% ちょっと複雑なうるう年の規則

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\begin{document}

\section*{◆ちょっと複雑なうるう年の規則◆}

\subsection*{うるう年の規則}

うるう年のことはよく知っているでしょう。$4$年に$1$回の割合で一年の日数が$366$日になる年のことです。もう少し突っ込んで言えば、西暦年が$4$で割り切れる年がうるう年になります。

現在私たちが使っているグレゴリオ暦\footnote{ローマ教皇グレゴリウス$13$世が$1582$年に制定した暦。}では、うるう年に関する規則が厳密に決められています。それは
\begin{itemize}
\item[1*)] 西暦年が$4$の倍数の年はうるう年とする
\item[2*)] 1*\,の例外として、西暦年が$100$の倍数の年は平年とする
\item[3*)] 2*\,の例外として、西暦年が$400$の倍数の年はうるう年とする
\end{itemize}
というものです。すると西暦$1996$年は1*\,によりうるう年になります。また、西暦$2100$年は$4$の倍数ですが2*\,により平年です。そして西暦$2000$年は$100$の倍数にも関わらず、3*\,によりうるう年となるわけです。したがって西暦$2000$年は\textbf{当然の}うるう年ではなく、\textbf{例外中の例外で}うるう年になっていた年なのです。

このようにちょっと面倒な規則があるのは、もちろん地球の自転と公転の周期が微妙なずれを持っているからです。そこで簡単な計算を交えながら、その仕組みを探っていきましょう。

\subsection*{地球の自転と公転}

地球は自ら回転しながら、太陽を中心として回っています。正確には、太陽を楕円の一方の焦点として楕円軌道を回っているのですが、この楕円は円に大変近いので、ここでは地球は太陽を中心にした円周を回っていると考えておきます\footnote{図は、地球を北極方向から見ているので、地球は自転・公転ともに「反時計回り」に回っています。}。

\newcommand\SolarEarth{
\fill (0, 0) circle (0.3) node[below] {\small 太陽};
\draw (0, 0) circle (10);
\draw[thick] (0, -10) circle (1) node[below] {\textbf{\small 地球(もとの位置)}};
\draw[thick] (0, -10) -- (0, -9);
}
%
\vspace{10pt}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.2]
\begin{scope}[shift={(-15, 0)}]
\SolarEarth
\draw ({10*cos(-78)}, {10*sin(-78)}) circle (1) node[above right] {\small 地球($1$日後)};
\draw ({10*cos(-78)}, {10*sin(-78)}) -- ({9*cos(-78)}, {9*sin(-78)});
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(15, 0)}]
\SolarEarth
\draw ({10*cos(-93)}, {10*sin(-93)}) circle (1) node[above left] {\small 地球($365$日後)};
\draw ({10*cos(-93)}, {10*sin(-93)}) -- ({9*cos(-93)}, {9*sin(-93)});
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

地球が$1$回自転すると一日が過ぎます。それと同時に地球は右方向へ移動しています(左図\footnote{厳密には、$1$回の自転($360$\textdegree の回転)と一日は等しくありません。一日とは、図の地球に描き足した半径(経線)上の土地で太陽を正面に見てから、次に再び太陽を正面に見るまでの期間を指します。この間地球は少し右方向へ移動しているので、$361$\textdegree ほど回転しないと太陽を再び正面に見ることができません。したがって、一日($24$時間)とは$361$\textdegree の回転にかかる時間のことです。また図は、いずれも移動量を強調してあります。})。この$1$回の自転を$365$回繰り返すと、地球は一年前にいた場所に戻ってくるのです。しかし現実はここに若干のずれがあります。地球が$365$回の自転を終えたとき地球の位置は、一年前の位置よりわずかながら手前になるのです(右図)。そのずれは、地球があと約$1/4$日分の公転を必要とする距離です。

ところでいま、約$1/4$日手前で$365$日が経過すると書きましたが、もう少し詳しく言うと、$0.2422$日手前で一年が終了します。もし私たちが一年間が$365$日であることを守り通していけば、一年ごとに$0.2422$日ずつ手前へとずれてしまいます。すると$4$年目の終了は、次の図のように$0.2422\times4 = 0.9688$日手前です。

\vspace{10pt}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.2]
\SolarEarth
\draw ({10*cos(-102)}, {10*sin(-102)}) circle (1) node[above left] {\small 地球($4$年後)};
\draw ({10*cos(-102)}, {10*sin(-102)}) -- ({9*cos(-102)}, {9*sin(-102)});
\end{tikzpicture}
\end{center}

そこで、ずれが約$1$日分蓄積する$4$年後に、$1$日余分な日を入れて、$4$年前に地球がいた位置で一年が終了するようにしているのです。しかしながら$0.9688$日不足しているところに、``うるう日''を $1$日入れるわけですから、うるう年の一年が終わったとき暦は、地球の正確な位置より$1-0.9688 = 0.0312$日余分に数えてしまうことになります。$4$年で$0.0312$日の余分であれば大した誤差ではないものの、塵も積もれば何とやらで、これを 32 サイクル繰り返せば$0.0312\times32 = 0.9984$日です。つまり$4$年ごとにうるう年を設けていくと$32$サイクル目、すなわち$128$年後に暦は、約$1$日余分に数えてしまうのです。それならば$32$回目のうるう年に限り平年に戻せば、誤差は$1-0.9984 = 0.0016$日になります。$128$年でわずか$0.0016$日の誤差しか生まれないのです。この場合は$128$年のサイクルが$625$回繰り返されたとき誤差が$1$日になります。$128$年のサイクルが$625$回と言えば$8$万年にもなるのですから、なんと精確でしょうか。もし私たちがこの精確さを重視していたら、きっとうるう年の規則は
\begin{itemize}
\item[1*)] 西暦年が$4$の倍数の年はうるう年とする
\item[2*)] 1*\,の例外として、西暦年が$128$の倍数の年は平年とする
\end{itemize}
としたことでしょう。

\subsection*{忘れにくい規則を求めて}

もし私たちが$8$進数や$16$進数を採用していたなら、$128$ $(= 8\times16)$は大変切りのよい数ということで、うるう年の例外の西暦年は$128$の倍数の年にしたに違いありません。しかし、日頃$10$進数を使う私たちには、残念ながら$128$の倍数が直感でわかりません。このことが、うるう年の規則を現在のようにしたのでしょう。

話を少し前に戻しましょう。

$4$年に$1$回うるう年を設けることで、地球の公転と暦の一年が大体一致するものの、それでもまだ暦は$0.0312$日の余分を生じるところまで話しました。私たちは$10$進数を使っているので、この余分の蓄積を$100$サイクル、すなわち$400$年の単位で考えます。すると$400$年後に暦は、地球の正しい位置より$0.312\times100 = 3.12$日余分に数えてしまいますから、$400$年のうち$3$回はうるう年を設定しなければよいのです。そうすれば$400$年後の誤差が$3.12-3 = 0.12$日で済みます。$400$年で$0.12$日のずれは$3200$年で$0.96$日のずれと同じです。$3$千年に$1$日の誤差であれば実用上は十分でしょう。

では$400$年のうち$3$回を例外的にうるう年にしないとすれば、いつをその例外の年にすればよいのでしょう。覚えやすい規則がいいですね。$400$年のうちには$100$で割り切れる年が$4$回巡ってきます。その内訳は$400$で割り切れる年が$1$回と、$400$で割り切れない年が$3$回です。それなら$400$で割り切れない年を例外的に平年にするとよいでしょう。$4$と$100$と$400$。$128$年ごとの例外より覚えやすいはずです。

\end{document}