% 連分数は 2 枚の鏡が作る像

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\begin{document}

\section*{◆連分数は$2$枚の鏡が作る像◆}

$2$次方程式
\begin{equation}
x^2 = x+1 \label{x^2Eqx+1}
\end{equation}
を考えます。(\ref{x^2Eqx+1})に$x = 0$を代入しても等式を満たさないので、$x = 0$は(\ref{x^2Eqx+1})の解ではありません。したがって両辺を$x$で割って
\begin{equation}
x = 1+\frac{1}{x} \label{xEq1+1/x}
\end{equation}
とすることができます。(\ref{xEq1+1/x})をただの等式と見ればそれまでの話ですが、これを、左辺の$x$を求めるために、わざわざ右辺に$x$を代入している、と見れば別の世界が開けてくるのです。

ややこしい話ですけれど、($x =$) $1 + \dfrac{1}{x}$を(\ref{xEq1+1/x})の右辺の分母$x$に代入してみましょう。
\[
x = 1 + \cfrac{1}{1
+ \frac{1}{x}
}
\]
となるはずです。右辺にはまだ$x$が存在するので、再び$x = 1 + \dfrac{1}{x}$を右辺にある分母$x$に代入すると
\[
x = 1 + \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \frac{1}{x}
}}
\]
となります。右辺にはまだ$x$が存在するので$\dots$。

これではきりがありませんね。なにしろこの操作は無限に続けることができるからです。そして無限に続けることで
\begin{equation}
x = 1 + \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \cfrac{1}{1
+ \cdots
}}} \label{1/contfrac}
\end{equation}
となるでしょう。

このように、分数の中に分数が幾重にも重なる分数を「連分数」と呼びます。分数の中にそれ自身と同じ分数が幾重にも重なっていく様子は、向かい合わせた$2$枚の鏡をのぞいたとき、どこまでも鏡が映っていくのに似ています。連分数は一般に
\[
a = q_1 + \cfrac{1}{q_2
+ \cfrac{1}{q_3
+ \cfrac{1}{q_4
+ \cdots
}}}
\]
で表しますが、これでは紙面を使い過ぎるので
\[
a = q_1 + \frac{1}{q_2} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{q_3} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{q_4} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+ \dotsb}}
\]
や\footnote{$+$が低い位置に書かれていることに注意してください。}
\begin{equation}
a = [q_1,\ q_2,\ q_3,\ q_4,\ \dots] \label{matrixScript}
\end{equation}
で表すことが多いものです。特に(\ref{matrixScript})の記述ができるのは、連分数の各分子が常に$1$であるからですが、このことについては後で述べます。

ところで(\ref{1/contfrac})に戻れば、$x$の解が連分数で求められたことになります。しかし、$x$は単に(\ref{x^2Eqx+1})を$2$次方程式の解の公式で求めるだけなので、$\displaystyle x = \frac{1\pm\sqrt{5}}{2}$であることはすぐに分かります。つまり
\[
\frac{1+\sqrt{5}}{2} = 1 + \frac{1}{1} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{1} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{1} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+ \dotsb}}
\]
なのです。右辺の連分数には$1$以外の数がありません。そのためこれは、連分数の中でも特別な連分数であると言えるでしょう。実は、連分数が表す$\displaystyle x = \frac{1+\sqrt{5}}{2}$は「黄金比」と呼ばれる数で、昔から大変美しい数であるとされてきた数なのです。

ここで、$x = \dfrac{1-\sqrt{5}}{2}$の方はどうなったか気になる人がいるでしょう。連分数には$+1$しか使われていないので明らかに正です。一方、$x = \dfrac{1-\sqrt{5}}{2} < 0$ですから、ここで求めた連分数は$x = \dfrac{1-\sqrt{5}}{2}$ではありません。不思議ですね。(\ref{x^2Eqx+1})を$2$次方程式の解の公式で求めれば二つの解がでるのに、それと同値であるはずの(\ref{xEq1+1/x})から作った連分数からは一つの解しか得られていません。なぜでしょう。

それには理由があります。実は(\ref{xEq1+1/x})において、\textbf{右辺の分母}$x$について$x = \dots$と書き直せば
\[
x = \frac{1}{-1+x}
\]
になります。そして、ここに次々と$x$を代入すると
\[
x = \frac{1}{-1} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{-1} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{-1} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+ \dotsb}}
\]
となって、これが$x = \dfrac{1-\sqrt{5}}{2}$になるのです。

別の例を示します。もし最初に与えられた$2$次方程式が$x^2 = 5x-2$であれば、$x = 5-\dfrac{2}{x}$を繰り返し代入することで
\[
x = 5 - \frac{2}{5} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{2}{5} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{2}{5} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+ \dotsb}}
\]
を得ます。これは解の公式から求められる二つの解のうち、$\dfrac{5+\sqrt{17}}{2}$の方にあたります。でも、この連分数は各分子が$1$ではないですね。どうすれば各分子が$1$になるのでしょうか。

