% 規則と不規則 -2-

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\usepackage{amsmath, amssymb}
\usepackage{tikz}

\begin{document}

\section*{◆規則と不規則--2--◆}

(「規則と不規則--1--」からの続き)

不規則だと思えたものに規則性が見られるのはちょっとした驚きでした。では逆に、規則性があると思えるのに実は不規則である、というものはないでしょうか。

\[
1 + \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \dotsb
}}} = 1.6180339\dots
\]
だったら正にぴったりの例である、などと言うのでは芸がありません。(不規則)→(規則) の例を逆に見れば、そうなるのは当たり前です。別の視点で探してみましょう。

規則とひとくちに言っても、それぞれに感じ方が違うでしょうが、ここでは規則的に数列を作る漸化式に目を向けます。

\[
a_1 = 1,\quad a_{n+1} = 4a_n-a_n^2
\]
は数が規則的に作られます。具体的には
\[
1,\ 3,\ 3,\ 3,\ 3,\ \dots
\]
という数列になってしまいます。$a_1 = -2$で始めるとどうでしょうか。その場合は数列は
\[
-2,\ -12,\ -192,\ -37632,\ \dots
\]
と急速に大きな負の値となってしまいます。他にも試してみれば、数列は$0$ばかりになったりすぐに大きな負の値になったりで、一定の値や単に負の値が増えるだけのようです。

この漸化式は、初期値がどんな数であっても単調な数列が出現するように思えます。しかし、そうではないのです。実は、整数値でない初期値を与えると、まったく不規則な数列が生成されてしまいます。たとえば$a_1 = 0.3$から始めると、数列は \begin{equation}
0.30,\ 1.11,\ 3.21,\ 2.54,\ 3.71,\ 1.08,\ 3.16,\ 2.65,\ 3.58,\ 1.50,\ 3.75,\ 0.93,\ \dots \label{0p30start}
\end{equation}
となります。本当はもっと細かい値が現れるのですが、見づらいので(四捨五入して)小数第$2$位までを示しました。これだけでは規則があるかどうか不明ですから、最初の$90$項程度をグラフにしてみましょう。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[x=1.2mm, y=1cm]
\draw (-5, 4.5) -- (-5, 0) -- (95, 0);
\foreach \x in {25, 50, 75} \draw (\x, 0) -- (\x, -0.1) node[below] {$\x$};
\foreach \y in {1, 2, 3, 4} \draw (-5, \y) -- (-6, \y) node[left] {$\y$};
\draw plot file {regular2.tbl};
\end{tikzpicture}
\end{center}

グラフは、横軸の第$n$項に対する$a_n$の値が縦軸にプロットされています。(ギザギザの先端先端が$a_n$の値で、各$a_n$を線でつないでいます。)グラフからは、生成される数列が、$0$から$4$の間を上下動しながら繰り返すことが読み取れます。大きな視点で見れば、何となく規則的な振る舞いをしていますが、細かく見れば規則がないことが分かります。簡単な規則の漸化式から生成された数列なのに、明確な規則が見当たらないのはどうしてでしょうか。ただ、出現する数の範囲が$0$と$4$の間になることには理由があります。

この例は、フラクタルの簡単な見本のようなもので、初期値の与えかたで予想できない数が生成されています。では、なぜ$a_{n+1} = 4a_n-a_n^2$だけの規則から、不規則な数列が生成されるのか説明してみましょう。説明は視覚に訴える意味も込めて、グラフ上に数列を生成させることで行います。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=1.2]
\draw[->] (-0.5, 0) -- (4.5, 0) node[right] {$x$};
\foreach \x in {1, 2, 3, 4} \draw (\x, 0) -- (\x, -0.1) node[below] {$\x$};
\draw[->] (0, -0.5) -- (0, 4.5) node[above] {$y$};
\foreach \y in {1, 2, 3, 4} \draw (0, \y) -- (-0.1, \y) node[left] {$\y$};
\node[below left] {$O$};
\draw[domain=0:4] plot (\x, 4*\x-\x*\x);
\draw (0, 0) -- (4, 4);
\draw[dashed] (4, 0) -- (4, 4) -- (0, 4);
\draw (0.3, 0) node[below] {\fbox{$0.3$}} -- (0.3, 1.1) -- (1.1, 1.1) -- (1.1, 3.21) -- (3.21, 3.21) --(3.21, 2.54) -- (2.54, 2.54) -- (2.54, 3.71) -- (3.71, 3.71) -- (3.71, 1.08);
\end{tikzpicture}
\end{center}

