% 鏡の中の上下・左右・前後

\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage{amsmath, amssymb}
\usepackage{tikz}

\begin{document}

\section*{◆鏡の中の上下・左右・前後◆}

\subsection*{鏡の映り方}

床に垂直に立てた鏡に自分の姿を映してみると、左右が逆に映って見えるでしょう。前後、つまり奥行きも逆方向に映っていることがわかります。でも、上下はそのままですね。なぜ、上下だけ逆にならないのでしょうか。人間の感覚の問題なのか、空間の構造の問題なのか、原因がどこにあるか気になります。ちょっとテキトーなリクツを考えることにします。

\def\vMIRROR{ % 垂直鏡
\draw[thick] (0, 0) circle[x radius=1, y radius=3] (0, 3) node[below] {鏡};
\draw[very thin, dashed] (-3.5, 0.7) -- (0, 0); \draw[very thin] (0, 0) -- (3.5, -0.7);
}
\def\hMIRROR{ % 水平鏡
\draw[thick] (0, 0) circle[x radius=3, y radius=1] (3, 0) node[left] {鏡};
\draw[very thin, dashed] (0, -3.5) -- (0, 0); \draw[very thin] (0, 0) -- (0, 3.5);
}
\def\BODY{ % 実体
\draw[ultra thick] (-0.5, 0.1) -- (0, 0) node[above right] {実体} -- (0, -1);
\draw[ultra thick] (-0.3, -0.7) node {$\circ$} -- (0.3, -0.3) node {$\bullet$};
}
\def\hBODY{ % 水平鏡像
\draw[ultra thick, dashed] (0.5, -0.1) -- (0, 0) -- (0, -1) node[below] {鏡像};
\draw[ultra thick, dashed] (-0.3, -0.7) node {$\circ$} -- (0.3, -0.3) node {$\bullet$};
}
\def\vBODY{ % 垂直鏡像
\draw[ultra thick, dashed] (-0.5, 0.1) -- (0, 0) node[below] {鏡像} -- (0, 1);
\draw[ultra thick, dashed] (-0.3, 0.3) node {$\circ$} -- (0.3, 0.7) node {$\bullet$};
}
\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.75]
\vMIRROR
\begin{scope}[shift={(2.5, -0.5)}]
\BODY
\end{scope}
\begin{scope}[shift={(-2.5, 0.5)}]
\hBODY
\end{scope}
%% 方向指針
\begin{scope}[shift={(6.25, 0)}]
\draw[->] (0, -1) node[below] {下} -- (0, 1) node[above] {上};
\draw[->] (0.9, 0.6) node[right] {右} -- (-0.9, -0.6) node[left] {左};
\draw[->] (1, -0.2) node[right] {後} -- (-1, 0.2) node[left] {前};
\end{scope}
%%
\begin{scope}[shift={(12, 0)}]
\hMIRROR
\begin{scope}[shift={(0, 2.5)}]
\BODY
\end{scope}
\begin{scope}[shift={(0, -2.5)}]
\vBODY
\end{scope}
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

いま、鏡は左右・前後は反転し、上下はそのままに映ると言いました。でも、床に置いた鏡の面に立ったら、そうなりません。上下は逆方向に反転して見えるはずです。左右も然(しか)り。でも、前後は実体も鏡像も同じ方向を向いています。この場合は、なぜ前後だけ逆にならないのでしょう。鏡の置き方に原因があるのか、それとも人が鏡を見る見方に原因があるのでしょうか。それが問題です。

\subsection*{人の感覚}

人は重力に逆らうわけにはいきません。否(いや)が応でも重力の方向は意識せざるを得ないのです。だからと言って、重力が絶対的で、そのために上下は固定されるというわけではないですね。床に置いた鏡面に立ったときが、そのことを示していました。

では、先の右図を時計回りに$90^\circ$回転させてみましょう。実体の置かれ方は左図とちょっと異なりますが、反転しているのは左右・前後であり、上下はそのままであることがわかるでしょうか。つまり反転の状況は、左の図も右の図も本質的に同じものと言えるでしょう。すると反転する方向が異なって見えるのは、人の感覚が影響しているようにも思えます。

\subsection*{方向とは}

私たちは空間を上下・左右・前後の$3$方向に分解して見ることができます。つまり空間を$3$次元と認識しています。鏡は平面ですから$2$次元です。$3$次元のものを$2$次元に映すのだから、情報量が$1$次元分欠落して$2$方向だけが反転するのだ、というのは尤(もっと)もらしく聞こえます。そうであれば、反転の仕組みは空間の構造的なものと考えられ、鏡による反転に人の感覚は影響していないことになるでしょう。

