% 正体を隠した分数の割り算

\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage{amsmath, amssymb}
\usepackage{tikz}

\begin{document}

\section*{◆正体を隠した分数の割り算◆}

『得体のしれない分数の割り算』では妙な理屈をこねて説明したものの、十分な納得感に乏しかったかもしれません。そんなにややこしい話なら、分数の割り算は逆数を掛ければよい、と覚えて使えれば十分だと思うでしょう。

分数の足し算は分子どうし・分母どうしを足しては\textbf{いけない}のに、分数の掛け算は分子どうし・分母どうしを掛けてよい。で、分数の割り算は分子どうし・分母どうし割るのではなく、逆数にして掛けなければ\textbf{いけない}。まったく算数・数学の規則は窮屈だと感じていることでしょう。でも、本当は分数の割り算は分子どうし・分母どうし割って\textbf{よい}のです。

理由は、掛け算の式を割り算の式に書き換えることができるからです。具体的には、次の$2$例を見れば分かるでしょう。掛け算の式$a\times b = c$は、割り算の式$a = c\div b$に書き換えることができます。
\[
\begin{array}{rcrcrcr}
2\times 4 & = & 8 & \quad\Rightarrow\quad & 2 & = & 8\div 4 \\
3\times 5 & = & 15 & \quad\Rightarrow\quad & 3 & = & 15\div 5
\end{array}
\]

等式の式変形で\textbf{移項}という操作を学んでいる人は、等号をまたいで項を移動するときに``$+$'', ``$-$''の符号が反転するように、ここでは等式をまたいで``$\times△$''が``$\div△$''になったように見えているかもしれません。

その上で、次の分数の掛け算の例を見て下さい。掛け算の式は割り算の式に書き換えることができるのでしたね。
\[
\begin{array}{rcrcrcr}
\dfrac{2}{3}\times \dfrac{4}{5} & = & \dfrac{8}{15} & \quad\Rightarrow\quad & \dfrac{2}{3} & = & \dfrac{8}{15}\div \dfrac{4}{5}
\end{array}
\]

ここでも、$a\times b = c$を$a = c\div b$に書き換えているだけです。さっきの$2$式と見比べて何か気づきませんか? 間に分数の線が引かれただけ、ということに。つまり
\[
\begin{array}{rcrcrcr}
\dfrac{2\times4}{3\times5} & = & \dfrac{8}{15} & \quad\Rightarrow\quad & \dfrac{2}{3} & = & \dfrac{8\div4}{15\div5}
\end{array}
\]
という計算が成立しています。$\dfrac{8}{15}\div \dfrac{4}{5} = \dfrac{8\div4}{15\div5}$なのです。分数の割り算は分数の掛け算同様、分子どうし・分母どうしを割ってよいのです。したがって
\[
\frac{8}{15}\div \frac{4}{5} = \frac{8}{15}\times \frac{5}{4}\quad としないで、\quad \frac{8}{15}\div \frac{4}{5} = \frac{8\div4}{15\div5} = \frac{2}{3}\quad でよい
\]
ことになります。

では、なぜ逆数にすることがまかり通っているのでしょうか。それは、\textbf{割り切れないことがある}からです。たとえば、
\[
\frac{8}{15}\div \frac{3}{5} = \frac{8\div3}{15\div5} = \frac{2.666\dotsb}{3}
\]
のようなことが起こります。だから実際には
\[
\frac{8}{15}\div \frac{3}{5} = \frac{8}{15}\times \frac{5}{3} = \frac{8}{9}
\]
のように計算することになるのですが、実は
\[
\frac{2.666\dotsb}{3} = 0.8888\dotsb、\qquad \frac{8}{9} = 0.8888\dotsb
\]
ですから、分子どうし・分母どうしを割り算したからといって、間違った答になるわけではないのです。単に\textbf{変な分数}になってしまうだけのことです。

そうは言っても、分数の分子や分母に無限小数を書くのは気が引けます。そのために、\textbf{絶対そのようなことが起きない}ように逆数を掛けることにしているのです。そのせいで、分数の割り算の素顔が見えなくなって、逆数という厚化粧が目立ってしまったわけです。そしていつの日か、『分数の割り算は何で逆数にして掛けるんだっけ?』という疑問が湧いてくるんですね。それは、計算をきれいに行うためなんですよ。

