% 1/2+1/3 が 2/5 にならないワケ

\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage{amsmath, amssymb}
\usepackage{tikz}

\begin{document}

\newcommand\APPLE{
\begin{tikzpicture}
\draw (0, 0) circle (5pt);
\draw (1pt, 3pt) .. controls (1.5pt, 1.5pt) .. (3pt, 1pt);
\draw[thick] (1.5pt, 1.5pt) .. controls (2.5pt, 3.5pt) .. (4.5pt, 4.5pt);
\end{tikzpicture}
}
%
\newcommand\Unit[1]{
\tikz \draw (0, 0) rectangle (#1pt, 10pt);
}

\section*{◆$\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}$が$\dfrac{2}{5}$にならないワケ◆}

$\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}$の計算を、分子どうし・分母どうし足して$\dfrac{2}{5}$とはしませんね。この場合は通分をして
\[
\frac{1}{2}+\frac{1}{3} = \frac{3}{6}+\frac{2}{6} = \frac{5}{6}
\]
とするはずです。なぜそうしなくてはならないのでしょうか?

その理由を話し始めると、かなり根の深いところまで踏み込むことになってしまいます。でも、格別難しいことでもないので話しておきましょう。

分数の足し算の前に、自然数の足し算を確認します。たとえば$1+2 = 3$ですが、なぜそうなるのですかと聞かれたら、皆さんはどう答えるのでしょうか? りんごを持ち出して説明すれば、おそらく次のような感じになるでしょう。

左手に\APPLE が、右手に\APPLE\APPLE があるとします。両手を合わせると\APPLE\APPLE\APPLE になるでしょう。これら一連の流れを数や記号を使って言うことにすれば、\APPLE が$1$で\APPLE\APPLE が$2$で\APPLE\APPLE\APPLE が$3$です。そこで両手を合わせる操作を$+$、その結果を$=$で示すことにすると$1+2 = 3$の表現になるわけです。これは何もりんごに限ったことではありません。木を植えるときでもレンガを積むときでも、同様の約束で$1+2 = 3$と数式に直すことができるのです。

でもね。ちょっと違うんですよ。

人々は太古の昔からりんごを採ったり木を植えたりしていたでしょう。その際、ものが何であっても同じ約束で扱えるように、ものの数を数字に置き換えたり、足すための記号を作ったのです。自然の流れはそうかもしれません。けれど数学の世界では逆です。まず$1$があって、次に足すための記号$+$を用意して、$\dots$(この部分は後述)、その結果$1+2 = 3$ができるのです。その上で$1+2 = 3$であることを、りんごや木を植えることに\textbf{応用}しているのです。

はじめに、なぜ$1+2 = 3$になるかと言えば、それが数学の約束だからです。その約束は\APPLE が$1$で\APPLE\APPLE が$2$で\APPLE\APPLE\APPLE が$3$で$\dots$という構成から生まれたのではありません。つまり数の約束はこのようなものではないのです。では、どうなっているの?と思いますよね。

数の約束は、大雑把に
\begin{itemize}
\item[$1^\circ$)] $1$は数である
\item[$2^\circ$)] $a$が数ならば$a+1$は次の数である
\end{itemize}
で言い表すことができます。そしてこれがすべてです。

これって$1$, $2$, $3$, $4$, $5$, $\dots$のことを言ってるだけだね、と早まってはいけません。これは$1$の次は$1+1$、$1+1$の次は$1+1+1$、$1+1+1$の次は$1+1+1+1$、$\dots$と言っているに過ぎないのです。やっぱり同じことだろうって? 違いますよ。私が主張したいことは、同じものを付け加えることができるという点であって、$1$の次は(新たな文字を使って)$2$、$2$の次は(新たな文字を使って)$3$、$\dots$と言ってるのではないのです。さらに「同じものを加える」ことが大事な点です。違うものを付け加えてよい約束を作ったら、数の体系が収拾つかないものになってしまうからです。