それでは``方向''とは何でしょうか。そこでまず、何一つない空間というものを考えます。何一つないのに空間の存在を認めるというのは、いささか矛盾しているようですが、まあ想像してもらいましょう。いま空間には何もないので、おそらく方向というものもないでしょう。

で、その空間に一点だけがあったとします。このときも、おそらく方向は見出せないと思います。方向とは、あるところからあるところへの道筋を意味するとすれば、一点では方向になりません。でも、$2$点なら方向が存在すると言えます。

\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}
\fill (0, 0) circle (0.05) node[left] {? $\leftarrow$} node[above right] {$\nearrow$ ?};
\begin{scope}[shift={(5, 0)}]
\fill (1, -1) circle (0.05) node[above left] {$\nwarrow$} node[right] {A};
\fill (-1, 1) circle (0.05) node[below right] {$\searrow$} node[left] {B};
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

こういった考えは人の頭の中だけにあるので、空間内で人が見ていなくても$2$点があれば方向が生じると言ってよいでしょう。つまり、$2$点は互いに相手に向かう方向を得たことになります。この時点ですでに反転が起きていることに注意してください。

$2$点があれば、さらに\textgt{距離}が生じる上に、$2$点を通る直線も考えることができます。空間には$2$点以外ないので、距離といっても具体的に何mなどという測定はできません。しかし、\textgt{中点}は特定できます。また、直線を考えることができれば、直線に対して\textgt{垂直}という概念も取り入れられます。つまり、$2$点を通る直線$\ell$の中点に、$\ell$に垂直な別の直線$k$を置くことができるのです。空間の中では直線$k$の置き方は無数にあります。このことは、無数の直線$k_n$によって平面が作られることを意味します。

以上の順を逆にたどると、空間にある平面に垂直に通る直線を引き、その直線上に平面から等距離にある$2$点を取れば、互いに逆方向の向きが生じる、となるでしょうか。この状況が、鏡に実体をかざしたとき鏡像が反転して見えるということです。ただしここまでの話は、コッチ側から鏡に垂直に向かう矢線(実体)とアッチ側から鏡に垂直に向かう矢線(鏡像)は互いに逆方向に見える、ということを述べただけです。

\def\rDIRECTION{
\begin{scope}[shift={(3, -0.6)}]
\draw[ultra thick, ->] (0, 0) node[above] {実体} -- (-1, 0.2);
\end{scope}
}
\def\iDIRECTION{
\begin{scope}[shift={(-3, 0.6)}]
\draw[ultra thick, dashed, ->] (0, 0) node[above] {鏡像} -- (1, -0.2);
\end{scope}
}
\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.75]
\vMIRROR
\draw (-1.75, 2) node {(アッチ側)}; \draw (1.75, 1) node {(コッチ側)};
\iDIRECTION
\rDIRECTION
\end{tikzpicture}
\end{center}

さて、先ほど人が鏡に映ったときは、上下の反転はなかったのですね。代わりに左右の反転がありました。本当にそうでしょうか?

\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.75]
\vMIRROR
\iDIRECTION
\rDIRECTION
\begin{scope}[shift={(3, -0.6)}]
\draw[very thick] (0, -1) node {$\circ$} -- (0, 0) -- (0, 1) node {$\bullet$};
\end{scope}
\begin{scope}[shift={(-3, 0.6)}]
\draw[very thick, dashed] (0, -1) node {$\circ$} -- (0, 0) -- (0, 1) node {$\bullet$};
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(10, 0)}]
\vMIRROR
\iDIRECTION
\rDIRECTION
\begin{scope}[shift={(3, -0.6)}]
\draw[very thick] (0.9, 0.3) node {$\bullet$} -- (0, 0) -- (-0.9, -0.3) node {$\circ$};
\end{scope}
\begin{scope}[shift={(-3, 0.6)}]
\draw[very thick, dashed] (0.9, 0.3) node {$\bullet$} -- (0, 0) -- (-0.9, -0.3) node {$\circ$};
\end{scope}
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

左の図と右の図を比べるとそのように感じます。しかし、単に$3$次元空間に鏡があり、鏡に直線が垂直に通過している状態を考えると、実は左の図も右の図も同じですよね。右の図を反時計回りに$90^\circ$回転すると左の図とまったく同じです。さっき、人が鏡面上に立った様子と同じことが生じています。同じ図なのに方向に違いが認められるとすると、やはり方向の反転は人の感覚が影響しているのかもしれません。

