% フィボナッチ数列の奇妙な一般式

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\section*{◆フィボナッチ数列の奇妙な一般式◆}

フィボナッチ数列は単純な規則ながら奥が深いこともあって、案外取り上げられることが多いものです。フィボナッチ数列は一般に$1$, $1$から始まる数列で、次の項は直前$2$項の和で求めます。すると数列は
\[
1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ \dots
\]
のようになります。数列というのは、$n$番目の\textbf{項}を$a_n$で表す習慣があるので、上の例では$10$番目の項は$a_{10} = 55$と表せます。\textbf{添え数}にあたる${}_n$を小さく書いたら見づらいと思えば、$a(10) = 55$のように書いてもよいでしょう。

もう少し単純な数列、たとえば正の奇数列$1$, $3$, $5$, $7$, $9$, $11$, $\dots$の場合は$a_6 = 11$なのですが、この場合は$a_n = 2n-1$という一般式に$n = 6$を代入して、$a_6 = 2\times6-1 =11$を求めることができます。この例のように$n = 6$を代入する場合、文字の大きさに関わらず$n$には$6$が与えられます。

$a_n = 2n-1$が$1$から始まる奇数列を生成するとしたら、フィボナッチ数列を生成することができる一般式は何でしょうか。つまり、$n = 10$を代入すると$55$が得られるような式のことです。

先に答を言っておきます。それは
\[
a_n = \frac{1}{\sqrt{5}}\left\{\left(\frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\frac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n\right\}
\]
です。式の中に$\sqrt{5}$が入っているので、本当にこの式からフィボナッチ数列が正しく求められるか疑問に思うかもしれないですね。でも、たとえば$n = 3$のときは
\begin{eqnarray*}
a_3 & = & \frac{1}{\sqrt{5}}\left\{\left(\frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^3-\left(\frac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^3\right\} \\
& = & \frac{1}{\sqrt{5}}\left\{\frac{1+3\sqrt{5}+15+5\sqrt{5}}{8}-\frac{1-3\sqrt{5}+15-5\sqrt{5}}{8}\right\} \\
& = & \frac{1}{\sqrt{5}}\cdot\frac{16\sqrt{5}}{8} = 2
\end{eqnarray*}
ですから間違いないようです。でも、さすがに$n = 10$を検証するのは骨が折れるでしょう。$n = 10$でも式が正しいことを感じるためには、$\sqrt{5} \approx 2.236$を用いて電卓などで計算するのが簡単です。すると
\[
a_{10} = \frac{1}{2.236}\left\{\left(\frac{3.236}{2}\right)^{10}-\left(\frac{1.236}{2}\right)^{10}\right\} = 54.99012
\]
となって、ほぼ$55$であることが分かるので、式はどうやら正確な値を生成しているように感じます。

それにしても奇妙な式だと思いませんか? 一般式に$\sqrt{5}$が含まれているのに、どんな$n$の値を代入しようとも$a_n$に$\sqrt{5}$が含まれることはありません。それは式を展開すると$+\sqrt{5}$と$-\sqrt{5}$の項が打ち消し合うから当然だよ、と言ってしまえばそれでおしまいなんですけどね。

それなら、一体どのようにしてこの一般式が得られたのでしょうか。フィボナッチ数列を見ているだけでは絶対$\sqrt{5}$が絡んでいるなんて想像できないはずですから。それを知るために少し手が込んだ計算をしますが、それほど難しい理論を展開するわけではないので、ここで求めてみましょう。