図に描かれている放物線は$y = 4x-x^2$です。かりに$x = a_n$を代入すれば、$y$の値を求めることができますが、実は、この$y$の値を求めることが漸化式$4a_n-a_n^2$の値、すなわち$a_{n+1}$を求めることになっていることに注意して下さい。

また、描かれている直線$y = x$は、$y = 4x-x^2$で求めた$y$の値を次の$x$の値として使う際に役立ちます。それは、こういうことです。

放物線上の最初の点は$(0.30,~1.11)$ですが、実はこれが漸化式による$(a_1,~a_2)$の値になっているわけです。すると次に$(a_2,~a_3)$の点を見つけられれば、後は同じことの繰り返しで済みます。そこで一旦$(a_1,~a_2)$を$y = x$上へ平行移動してやると、その点は$(a_2,~a_2)$ということになるので、この$x$座標を放物線の式へ代入することで、放物線上の点$(a_2,~a_3)$が求められる仕組みです。

以上の操作を、グラフ上のアルゴリズムとして考えると、次のようになるでしょう。

\begin{enumerate}
\item[$0^\circ$] 初期値 (いまの例では$0.3$) から$y$軸に平行に、放物線に交わるまで線を延ばす。
\item[$1^\circ$] 放物線の交点から$x$軸に平行に、直線に交わるまで線を延ばす。
\item[$2^\circ$] 直線の交点から$y$軸に平行に、放物線に交わるまで線を延ばす。[$\to$\ $1^\circ$に戻る]
\end{enumerate}

線をたどってみれば、たしかにあっちに行ったりこっちに来たりで、一向に収束する様子はありません。また、同じルートに戻ってしまうこともなさそうです。何とも不思議な状態をつくり出しているではありませんか。しかも、図では$0.3$が初期値ですが、もし初期値を$0.31$としたらどうなるでしょうか? 初期値が比較的近いからといって、その後の振る舞いまで似たものになると思ったら大間違い。これがとんでもなく違う振る舞いになってしまうんです。それを示しておきましょう。ここでも細かい値では見づらいので(四捨五入して)小数第$2$位までを示しました\footnote{初項の$0.31$は$0.31$ちょうど、第$12$項の$0.31$は$0.3062\dots$です。また、第$8$項の$4.00$は$3.9987\dots$、第$9$項の$0.00$は$0.0049\dots$です。}。

\begin{itemize}
\item[] $0.31$, $1.14$, $3.27$, $2.39$, $3.84$, $0.60$, $2.04$, $4.00$, $0.00$, $0.02$, $0.08$, $0.31$, \dots
\item[] $0.30$, $1.11$, $3.21$, $2.54$, $3.71$, $1.08$, $3.16$, $2.65$, $3.58$, $1.50$, $3.75$, $0.93$, \dots
\end{itemize}

その下には比較のため、$3.0$から始めた(\ref{0p30start})の数列を再掲しました。途中から、まるで別物のような数列になっていますね。何となく不思議な感じです。

こういった不思議は意外と身近にあるものです。よく知られた例ですが、植物の芽のつき方であるとか侵食された海岸線などは、いかにも不規則に見えます。しかし、よくよく調べるとある種の規則が浮かんでくるといいます。自然界の中には、黄金比のような規則を持つものや、フラクタル図形の性質を持つものなどがあります。簡単には調べることはできないでしょうが、不規則に見えるところに隠れている規則性を探してみるとよいでしょう。

\end{document}