私たちは重力の影響を受けているので、上下方向を軸と捉えて左の図と右の図は別ものと見ますが、これが無重力空間で生じていたら両方の図はまったく同じです。そうすると、鏡は奥行きだけを反転させているにすぎません。でも、それなら鏡は、物理的には$1$方向しか反転させないけれど、人が観測すれば$2$方向の反転を引き起こすことになって、ちょっと変な気もします。

\subsection*{空間の構造}

空間に方向が生じるのは先に述べた通り$2$点があるとき、言い換えれば直線が置かれたときです。このとき初めて、直線上に互いに逆の方向が直線に沿って現れます。その上で、直線の中点に垂直な平面を認めることができます。その平面を具体化したものが鏡と言えるでしょう。

\def\rNEJI{
\begin{scope}[shift={(3, -0.6)}]
\draw[very thick] (0, 1) node {$\bullet$} -- (0, 0) -- (-0.9, -0.3) node {$\circ$};
\end{scope}
}
\def\iNEJI{
\begin{scope}[shift={(-3, 0.6)}]
\draw[very thick, dashed] (0, 1) node {$\bullet$} -- (0, 0) -- (-0.9, -0.3) node {$\circ$};
\end{scope}
}
\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.75]
\vMIRROR
\iDIRECTION \iNEJI
\rDIRECTION \rNEJI
\end{tikzpicture}
\end{center}

では、鏡は直線上のものだけを反転させ、他の方向は人の感覚によって反転したように感じるのでしょうか。実はそうではなく、人の感覚とは無関係に直線上のもの以外も反転させているのです。図の$\bullet$を、人の頭が鏡に向かっていると見ることにします。すると実体の$\circ$は左手側で、鏡像の$\circ$は右手側にあたります。でもそれは人の感覚だから、左右方向という見方をしなければ実体も鏡像も同じではないか、とは先ほどの主張です。

\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.75]
\draw[->] (0, 0) -- (1, 0) node[right] {$\vec{a}$}; \draw[->] (0, 0) -- (0, 1) node[above] {$\vec{b}$};
\begin{scope}[shift={(2.5, 0)}]
\draw[->] (0, 0) -- (1, 0) node[right] {$\vec{b}$}; \draw[->] (0, 0) -- (0, -1) node[below] {$\vec{a}$};
\end{scope}
%%
\begin{scope}[shift={(8, 0)}]
\draw[->] (0, 0) -- (1, 0) node[right] {$\vec{b}$}; \draw[->] (0, 0) -- (0, 1) node[above] {$\vec{a}$};
\begin{scope}[shift={(2.5, 0)}]
\draw[->] (0, 0) -- (1, 0) node[right] {$\vec{a}$}; \draw[->] (0, 0) -- (0, -1) node[below] {$\vec{b}$};
\end{scope}
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

しかし実際は違います。図の左側の$2$個の``座標系''は同じものです。$90^\circ$回転させれば重なるからです。右側の$2$個も同様に同じものです。ところが、左側の$2$個と右側の$2$個は本質的に異なる座標系です。なぜなら、平面上でどう回転させても重なることはないからです。もし重ねることができるとしたら、座標系を``\nobreak 裏返し''にしたときです。つまり、平面の中の異なる座標系は空間の中で回転させない限り重ならない、という点で異質な座標系であると言えます。このことを踏まえて、先の実体と鏡像を見比べてみます。

\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=1.2]
\iDIRECTION \iNEJI
\begin{scope}[shift={(-1.5, 0.75)}]
\draw[dashed, <-] (0, 0) arc[x radius=0.5, y radius=0.8, start angle=20, end angle=340];
\end{scope}
\rDIRECTION \rNEJI
\begin{scope}[shift={(1.75, 0)}]
\draw[<-] (0, 0) arc[x radius=0.5, y radius=0.8, start angle=20, end angle=340];
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

この二つの座標系は回転や移動で重ねることができません。なぜなら、この二つは右手系と左手系の違いがあるからです。実体の図を矢線の方向へ見ると$\circ$から$\bullet$へは``右''$90^\circ$回転であることがわかります。また、鏡像の図を矢線の方向へ見ると$\circ$から$\bullet$へは``左''$90^\circ$回転であることがわかります。つまり、回転の方向が反転しているのです。これらを重ねるには平面の座標系同様、もう$1$次元高い空間---$4$次元空間というのでしょうか---で``裏返し''にしなくてはなりません。$4$次元空間で裏返すことは、おそらく$4$次元空間内で回転させることです。ちょっとピンときませんね。