ところがこのままでは大きな数を表したいとき、$1+1+\dots+1$がとてつもなく長くなってしまいます。そこで$1+1$なら$2$を、$1+1+1$なら$3$を、$1+1+1+1$なら$4$を、$\dots$という具合に新たな数字をあてがいました。しかし、これだけでは何の解決にもなりません。それは、$1+1+\dots+1$が大きくなるにつれ、新たな数字を導入し続けなくてはならないのですから。実際、ローマ数字は I, II, III, $\dots$, V, $\dots$, X, $\dots$, L($50$), $\dots$, C($100$), $\dots$, D($500$), $\dots$, M($1000$), $\dots$と、次々に新たに数字を導入していました。でも、私たちはそれが杞憂であることを知っています。つまり、位取り表記のお陰で、わずか$10$種類の数字でどんな$1+1+\dots+1$でも表すことができるのですからね。

私たちは$5$や$500$などの数を見ると、大体どれくらいかを想像できますが、あくまでも$5$の本質は$1+1+1+1+1$です。すなわち、まったく同じものを$5$個集めているだけです。$+$の記号は、同じものを加えるときに使えるだけです。さっき私は、$1+2 = 3$であることを、りんごや木を植えることに応用していると言いました。なぜ応用と呼んだかといえば、りんごはまったく同じでないけれど、同じと\textbf{みなせる}から応用できるのです。もし、左手にハムが$1$枚、右手にパンが$2$枚あったら、両手のものを合わせてできるのは一つのハムサンドイッチです。この答に$3$が当てはまるとしたら、一体何が$3$になったというのでしょうか。つまり、この例には$1+2 = 3$を\textbf{応用できない}のです。

さて、前置きがずいぶん長くなってしまったようです。ようやく$\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3} \ne \dfrac{2}{5}$である話に入れます。その際、頭に入れておいてほしいのは「$+$はまったく同じものを加えるための記号である」ことです。

これまでに私たちは、$1$や$1+1+1$などを日常のものに応用できるようになりました。もっとも、同じとみなせるものでなくてはなりませんが。すると、人によって同じとみなす度合いが違う場面が生じます。$1+1+1$なら全員が同じ認識でも、\APPLE\APPLE\APPLE では大きさや質の違いなどが問題になるからです。これは非常に困ったことです。

ですから$1$を\APPLE などとしたのでは混乱を招くだけです。そこで、いきなり具体物に応用するのではなく、$1$を\Unit{10}としておけば、$1+1+1$なら\Unit{30}となって紛れが生じません。\Unit{10}はりんごと違って、大きさはまったく一定だし質は無関係だからです。よって\Unit{10}は$+$で加えることができますから、$1+3$は$\Unit{10}+(\Unit{10}+\Unit{10}+\Unit{10})$により$4$とできるのです。

さあ、$1$と具体物の中間に\Unit{10}を置いたことで新たな視点が見えてきます。それは\Unit{5}や\Unit{3.33}などです。ようやく本節の主役の登場です。\Unit{5}は\Unit{10}を$2$等分したものだから$\dfrac{1}{2}$と記述します。また、\Unit{3.33}は\Unit{10}を$3$等分したものだから$\dfrac{1}{3}$と記述します。ですが$\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}$は加えることができません。なぜなら\Unit{5}と\Unit{3.33}はまったく同じではないからです。

そこで$1+3 = 4$で使った手法を用います。

\Unit{10}を$6$等分した\Unit{1.67}を使えば、\Unit{5}は$(\Unit{1.67}+\Unit{1.67}+\Unit{1.67})$で表せ、\Unit{3.33}は$(\Unit{1.67}+\Unit{1.67})$で表せます。こうなればすべてが同じものですから、$+$で加えることができ\Unit{8.33}となるのです。

これまでの経過を式で表しておきましょう。
\begin{eqnarray*}
\frac{1}{2}+\frac{1}{3} & = & \Unit{5}+\Unit{3.33} \\
& = & (\Unit{1.67}+\Unit{1.67}+\Unit{1.67})+(\Unit{1.67}+\Unit{1.67}) \\
& = & \Unit{8.33}~.
\end{eqnarray*}

では、この値はどう表すべきなのでしょう。もしくはこの値は\Unit{10}を何等分したものなのでしょうか。しかし残念なことに、\Unit{10}を何等分しようとも\Unit{8.33}にはなりません。

