% かけ算は優先されて当然なんです
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\begin{document}
\section*{◆掛け算は優先されて当然なんです◆}
$3+4\times5$の計算をするときは、まず$4\times5$の計算を先にしてそれを$3$に加えます。もちろん答は$23$です。これは私たちの約束ごとですから、$3+4$から計算することは間違いです。どうしても$3+4$から計算したい場合は、$(3+4)\times5$のように$(~)$をつける約束になっています。
どうしてこのように掛け算を足し算より優先させて計算するルールがあるのでしょうか。私たちは普通、計算式を左から見ていきますから、左から順に計算すればよさそうなものです。そして、左からの順番を変えてでも先に計算したいところがあれば、そこに$(~)$をつければ済むような気がします。つまり、左から順に計算して
\begin{equation}
3+4\times5 = 60 \label{rule1}
\end{equation}
とするのが普通の計算方法で、何かの事情で掛け算を優先させたければ
\begin{equation}
3+(4\times5) = 23 \label{rule2}
\end{equation}
と書けばよいのです。これも計算記法上の約束として立派に通用するでしょう。そうすると、足し算(または引き算)よりも掛け算(または割り算)を優先させる必然性は特にないようです。にもかかわらず、掛け算を優先させているからには何か理由があるはずです。一体どんな理由で、掛け算が足し算より優先されるようになったのでしょうか。
これは理由というより、掛け算は優先されるのが当然なのです。『$(負)\times(負) = (正)$である単純でも奥が深い理由』にも書きましたが、記号``$\times$''は同じ数を繰り返し足すときに使われる記号で、この「繰り返しの足し算」を「掛け算」と呼んでいます。つまり掛け算には\textbf{ひとまとめ}の意味があるわけですから、$3+4\times5$の式は
\[
3+(4+4+4+4+4)
\]
であるわけです。$(~)$内の値をまとめるために``$\times$''の記号を使っているので、$4\times5$の答を先に出しておかなくてはいけません。
もし、計算式でのルールが純粋に左から順に行うようになっていたらどうでしょう。その場合$3+4\times5$の計算は(\ref{rule1})となるはずですが、記号``$\times$''の意味から(\ref{rule2})のように$(~)$を用いて計算順序を変えなくてはなりません。これでは計算式の中に掛け算が出てくるたびに$(~)$を使う必要があります。それではわずらわしいので、『基本的には左から計算をするが、掛け算の部分だけは$(~)$がなくても計算を優先させる』ことになっています。このために計算式の中で$(~)$を使う機会を減らすことができるのです。
この掛け算優先のルールを効果的に利用したのが文字式の表わし方です。私たちは普通
\[
a\times b + c\times d
\]
の式を``$\times$''を省略して
\[
ab + cd
\]
と書くことにしていますが、$ab$と$cd$がくっついていることで優先的に計算することがひと目でわかります。
余談になりますが
\[
2\frac{3}{4}\quad と\quad a\frac{b}{c}
\]
では意味が違います。この二つの式は、普通
\[
2+\frac{3}{4}\quad と\quad a\times\frac{b}{c}
\]
と解釈します。数だけの式と文字式では省略される記号が違うのです。
このように、私たちが何気なく使っている式にはそれなりの規則が盛り込まれています。そしてどの規則にも合理的な理由があるものです。
掛け算を優先させる理由から少しはなれてしまいますが、現在私たちが使っている「計算記法」以外にも計算記法はあるものです。それは「逆ポーランド記法\footnote{ポーランドの数学者の発案によるのでこの名がつきました。}」と呼ばれるもので、たとえば
\begin{equation}
(a+b)(c-d) \label{normal}
\end{equation}
は
\begin{equation}
ab+cd-\times \label{polish}
\end{equation}
と表わされます。この記法のルールは、
\begin{center}
$2$項間の演算子($+$, $-$, $\times$, $/$など)を$2$項を並べたあとに書く
\end{center}
というものです。そのため(\ref{polish})において、$ab+{}$は$a+b$のことであり、$cd-{}$は$c-d$のことです。そして$(a+b)$と$(c-d)$の$2$項のうしろに$\times$があることで(\ref{normal})の式になるのです。
逆ポーランド記法の利点は数式に$(~)$を使う必要がない点です。これは、式を左から順にながめていけば正しい結果を得られることを意味します。計算は頭からやるものという信念の持ち主には最適の計算方法じゃないかと思います。
\end{document}