結局のところ鏡は、\textgt{鏡に対して垂直な直線上のものを反転}させると同時に、\textgt{直線軸の周りの回転も反転}させているのです。そして、反転させるのはこれで全部です。ここまでは人の感覚とは無関係に生じることなので、鏡と空間に関する物理的/構造的なものと言えるでしょう。

\subsection*{一方向だけ固定されること}

そこでいちばん始めに戻って、鏡を立てたときの実体と鏡像の関係、鏡を床に置いたときの実体と鏡像の関係を見返しましょう。まず鏡像には、鏡に垂直な直線に沿って反転する方向が一つあります。反転は直線上で回転したのではありません。回転は直線からはみ出ないとできないことなので、より高い次元---つまり平面内か空間内---で回転させたのです。

もう一つ反転している方向は\.鏡\-\.と\-\.平\-\.行\-\.な\-\.方\-\.向ですが、反転していない別の方向も\.鏡\-\.と\-\.平\-\.行\-\.な\-\.方\-\.向(これらはいずれも直線には垂直な方向)です。方向は同じでも一方は反転して他方は反転しない。一体、何が反転する/しないを決める要素なのでしょうか。それはおそらく人の``視線''でしょう。

そもそも、ものが反転して見えるのは\.鏡\-\.の\-\.方\-\.向\-\.を\-\.見\-\.るからです。鏡を見ていなければ、反転の様子を見ることはできません。

\def\AXofMIRROR{
\draw[very thin] (2, -2) -- (1, -1); \draw[very thin, dashed] (1, -1) -- (-1, 1); \draw[very thin] (-1, 1) -- (-2, 2);
}
\def\vFACE#1{
\draw[#1] (-0.25, -0.75) -- (-0.25, 0.75) node[above] {$\circ$} -- (0.25, 0.75) node[above] {$\bullet$} -- (0.25, -0.75) -- cycle;
\draw[#1] (-0.5, 0.95) -- (0.5, 0.95) node[right] {視線};
}
\def\hFACE#1{
\draw[#1] (-0.75, 0.25) -- (0.75, 0.25) node[right] {$\circ$} -- (0.75, -0.25) node[right] {$\bullet$} -- (-0.75, -0.25) -- cycle;
\draw[#1] (0.95, -0.5) -- (0.95, 0.5) node[above] {視線};
}
\vspace{3mm}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=1]
\AXofMIRROR
\begin{scope}[shift={(1, -1)}]
\vFACE{}
\draw[->] (0, 0.95) -- (-0.5, 1.45) node[above left] {\footnotesize(鏡)};
\end{scope}
\begin{scope}[shift={(-1, 1)}]
\vFACE{dashed}
\draw[->, dashed] (0, 0.95) -- (0.5, 0.45) node[below right] {\footnotesize(鏡)};
\end{scope}
%%
\begin{scope}[shift={(5, -1)}, scale=0.5]
\draw[->] (0, -1) node[below] {下} -- (0, 1) node[above] {上};
\draw[->] (1, 0) node[above right] {右} -- (-1, 0) node[below left] {左};
\draw[->] (0.7, -0.7) node[below right] {後} -- (-0.7, 0.7) node[above left] {前};
\end{scope}
%%
\begin{scope}[shift={(8, 0)}]
\AXofMIRROR
\begin{scope}[shift={(1, -1)}]
\hFACE{}
\draw[->] (0.95, 0) -- (0.45, 0.5) node[above left] {\footnotesize(鏡)};
\end{scope}
\begin{scope}[shift={(-1, 1)}]
\hFACE{dashed}
\draw[->, dashed] (0.95, 0) -- (1.45, -0.5) node[below right] {\footnotesize(鏡)};
\end{scope}
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

図は、立って鏡を見ている人と寝て鏡を見ている人を表したと思ってください。ここで視線とは、``鏡を見る方向と両目を結ぶ方向を一体にしたモノ''を指します。

さて、立って鏡を見ると上下方向は反転せず、固定されていました。また、寝て鏡を見ると左右方向が固定されて見えるはずです(頭は右、足は左)。寝ている場合、奥行きが反転しているのは従来通りですが、上下方向も反転しています。なぜなら、実体は鏡に向かって右手側が$\bullet$に対して、鏡像は鏡に向かって右手側が$\circ$なので、$\bullet$--$\circ$方向、すなわち上下方向は逆です。立っていると上下方向が固定、寝ていれば左右方向が固定されて見えるとすると、それを決める要素があるはずです。それは視線に\.含\-\.ま\-\.れ\-\.な\-\.い方向です。その方向こそ、立っている場合が上下方向、寝ている場合が左右方向なのです。

