% 数の真実の姿
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\markright{\sf tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
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\begin{document}
\section*{◆数の真実の姿◆}
\noindent
(「存在感ありありの虚数」からの続き)
前回までの疑問
\begin{itemize}
\item 虚数と実数はどんな関わり方をしているのか
\item なぜ$(負)\times(負) = (正)$が正しい選択だったのか
\item $(?)\times(?) = i$となる第$4$の符号は何か
\end{itemize}
に回答するときがきました。
虚数と実数の関わりについては、
\[
z = a+bi \quad (a,\ bは実数)
\]
で表される複素数$z$が複素平面上に存在していたことで、虚数と実数が密接に関わっていることがわかりました。
次に、$(負)\times(負) = (正)$が正しい選択だったことについて話しましょう。
複素数どうしの積は
\[
(a+bi)(c+di)
\]
ですが、原点からの距離$r$と$x$軸からの回転角$\theta$(この角のことを、複素数$z$の「偏角」と呼びます)を用いて
\[
r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)\cdot r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)
\]
と表せました(このように$r$と$\theta$で表した複素数を、$z$の「極形式」と呼びます)。そしてこの積が
\begin{eqnarray*}
r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)\cdot r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)
&=& r_1 r_2\{ \cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)\}
\end{eqnarray*}
になることもわかりました。このことを少し具体的な複素数を用いて確認しましょう。
\[
(\sqrt{3}+i)(-1+\sqrt{3}\,i)
\]
の積は、$i\times i = -1$に注意して文字式の展開同様に計算すると
\[
-2\sqrt{3}+2i
\]
となります。この数を極形式で表すと
\begin{eqnarray*}
-2\sqrt{3}+2i &=& 4\left(-\frac{\sqrt{3}}{2}+\frac{1}{2}i\right) \\
&=& 4(\cos150^\circ +\sin150^\circ i)
\end{eqnarray*}
です\footnote{$\displaystyle \cos\theta = -\frac{\sqrt{3}}{2}$となる$\theta$は$150^\circ$, $210^\circ$で、$\displaystyle \sin\theta = \frac{1}{2}$となる$\theta$は$30^\circ$, $150^\circ$ですが、$\theta = 150^\circ$のときに限り条件を満たします。}。
一方、最初の複素数の積
\[
(\sqrt{3}+i)(-1+\sqrt{3}\,i)
\]
は
\[
2(\cos30^\circ +\sin30^\circ i)\cdot 2(\cos120^\circ +\sin120^\circ i)
\]
と書くことができます。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=1.25cm
\begin{picture}(6.5, 3)(-4, -.5)
\put(-4, 0){\vector(1,0){6.5}} %実軸
\put(2.55, 0){\makebox(0, 0)[l]{$\Re$}}
\put(0, -.5){\vector(0,1){3}} %虚軸
\put(0, 2.55){\makebox(0, 0)[b]{$\Im$}}
\put(0, 0){\makebox(0, 0)[rt]{$O$}}
\put(0, 0){\vector(173, 100){1.73}}
\put(1.73, 1){\makebox(0, 0)[b]{\fbox{\tiny$\sqrt{3}+i$}}}
\put(0, 0){\dashbox{.025}(1.73, 1){}}
\put(1.73, -.05){\makebox(0, 0)[t]{$\sqrt{3}$}}
\put(-.05, 1){\makebox(0, 0)[r]{$i$}}
\put(0, 0){\vector(-100, 173){1}}
\put(-1, 1.73){\makebox(0, 0)[b]{\fbox{\tiny$-1+\sqrt{3}\ i$}}}
\put(-1, 0){\dashbox{.025}(1, 1.73){}}
\put(-1, -.05){\makebox(0, 0)[t]{$-1$}}
\put(.05, 1.73){\makebox(0, 0)[l]{$\sqrt{3}\ i$}}
{\thicklines
\put(0, 0){\vector(-346, 200){3.46}}
\put(-3.46, 2){\makebox(0, 0)[b]{\fbox{\tiny$-2\sqrt{3}+2i$}}}
\put(-3.46, 0){\dashbox{.025}(3.46, 2){}}
\put(-3.46, -.05){\makebox(0, 0)[t]{$-2\sqrt{3}$}}
\put(.05, 2){\makebox(0, 0)[l]{$2i$}} }
\qbezier(.2, 0)(.08, .274)(-.173, .1)
\put(-.125, .1){\makebox(0, 0)[rb]{\tiny$150^\circ$}}
\qbezier(.4, 0)(.3, .519)(-.2, .346)
\put(.1, .45){\makebox(0, 0)[b]{\tiny$120^\circ$}}
\qbezier(.6, 0)(.6, .161)(.519, .3)
