% a/=0って鬱陶しくない?
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\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\section*{◆$a \neq 0$って鬱陶しくない?◆}
「$a \neq 0$」の話題を始める以前に、タイトルが\textbf{うっとうしい}と感じたとしたら申し訳ありません。さて、そんなことより$a \neq 0$を考えましょう。
$a \neq 0$が何となく邪魔臭いと感じ始めるのは、おそらく$2$次関数や$2$次方程式において
\[
\begin{array}{lll}
2次関数 & y = ax^2+bx+c & (a \neq 0) \\
2次方程式 & ax^2+bx+c = 0 & (a \neq 0)
\end{array}
\]
のような記述を見るときでしょう。
たしかに$a \neq 0$がなければ、場合によっては$a = 0$としてしまうことがあるかもしれません。そして$a = 0$ということになれば、これらの式は
\[
\begin{array}{l}
y = bx+c \\
bx+c = 0
\end{array}
\]
となって、$2$次関数でも$2$次方程式でもなくなってしまいます。とくに正確さを重視する教科書にとっては、そのような曖昧な表現は避けなければならないわけですから、安全のため、いちいち$a \neq 0$という断りを入れることも仕方ない気もします。でも、真相は違うのです。
教科書などでは、おそらく「$y = ax^2+bx+c$を$2$次関数という」とか「$ax^2+bx+c = 0$を$2$次方程式という」などの定義が書かれているでしょう。そして、「ただし$a \neq 0$とする」のような追加文を見つけると「ああ、念押しをしてるんだな」と思うかもしれません。
でも実は、それは定義の念押しではないのです。なぜなら$2$次関数や$2$次方程式の定義は
\[
\begin{array}{ll}
xについての2次関数 & y = ax^2+bx+c \\
xについての2次方程式 & ax^2+bx+c = 0
\end{array}
\]
であって、$a \ne 0$は定義に含める必要がないからです。ということは、$a = 0$でもいいんですか? だったら、$a = 0$のときは「$y = bx+c$を$2$次関数という」となってしまい、変なことにならないのですか? こんな疑問が聞こえてきそうです。でも、そうならないのです。$a \neq 0$を追加しているのは、たとえば教科書などにおいては、その後の記述の都合があるからです。
教科書というものは、話が順序よく展開していくものです。順序ということなら、$2$次関数や$2$次方程式以前に「$2$次式」にお目にかかっていたことに気づくはずです。そのときは、まず\textbf{次数}が定義されました。次数とは
\begin{center}
掛けられている文字(変数)の個数
\end{center}
のことです。したがって文字を変数と見た場合、
\[
x^3,\quad abc,\quad ax^2,\quad 3x^2y,\quad -\frac{3}{2}axy
\]
などはすべて$3$次であるといえます。
さて、$x^3$、$x^2$、$x$はそれぞれ$3$次、$2$次、$1$次ですが、それでは
\[
x^3+x^2+x
\]
は何次の式かというと、これは「変数$x$について$3$次の式」と定義されます。なぜなら、多項式においては
\begin{center}
各項のもっとも高い次数を、その多項式の次数とする
\end{center}
と決めたからです。そのため
\begin{center}
$x$を変数とする$2$次式$ax^2+bx+c$
\end{center}
という表現は、定義に照らしてまったく正しいものです。この場合、$a$は定数です。
もし、ここで$a = 0$であったなら、$ax^2+bx+c$は実際$bx+c$という$1$次式になってしまいますが、このときの思考順序は
\begin{equation}
ax^2+bx+c \quad\to\quad a = 0 \quad\to\quad bx+c \label{firstAx2Plus}
\end{equation}
であって
\begin{equation}
a = 0 \quad\to\quad ax^2+bx+c \quad\to\quad bx+c \label{firstAIsZero}
\end{equation}
ではないことに注意してください。
いずれの思考順序でも、結局は$bx+c$になるのですが、(\ref{firstAx2Plus})と(\ref{firstAIsZero})には大きな違いがあります。(\ref{firstAx2Plus})は$ax^2+bx+c$から始めているので、まず$2$次式$ax^2+bx+c$が定義されたことになります。
一方で、(\ref{firstAIsZero})は$a = 0$から始めているので、この時点では$2$次式は定義されていません。それでも続けて$ax^2+bx+c$を考えれば、$2$次式を定義したことになると思うかもしれませんが、そうではないのです。なぜなら、すでに$a = 0$を定義しているので、$ax^2+bx+c$は同時に$bx+c$でもあるのです。つまり、$ax^2+bx+c$は定義される前に$bx+c$に変っているのです。その点で(\ref{firstAIsZero})は
\[
a = 0 \quad\to\quad ax^2+bx+c = bx+c
\]
と書く方が正確でしょう。
このことから、$2$次式$ax^2+bx+c$と言ったときは、それは間違いなく$2$次式なのであって、その後$a$の値によって$x^2$の項が消えるかどうかは関係ありません。したがって$2$次関数や$2$次方程式を考える場合には
\[
\begin{array}{ll}
2次関数 & y = ax^2+bx+c \\
2次方程式 & ax^2+bx+c = 0
\end{array}
\]
で十分なのです。なぜならそれらは、$a$に関係なく「$2$次式の関数」であり「$2$次式の方程式」だからです。$a \neq 0$は、$x^2$の項を残すために追加しているのではありません。
それでは、あえて$a \neq 0$を書き加えている都合とは何でしょうか。
まず、$2$次関数から解明しましょう。$a \neq 0$を必要とする理由は、$2$次関数を定義した後でグラフを考える際、
\begin{center}
$2$次関数のグラフは、$a > 0$のときは下に凸の、$a < 0$のときは上に凸の、放物線である
\end{center}
と言いたいからです。要するに$2$次関数のグラフは放物線であってほしいのです。
別に$a \neq 0$がなくても、$2$次関数$y = ax^2+bx+c$のグラフは
\begin{center}
$a > 0$のときは下に凸の、$a < 0$のときは上に凸の放物線で、$a = 0$のときは直線である
\end{center}
と言えば済むことで、数学的にはまったく問題はありません。しかし「$2$次関数のグラフは放物線または直線である」と言うより、「$2$次関数のグラフは放物線である」と言い切るほうが簡潔であることに異論はないでしょう。
$2$次方程式についても同様です。$a \neq 0$を必要とする理由は、$2$次方程式を定義した後で方程式を解く際、
\begin{center}
$2$次方程式の解は、$x = \displaystyle \frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$である
\end{center}
と言いたいからです。要するに$a = 0$を認めると、分母が$0$になることがあるからです。
別に$a \neq 0$がなくても、$2$次方程式$ax^2+bx+c = 0$の解は
\[\left\{
\begin{array}{lll}
a \neq 0のときは & x = \displaystyle\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} \\
a = 0でb \neq 0のときは & x = -\displaystyle\frac{c}{b} \\
a = b = 0ならば、 & c \neq 0のときは解なし、\\
& c = 0のときはすべての実数
\end{array}
\right.\]
と言えば済むことで、数学的にはまったく問題はありません。しかし、解の公式として扱いやすいのは、前者であることに異論はないでしょう。
結局のところ、一見うっとうしい$a \neq 0$ではあるけれど、$a \neq 0$を付け加えない方が、後からよっぽどうっとうしい目に遭ってしまうからなのです。
\end{document}