% sinθ/θ→1の裏事情?

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\begin{document}

\section*{◆$\dfrac{\sin\theta}{\theta} \to 1$の裏事情?◆}

数学の勉強が進んでくると三角関数の極限が登場し、$\theta \to 0$のとき$\dfrac{\sin\theta}{\theta} \to 1$という関係にお目にかかります。この式が意味するところは、$\theta$がほとんど$0$に近い小さな値のとき、$\sin\theta$の値と角$\theta$の値はほぼ等しいというものです。要するに、ほぼ等しいことを比の値$1$に見直したわけです。蛇足になりますが、角$\theta$の単位は``度''ではく``ラジアン''です。

比の値なので$\dfrac{\theta}{\sin\theta}$を計算してもかまいません。とくにこの場合は、いずれにせよ比の値が$1$になるので、本当に$\dfrac{\sin\theta}{\theta}$でも$\dfrac{\theta}{\sin\theta}$でも変わりありません。ところが不思議なことに、どの教科書や参考書を見ても、必ず$\displaystyle \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta} = 1$だけが書かれていて、逆比に触れているのは滅多にないのです。

このことを不思議に思うのは、教科書に書かれている公式の類(たぐい)には、多少の式の違いでもきちんと載せていることが少なからずあるからです。具体的には、三角比を用いた三角形の面積の式
\[
S = \frac{1}{2}bc\sin A = \frac{1}{2}ca\sin B = \frac{1}{2}ab\sin C
\]
や、等比数列の和の式
\[
S_n = \frac{1-r^n}{1-r} = \frac{r^n-1}{r-1}
\]
などがそうです。

これらは、$2$つめ以降の式は本質的に同じなので、丁寧に記述する必要はないはずです。まあ、三角比を用いた三角形の面積の式は、辺と角の取り方で$3$通りの式があり得るのでまだよいとしても、等比数列の和の式は、$r$が$1$より大きいかどうかで使い分けることを示しているなら、親切の押し売りみたいなものです。そこまでするなら、
\[
\lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta} = \lim_{\theta\to0}\frac{\theta}{\sin\theta} = 1
\]
と記述することなど、屁でもないはずです。

実際、このことを証明するにあたって
\[
1 < \frac{\theta}{\sin\theta} < \frac{1}{\cos\theta}\qquad(*)
\]
という関係式を用い、$\theta \to 0$のとき$\cos\theta \to 1$であることから、件(くだん)の関係式が成り立つことを示すのですが、ご丁寧にもわざわざ(*)の逆比をとって
\[
1 > \frac{\sin\theta}{\theta} > \cos\theta\qquad(**)
\]
とし、その上で$\dfrac{\sin\theta}{\theta} \to 1$を導いているものが多いのです。せっかく、(*)と(**)の関係式を見せておきながら、結局、公式として(**)だけを採用しているのです。これは、ちょっとした謎です。

謎解きということではないのですが、そこには次のような事情があるものと思われます。

$\displaystyle \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta} = 1$は見た目が美しいだけでなく、大変重宝される関係式でもあります。三角関数の極限の計算においては、よく$\dfrac{\sin\theta}{\theta}$や$\dfrac{\theta}{\sin\theta}$が現れるので、計算上欠かせない式なのです。ふつうは、計算練習を先にするので気づかないも知れませんが、$\dfrac{\sin\theta}{\theta}$や$\dfrac{\theta}{\sin\theta}$は計算のために必要になったわけではないでしょう。ことのはじめは、おそらく様々な関数の極限を調べている中で、$y = \dfrac{\sin\theta}{\theta}$に出会ったのでしょう。

関数の極限を調べる場合、大きく分けて$2$通りの調べ方があります。$x \to \infty$の極限と$x \to a$($a$は定数)の極限です。$x \to \infty$を調べる価値があることに異論がなくても、$x \to a$の極限を調べる必要があるのかと思われるかもしれません。$x \to a$ではなく$x = a$を代入すれば関数の値が分かるからです。しかし、たとえば$y = \dfrac{x^2-2}{x-1}$のような関数では、分母が$0$になる$x = 1$は代入できません。そのために$x \to 1$の状態を調べるのです。$\dfrac{\sin\theta}{\theta}$はまさにこの場合にあたります。

さて、様々な関数といっても突然$y = x^{\sin x}$みたいな奇抜な関数を調べたりはしないでしょう。身近な$2$次関数や三角関数、対数関数から調べ始めるのが筋だと思います。そして、ひととおり基本的な関数の振る舞いが分かったところで、少し複雑な関数に目を向けるのではないでしょうか。その場合でも、おそらく人工的な関数でなく、身近な現象に関わりがありそうなものを取り上げるでしょう。

三角関数は身近な現象の代表的な関数です。$y = \sin\theta$は波の振動を表しています。これは、時間$\theta$のときの波の高さ$y$を求める関係と考えればよいでしょう。しかし、$y = \sin\theta$が波の様子を表すといっても、現実には$\theta \to \infty$の先まで同じ高さの波が続くことはありません。サインカーブは、あくまでも理想の状態を表すものだからです。

