% 同じ誕生日の人と同じ星並びの力士

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\begin{document}

\section*{◆同じ誕生日の人と同じ星並びの力士◆}

\subsection*{同じ誕生日の人がいる確率}

何人かの集団において、偶然にも同じ誕生月日(年は問わない、以下、誕生日という)の人がいることがあります。たとえば$10$人の集団において、同じ誕生日の人がいる確率はどれくらいでしょうか。同じ誕生日の人といっても一組とは限らず、二組以上いるかもしれないし、$3$人が同じ誕生日のこともあるでしょう。そうなると、いろいろな場合を考えて計算しなくてはならず大変です。そこで、こう考えます。

『集団の中からどの二人を選んでも互いに誕生日が一致することがない場合』\.を\.除\.け\.ば、残った場合の中には誕生日が一致する人がいるはずです。そこには、一組だけ一致する場合もあるでしょうし、全員が同じ誕生日の場合もあるでしょう。でも、同じ誕生日の人がいることには変わりありません。

$10$人の集団の例を示します。まず『$10$人中のどの二人も互いに同じ誕生日でない場合』を計算します。それには、$10$人から一人ずつ移動して、移動先の人たちに同じ誕生日の人がいない様子を考えればよいでしょう。

\begin{center}
\hfill
\begin{tabular}{cccc}
i) & ○ & ○ & ○ \\
& ○ & ○ & ○ \\
& \underline{○} & ○ & ○ \\
& $\downarrow$ \\

\end{tabular}
\hfill
\begin{tabular}{cccc}
ii) & ○ & ○ & ○ \\
& ○ & ○ & ○ \\
&& \underline{○} & ○ \\
&& $\downarrow$ \\
○ & ○
\end{tabular}
\hfill
\begin{tabular}{cccc}
iii) & ○ & ○ & ○ \\
& ○ & ○ & ○ \\
&&& \underline{○} \\
&&& $\downarrow$ \\
○ & ○ & ○
\end{tabular}
\hfill\hspace{0em}
\end{center}

最初に移動した人◎は自分一人なので、確率$1$で同じ誕生日の人はいないことになります。i) 次に移動してくる人\underline{○}は最初の人◎と異なる誕生日ならよいので、その確率は$\dfrac{364}{365}$です\footnote{$2$月$29$日生まれは$2$月$28$日生まれにまとめておきます。}。ii) $3$人目の人\underline{○}は、すでに移動した二人と異なる誕生ならよいので、その確率は$\dfrac{363}{365}$です。iii) $4$人目の人\underline{○}は、すでに移動した$3$人と異なる誕生日ならよいので、その確率は$\dfrac{362}{365}$です。$\dots$ この調子で、移動する$10$人目の人は、先の$9$人と異なる誕生日ならよいので、その確率は$\dfrac{356}{365}$です。したがって、$10$人が互いに異なる誕生日である確率は
\[
1\times\frac{364}{365}\times\frac{363}{365}\times\frac{362}{365}\times\dots\times\frac{356}{365} \approx 0.883
\]
です。よって、$10$人の誕生日が互いに異ならない、すなわち同じ誕生日の人が少なくとも一組いる確率は$1-0.883 = 0.117$となります。

このような誕生日の話は見聞きする機会が多いでしょうから、この例以外は結果だけ述べることにします。まず、集団の人数が多ければ多いほど、同じ誕生日の人がいる確率は高くなります。$366$人以上集まれば$100$\%同じ誕生日の人がいます。なぜなら、誕生日は$365$通りしかないので、$366$人以上いればどこかの誕生日には二人以上の人が当てはまるからです。この考え方は\textgt{鳩の巣原理}や\textgt{部屋割り論法}の名で知られています。

$23$人の集団では、同じ誕生日の人がいる確率が$0.508$となり$5$割を超えます。$40$人の集団なら同じ誕生日の人がいる確率は$0.892$で、同じ誕生日の人がいない方が珍しいことになります。感じ方は人それぞれでしょうが、結構少ない人数で誕生日が一致する人がいるのは意外な気がします。

\subsection*{過去の星取表(同星)}

大相撲は年$6$場所開催され、各場所$15$日間の対戦が行われます。$15$日間の日程が終了すると、場所の成績が○、●の並びで一覧表(星取表)になります。この星取表をながめたとき、誰が優勝したとかどの力士が来場所の番付を上げる/下げるとかの興味の他に、星の並びが気になるかもしれません(私だけでしょうか?)。目をひく星の並びとしては、○や●だけが$15$個並ぶとか、○、●が交互に並ぶとかを挙げることができます。これらはすぐ目につくので、話題にもなりやすいでしょう。

