の比は$\displaystyle \frac{4}{5}:\displaystyle \frac{3}{5}:1$となるでしょう。

これまでのことをまとめておきます。

まず、三角形を調査することは直角三角形を調べることであること。直角三角形を調べるなら斜辺の長さを$1$に決めたほうが比較しやすくなること。この$2$つのことが基準になります。すると、直角三角形を区別する要素は角の大きさになります。直角三角形はひとつの角が$90^\circ$と決まっているので、残ったどちらかの角の大きさが決まれば、もう一方の角も自動的に決まってしまいます。結局、直角三角形を区別する要素は「ただひとつの鋭角」であることがわかりました。この鋭角は$0^\circ$より大きく$90^\circ$より小さければ何でもかまいません。そこでこの角を$1^\circ$刻みで変化させたら、各辺の比がどう変化するか見てみましょう。

そのことを調べるには、分度器を用意して丹念に直角三角形をかいてから、各辺の長さを正確に測定しなくてはなりません。斜辺の長さを$1$mにして、まったく正確に角度を測り、まったく正確に直線を引いて、$0.1$mmの単位まできっちり測ればなんとかなるでしょう。これは大変な作業ですし、当然いくらかの誤差を含んでしまいます。しかしこの作業をすることで、最後に掲げた表のように、ひとつの鋭角に対する$3$辺の比がわかります(実際、この表の値はコンピュータの計算結果ですが)。表は次の図に対する各辺の比です。

\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=.75cm
\begin{picture}(5, 4)(0, -.5)
\sampleTriangle{底辺}{垂辺}{斜辺($= 1$)}
\end{picture}
\end{center}

表を見ると鋭角の変化に従って各辺の比も少しずつ変化していることがわかります。$(x-1)^\circ$から$x^\circ$の間にも無数の辺の比があるはずですが、細かいことを特に気にしなければ、すべての直角三角形がこの表のなかにあります。このことは、この表がすべての三角形を表わしていると言っても過言ではないと思います。

これにより三角形はきちんと分類できてしまいました。この表をもとにすれば、図のような三角形に対して、わからない角の大きさやわからない辺の長さが求まってしまいます。

\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=.6cm
\begin{picture}(16, 5)(0, -.5)
\put(0, 0){\line(1,0){7.1}} %三角形1
\put(7.1, 0){\line(-14,31){1.4}}
\put(5.7, 3.1){\line(-57,-31){5.7}}
\put(0, 0){\makebox(0, 0)[rt]{A}}
\put(7.1, 0){\makebox(0, 0)[lt]{B}}
\put(5.7, 3.15){\makebox(0, 0)[b]{C}}
\put(5.7, 3.1){\line(0,-1){3.1}}
\put(5.7, -.1){\makebox(0, 0)[t]{H}}
\put(3.5, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$7.1$cm}}
\put(6.4, 1.6){\makebox(0, 0)[lb]{$3.4$cm}}
\put(2.85, 1.6){\makebox(0, 0)[rb]{$6.5$cm}}
\put(2.85, .1){\makebox(0, 0)[b]{$x$}}
\put(6.4, .1){\makebox(0, 0)[b]{\scriptsize$(7.1-x)$}}

\begin{picture}(11.5, 0)\end{picture}

\put(0, 0){\line(1,0){4.3}} %三角形2
\put(4.3, 0){\line(-766,643){5.3}}
\put(-1, 4.4){\line(10, -44){1}}
\put(0, 0){\makebox(0, 0)[rt]{D}}
\put(4.3, 0){\makebox(0, 0)[lt]{E}}
\put(-1, 4.4){\makebox(0, 0)[b]{F}}
\put(3.6, .1){\makebox(0, 0)[b]{$40^\circ$}}
\put(0, 0){\line(643,766){1.8}}
\put(1.8, 2.1){\makebox(0, 0)[lb]{H}}
\put(2.15, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$4.3$cm}}
\put(1.8, 3){\makebox(0, 0)[b]{$6.9$cm}}
\end{picture}
\end{center}