波は放っておけば減衰するので、$\theta \to \infty$へ向かうにしたがい波の高さは小さくなります。もし、これを簡単な式で表そうとするなら、現実の事象に合うかどうかは別にして$y = \dfrac{\sin\theta}{\theta}$を候補とするのではないかと考えられます。そうすれば、$\theta \to \infty$のとき$\dfrac{\sin\theta}{\theta} \to 0$です。何となく、現実感が漂ってきました。

しかし、分母に$\theta$があるために、$\theta = 0$のときの値を求めることはできなくなりました。$\theta = 0$がだめなら、$\theta \to 0$のときの値を知りたくなるのは人情というもの。そこで、$\displaystyle \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta}$を調べてみたところ、これがなんと$1$であったというのが真相ではないでしょうか。

でも、これだけの理由では、逆比を取り上げない理由として弱い気がします。なぜなら、三角関数の極限の計算には、$\dfrac{\theta}{\sin\theta}$という形はよく登場します。使い勝手を考えるなら、少々お節介と言われても等比数列の和の式同様、
\[
\lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta} = \lim_{\theta\to0}\frac{\theta}{\sin\theta} = 1
\]
を載せてもよいはずです。一体、何がそれを拒むのでしょうか。

私に思いつく理由は「気持ち悪い」というもので、これ以外に理にかなったものが思い浮かびません。

$\displaystyle \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta} = 1$が関数$y = \dfrac{\sin\theta}{\theta}$から得られた関係とすれば、大まかであっても$y = \dfrac{\sin\theta}{\theta}$のグラフを描いたことでしょう。そのグラフは
\makeatletter
\def\SinDivTheta(#1,#2){% tmtmath.styから抜粋して一部変更
\deg=#1
\@whilenum\deg<#2\do{%
%座標(lx, ly)の計算
\@lx=\deg\p@
\tobasedeg{360} \@ly=\getsinval
\dimendiv(\strip@pt\@ly, \deg) % sinθ/θの計算
\dimendiv(\strip@pt\dimen@, 3.14) % \deg(度)=π/180(ラジアン)に変換
\dimenmul(\strip@pt\dimen@, 180)
\@ly=\dimen@
%座標(rx, ry)の計算
\advance\deg1
\@rx=\deg\p@
\tobasedeg{360} \@ry=\getsinval
\dimendiv(\strip@pt\@ry, \deg) % sinθ/θの計算
\dimendiv(\strip@pt\dimen@, 3.14) % \deg(度)=π/180(ラジアン)に変換
\dimenmul(\strip@pt\dimen@, 180)
\@ry=\dimen@
%scale変換
\changescale
\drawline}
}\makeatother
\begin{drawpict}[.5cm](26, 6)(-1, -3)
\coordinate[r](-1, 25)(-3, 3)
\put(0, 2){\circle{.2}}
\SinDivTheta(2, 720)
\end{drawpict}
というものです。グラフは$y$軸について対象なので、$x > 0$の部分だけを描きました。波の減衰の様子がよく分かります。

では、$y = \dfrac{\theta}{\sin\theta}$のグラフはどうでしょうか。それは
\makeatletter
\def\ThetaDivSin(#1,#2){% tmtmath.styから抜粋して一部変更
\deg=#1
\@whilenum\deg<#2\do{%
%座標(lx, ly)の計算
\@lx=\deg\p@
\tobasedeg{360} \@ly=\getsinval
\dimendiv(\deg, \strip@pt\@ly) % θ/sinθの計算
\dimenmul(\strip@pt\dimen@, 1.57) % \deg(度)=π/180(ラジアン)に変換
\dimendiv(\strip@pt\dimen@, 900) % [ただし3.14/2, 180*5で10倍のスケールに調整]
\@ly=\dimen@
%座標(rx, ry)の計算
\advance\deg1
\@rx=\deg\p@
\tobasedeg{360} \@ry=\getsinval
\dimendiv(\deg, \strip@pt\@ry) % θ/sinθの計算
\dimenmul(\strip@pt\dimen@, 1.57) % \deg(度)=π/180(ラジアン)に変換
\dimendiv(\strip@pt\dimen@, 900) % [ただし3.14/2, 180*5で10倍のスケールに調整]
\@ry=\dimen@
%scale変換
\changescale
\drawline}
}\makeatother
\begin{drawpict}[.5cm](26, 16)(-1, -8)
\coordinate[r](-1, 25)(-8, 8)
\multiput(6, -8)(6, 0){4}{\dashbox{.1}(0, 16)}
\put(0, .2){\circle{.2}}
\ThetaDivSin(2, 175)
\ThetaDivSin(185, 351)
\ThetaDivSin(369, 526)
\ThetaDivSin(554, 702)
\end{drawpict}
のようになります(ただし、$y$軸は$10$倍のスケール、つまり目盛$1$を$10$と見る)。この場合もグラフは$y$軸について対象なので、$x > 0$の部分だけを描きました。たしかに、$\displaystyle \lim_{\theta\to0}\frac{\theta}{\sin\theta} = 1$ですが、グラフは気持ち悪いですよね。だから、$\displaystyle \lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}{\theta} = 1$しか公(おおやけ)にしないのではないか、というのが私が考える屁理屈です。

\end{document}