でも、割り切れないときは小数に直さず分数のままにすれば、分子・分母に同じ数を掛けて多重になった分数を解消できます。要するに
\[
\frac{8}{15}\div \frac{3}{5} = \frac{8\div3}{15\div5} = \frac{8/3}{3} \quad\to(分子・分母に3を掛けて)\to\quad \frac{8}{9}
\]
とすることで正しい答になるのですから、結局、分数の割り算は分子どうし・分母どうしの割り算をしても何ら問題ないのです。

そもそも分数の掛け算において、分子どうし・分母どうしの掛け算が許されるのは
\vspace{10pt}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=3]
\begin{scope}[shift={(-1, 0)}]
\draw[dashed] (0, 0) rectangle (1, 1);
\foreach \x in {0, 1} \draw (\x/3, 0) rectangle ({(\x+1)/3}, 1);
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(1, 0)}]
\draw[dashed] (0, 0) rectangle (1, 1);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3} \draw (0, \y/5) rectangle (1, {(\y+1)/5});
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}
のように、基準$1$のものを異なる分け方にできることが根拠となっています。その上で$\dfrac{2}{3}\times \dfrac{4}{5}$の計算は『$\dfrac{2}{3}$の大きさのものを、$\dfrac{4}{5}$個分集める』こと、すなわち、『$\dfrac{2}{3}$のものを、5等分にちょん切って4個分を集める』ことになるのですから
\vspace{10pt}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=3]
\foreach \x in {0, 1, 2, 3} \draw[dashed] (\x/3, 0) -- (\x/3, 1);
\foreach \y in {0, 1, ..., 5} \draw[dashed] (0, \y/5) -- (1, \y/5);
\foreach \x in {0, 1, 2} \draw (\x/3, 0) -- (\x/3, 4/5);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3 ,4} \draw (0, \y/5) -- (2/3, \y/5);
\end{tikzpicture}
\end{center}
のように、(基準$1$に対して)$\dfrac{1}{15}$のものを$8$個集めたものになり、その結果$\dfrac{8}{15}$となるのです。図からわかるように、$\dfrac{1}{15}$は$3\times5$等分の$1$個であり、$8$は$2\times4$個集めたものですから、分子どうし・分母どうしが掛けられています。

このとき注意すべきことは、分子の数と分母の数の役割の違いです。先に分母の数から説明しましょう。分母の数は縦割り・横割りを与える数ですが、これらを掛けることで縦・横共通の目盛りを設定することになるのです。たとえば、$\dfrac{2}{3}$は分母に$5$を掛けることで$2$が、共通の目盛り$15$に対する量を表し、$\dfrac{4}{5}$は同様に分母に$3$を掛けることで$4$が、共通の目盛り$15$に対する量を表します。その結果、分子の$2\times4$も共通の目盛り$15$に対する量を表すのです。

ところで割り算には、「分け算」と「ハメ算」の区別があることを知っているでしょうか。分け算とハメ算の言葉は私が勝手に付けたもので、正式には堅苦しい言い方がありますが割愛します。たとえば一口に$14\div3 = 4\dfrac{2}{3}$と言っても、何について計算しているかで求めるものが異なります。$14$個のお菓子を$3$人で分ける場合は分け算で、その結果、(一人あたり)$4$個ずつ分けることができて$\dfrac{2}{3}$が余ります。蛇足ながら$\dfrac{2}{3}$とは、$\dfrac{2}{3}$(個)\textbf{ではなく}、$3$人あたり$2$個を意味します。一方、$14$の大きさのところに$3$の大きさのものを詰める場合はハメ算で、その結果、($3$の大きさのものを)$4$個詰めることができて$\dfrac{2}{3}$が余ります。この$\dfrac{2}{3}$は、$3$の大きさのものの$\dfrac{2}{3}$の量、すなわち$2$の大きさです。

