% 3.14 の先の数字 --1--
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\begin{document}
\section*{◆$3.14$の先の数字--1--◆}
\subsection*{直径と円周の比}
円周率の小数点以下の数字を数万桁先まで知ることは、今の私たちには造作ないことになってしまいました。それは、コンピュータの性能のお陰であり、また、ソフトウェアの進歩のお陰です。だから、$\sqrt{2} = 1.414\cdots$の先を知ることも、$\pi = 3.14\cdots$の先を知ることも、ほんの少しの操作で済んでしまいます。でも、いくらコンピュータの計算能力が優れていても、小数点以下の数字を求める方法を組み込まなければ、コンピュータは何ひとつ仕事ができません。コンピュータは、先人が開発した計算方法をそのまま置き換えているに過ぎないからです。
$\displaystyle \frac{1}{7} = 0.14285714\cdots$となることは、筆算による割り算で確かめられます。$\sqrt{2} = 1.41421356\cdots$となることも、筆算による開平で分かります。これらは比較的単純な計算をくり返すだけです。しかし、$\pi$はだいぶ事情が違うのです。
分数や開平の計算が、比較的単純なアルゴリズムで済むのに対し、$\pi$は図形的な考察を必要とします。しかも、円周という、一筋縄ではいかない線を相手にするのです。円形の物体の直径を測り、さらにひもなどを用いて円周を測った場合、$\displaystyle \frac{円周}{直径}$の信頼しうる値はせいぜい$3.1$止まりです。それほど円弧の測定は難しいということでしょう。
実測で十分な結果が得られないとなれば、あとは理論と計算による方法に頼るしかありません。それも、できるだけ簡単で分かりやすいものが期待されます。結論を言えば、そんな上手い話はないのですが、ピタゴラスの定理ぐらいを使って、どこまでやれるか試してみましょう。
\subsection*{ピタゴラスの定理を使う}
円周は曲がっているので測定が大変です。そこで、アルキメデスが考案したように円に内接する正$n$角形に注目することにします。たとえば、円に内接する正$4$角形---すなわち正方形---の各辺を中点で分割し、分割点を円周上に置けば正$8$角形になります。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=1.5cm
\begin{picture}(8, 2)(-1, -1)
\put(0, 0){\circle{2}}
\def\fourEdge{ %正4角形
\put(1, 0){\line(-1, 1){1}}
\put(0, 1){\line(-1,-1){1}}
\put(-1, 0){\line(1,-1){1}}
\put(0, -1){\line(1,1){1}}
}\fourEdge
\begin{picture}(3, 0)\end{picture}
\put(-1.5, 0){\makebox(0, 0){$\Rightarrow$}}
\put(0, 0){\circle{2}}
\fourEdge
\def\eightEdge{ %正8角形
\put(1, 0){\line(-293, 707){.293}}
\put(.707, .707){\line(-707, 293){.707}}
\put(0, 1){\line(-707, -293){.707}}
\put(-.707, .707){\line(-293, -707){.293}}
\put(-1, 0){\line(293, -707){.293}}
\put(-.707, -.707){\line(707, -293){.707}}
\put(0, -1){\line(707, 293){.707}}
\put(.707, -.707){\line(293, 707){.293}}
}\eightEdge
\begin{picture}(3, 0)\end{picture}
\put(-1.5, 0){\makebox(0, 0){$\Rightarrow$}}
\put(0, 0){\circle{2}}
\eightEdge
\put(1, 0){\line(-76, 383){.076}} %正16角形
\put(.924, .383){\line(-217, 324){.217}}
\put(.707, .707){\line(-324, 217){.324}}
\put(.383, .924){\line(-383, 76){.383}}
\put(0, 1){\line(-383, -76){.383}}
\put(-.383, .924){\line(-324, -217){.324}}