まず、フィボナッチ数列は
\begin{equation}
a_{n+2} = a_{n+1}+a_n,\quad a_1 = 1,\quad a_2 = 1\quad(n = 1,\ 2,\ 3,\ \dots) \label{fibRec}
\end{equation}
という関係式で特徴づけられることを確認しておきます。$n = 1$のときは関係式が$a_3 = a_2+a_1$になることから、$a_3 = 1 + 1 = 2$のように第$3$項が求められます。次に$a_4 = a_3+a_2$ですから、いま求めた$a_3$を使えば$a_4 = 3$も分かります。このように、関係式から次々と項の値が計算できる式を\textbf{漸化式(ぜんかしき)}と呼びます。実際$a_{n+2}$の直前$2$項は$a_{n+1}$と$a_n$ですから、間違いなくこの式がフィボナッチ数列の定義---直前$2$項の和が次の項である---を表しています。

さて、数列の一般式を求めるにあたって大事なことがあります。それは、単純な関係でなければ一般式を求めるのは難しい、ということです。たとえば
\[
a_{n+1} = 2a_n,\quad a_1 = 2
\]
という漸化式は、\textbf{初項}が$2$で、次の項は前の項の$2$倍であることが分かります。そういう数列の一般式は$a_n = 2^n$です。このことは漸化式に$n = 1$, $2$, $3$, $\dots$を代入していけば、$a_1 = 2$, $a_2 = 2a_1 = 4$, $a_3 = 2a_2 = 8$, $\dots$となることから確認できます。このように、次の項が直前の項の定数倍で決まる数列は{\bf 等比数列}と呼ばれ、数列の中では基本的なものです。

フィボナッチ数列だって、次の項が単に足し算で求められているだけから基本的な数列のように思えますが、実はそう単純ではありません。数列は意外にも等比数列の方が分かりやすかったりするのです。そこで妄想をしてみましょう。もし(\ref{fibRec})が
\[
a_{n+2}-a_{n+1} = \alpha(a_{n+1}-a_n)
\]
のような形にできれば、何となく等比数列みたいになります。しかしこれでは、どのように$\alpha$を選んでも(\ref{fibRec})にはできないのです。なぜなら、この式を展開して整理した式
\[
a_{n+2} = (\alpha+1)a_{n+1}-\alpha a_n
\]
を見れば分かります。(\ref{fibRec})と同じ式であるためには$\alpha+1 = 1$、$-\alpha = 1$でなければなりませんが、そのような$\alpha$はないのですから。

仕方がないので、ちょっと複雑になってしまいますが
\begin{equation}
a_{n+2}-\beta a_{n+1} = \alpha(a_{n+1}-\beta a_n) \label{fibRatio}
\end{equation}
のような形にできれば良しとします。これでも何となく等比数列の雰囲気が漂っていますからね。この場合は展開して整理すると
\[
a_{n+2} = (\alpha+\beta)a_{n+1}-\alpha\beta a_n
\]
になるので、\fbox{$\alpha+\beta = 1$}、$\alpha\beta = -1$のときに(\ref{fibRec})になります。この関係を満たす$\alpha$、$\beta$ならあるはずなので、(\ref{fibRatio})を土台に考えを進めることにします。