もちろん面積も計算できます。少々の誤差を含んでもかまわない範囲の測量であれば、わざわざ三角関数を持ち出す必要はないと言ってよいでしょう。

実際に、いま例にあげた三角形のわからない角の大きさと辺の長ささを求めてみましょう。

左側の$\triangle{\rm ABC}$は、頂点Cからその対辺へ垂線をおろせば$2$つの直角三角形に分割できます。分けられた対辺の一方(AH)の長さを$x$とおいて、垂線CHが$2$つの三角形に共通した辺であることと「三平方の定理\footnote{直角三角形の斜辺の長さを$c$、底辺と垂辺の長さをそれぞれ$a$, $b$とすると、常に$a^2+b^2 = c^2$が成り立つ。ピタゴラス学派の発見によると言われ、「ピタゴラスの定理」とも呼ばれます。} 」から、方程式
\[
6.5^2-x^2 = 3.4^2-(7.1-x)^2
\]
が得られます。これより$x \approx 5.7$、${\rm CH} \approx 3.1$であることがわかります。すると左側にできた直角三角形は
\[
底辺:垂辺:斜辺 \approx 5.7:3.1:6.5 \approx 0.877:0.477:1
\]
ですから、この比をもつ直角三角形を表より調べると$29^\circ$のちょっと手前ぐらいの大きさであることがわかります。すなわち$\angle{\rm A} \approx 29^\circ$です。

また右側の$\triangle{\rm DEF}$については、頂点Dからその対辺へ垂線DHをおろせば$2$つの三角形に分割できます。$40^\circ$の鋭角をもつ直角三角形は表より
\[
底辺:垂辺:斜辺 \approx 0.7660:0.6428:1
\]
ですから、垂線DHの長さは斜辺の長さの$0.6428$倍、すなわち約$2.8$cmとわかります。わざわざ三角関数を持ち出すまでもありません。

にもかかわらず三角関数が使われるのは、正確な測量をするためだけではありません。もうひとつ重要な理由があります。むしろこの理由のために三角関数が存在しているのです。そしてその鍵をにぎるのが「三角比」なのです。($\Rightarrow$続きは「三角比の役割」にて。)

