% 0で割ることは罪深い
\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
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\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\usepackage{amsmath, amssymb}
\begin{document}
\section*{◆$0$で割ることは罪深い◆}
昔から割り算をするときには、$0$で割り算ができないものだと教えられてきました。だから$0$で割り算をしても答はでないんだよ、という具合にです。また、気の利いた人なら$0$で割ると答は無限大になるんだよ、と言うかもしれません。
この$2$通りの答え方は、どちらも$0$で割ることについての正確な回答ではありません。そのことを順を追って説明します。
その前に、引き算と割り算について話をしましょう。ここで、足し算や掛け算という計算はあるけれど、引き算や割り算という計算はないんですよ、と言ったらどう思いますか。そうすると引き算や割り算ってのは一体何なんだと思うでしょうね。でも、$72-29$の計算を\textbf{暗算で}やってみてください。さあ、どうやって答をだしましたか。おそらく頭の中で
\begin{center}
\tabcolsep=3pt
\def\arraystretch{.85}
\small
\begin{tabular}{rrr}
& $7$ & $2$ \\
$-$ & $2$ & $9$ \\ \hline
& $4$ & $3$
\end{tabular}
\end{center}
と筆算をした人は少ないと思います。きっと$29+□$の□に当てはまる数を探したんじゃないでしょうか。『□が$50$では$79$になってしまうので、それより小さい$40$台の数に違いない。そして$40$台の数なら$43+29$にすると答がちょうど$72$になってくれる。だから$72-29 = 43$だな』という具合にです。
また、割り算をするときもそうです。$987\div12$の計算を考えてみましょう。
\begin{center}
\tabcolsep=3pt
\def\arraystretch{.85}
\small
\begin{tabular}{ccrccc}
& & & & $8$ & $2$ \\ \cline{4-6}
$1$ & $2$ & ) & $9$ & $8$ & $7$ \\
& & & $9$ & $6$ & \\ \cline{4-6}
& & & & $2$ & $7$ \\
& & & & $2$ & $4$ \\ \cline{5-6}
& & & & & $3$
\end{tabular}
\end{center}
例では、始めに$8$をたてていますね。なぜなら$12\times8$は$98$を超えない、$98$に最も近い数だからです。そして$12\times8$の計算結果$96$を$98$の下に書きます。引き算をして$2$(舌の根が乾かないうちに引き算してごめんなさい)。上から$7$をおろして$27$。次に、さっきたてた$8$の横に$2$をたてます。そして$12\times2$の計算結果を$27$の下に書きます。引き算をして$3$。結局、$987\div12 = 82$、余り$3$です。どうですか。割り算とはいえ結局は掛け算を繰り返しているだけですね。
こうやって考えると$10\div2$のような単純な計算でさえ、実は掛け算をしていることに気づきます。もちろんこの程度の計算は結果を暗記しているから、掛け算をしている実感というものはないかもしれません。でも、$10\div2$の実状はこうです。
$10\div2$の答を□とします。つまり
\[
10\div2 = □
\]
です。ここで、この□を求めるために私たちは
\[
10 = □\times2
\]
を満たす□を探しているのです。『ご・に・じゅう』だから
\[
□ = 5
\]
ですね。これで準備が整いました。
さあ、いよいよ$0$で割り算をしてみましょう。考え方はさっきと同じです。たとえば$3\div0$を考えます。これは
\[
3\div0 = □
\]
の□を求めることです。さっきと同様に
\[
3 = □\times0
\]
を満たす□を探せばよいのです。ところがどんな数に$0$を掛けても答は$0$になるわけですから、□に$0$を掛けて$3$になることありえません\footnote{$□\times0$を『□を$0$回足す』と読むと意味不明ですから、分配法則より$□\times0 = □\times(1-1) = □-□ = 0$と考えます。}。よって、□に当てはまる数はないので、答を求めることは不可能です。結果、「$0$で割ることは\textbf{できない}」となるのです。