\put(.6, .2){\makebox(0, 0)[l]{\tiny$30^\circ$}}
\end{picture}
\end{center}
まさに、$r_1 r_2$である$2\cdot2$と$\theta_1+\theta_2$である$30^\circ +120^\circ$を使った$4(\cos150^\circ +\sin150^\circ i)$が、さっき求めた積($-2\sqrt{3}+2i$)の極形式になっているではありませんか。つまり複素数の世界では、「複素数の積を求める」ことと「偏角の和を求める」ことはまったく同じことなのです。
すると$(-1)\times(-1)$の積を求めることは、$(-1)$の偏角と$(-1)$の偏角の和を求めることでもあります。$(-1)$は
\begin{eqnarray*}
-1 &=& -1+0i \\
&=& \cos180^\circ +\sin180^\circ i
\end{eqnarray*}
とみることができますから、
\begin{eqnarray*}
(-1)\times (-1) &=& (\cos180^\circ +\sin180^\circ i)(\cos180^\circ +\sin180^\circ i) \\
&=& \cos(180^\circ +180^\circ )+\sin(180^\circ +180^\circ )i \\
&=& \cos360^\circ +\sin360^\circ i \\
&=& 1+0i \\
&=& 1
\end{eqnarray*}
となりました。複素数の世界で眺めると、$(負)\times(負) = (正)$であることはごく自然なことなのです。
このような見方をしていくと、掛け算をすることが偏角の和を求めることになるならば、ある数を$2$乗することは偏角を$2$倍することであるはずです。するとその逆に、ある数の平方根を求めることは、偏角を$\displaystyle \frac{1}{2}$にすることになるでしょう。
以前から$(?)\times(?) = i$となる第$4$の符号の存在を気にしていましたが、$(?)\times(?) = i$となるものを求めることは$i$の平方根を求めることでもあります。今の話から、$i$の平方根は$i$の偏角を$\displaystyle \frac{1}{2}$にした数のはずです。ところで
\begin{eqnarray*}
i &=& 0+1i \\
&=& \cos90^\circ +\sin90^\circ i
\end{eqnarray*}
ですから、$i$の平方根はこの偏角を$\displaystyle \frac{1}{2}$にして
\[
\cos45^\circ +\sin45^\circ i
\]
です。これは
\[
\frac{1}{\sqrt{2}}+\frac{1}{\sqrt{2}}i
\]
を表します。つまり$i$の平方根は新しい符号を必要とする数ではなく、ごく普通の複素数なのです。これが本当に$i$の平方根であることは、この数を$2$乗して、実際、
\[
\displaystyle \left(\frac{1}{\sqrt{2}}+\frac{1}{\sqrt{2}i}\right)^2 = \frac{1}{2}+2\cdot\frac{1}{\sqrt{2}}\cdot\frac{1}{\sqrt{2}}i-\frac{1}{2} = i
\]
であることが確認できます。
ところで平方根というと$9$の平方根が$\pm3$であるように、$i$の平方根にもうひとつの解がありそうなものです。実は$i$の極形式を
\[
i=\cos90^\circ +\sin90^\circ i
\]
としましたが、$90^\circ$の偏角を$450^\circ$とみれば、$i$の平方根はこの偏角を$\displaystyle \frac{1}{2}$にして
\[
\cos225^\circ +\sin225^\circ i
\]
となります。これは
\[
-\frac{1}{\sqrt{2}}-\frac{1}{\sqrt{2}}i
\]
を表わしますので、確かに$i$の平方根のもうひとつの解になっています。
するとこの調子で$90^\circ$の偏角を$810^\circ$, $1170^\circ$, \ldots とみれば、$i$の平方根がいくつも出てきそうな気がしますがそんなことはありません。偏角を$360^\circ$ずつ増やすということは、平方根を求めたとき偏角が$180^\circ$ずつ増えるということなので、結局$i$の平方根は先にあげた$2$つしかないことがわかります。
さて、以上のことで複素数の大まかな様子がつかめたことと思います。
まず複素数どうしの足し算では、原点から矢線で示された複素数を継ぎ足していくことでその和が求められます。複素平面は無限に広がっていますから、どんな複素数どうしを足しても答は複素平面の中に求められます。引き算はその逆ですが、やはり必ず答がでます。
また、複素数どうしの掛け算は回転角の和に等しいので、回転角の和がいくら大きくなっても、原点の周りを回転する回数が増えるだけで答は必ず複素平面の中に求められます。このことから、ある数の$n$乗や$n$乗根にも必ず答はあります。
複素数どうしの割り算については
\[
\frac{a+bi}{c+di}
\]
を考えることになるでしょうが、この式の分母・分子に$c-di$を掛けてやれば
\begin{eqnarray*}
\frac{a+bi}{c+di} &=& \frac{(a+bi)(c-di)}{(c+di)(c-di)} \\
&=& \frac{(ac-bd)+(bc-ad)i}{c^2-d^2} \\
&=& \frac{ac-bd}{c^2-d^2}+\frac{bc-ad}{c^2-d^2}i
\end{eqnarray*}
ですから、やはり複素数です。
このように複素数どうしの計算においては、自由に計算ができ、なおかつその答も必ず複素数です。つまりこれ以上新しい数を考える必要がないのです。
$(負)\times(負) = (正)$と決めたことで虚数という新しい数を導入する必要に迫られましたが、この虚数のおかげで、水が水素分子と酸素分子から生成されるように、実数が虚数を介して存在していることがわかりました。そしてすばらしいことに、複素数がすべての数の根本であるかのように、これ以上新しい数を作る必要のないこともわかりました。
私たちはここに至って「数」の真実の姿を見ることができたのです。しかし、これは数の世界の入り口にすぎません。複素数はここに取りあげた四則演算に限ることなく、さらに深いところで数学と密接に関わっているのです。
\end{document}