各分子が$1$である連分数は、比較的簡単に作ることができます。ある数$a$が小数で表して
\[
a = q_1 + 0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots
\]
となったとしましょう。これは
\[
a = q_1 + \cfrac{1}{
\frac{1}{0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots}
}
\]
と書き直すことができます。このとき$\frac{1}{0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots}$は必ず$1$より大きい値の小数になります。そこで、整数部分を$q_2$として分離し、$\frac{1}{0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\cdots} = q_2 + 0.\beta_1\beta_2\beta_3\dots$と書くことにすると
\[
a = q_1 + \cfrac{1}{q_2 + 0.\beta_1\beta_2\beta_3\dots}
\]
ですが、これは
\[
a = q_1 + \cfrac{1}{q_2
+ \cfrac{1}{
\frac{1}{0.\beta_1\beta_2\beta_3\dots}
}}
\]
と書き直せます。すると、また同じ理屈で
\[
a = q_1 + \cfrac{1}{q_2
+ \cfrac{1}{q_3
+ \cfrac{1}{
\frac{1}{0.\gamma_1\gamma_2\gamma_3\dots}
}}}
\]
になっていきます。この繰り返しで$q_1, q_2, q_3, \dots > 0$なる整数だけで連分数を作れるのです。

ここで$\frac{1}{0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots}$のような、無限小数の逆数をどうやって求めるか疑問に思うかも知れません。相手にもよりますが、無限小数が$a+b\sqrt{n}$($a$, $b$, $n$は有理数)の無理数なら簡単なものです。たとえば$\sqrt{2}$なら次のようにできます。
\begin{eqnarray}
\sqrt{2} & = & 1 + (\sqrt{2}-1) \nonumber \\
& = & 1 + \cfrac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}-1}} \label{toContFrac1} \\
& = & 1 + \cfrac{1}{\sqrt{2}+1} \label{toRatioNum} \\
& = & 1 + \cfrac{1}{2+(\sqrt{2}-1)} \nonumber \\
& = & 1 \cfrac{1}{2+\cfrac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}-1}}}~. \label{toContFrac2}
\end{eqnarray}

(\ref{toContFrac1})の\textbf{分母の分母}を有理化したのが(\ref{toRatioNum})です。(\ref{toContFrac2})で再び同じ形がでますから、以下、同じことの繰り返しです。これで$\sqrt{2}$の連分数が求められるのです。結果は
\[
\sqrt{2} = 1 + \frac{1}{2} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{2} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+}}
\frac{1}{2} {\genfrac{}{}{0pt}{}{}{+ \dotsb}}
\]
です。$\sqrt{2}$以外の数でも、有理化できる数であれば連分数にすることは容易です\footnote{$a+b\sqrt{n}$の無理数は連分数にできるのはもちろん、$q_1$, $q_2$, $q_3$, $\dots$が循環することが知られています。また、有理数は有限の連分数になります。}。

もし、いろいろな数を連分数にする試みを続けると、使われる数は圧倒的に$1$や$2$のような数が多いことに気づくでしょう。$100$や$200$のような大きな数は現れないのでしょうか。実は、大きな数も現れるけれど\textbf{確率的に}低い頻度で現れることになります。それはこういうことです。

$\frac{1}{0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots}$の分数を$q_2+0.\beta_1\beta_2\beta_3\dots$の小数に直すと$q_2 \ge 1$ですが、$q_2$の値は$0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots$の大きさに依存しているのです。たとえば$\frac{1}{0.9}$、$\frac{1}{0.8}$、$\frac{1}{0.7}$、$\frac{1}{0.6}$はすべて$1.$xxxなる小数ですが、これと同じ有効桁を分母にもつ分数で、$3.$xxxなる小数になるのは$\frac{1}{0.3}$だけです。別の言い方をすれば
\begin{center}
\begin{tabular}{|c||c|c|c|c|c|} \hline
$0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots$ & $1.0 > \cdot > 0.5$ & $0.5 \ge \cdot > 0.333\dots$ & $0.333\dotsc \ge \cdot > 0.25$ & $0.25 \ge \cdot > 0.2$ & $\dots$\\ \hline
$q_2$ & $1$ & $2$ & $3$ & $4$ & $\dots$ \\ \hline
\end{tabular}
\end{center}

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=14]
\draw (-0.03, 0.01) node[above left] {\scriptsize$\frac{1}{0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots}$};
\draw (-0.03, -0.01) node[below left] {\scriptsize$q_2$};
\foreach \x in {1, 2, ..., 6} \draw (1-1/\x, 0) -- node[midway, below] {\scriptsize$\x$} ({1-1/(\x+1)}, 0);
\foreach \x in {1, 2, ..., 6} \draw (1-1/\x, -0.01) -- (1-1/\x, 0.01) node[above] {\scriptsize$1/\x$};
\draw (0.9, 0.01) node[above left] {\scriptsize$\dots$};
\draw (0.9, -0.01) node[below left] {\scriptsize$\dots$};
\end{tikzpicture}
\end{center}
のように、$q_2$が大きいほど$0.\alpha_1\alpha_2\alpha_3\dots$がとれる範囲が狭まっていきます。連分数に現れる$q_k$は、必ずしも確率統計的な分布にしたがうわけではありませんが、$100$や$200$が現れることは珍しい部類に入るのです。

\end{document}