ここで(\ref{fibRatio})について、$n = 1$, $2$, $3$, $\dots$を考えます。すると
\begin{eqnarray*}
\underline{a_3-\beta a_2} & = & \alpha(a_2-\beta a_1) \\
a_4-\beta a_3 & = & \alpha(\underline{a_3-\beta a_2}) \\
a_5-\beta a_4 & = & \alpha(a_4-\beta a_3) \\
& \vdots & \\
a_{n+1}-\beta a_n & = & \alpha(a_n-\beta a_{n-1})
\end{eqnarray*}
のような系列が出来上がります。最後の項が$a_{n+2}$でなく$a_{n+1}$で止めているのは、このあとの計算の都合で、それ以上の深い意味はありません。ここで$1$行目と$2$行目を見ると下線部は同じ式ですから、$1$行目の右辺が$2$行目の右辺に代入できて、系列は
\begin{eqnarray*}
\underline{a_3-\beta a_2} & = & \alpha(a_2-\beta a_1) \\
a_4-\beta a_3 & = & \alpha\cdot\underline{\alpha(a_2-\beta a_1)} \\
a_5-\beta a_4 & = & \alpha(a_4-\beta a_3) \\
& \vdots & \\
a_{n+1}-\beta a_n & = & \alpha(a_n-\beta a_{n-1})
\end{eqnarray*}
のようになるはずです。そして同じことが$2$行目と$3$行目に当てはまり、系列は
\begin{eqnarray*}
a_3-\beta a_2 & = & \alpha(a_2-\beta a_1) \\
\underline{a_4-\beta a_3} & = & \alpha^2(a_2-\beta a_1) \\
a_5-\beta a_4 & = & \alpha\cdot\underline{\alpha^2(a_2-\beta a_1)} \\
& \vdots & \\
a_{n+1}-\beta a_n & = & \alpha(a_n-\beta a_{n-1})
\end{eqnarray*}
のようになるはずです。これは延々繰り返すことができて、系列のいちばん下に達したときは
\[
a_{n+1}-\beta a_n = \alpha^{n-1}(a_2-\beta a_1)\quad(※)
\]
となるでしょう。$\alpha$の指数が$\alpha^{n-1}$であることは、$1$行目から順に代入する様子を見ていれば、左辺の$\beta a_n$の添え数${}_n$より$1$小さいことから分かると思います。

そして(※)において$a_1 = 1$、$a_2 = 1$であることと、\fbox{$\alpha+\beta = 1$}であったことから$1-\beta = \alpha$を使えば
\begin{equation}
a_{n+1}-\beta a_n = \alpha^{n-1}(a_2-\beta a_1) = \alpha^{n-1}(1-\beta) = \alpha^n \label{fibRelA}
\end{equation}
になるのです。

ところで、いま$a_{n+2}-\beta a_{n+1} = \alpha(a_{n+1}-\beta a_n)$を土台に始めたのですが、$\alpha+\beta = 1$、$\alpha\beta = -1$という関係は$\alpha$と$\beta$の立場を交換しても同じことです。このことは$a_{n+2}-\alpha a_{n+1} = \beta(a_{n+1}-\alpha a_n)$を土台に始めても何ら変わることがないことを意味し、そのことから(\ref{fibRelA})までの手順と同様にして
\[
a_{n+1}-\alpha a_n = \beta^n
\]
が得られることを意味します。この結果、フィボナッチ数列を表す漸化式から
\[\left\{
\begin{array}{rcl}
a_{n+1}-\beta a_n & = & \alpha^n \\
a_{n+1}-\alpha a_n & = & \beta^n
\end{array}
\right.\]
の$2$式が求められたわけです。ここで上の式から下の式を引けば$a_{n+1}$が消去されて、$a_n$は
\begin{equation}
(\alpha-\beta)a_n = \alpha^n-\beta^n\quad より\quad a_n = \frac{1}{\alpha-\beta}(\alpha^n-\beta^n) \label{fibTerm}
\end{equation}
と求めることができ、$a_n$の一般式が登場する運びとなりました。

さあ、あと一歩です。$\alpha$と$\beta$は$\alpha+\beta = 1$、$\alpha\beta = -1$だったので、{\bf 解と係数の関係}を知っていれば$\alpha$、$\beta$が
\[
x^2-x-1 = 0
\]
の解であることは明らかでしょう。$2$次方程式の解の公式から$x$の解、すなわち$\alpha$、$\beta$の値が
\[
\alpha = \frac{1+\sqrt{5}}{2}、\quad \beta = \frac{1-\sqrt{5}}{2}
\]
であることが判明しました。$\alpha$を正の値にしたのは(\ref{fibTerm})において$\alpha-\beta$を正の値にするためです。これより$\alpha-\beta = \sqrt{5}$ですから、(\ref{fibTerm})が
\[
a_n = \frac{1}{\sqrt{5}}\left\{\left(\frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\frac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n\right\}
\]
であることが分かるのです。

\end{document}