一般に、分け算は等分する場合に行う計算なので、割る数は自然数が基本です。一方で、ハメ算は任意の大きさのものを詰める場合に行う計算なので、割る数が分数になることは十分あり得ます。だから、$\dfrac{8}{15}\div \dfrac{4}{5}$の計算をしているなら、それはハメ算なのです。すなわち、$\dfrac{8}{15}\div \dfrac{4}{5}$は
\vspace{10pt}
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=3]
\begin{scope}[shift={(-1, 0)}];
\draw[dashed] (0, 0) rectangle (1, 1);
\foreach \x in {0, 1, 2} \draw (\x/3, 0) -- (\x/3, 4/5);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3 ,4} \draw (0, \y/5) -- (2/3, \y/5);
\draw (1, 0.5) node[right] {\quad に};
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(1, 0)}]
\draw[dashed] (0, 0) rectangle (1, 1);
\foreach \y in {0, 1, 2, 3} \draw (0, \y/5) rectangle (1, {(\y+1)/5});
\draw (1, 0.5) node[right] {\quad を};
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}
いくつ詰められるかを求めるものです。

しかし、その計算は図で説明がつくようなものではありません。$\dfrac{8}{15}\div \dfrac{4}{5}$は、共通の目盛り$15$が$5$ともう一つの何($x$)から得られ、$15$に対する$8$の量がもう一つの何($x$)に対する値から得られたかを求める計算です。共通の目盛り$15$は、$5\times x$から得られたのですから$x = 15\div5 = 3$です。また、$15$に対する$8$の量は、$4\times x$から得られのですから$x = 8\div4 = 2$です。これが$\dfrac{8}{15}\div \dfrac{4}{5} = \dfrac{8\div4}{15\div5} = \dfrac{2}{3}$ということなのです。

\begin{center}
*\qquad *\qquad *
\end{center}

もし、数学的な操作をいくつか認めてもらえるなら、分数で割ることが逆数を掛けることに等しいことを可視化しやすいでしょう。数学的な操作とは
\begin{enumerate}
\item 等式の両辺に、同じ数を掛ける・割るしてよい
\item[] (例)$\dfrac{8}{15}\div\dfrac{3}{5} = □$ \quad $\to$ \quad $\dfrac{8}{15}\div\dfrac{3}{5}\times\dfrac{3}{5} = □\times\dfrac{3}{5}$
\item 分数を掛ける表記は、分子の掛け算と分母の割り算を複合した表記である
\item[] (例)$(何がし)\times\dfrac{3}{5}$ \quad $\leftrightarrow$ \quad $(何がし)\times3\div5$ \quad または \quad $(何がし)\div5\times3$
\item 乗除式中に同じ数の掛け算と割り算があれば、それらの計算はなくても同じである
\item[] (例)$(何がし)\div\dfrac{3}{5}\times(それがし)\times\dfrac{3}{5}$ \quad $\to$ \quad $(何がし)\times(それがし)$
\end{enumerate}
を指します。これらを認めてもらえば、$\dfrac{8}{15}\div\dfrac{3}{5} = □$の□を特定することを、目で追うことができます。
\[
\begin{array}{rcll}
\dfrac{8}{15}\div\dfrac{3}{5} & = & □\\[10pt]
\dfrac{8}{15}\div\dfrac{3}{5}\times\dfrac{3}{5} & = & □\times\dfrac{3}{5} &(1.より)\\[10pt]
\dfrac{8}{15} & = & □\times3\div5 &(3.および2.より)\\[10pt]
\dfrac{8}{15}\div3\times5 & = & □\times3\div5\div3\times5 &(1.より)\\[10pt]
\dfrac{8}{15}\times\dfrac{5}{3} & = & □ &(2.および3.より)
\end{array}
\]

最初の式と最後の式は同値であり、左辺はともに□の値を求める計算ですから、$\dfrac{8}{15}\div\dfrac{3}{5} = \dfrac{8}{15}\times\dfrac{5}{3}$が分かります\footnote{技術的な話として『Topics Of Mathematics \verb|>>| 分数の割り算(ぶんすうのわりざん)』も参照するとよいでしょう。}。

\end{document}