ところが例外はあるもので、$3\div0$でなく$0\div0$ならどうでしょうか。これは
\[
0\div0 = □
\]
の□を求めることです。やはりさっきと同様に
\[
0 = □\times0
\]
を満たす□を探せばよいのです。この式は□がどんな数でも成り立ってしまいます。□はどんな数でもかまわないのです。この理屈から考えると$0\div0 = 1$でも$0\div0 = -37$でも何でもかまわないということです。「$0$で割ると\textbf{無数の答がでる}」のです。
さて困りました。$0$で割り算をするときは、いちいち割られる数が$0$かどうか調べておかないといけないわけです。しかも割られる数が$0$なら無数の答がでるし、$0$でなければ計算ができないという厄介なことになってしまいます。こんな不便なことはありません。それなら$0$で割り算をすることは「禁止」しておこうじゃないかとなったのです。なかなか罪作りなものです。
始めに「$0$で割ると答は無限大になる」という考えがありましたが、これは微妙な点で違っています。きっと
\[
\lim_{x\to0}\frac{3}{x} = \infty
\]
とごっちゃになってしまったのでしょう。$\displaystyle \lim_{x\to0}\frac{3}{x} = \infty$は、\textbf{便宜上}$\dfrac{3}{0}$と書いて、『分母が$0$だから答は無限大』とすることが多いのも混乱のもとになっています。
$\displaystyle \lim_{x\to0}\frac{3}{x}$をあえて日本語で表すと
\begin{equation}
xの値を限りなく0に近づけていったら\frac{3}{x}の値はどうなりますか \label{honto}
\end{equation}
です。
\begin{equation}
xに0を代入したら\frac{3}{x}の値はいくつですか \label{uso}
\end{equation}
とは違うことに注意しましょう。
(\ref{honto})では
\[
x=\frac{1}{10},\ \frac{1}{100},\ \frac{1}{1000},\ \frac{1}{10000},\ \dots
\]
とすれば
\[
\frac{3}{x} = 30,\ 300,\ 3000,\ 30000,\ \dots
\]
といくらでも大きくなります。このいくらでも大きい状態を表す記号が$\infty$なのです。しかし(\ref{uso})ではズバリ$\dfrac{3}{0}$の値を求めるのですが、前述したとおりこの値は求められません。
また、$\displaystyle \lim_{x\to1}\frac{x-1}{x^2-1}$は便宜上$x = 1$を代入すると$\dfrac{0}{0}$になりますが、こういう場合を一般に「不定形」と呼んでいます。前述した$\dfrac{0}{0}$が無数の値をとれることを考えればなかなかよい呼び方だと思います。でも$\displaystyle \lim_{x\to1}\frac{x-1}{x^2-1}$の値は不定ではありません。$x = 1$の付近では表に示すように$0.5$に近づいています。この場合は$\dfrac{0}{0} = 0.5$になります。
\begin{center}
\small
\begin{tabular}{l|l}
$x$ & \multicolumn{1}{c}{$\dfrac{x-1}{x^2-1}$} \\ \hline
$0.9$ & $0.5263157$ \\
$0.99$ & $0.5025125$ \\
$0.999$ & $0.5002501$ \\
$0.9999$ & $0.500025$ \\
$1$ & \multicolumn{1}{c}{---} \\
$1.0001$ & $0.499975$ \\
$1.001$ & $0.4997501$ \\
$1.01$ & $0.4975124$ \\
$1.1$ & $0.4761904$
\end{tabular}
\end{center}
実際は$\dfrac{0}{0}$と言っても様々な極限状態があるので、$\dfrac{0}{0}$が値をもつかどうかは厳密な計算を必要とします。いまの例では
\begin{eqnarray*}
\lim_{x\to1}\frac{x-1}{x^2-1} & = & \lim_{x\to1}\frac{x-1}{(x-1)(x+1)} \\
& = & \lim_{x\to1}\frac{1}{x+1} \\
& = & \frac{1}{2}
\end{eqnarray*}
と計算をすすめれば、$x \to 1$における極限値を求められます。
\end{document}