% 美しい立体
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\def\baselinestretch{1.33}
\usepackage{pict2e}
\usepackage{tmtmath}
\begin{document}
\section*{◆美しい立体◆}
整った形というのは、人それぞれの感じ方にもよるでしょうが、たとえば円や球はこれ以上整えようのない均整のとれた図形と考えて差し支えないと思います。平面図形なら、円に次いで正三角形や正方形を美しいと感じるかもしれません。そして、その延長で、正$5$角形、正$6$角形、正$7$角形、\ldots と最終的に円に収斂してゆく図形が美しいと感じるのではないでしょうか。
では、それ以外の平面図形で均整のとれた図形はどんなものが考えられるでしょうか。よく知られた図形に、黄金比を持つ長方形があります。黄金比とは、$1:1.61803398\cdots$の比で、正確には$\displaystyle \frac{1+\sqrt{5}}{2}$の値を言います。ギリシア時代以降の絵画や彫刻、または建築物などにこの比が使われていることもよく知られたことです。
もうひとつ均整のとれた長方形があります。それは、$1:\sqrt{2}$の比をもつ長方形です。こちらは、黄金比の長方形より少し詰まった感じの長方形です。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[2.5cm](4, 1)(0, 0) %tmtmath.sty
\put(0, 0){\framebox(1.618, 1){黄金比の長方形}}
\baseskip{2.6}
\put(0, 0){\framebox(1.414, 1){$1:\sqrt{2}$の長方形}}
\end{drawpict}
この$2$つの長方形は、見た目が整っているという理由で均整がとれていると言っているわけではありません。もちろん、細長すぎず真四角すぎないという点で均整がとれているに違いないのですが、それはあくまでも主観的観察に過ぎません。円や正方形は、地面にどのように置いても形が変わることがないように、これら長方形は、ある操作によって形が変わることがない点で均整がとれているのです。
実際は、黄金比の長方形は、そこから正方形を切り取っても、残る長方形は黄金比の長方形を保ちます。また、$1:\sqrt{2}$の長方形は、$2$等分しても、小さくなった長方形は$1:\sqrt{2}$の比を保つのです。いずれも、もとの長方形と小さくなった長方形は相似形です。つまり、この操作は無限に繰り返すことができるわけです。この永遠性が、均整のとれた図形と言わせるのです。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[2.5cm](4, 1)(0, 0) %tmtmath.sty
\put(0, 0){\framebox(1.618, 1){}}
\put(0, 0){\framebox(1, 1){$1$}}
\put(1, 0){\framebox(.618, .618){$2$}}
\put(1.236, .618){\framebox(.382, .382){$3$}}
\put(1, .764){\framebox(.236, .236){$4$}}
\baseskip{2.6}
\put(0, 0){\framebox(1.414, 1){}}
\put(0, 0){\framebox(.707, 1){$1$}}
\put(.707, 0){\framebox(.707, .5){$2$}}
\put(.707, .5){\framebox(.3535, .5){$3$}}
\put(1.0605, .5){\framebox(.3535, .25){$4$}}
\end{drawpict}
図において、黄金比の長方形から正方形を切り取る操作と、$1:\sqrt{2}$の長方形を2等分する操作が若干違うことに気づくかもしれませんが、本質同じであることを注意しておきます。黄金比の長方形から正方形を切り取るときは、外から内へうずを巻くように切り取っています。それに対して、$1:\sqrt{2}$の長方形では、右上に半分を残すように等分しています。
そうした理由は、視覚的な印象を与える効果を最大限利用しようと考えたからです。黄金比の長方形の切り取り方からは螺旋が近似できます。螺旋を近似するのは簡単で、各正方形の内側に内接する$1/4$円をつなげていけばよいだけです。$1:\sqrt{2}$の長方形の等分の仕方からは、右上の$1$点に向けて長方形が埋められる様子を見ることができます。$1:\sqrt{2}$の長方形は、紙の規格に使われているのですが、長方形を埋める様子は、A1, A2, A3, \ldots の用紙でA0の用紙を埋め尽くせることを意味するのです。
さて、このように平面図形では左右対称でない図形であっても、切り取り方や折り方を定めることで、均質な性質の図形を作り続けることができるということです。では、立体でこのようなことができる図形はあるのでしょうか。
まず、立体図形で均整のとれた図形の筆頭は球でしょう。球以外となると、正$4$面体・正$6$面体・正$8$面体・正$12$面体・正$20$面体をあげることができます。実際、空間の図形として、正$n$角形を張り合わせてできる立体はこの$5$つの限られます。
そこで、平面図形同様、黄金比をもつ直方体のような図形を考えることができるか、というのが今回の主眼です。直方体を考えましょう。黄金比をもつ長方形では、そこから正方形を切り取ることを繰り返すことができます。これと似たようなことを直方体で行うなら、そこから立方体を繰り返し切り取れなくてはなりません。そして立方体を切り取るのであれば、最初の直方体は一面が正方形でなくては困ることになります。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[.45pt](275, 180)(0, 0) %tmtmath.sty
\put(92, 0){\line(-92,40){92}} %外形
\put(0, 40){\line(0,1){100}}
\put(0, 140){\line(183,40){183}}
\put(183, 180){\line(92,-40){92}}