\newpage

\fbox{斜辺$1$の直角三角形の底辺比と垂辺比}
\small
\begin{center}
\def\arraystretch{.667}
\begin{tabular}{r|ccc||r|ccc}
$\theta$ & 底辺比 & 垂辺比 & 斜辺 & $\theta$ & 底辺比 & 垂辺比 & 斜辺 \\ \hline
$1^\circ$ & 0.9998 & 0.0175 & 1 & $46^\circ$ & 0.6947 & 0.7193 & 1 \\
$2^\circ$ & 0.9994 & 0.0349 & 1 & $47^\circ$ & 0.6820 & 0.7314 & 1 \\
$3^\circ$ & 0.9986 & 0.0523 & 1 & $48^\circ$ & 0.6691 & 0.7431 & 1 \\
$4^\circ$ & 0.9976 & 0.0698 & 1 & $49^\circ$ & 0.6561 & 0.7547 & 1 \\
$5^\circ$ & 0.9962 & 0.0872 & 1 & $50^\circ$ & 0.6428 & 0.7660 & 1 \\
$6^\circ$ & 0.9945 & 0.1045 & 1 & $51^\circ$ & 0.6293 & 0.7771 & 1 \\
$7^\circ$ & 0.9925 & 0.1219 & 1 & $52^\circ$ & 0.6157 & 0.7880 & 1 \\
$8^\circ$ & 0.9903 & 0.1392 & 1 & $53^\circ$ & 0.6018 & 0.7986 & 1 \\
$9^\circ$ & 0.9877 & 0.1564 & 1 & $54^\circ$ & 0.5878 & 0.8090 & 1 \\
$10^\circ$ & 0.9848 & 0.1736 & 1 & $55^\circ$ & 0.5736 & 0.8192 & 1 \\
$11^\circ$ & 0.9816 & 0.1908 & 1 & $56^\circ$ & 0.5592 & 0.8290 & 1 \\
$12^\circ$ & 0.9781 & 0.2079 & 1 & $57^\circ$ & 0.5446 & 0.8387 & 1 \\
$13^\circ$ & 0.9744 & 0.2250 & 1 & $58^\circ$ & 0.5299 & 0.8480 & 1 \\
$14^\circ$ & 0.9703 & 0.2419 & 1 & $59^\circ$ & 0.5150 & 0.8572 & 1 \\
$15^\circ$ & 0.9659 & 0.2588 & 1 & $60^\circ$ & 0.5000 & 0.8660 & 1 \\
$16^\circ$ & 0.9613 & 0.2756 & 1 & $61^\circ$ & 0.4848 & 0.8746 & 1 \\
$17^\circ$ & 0.9563 & 0.2924 & 1 & $62^\circ$ & 0.4695 & 0.8829 & 1 \\
$18^\circ$ & 0.9511 & 0.3090 & 1 & $63^\circ$ & 0.4540 & 0.8910 & 1 \\
$19^\circ$ & 0.9455 & 0.3256 & 1 & $64^\circ$ & 0.4384 & 0.8988 & 1 \\
$20^\circ$ & 0.9397 & 0.3420 & 1 & $65^\circ$ & 0.4226 & 0.9063 & 1 \\
$21^\circ$ & 0.9336 & 0.3584 & 1 & $66^\circ$ & 0.4067 & 0.9135 & 1 \\
$22^\circ$ & 0.9272 & 0.3746 & 1 & $67^\circ$ & 0.3907 & 0.9205 & 1 \\
$23^\circ$ & 0.9205 & 0.3907 & 1 & $68^\circ$ & 0.3746 & 0.9272 & 1 \\
$24^\circ$ & 0.9135 & 0.4067 & 1 & $69^\circ$ & 0.3584 & 0.9336 & 1 \\
$25^\circ$ & 0.9063 & 0.4226 & 1 & $70^\circ$ & 0.3420 & 0.9397 & 1 \\
$26^\circ$ & 0.8988 & 0.4384 & 1 & $71^\circ$ & 0.3256 & 0.9455 & 1 \\
$27^\circ$ & 0.8910 & 0.4540 & 1 & $72^\circ$ & 0.3090 & 0.9511 & 1 \\
$28^\circ$ & 0.8829 & 0.4695 & 1 & $73^\circ$ & 0.2924 & 0.9563 & 1 \\
$29^\circ$ & 0.8746 & 0.4848 & 1 & $74^\circ$ & 0.2756 & 0.9613 & 1 \\
$30^\circ$ & 0.8660 & 0.5000 & 1 & $75^\circ$ & 0.2588 & 0.9659 & 1 \\
$31^\circ$ & 0.8572 & 0.5150 & 1 & $76^\circ$ & 0.2419 & 0.9703 & 1 \\
$32^\circ$ & 0.8480 & 0.5299 & 1 & $77^\circ$ & 0.2250 & 0.9744 & 1 \\
$33^\circ$ & 0.8387 & 0.5446 & 1 & $78^\circ$ & 0.2079 & 0.9781 & 1 \\
$34^\circ$ & 0.8290 & 0.5592 & 1 & $79^\circ$ & 0.1908 & 0.9816 & 1 \\
$35^\circ$ & 0.8192 & 0.5736 & 1 & $80^\circ$ & 0.1736 & 0.9848 & 1 \\
$36^\circ$ & 0.8090 & 0.5878 & 1 & $81^\circ$ & 0.1564 & 0.9877 & 1 \\
$37^\circ$ & 0.7986 & 0.6018 & 1 & $82^\circ$ & 0.1392 & 0.9903 & 1 \\
$38^\circ$ & 0.7880 & 0.6157 & 1 & $83^\circ$ & 0.1219 & 0.9925 & 1 \\
$39^\circ$ & 0.7771 & 0.6293 & 1 & $84^\circ$ & 0.1045 & 0.9945 & 1 \\
$40^\circ$ & 0.7660 & 0.6428 & 1 & $85^\circ$ & 0.0872 & 0.9962 & 1 \\
$41^\circ$ & 0.7547 & 0.6561 & 1 & $86^\circ$ & 0.0698 & 0.9976 & 1 \\
$42^\circ$ & 0.7431 & 0.6691 & 1 & $87^\circ$ & 0.0523 & 0.9986 & 1 \\
$43^\circ$ & 0.7314 & 0.6820 & 1 & $88^\circ$ & 0.0349 & 0.9994 & 1 \\
$44^\circ$ & 0.7193 & 0.6947 & 1 & $89^\circ$ & 0.0175 & 0.9998 & 1 \\
$45^\circ$ & 0.7071 & 0.7071 & 1 & \\
\end{tabular}
\end{center}

\end{document}