\put(-.707, .707){\line(-217, -324){.217}}
\put(-.924, .383){\line(-76, -383){.076}}
\put(-1, 0){\line(76, -383){.076}}
\put(-.924, -.383){\line(217, -324){.217}}
\put(-.707, -.707){\line(324, -217){.324}}
\put(-.383, -.924){\line(383, -76){.383}}
\put(0, -1){\line(383, 76){.383}}
\put(.383, -.924){\line(324, 217){.324}}
\put(.707, -.707){\line(217, 324){.217}}
\put(.924, -.383){\line(76, 383){.076}}
\end{picture}
\end{center}
その正$8$角形の各辺に対して、同様な操作をすれば正$16$角形が、さらにその各辺に対して\ldots と続ければ、円周に非常に接近する正$n$角形ができあがります。図では正$16$角形まで作りましたが、雑な図ですから正$16$角形と円周を区別するのが難しくなっています。実際$n$が大きくなるほど、正$n$角形の辺を全部集めた長さは、ほぼ円周に等しくなっていきます。問題は、一辺の長さを計算する方法でしょう。しかし、一辺の長さはピタゴラスの定理から簡単に求められるのです。まずはそのセンで調べてみましょう。
さて、次の図は、正$n$角形を作図する過程において、円の中心の右上$\displaystyle \frac{1}{4}$部分を抜き出して拡大したものです。正$4$角形、正$8$角形、正$16$角形の一辺を描き入れてますが、全部の辺を描き入れると煩雑になるので、$AY$が正$8$角形の辺の代表、$BY$が正$16$角形の辺の代表として見てください。また、$OX$、$OA$、$OB$、$OY$はすべて円の半径であることに注意してください。円の半径はいくつでもよいのですが、一般的に半径$1$の円としておきます。そう考えることによって、$\displaystyle \frac{円周}{直径}$の比の値は$\displaystyle \frac{半円周}{半径} = (半円周)$に等しいことになるので、結局、半円周の長さを求めることが、円周率を求めることになるからです。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=5cm
\begin{picture}(1.2, 1.2)(-.1, -.1)
\put(0, 0){\line(1,0){1}}
\put(0, 0){\line(0, 1){1}}
\qbezier(1, 0)(1, .414)(.707, .707) %円弧
\qbezier(.707, .707)(.414, 1)(0, 1)
\put(0, 0){\makebox(0, 0)[rt]{$O$}}
\put(1, 0){\makebox(0, 0)[lt]{$X$}}
\put(0, 1){\makebox(0, 0)[rb]{$Y$}}
\put(0, 1){\line(1,-1){1}} %YX
\put(0, 1){\line(707,-293){.707}} %YA
\put(.707, .707){\makebox(0, 0)[lb]{$A$}}
\put(0, 1){\line(383,-76){.383}} %YB
\put(.383, .924){\makebox(0, 0)[lb]{$B$}}
\put(0, 0){\line(707,707){.707}} %OA
\put(.45, .5){\line(707,-707){.025}} %直角G
\put(.45, .5){\line(707,707){.025}}
\put(.5, .475){\makebox(0, 0)[t]{$G$}}
\put(0, 0){\line(383, 924){.383}} %OB
\put(.31, .831){\line(354,853){.014}} %直角H
\put(.31, .831){\line(707,-293){.028}}
\put(.354, .828){\makebox(0, 0)[t]{$H$}}
\end{picture}
\end{center}
始めに$\triangle OAY$に注目します。$OA$は半径であり、長さ$1$ですから
\begin{equation}
OG +GA =1 \label{og+ga=1}
\end{equation}
です。また、ピタゴラスの定理より
\begin{eqnarray*}
OG &=& \sqrt{OY^2 -YG^2} \\
GA &=& \sqrt{AY^2 -YG^2}