\put(275, 140){\line(0,-1){100}}
\put(275, 40){\line(-183,-40){183}}
\put(92, 0){\line(0,1){100}}
\put(92, 100){\line(-92,40){92}}
\put(92, 100){\line(183,40){183}}
\put(95, 50){\makebox(0, 0)[l]{$a$}} %一辺aの切り出し
\put(46, 123){\makebox(0, 0)[b]{$a$}}
\put(92, 160){\line(92,-40){92}}
\put(184, 120){\line(0,-1){100}}
\put(122, 110){\makebox(0, 0)[b]{$a$}}
\end{drawpict}
もし、この操作が何度も続けられるなら、直方体から立方体を切り取った残りの立体も、別の一面が正方形でなくてはならないことになります。この時点の考察で、その条件を満たすものは、辺の比が$a:a:2a$の直方体に限られます。しかし、これでは立方体を$1$回切り取った残りも立方体ですから、もう$1$回立方体を切り取れば立体自体が消滅してしまいます。要するに、黄金比をもつ長方形に相当するような立体は存在しないということです。
では、$1:\sqrt{2}$の比をもつ長方形に相当する立体はどうでしょうか。直方体の辺の比を$a:b:c$として考察しましょう。また、$a < b < c$とします。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[.45pt](673, 180)(0, 0) %tmtmath.sty
\def\RECT{
\put(119, 0){\line(-119,40){119}} %外形
\put(0, 40){\line(0,1){100}}
\put(0, 140){\line(154,40){154}}
\put(154, 180){\line(119,-40){119}}
\put(273, 140){\line(0,-1){100}}
\put(273, 40){\line(-154,-40){154}}
\put(119, 0){\line(0,1){100}}
\put(119, 100){\line(-119,40){119}}
\put(119, 100){\line(154,40){154}}
\put(122, 50){\makebox(0, 0)[l]{$a$}} %辺の長さ
\put(60, 123){\makebox(0, 0)[b]{$b$}}
}\RECT
\put(77, 165){\makebox(0, 0)[b]{$c$}}
\baseskip{400}
\RECT
\put(77, 160){\line(119,-40){119}} %分割
\put(196, 120){\line(0,-1){100}}
\put(39, 155){\makebox(0, 0)[b]{$\displaystyle \frac{c}{2}$}} %辺の長さ
\end{drawpict}
もし、この直方体が$1:\sqrt{2}$の長方形同様$2$分割しても相似形であるなら、分割後の各辺の比も、もとの直方体と同じになっています。いちばん長い辺である$c$を$2$等分して、$\displaystyle \frac{c}{2}$がいちばん短い辺になったとすれば
\[
a:b:c = \frac{c}{2}:a:b
\]
ですね。連比では計算が難しいのでこれを
\[
a:b = \frac{c}{2}:a\qquad かつ\qquad b:c = a:b
\]
に分けて考えることにしますが、これは等式に直すと
\[
a^2 = \frac{bc}{2}\qquad かつ \qquad b^2 = ac
\]
ということです。
第$1$の式を$\displaystyle b = \frac{2a^2}{c}$に変形して第$2$の式に代入することにします。すると、$\displaystyle \left(\frac{2a^2}{c}\right)^2 = ac$より
\[
\frac{4a^4}{c^2} = ac
\]
です。分母を払って$4a^3 = c^3$ですから、$c = \sqrt[3]{4}\,a$が分かりました。
また、$\displaystyle b = \frac{2a^2}{c}$でしたから、いま求めた$c$をここに代入すると
\[
b = \frac{2a^2}{\sqrt[3]{4}\,a} = \frac{2}{\sqrt[3]{4}}a = \frac{\sqrt[3]{8}}{\sqrt[3]{4}}a = \sqrt[3]{2}\,a
\]
となります。ちょっと手間をかけましたが、以上のことから
\[
a:b:c = a:\sqrt[3]{2}\,a:\sqrt[3]{4} = 1:\sqrt[3]{2}:(\sqrt[3]{2})^2
\]
であることが分かるのです。$\sqrt[3]{2}$では長さの実感がわきませんから、近似値で示すことにしましょう。$\sqrt[3]{2} \approx 1.2599$ですから、いま求めた$3$辺の比は
\[
a:b:c = 1:1.2599:1.5874
\]
ということになります。
結局、$1:1.2599:1.5874$の比をもつ直方体は、何度$2$分割しても同じ形を保つ均整のとれた図形ということになるでしょう。$1:\sqrt{2}$の長方形が紙の規格に使われているので、$1:1.2599:1.5874$の直方体はレンガの規格に使われているのかとおもいきや、そうではないようです。
ところで、いまは$\displaystyle \frac{c}{2}$の辺がいちばん短い辺になったと仮定して計算を進めました。知りたい直方体の辺の比は不明だったので、$\displaystyle \frac{c}{2}$の辺がいちばん短くなるとは限りません。長さが$\displaystyle \frac{c}{2}$になっても、いちばん長い辺のままかもしれないし、$2$番目に長い辺になるかも知れないからです。でも、そのようなときは分割した立体は相似な直方体にならないのです。同じような計算をしてみればすぐに分かることですから、ここでは省略しておきます。気になる人は確認の計算をしておくとよいでしょう。
\end{document}