そこで視野を広げて考えることにします。\Unit{8.33}(\Unit{1.67}が$5$個)を$6$個集めると\Unit{50}(\Unit{1.67}が$30$個)ですから、逆の立場で見れば\Unit{8.33}は\Unit{50}を$6$等分したものであることが分かります。ところで\Unit{50}はちょうど$\Unit{10}+\Unit{10}+\Unit{10}+\Unit{10}+\Unit{10}$、すなわち$5$ですから、\Unit{8.33}は$5$を$6$等分したものと言えます。$1$を$n$等分したものを分数で$\dfrac{1}{n}$と書いたわけですから、$5$を$6$等分したものは分数で$\dfrac{5}{6}$と書くことになります。結局
\begin{eqnarray*}
\frac{1}{2}+\frac{1}{3} & = & \Unit{8.33} \\
& = & \Unit{50}の6等分 \\
& = & \frac{5}{6}
\end{eqnarray*}
と記述すべきものであることが分かります。

これを私たちは通分と呼ばれる手続きによって
\begin{eqnarray*}
\frac{1}{2}+\frac{1}{3} & = & \frac{3}{6}+\frac{2}{6} \\
& = & \frac{3+2}{6} \\
& = & \frac{5}{6}
\end{eqnarray*}
とするのです。通分という手続きは、大きさの違うものを同じ大きさになるまで細かく砕くことに他なりません。ですから$\dfrac{1}{2}$のものを$3$等分すると$\dfrac{1}{6}$のものになり、同時に破片は$3$倍に増えますから、当然のごとく$\dfrac{1}{2} = \dfrac{3}{6}$ですね。これは\Unit{1.67}が$3$個あることを意味します。また、$\dfrac{1}{3} = \dfrac{2}{6}$ですが、これは\Unit{1.67}が$2$個あることを意味します。破片はすべて\Unit{1.67}ですから$+$により加えることができるようになり、結果\Unit{1.67}が$5$個となるわけです。

分数は、分子も分母も見た目に変わらない数字が使われています。しかし実体は、分母の数字ががものの細かさを表し、分子の数字ががものの数(かず)を表しています。したがって、まったく同じものしか集められない$+$の約束から、答となるものの細かさ(分母)に変化はなく、集めることで増えるもの(分子)だけが変化するのです。

例示しながら進めましょう。

数の基本は\Unit{10}ですから、これを元手に\Unit{20}や\Unit{30}を作ることができます。それが$2$や$3$です。しかし\Unit{10}はつなぐだけでなく、分けて\Unit{5}にすることもできるのです。分ける基本は「等分」です。なぜなら分けられたものが同じになるからです。単なる分割ではそうはいきませんよね。すると\Unit{10}に対して$2$等分、$3$等分ができるわけですが、問題はそれをどう記述するかに絞られるのです。今日ではそれを$\dfrac{1}{2}$、$\dfrac{1}{3}$と書きます。でも、分子・分母は同じ種類の数字を使うものの、性質が違うのが分数の「約束」です。

もし、性質が違う場合には違う種類の数字を使う約束にして、たとえば$1$の$2$等分を$1_{[2]}$と書けば、$1$の$3$等分は$1_{[3]}$と書けます。これは\Unit{5}と\Unit{3.33}が別物であることが一目瞭然であるのと同様、${}_{[2]}$と${}_{[3]}$を見れば別物であることが判別できます。$+$の約束から別物どうしを加えることはできません。したがって$1+1$は加えることができても$1_{[2]}+1_{[3]}$は加えることができません。それを可能にするには${}_{[*]}$が同じでなくてはならないのです。

${}_{[*]}$が同じであること、または同じにするためには分割を細かくすればよいのです。分割を細かくすれば破片も増えます。$1_{[2]}$をさらに$3$等分することで\Unit{1.67}の破片(これは$1_{[6]}$)になり、同時に破片の数が$3$倍に増えますから$3_{[6]}$です。$1_{[3]}$もさらに$2$等分することで\Unit{1.67}の破片(これも$1_{[6]}$)になり、同時に破片の数が$2$倍に増えますから$2_{[6]}$です。こうなると同じものどうしですから、$3+2$同様に$3_{[6]}+2_{[6]}$は加えることができて 5$_{[6]}$になるのです。

\end{document}