\end{eqnarray*}
です。これらを(\ref{og+ga=1})へ代入し、$OY = 1$であることに注意して、等式を$2$乗するなどして整理すると、思いのほかすっきりとした式
\[
AY^4 -4AY^2 +XY^2 = 0
\]
が得られます。$YG^2$の項が消えて、$XY^2$の項があるのは、$\displaystyle YG = \frac{XY}{2}$を代入したからです。
ここから$AY^2 = x$とおいた$2$次方程式を解くと
\begin{equation}
AY^2 = 2 -\sqrt{4 -XY^2} \label{nextAY2}
\end{equation}
となります。この解を求めるために解の公式を用いました。本来は$AY^2 = 2 +\sqrt{\cdots}$の解も出ていましたが、こちらの解は捨てられています。なぜなら、$AY$が$AX$より長くなる解だからです。
実は、この関係は$XY$と$AY$の間だけに成り立つ関係ではなく、次の段階である$AY$と$BY$の間に対しても成り立つ関係です。つまり、(\ref{nextAY2})が意味するところは、ある時点の正$n$角形の一辺の長さから、次の正$2n$角形の一辺の長さが求められるということです。正$n$角形の一辺の長さを$\ell_n$、次の正$2n$角形の一辺の長さを$\ell_{2n}$と書くなら
\begin{equation}
\ell_{2n}^2 = 2 -\sqrt{4 -\ell_n^2} \label{nextell2n}
\end{equation}
の関係が常に成立しているということなのです。
\subsection*{どこまで先へいけるか}
ところで、私たちは正$4$角形から始めました。このとき$\ell_4 = \sqrt{2}$です。それさえ分かっていれば、(\ref{nextell2n})へ順に代入することで
\begin{eqnarray*}
\ell_8^2 &=& 2 -\sqrt{2} \\
\ell_{16}^2 &=& 2 -\sqrt{2 +\sqrt{2}} \\
\ell_{32}^2 &=& 2 -\sqrt{2 +\sqrt{2 +\sqrt{2}}} \\
\ell_{64}^2 &=& 2 -\sqrt{2 +\sqrt{2 +\sqrt{2 +\sqrt{2}}}} \\
\ell_{128}^2 &=& 2 -\sqrt{2 +\sqrt{2 +\sqrt{2 +\sqrt{2 +\sqrt{2}}}}}
\end{eqnarray*}
であることが、簡単に計算できます。
すると、正$n$角形の一辺の長さが分かれば、$n$倍して正$n$角形の全周長が分かることになります。しかし、$\displaystyle \frac{円周}{直径}$の比---すなわち円周率---の値は半円周に等しかったはずですから、正$n$角形の全周長を計算すると、円周率の$2$倍の値を求めてしまうことになります。求めるのは、全周長の半分で十分です。たとえば正$32$角形に対しては、一辺を$16$倍すればよいことになります。
では、早速正$n$角形の全周長の半分---$s_n$で表すことにする---を計算しましょう。さっきの$\ell_n$をもとに、\fbox{\tiny$\sqrt{\ }$} キーのある$8$桁電卓で計算した結果を次に示しました。
\[
\begin{array}{lclcl}
s_8 &=& \ell_8 \times 4 &=& 3.0614676 \\
s_{16} &=& \ell_{16} \times 8 &=& 3.1214456 \\
s_{32} &=& \ell_{32} \times 16 &=& 3.1365504 \\
s_{64} &=& \ell_{64} \times 32 &=& 3.1403392 \\
s_{128} &=& \ell_{128} \times 64 &=& 3.1413504
\end{array}
\]
正$128$角形まで作って$3.141$までの正しい値を得ることができました。これをずっと先まで計算して$s_{数百億}$ぐらいまで求めたら、結構$\pi$の値に近付きそうです。コンピュータを使えば簡単だね、と思ったら大間違いです。なぜなら、$s_{数百億}$の計算に使う$\ell_{数百億}$の値がほとんど$0$に近い値になってしまうからです。その値に$\displaystyle \frac{数百億}{2}$という大きな値を掛けることは、ただ誤差の計算を増幅するだけになってしまいます。実際、電卓で計算した$s_{32}$の値は、すでに小数第$5$位以降が誤差の固まりです。
どうやら、この方法では$3.14$のずっと先の数値を知るのは大変困難なようです。せっかく、ピタゴラスの定理だけで計算ができると思ったのですけれど。ちょっと残念。
\end{document}