% 規則と不規則 -1-
\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
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\begin{document}
\section*{◆規則と不規則--1--◆}
不思議なもので、なんだか無秩序のように見えて実は規則に縛られていたり、その逆にしっかりとした規則が目に見えるのに、実際は不規則だったりすることがあります。しばらくそんな話題を綴ってみましょう。
\begin{center}
\begin{tabular}{rcll}
$\sqrt{2}$ & = & $1.$ & $41421$\ $35623$\ $73095$\ $04880$\ $16887$ \\
& & & $24209$\ $69807$\ $85696$\ $71875$\ $37694$ \\
& & & $80731$\ $76679$\ $73799$\ $07324$\ $78462$ \\
& & & $10703$\ $88503$\ $87534$\ $32764$\ $15727\dots$~.
\end{tabular}
\end{center}
$\sqrt{2}$を小数点以下$100$位まで書き出してみました。近似値を「ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ(一夜一夜に人見頃)」などと語呂合わせで覚えた人も多いはずです。こうやって最初の$100$桁を眺めても、現れる数字の列に規則を見つけることはできないでしょう。当然「$\dots$」以下も不規則な数字の列が続いていくだけです。$\sqrt{2}$をはじめ、一般に$\sqrt{n}$の値は、$n$が平方数でない限り整数にもならず、かといって有理数(整数を分子・分母にもつ分数)にもできない数であることが知られています。このような数は無理数と呼ばれ、小数点以下が繰り返さない、無秩序な数字の列を作ります。
円周率$\pi$も、小数点以下に現れる数字に規則がありませんから、無理数の仲間です。しかし、$\pi$は単なる無理数を越えた数---\textbf{超越数}という---でもあるのですが、その一端はこの話の最後にお見せしましょう。おっと、あまり先の話をしても仕方ないですね。$\sqrt{2}$へ戻ります。
$\sqrt{2}$は、いわゆる無限小数になってしまうのですが、測量に使うのだとしたら適当なところで打ち切った値を使えば十分です。具体的には、一辺の長さが$12$\,cmの正方形の対角線を知りたければ、$\sqrt{2}$の代わりに$1.4$を使って
\[
12\times1.4 = 16.8\,\textrm{(cm)}
\]
とするだけのことです。さっき、$\sqrt{2}$は有理数にならないと書きましたが、近似値でよければ$\dfrac{14}{10}$や$\dfrac{141}{100}$と表すことはできます。しかし、ここでは違う方面から$\sqrt{2}$の姿を探っていくことにします。
準備のために、簡単な分数の性質について確認します。もし、$0 < a < 1$なる数$a$があれば、その逆数$\dfrac{1}{a}$は$1 < \dfrac{1}{a}$となります。つまり、$1$より小さい数の逆数は$1$より大きくなるということですね。そして、$1$より大きくなった$\dfrac{1}{a}$からは何らかの整数$m$を引くことができるようになります。$m$をうまく選べば$0 < \dfrac{1}{a}-m < 1$とすることが可能です。
ちょっと具体的な数で例示します。始めに$0.13$を与えたとすれば、その逆数$\dfrac{1}{0.13} = 7.692\dots$ですから、$1$より大きな数になります。するとここから$7$を引けば、$0.692\dots$となって、再び$1$より小さな数にすることができます。この性質は、これからの話の展開で重要な役割を果たします。
もう一つ簡単な性質を言います。どんな数であっても、
\begin{center}
その数の逆数の逆数はもとの数になる
\end{center}
ということです。これは言葉で言うより式で書いた方が分かりやすいでしょう。つまりもとの数を$a$とすると
\[
\cfrac{1}{\frac{1}{a}} = a
\]
であると言っているのです。等式が正しいことは、左辺の分子・分母に$a$をかければ分かります。
予備知識はこれだけです。早速、$\sqrt{2}$の姿を探ってみましょう。
予備知識を活かすために$\sqrt{2}$を
\[
\sqrt{2} = 1+(\sqrt{2}-1)
\]
と見ます。これで$(~)$内は$1$より小さい数になりました。そこで$(~)$内の$\sqrt{2}-1$に、``逆数の逆数はもとの数''を適用します。すると、式の続きは
\[
\dots = 1 +\cfrac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}-1}}
\]
となるでしょう。いま、分母にあたる$\dfrac{1}{\sqrt{2}-1}$の分母を有理化するために、分子・分母に$(\sqrt{2}+1)$を掛けて整理すると、うまいことに
\begin{eqnarray*}
\dotsb & = & 1 + \cfrac{1}{\frac{1\cdot(\sqrt{2}+1)}{(\sqrt{2}-1)\cdot(\sqrt{2}+1)}} \\
& = & 1 + \frac{1}{\sqrt{2}+1}
\end{eqnarray*}
となることが分かります。パッと見ると本当にこの式が正しく$\sqrt{2}$を表すか疑わしいのですが、電卓で計算してみればあっていることが確認できます。
さて、分数が何となくすっきりしてきました。しかし、ここで手を緩めることなく、分母の$\sqrt{2}+1$を$1$より大きい部分と小さい部分に分けて
\[
\dots = 1 +\cfrac{1}{2
+(\sqrt{2}-1)}
\]
とした後、再び$(~)$内の$\sqrt{2}-1$に``逆数の逆数はもとの数''を使って
\[
\dots = 1 + \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}-1}
}}
\]
としてみます。
おやおや。しっぽの方に$\dfrac{1}{\sqrt{2}-1}$が出てきましたが、分母を有理化することでこれが$\sqrt{2}+1$になることは確認済みですから、ここまでの式は
\[
\dots = 1 + \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{\sqrt{2}+1}
}
\]
と同じことです。その後、$\sqrt{2}+1$を$2+(\sqrt{2}-1)$に直して、``逆数の逆数はもとの数''を使って
\[
\dots = 1 + \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}-1}
}}}
\]
であることが分かります。再び$\dfrac{1}{\sqrt{2}-1}$の登場です。
こうなると後は同じことの繰り返しで、きっと
\begin{equation}
\sqrt{2} = 1 + \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{2
+ \cfrac{1}{2
+ \dotsb
}}}} \label{valOfSqrt2}
\end{equation}
となっていくだろうと思われます。
これはちょっとびっくりの結果ではありませんか? というのは、もともと$\sqrt{2}$は小数点以下に現れる数字が無秩序だったのに、ここで無理に分数で表したものは、明らかに$2$の列が繰り返すことになっているからです。小数で見た無秩序状態は、実は分数の世界では秩序を保っていたのですから。
ちなみに(\ref{valOfSqrt2})を計算してみましょう。と言っても、無限に続く分数では計算できないので、「$\dotsb$」部分を無視して電卓で計算してみると$1.4137931$となります。もう一つ深いところまでの分数で計算すると$1.4142011$になりますから、計算量の割にかなりよい精度の値が得られることが分かるでしょう。
この性質は$\sqrt{2}$に限らず、$\sqrt{3}$や他の無理数も備えているのです。つまり、一般の無理数は連分数表記をすると、繰り返しを含む分数になります。それに対して$\pi$は小数表記では一般の無理数と変わらないようでも、連分数表記に繰り返しが現れることはありません。ここでは証明はできませんが、$\pi$であれば
\[
\pi = 3 + \cfrac{1}{7
+ \cfrac{1}{15
+ \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{292
+ \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{2
+ \dotsb
}}}}}}}}
\]
となることが知られています。これを見ると、不規則な数が現れていることが分かるでしょう。この違いのために$\pi$は無理数を越える超越数と呼ばれるのです。($\Rightarrow$続きは「規則と不規則--2--」にて。)
\end{document}