% 得体のしれない分数の割り算
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\begin{document}
\section*{◆得体のしれない分数の割り算◆}
分数の計算で割り算がでてくると、だれでも逆数を掛けて答をだします。たとえば
\begin{eqnarray*}
\frac{5}{12}\div\frac{25}{4} &=& \frac{5}{12}\times\frac{4}{25} \\
&=& \frac{1}{15}
\end{eqnarray*}
のようにです。なぜそうするのですかと言われれば、「そうすると正しい答がでるからです」と答えざるをえません。本当にその理屈をわかって使っている人がどれだけいるでしょうか。白状すると私もそんなことを気にせずに使っていた一人です。
考えてみれば分数というのは不思議な数です。$\displaystyle \frac{1}{4}$という分数ひとつを例にとっても、りんごを$\displaystyle \frac{1}{4}$にするというのと自動車を$\displaystyle \frac{1}{4}$にするというのではまったく印象が違います。しかもりんごを$\displaystyle \frac{1}{4}$にする場合も、$1$個のりんごを$4$等分するのか、箱いっぱいのりんごを$4$等分するのかさえわかりません。自動車の$\displaystyle \frac{1}{4}$にいたっては絶望的です。$3$という数がりんごや自動車に与える印象とは明らかに異なっています。
$1$, $2$, $3$, \ldots のような自然数は使われ方がおおよそ限定されていますが、分数はさっきのりんごの例のように漠然とした使われ方をします。私たちは小学生のころから何気なく分数の計算をしてきましたが、実際はこの例が示すようにかなり抽象的な考えにもとづいているのです。
それではこれから、分数の計算の理屈を解明してみましょう。
たとえば$\displaystyle \frac{5}{12}$は何を意味しているのでしょうか。これはある\.も\-\.の考えたとき、それを「$12$等分して、そのうちの$5$個分」という意味です。ここである\.も\-\.のとは、$1$個のりんごでも箱いっぱいのりんごでもかまわないのですが、これからの話のために簡単にちょん切れるひとつの個体とでも考えておきましょう。すると$\displaystyle \frac{5}{12}$は「$\displaystyle \frac{1}{12}$にちょん切ったものが$5$個集まっている」ということです。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=.4cm
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\end{center}
それでは、ここから分数の計算を始めましょう。まず$\displaystyle \frac{5}{12}\times10$を考えます。これは、$\displaystyle \frac{5}{12}$のものを$10$(個)集めること、すなわち$\displaystyle \frac{1}{12}$が$5$(個)集まったかたまりが$10$グループあるということで、結局$\displaystyle \frac{1}{12}$のものが $50$(個)集まったことに等しいのです。ところで$\displaystyle \frac{1}{12}$のものが$12$(個)集まれば、それでもとの個体になります。だから、$\displaystyle \frac{1}{12}$のものが$50$(個)集まれば、もとどおりの個体が$4$つできて、$\displaystyle \frac{1}{12}$のものが$2$(個)余ります。以上で
\begin{eqnarray*}
\frac{5}{12} \times10 &=& \left(\frac{1}{12}\times5\right)\times10 \\
&=& \frac{1}{12}\times50 \\
&=& \frac{12}{12}\times4+\frac{2}{12} \\
&=& 4\frac{2}{12}
\end{eqnarray*}
の計算をしたことになります。
では$\displaystyle 10\times\frac{5}{12}$はどう解釈すればよいでしょうか。$10$に$\displaystyle \frac{5}{12}$を掛けることは、$10$を$\displaystyle \frac{5}{12}$回足しなさいというのと同じです。これは妙な表現ですね。ものを$2$回足しなさいとか$3$回足しなさいというのであれば、そのものを$2$つ持ってきたり$3$つ持ってくればよいのです。ところが$\displaystyle \frac{5}{12}$です。つまりまるごと持ってくるわけにはいかないのです。要するに、まず$12$等分してからそのうちの$5$(個)を持ってきなさいということです。すると$\displaystyle 10\times\frac{5}{12}$は
\begin{eqnarray*}
10\times\frac{5}{12} &=& \frac{10}{12}\times5 \\
&=& \left(\frac{1}{12}\times10\right)\times5 \\
&=& \vdots \\
&=& 4\frac{2}{12}
\end{eqnarray*}
となってさっきと同じ結果になりました。分数の掛け算でも交換法則は成立しています。
続いて、分数の割り算について考えましょう。始めの$\displaystyle \frac{5}{12}\div\frac{25}{4}$を例にとります。
その前に「$0$で割ることは罪深い」で話したように、割り算は実は掛け算をしていたことを思い出してください。$10\div2$の計算では、$10\div2$の答を□として
\[
10\div2 = □
\]
と書きました。そしてこの□を求めるために私たちは
\[
10 = □\times2
\]
を満たす□を探したのです。「ご・に・じゅう」だから
\[
□ = 5
\]
ということがわかりました。
$\displaystyle \frac{5}{12}\div\frac{25}{4}$も同様に考えます。$\displaystyle \frac{5}{12}\div\frac{25}{4}$の答を□として
\begin{equation}
\frac{5}{12}\div\frac{25}{4} = □ \label{warizan}
\end{equation}
とします。この答を求めるためには
\[
\frac{5}{12} = □ \times\frac{25}{4}
\]
を満たす□を探さなくてはなりません。そのためにここから少しまわりくどいことをします。
まず$\displaystyle □\times\frac{25}{4}$ですが、これは今までの話から$\displaystyle \frac{□}{4}$が$25$(個)集まったものです。そこで
\[
\frac{□}{4}\ を\ 25(個)集めて\ \frac{5}{12}\ になる
\]
のであれば
\[
\frac{□}{4}\ は\ \frac{5}{12}\ を\ 25\ 等分したもの
\]
であるはずです。よって
\[
\frac{□}{4} = \frac{5}{12}\times\frac{1}{25}
\]
です。$\displaystyle \frac{1}{25}$を掛けることは$25$等分することと同じだからです。
次に$\displaystyle \frac{□}{4}$とは、□を$4$等分したものです。
\[
□\ を\ 4\ 等分して\ \left(\frac{5}{12}\times\frac{1}{25}\right)\ になる
\]
のであれば
\[
□\ は\ \left(\frac{5}{12}\times\frac{1}{25}\right)\ を\ 4(個)集めたもの
\]
であるはずです。よって
\[
□= \left(\frac{5}{12}\times\frac{1}{25}\right)\times4
\]
です。これで
\begin{equation}
□ = \frac{5}{12}\times\frac{4}{25} \label{kakezan}
\end{equation}
となりました。(\ref{warizan})と(\ref{kakezan})は同じ□を表す式ですから
\[
\frac{5}{12}\div\frac{25}{4} = \frac{5}{12}\times\frac{4}{25}
\]
は正しい式です。見事に$\displaystyle \frac{25}{4}$の割り算が$\displaystyle \frac{4}{25}$の掛け算になっています。これをもって分数の割り算では、逆数にして掛け算に直しても同じ結果を得られるのです。
ところで普段私たちは、分数の計算では理屈を考えて計算することはありません。今のように分数で割るときや、通分するとき、約分するときなどでは、無意識のうちに決められた手続きで計算をしています。しかしこれらの計算の背景には、公倍数・公約数の知識が必要になっています。しかも分数は「数」と名がついていますが、実際は「比」を表わす概念です。たったひとつの分数にもいろいろな考えが詰め込まれているので、分数は何か得体のしれないものに映ります。現在は小学校で分数を学習しますが、小学生には少々荷が重いかもしれません。
\end{document}