一方、同じ誕生日の話の続きとしては、『同じ星並びの力士』がいるだろうかということも気になります(私だけでしょうか?)。日本相撲協会のサイトには平成二十五年一月場所からの各場所の成績が閲覧できるので、ちょっと調べてみました。すると、\def\RECENT{令和六年十一月場所}\RECENT までの\def\NBASHO{$71$場所}\NBASHO 中\footnote{令和二年五月場所は中止。}、\def\DOUBOSI{$2$}\DOUBOSI 件ありました。

\begin{center}
\setlength\tabcolsep{1pt}
\begin{tabular}{lcccccccccccccccl} \hline
平成二十六年五月 & 初 &&&&&&& 中 &&&&&&& 千 \\ \hline
\textgt{千代大龍}(東前頭2) & ● & ○ & ● & ● & ● & ● & ● & ○ & ● & ○ & ● & ● & ● & ○ & ● &(4勝11敗)\\
\textgt{舛ノ山}(東前頭13)& ● & ○ & ● & ● & ● & ● & ● & ○ & ● & ○ & ● & ● & ● & ○ & ● &(4勝11敗)\\ \hline
\end{tabular}
\begin{tabular}{lcccccccccccccccl} \hline
令和五年九月 & 初 &&&&&&& 中 &&&&&&& 千 \\ \hline
\textgt{大栄翔}(東関脇) & ● & ○ & ● & ○ & ● & ● & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ● &(10勝5敗)\\
\textgt{北青鵬}(西前頭11)& ● & ○ & ● & ○ & ● & ● & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ● &(10勝5敗)\\ \hline
\end{tabular}
\end{center}

幕内力士は原則的に$42$人のようです。細かいことを言えば、休場する力士がいたり、幕内力士が十両力士と対戦することもあるのですが、この先の話は$40$人の幕内力士どうしで互いに対戦するものとしましょう。誕生日の場合なら、$40$人が集まれば$9$割ほどの確率で同じ誕生日の人がいたわけですが、誕生日は$365$通りしかありません。星取表の場合なら、$15$日の○、●の並び方は$2^{15} = 32768$通りありますから膨大です。$40$人の力士ではどのくらいの確率で同じ星並びになるのでしょう。

先に挙げた\DOUBOSI 件は\NBASHO のうちの\DOUBOSI 件でしたが、これだけでは何とも言えません。それに、星取表の○、●の並び方は誕生日とは少し事情が異なります。誕生日の月日はどれも均等に現れるものとして考えても、それほど的外れではないでしょう。だから、\textgt{同様に確からしい}条件を満たすものとして確率の計算ができたのです。しかし、星取表はそうではありません。そもそも力士の力量が異なるのですから。でも、同様に確からしいことにしておきましょう。

ある力士Xを考えます。力士Xは$15$人の力士と対戦し、残る$24$人の力士とは対戦しません。もし力士Xと同じ星並びになる力士がいるなら、それは残る$24$人の中にしかいません。なぜなら、対戦した力士は一方が○、他方が●になるので、同じ星並びになることはないからです。つまり実質的には、力士Xを含めた$25$人の中から同じ星並びの力士を探すことになります。

\subsection*{過去の星取表(逆星)}

力士どうしが対戦すると、一方が○、他方が●になることは避けられないので、同じ星並びの力士を探すより『逆の星並びの力士』を探す方が公平でしょう。これならば、力士Xと逆の星並びになる力士を残る$39$人から探せます。そこで、日本相撲協会のサイトから逆の星並びの力士がいるかを調べたところ、\RECENT までに以下の\def\GYAKUBOSI{$2$}\GYAKUBOSI 件がありました。

\begin{center}
\setlength\tabcolsep{1pt}
\begin{tabular}{lcccccccccccccccl} \hline
平成二十九年七月 & 初 &&&&&&& 中 &&&&&&& 千 \\ \hline
\textgt{宇良}(東前頭4)& ○ & ○ & ● & ○ & ○ & ○ & ● & ● & ○ & ● & ● & ● & ● & ● & ○ &(7勝8敗)\\
\textgt{千代の国}(東前頭11)& ● & ● & ○ & ● & ● & ● & ○ & ○ & ● & ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ● &(8勝7敗)\\ \hline
\end{tabular}

\begin{tabular}{lcccccccccccccccl} \hline
令和五年一月 & 初 &&&&&&& 中 &&&&&&& 千 \\ \hline
\textgt{琴勝峰}(東前頭13)& ○ & ○ & ○ & ○ & ○ & ● & ○ & ○ & ● & ○ & ● & ○ & ○ & ○ & ● &(11勝4敗)\\
\textgt{千代丸}(西前頭16)& ● & ● & ● & ● & ● & ○ & ● & ● & ○ & ● & ○ & ● & ● & ● & ○ &(4勝11敗)\\ \hline
\end{tabular}
\end{center}