これは重力の方向ではなく、人の頭と足の方向にあたります。ということは、反転する/しないは人の感覚が影響しているとも言えます。

鏡が床にあるときは違うんじゃないの?と思ったでしょうか。いいえ、違っていません。視線とは鏡を見る方向を含むモノでしたね。つまり鏡が床にあれば、視線は目を結ぶ方向に対して上下方向に向いていなければならないのです。それなら、視線に含まれない方向は前後方向となります。たしかに鏡が床にあれば、前後方向が固定されているように映るはずです。

\subsection*{$4$次元空間では}

少し眉唾(まゆつば)ものでしたか? でも、鏡像が反転して見える理由はこんなところではないでしょうか? ならば、もし$4$次元空間に``$3$次元鏡''を置いたら、$4$方向中いくつの方向が反転して映るのでしょうか。平面鏡($2$次元鏡)でなく$3$次元鏡を置いたのは、現実の$3$次元空間に$1$次元鏡---それは一本の線でできた鏡---を置いても立体を想像して見られないように、$4$次元空間に$2$次元鏡を置いたのでは、おそらく$4$次元立体を想像して見られないと思われるからです。

しかし、$4$次元の場合は$3$次元のアナロジーで、$4$方向中$3$方向が反転して見えるとしてよいと思うのです。このことについて説明しましょう。

『$3$次元空間で$2$次元鏡に映ったものを見るということは、鏡に垂直な直線上で反転した$1$方向と、\.直\-\.線\-\.上\-\.に\-\.な\-\.い$2$方向のものを合わせて見ていることになります。ただし鏡に映る``$3$方向一体の像''は、実体とは異なる系で映っています。$3$方向一体の像が異なる系になるためには、直線上にない$2$方向のうちの$1$方向を軸にし、もう$1$方向を$3$次元空間と異なる方向---つまり$4$次元空間---を通って回転しているはずです\footnote{空間内の$3$方向を$4$次元空間の第$4$の軸を中心に回転させてしまうと、単に$3$次元空間内の回転になってしまい何も反転しません。このことは『平面上の$2$方向を$3$次元空間の第$3$の軸を中心に回転すると、単にコマのように回転するだけで系は変わらない』のアナロジーになっています。}。このことから$3$次元空間の$3$方向が$2$次元鏡に映ると、$2$方向が反転し$1$方向は固定して見えることになります。』

このアナロジーを述べると\dots。

『$4$次元空間で$3$次元鏡に映ったものを見るということは、鏡に垂直な直線上で反転した$1$方向と、\.平\-\.面\-\.上\-\.に\-\.な\-\.い$3$方向のものを合わせて見ていることになります。ただし鏡に映る``$4$方向一体の像''は、実体とは異なる系で映っています。$4$方向一体の像が異なる系になるためには、平面上にない$3$方向のうちの$1$方向を軸にし、もう$2$方向を$4$次元空間と異なる方向---つまり$5$次元空間---を通って回転しているはずです\footnote{四次元の$4$方向を$5$次元空間の第$5$の軸を中心に回転させてしまうと、単に$4$次元空間内の回転になってしまい何も反転しません。このことは『空間内の$3$方向を$4$次元空間の第$4$の軸を中心に回転すると、単にコマのように回転するだけで系は変わらない』のアナロジーになっています。}。このことから$4$次元空間の$4$方向が$3$次元鏡に映ると、$3$方向が反転し$1$方向は固定して見えることになります。』

尤もらしい話になったでしょうか?\footnote{一般に『$n$次元空間の$n$方向が$(n-1)$次元鏡に映ると、$(n-1)$方向が反転し$1$方向は固定して見える』と言えるでしょう。} 気になるところは``視線''というモノを持ち出したことでしょう。``\nobreak 両目を結ぶ''ことから、反転の仕組みは人に依存するものと感じたかもしれません。もし人の目が縦に並んでいたらとか、一つ目だったらとか、現状と異なる場合でも同じリクツが通用するかというと、\dots アヤシイですね。

それでも『鏡に映る像が$2$方向だけ反転して見えるのは物理的な理由であり、その上で反転しない方向は人の感覚によって決まる』と言っておきましょう。鏡のヒミツを解き明かすのはムズカシイようです。 \end{document}