平成二十九年七月場所では宇良と千代の国が千秋楽($15$日目)に、令和五年一月場所では琴勝峰と千代丸が中日(なかび、$8$日目)に対戦しています。

調査対象の場所数が少ないため確実なことは言えませんが、同じ星並びの力士を探す場合より多くの例が見つかるように思えます。ただ逆の星並びであっても、互いの対戦がなかった力士どうしは、$15$日間それぞれが逆星になる確率は$1/2$ですが、対戦があった力士どうしなら$14$日間は逆星の確率$1/2$でも、対戦日の逆星の確率は$1$なので、この点でも同様に確からしいわけではありません。

\subsection*{同星の確率と逆星の確率}

星取表において、星並びの出現を確率的に論じるのは適切ではありません。各力士が毎日サイコロを振って、奇数なら○、偶数なら●を記録するのであれば、星取表における○、●の出方は同様に確からしいでしょう。しかし実際は、毎日○と●は同数出現するし、場所の後半は成績が好調な者どうし/不振な者どうしが対戦するように組まれるようです。また、最終盤では役力士どうしが対戦するように組まれます。要するに\textgt{無作為}に対戦が決まるわけではないのです。

とはいえ、確率的に論じることはできなくても、経験的に論じることは構わないでしょう。誕生日が同じになる確率計算を真似て、少し考えてみることにします。

最初は、$40$人の中に同じ星並びの力士がいる場合です。$15$人は同じ星並びになることは絶対ないので、$25$人の中で同じ星並びを探すことになります。星の並び方は$2^{15} = 32768$通りなので、単純に誕生日が同じ人を探すときと同様に計算すると
\[
1-\overbrace{1\times\frac{32767}{32768}\times\frac{32766}{32768}\times\dots\times\frac{32744}{32768}}^{25人の星並びが異なる} \approx 1-0.991 = 0.009
\]
です。星取表に記録された○、●が同様に確からしいのならば、同じ星並びの力士は約$0.9$\%の確率でいることになります。本当は$25$人の選び方も計算に反映させるべきですが、星の並びは同様に確からしいわけではないので、厳密な計算は勘弁させてもらいます\footnote{$40$人中$25$人が対象($6$割ほど)で$0.9$\%なので、$40$人が対象ならば単純に考えて$0.9\%\div6割 = 1.5\%$ほどでしょうか。}。実際は\NBASHO 中\DOUBOSI 件見つかったので、『まあそんなものか』という程度には感じられます。

次は、$40$人の中に逆の星並びの力士がいる場合です。今度は$40$人の中で逆の星並びを探すことになります。同様の計算をすると
\[
1-\overbrace{1\times\frac{32767}{32768}\times\frac{32766}{32768}\times\dots\times\frac{32729}{32768}}^{40人の星並びが異なる} \approx 1-0.976 = 0.024
\]
です。逆の星並びの力士は約$2.4$\%の確率でいることになります。実際は\NBASHO 中\GYAKUBOSI 件見つかったので、やはり『まあそんなものか』という程度には感じられます。

ところで大相撲では、$15$日間を初日からの$5$日間を前半、次の$5$日間を中盤、千秋楽までの$5$日間を後半と区切って呼ぶことがあります。前半の$5$日間に限ると、星の並び方は$2^5 = 32$通りなので、鳩の巣原理より一組以上の同じ星並び/逆の星並びの力士が必ずいます。それも相当数が該当します。

計算上は$10$日目までなら、同じ星並びか逆の星並びの力士は$8$割ほどの確率でいます\footnote{$(同星)+(逆星) = (1-1023/1024\times\dots\times1000/1024)+(1-1023/1024\times\dots\times985/1024) \approx 0.256+0.538 = 0.794$}。経験的にも、$10$日目までは同じ星並び/逆の星並びの力士は、ほぼいるように思えます。大相撲の星取表を、星の並びでながめる人はあまりいないでしょうが、いろいろな発見はあるものです。星取表を斜め方向から見るのも悪くありません。

\end{document}