% 記号 d^2y/dx^2 の妙な 2 の位置

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\begin{document}

\section*{◆記号$\dfrac{d^2y}{dx^2}$の妙な$^2$の位置◆}

微分を表す記号に
\[
\frac{dy}{dx}
\]
があります。この場合は特に、関数$y$を$x$で微分するということです。これは$1$回の微分を行う場合であり、もし関数$y$を$2$回微分するならば
\[
\frac{d^2y}{dx^2}
\]
と書いています(これを「$2$階導関数」と呼びます)。$2$度の微分であることを知らせるために$2$を使うのは当然としても、$^2$の位置に疑問を感じませんか? どうして分子は$d^2y$なのに分母は$dx^2$なんだろう。

この疑問に答えるには、まず微分のおおまかな話から始めなくてはなりません。

微分とは、関数の細かな変化を調べるために考えられた手法です。たとえば関数$y = f(x)$においては、$x$の値から$y$の値を計算できます。でも、それでは単発的なことしかわかりません。関数の変化を調べるためには、$x$の変化量に対して$y$がどれだけ変化したかを考える必要があります。

$x$の変化量を$\Delta x$、それに対する$y$の変化量を$\Delta y$として、
\begin{equation}
\frac{\Delta y}{\Delta x} \label{deltaY/deltaX}
\end{equation}
の比を計算します。この比は、いわゆる「変化の割合」と呼ばれるもので、値(の絶対値)が大きいほど変化が激しいということです。しかし、これでは$\Delta x$の幅を大きくとりすぎると、$\Delta y$が本当の関数の変化を示さないこともあるでしょう。

そこで$\Delta x$の幅を限りなく小さくとれば、それに伴って$y$の変化もごく微量で済み、本当の関数の変化に忠実になるはずです。このように無限小の区間における変化を定義したものが微分なのです。いくら無限小の区間と言っても、$\Delta x$の幅は$0$ではないので、$x$の変化に対する$y$の変化の比を計算することができます。その比は$\dfrac{y}{x}$ですが、無限小であることを明示するためと、(\ref{deltaY/deltaX})の変化の割合と区別する意味で、比を
\begin{equation}
\frac{dy}{dx} \label{dy/dx}
\end{equation}
で表しているのです\footnote{$\lim_{\Delta x\to0}\dfrac{\Delta y}{\Delta x} := \dfrac{dy}{dx}$ということです。$d$を使うのは$\Delta$の関係と、微分(differential calculus)の頭文字から来ているのでしょう。}。ここで$dy$、$dx$は無限小の変化量を表す記号ですから、それぞれ$dy$、$dx$で意味を持ち、決して$d\times y$のような積を表していないことに注意してください。

ところで微分を表す記号には、他に「$'$」があります。これは、微分をする意味で常に(\ref{dy/dx})を使うのも煩雑なので、$y=f(x)$の微分に対して$y'$や$f'(x)$のように使います。また$y=f(x)$であれば、(\ref{dy/dx})において$y$を$f(x)$に変えた
\[
\frac{df(x)}{dx}
\]
という書き方もあります。特に$f(x)$が具体的に$f(x) = e^x$などとわかっていれば
\[
\frac{de^x}{dx}
\]
とするわけです。

ところが$y = x^3+x^2+x+1$のように、長い式の場合は
\[
\frac{d(x^3+x^2+x+1)}{dx}
\]
などと書くよりは
\[
\frac{d}{dx}(x^3+x^2+x+1)
\]
と書く方が便利で見やすいのです。しかし、こう書いたからといって、$\dfrac{d}{dx}\times(x^3+x^2+x+1)$を表すものではありません。便宜上、$d(x^3+x^2+x+1)$を分けて記述しているだけです。そのため$(x^3+x^2+x+1)$を$y$に戻した
\[
\frac{d}{dx}y
\]
も正当な記述になります\footnote{ところが微分方程式を解くときは、$\dfrac{d}{dx}y$をあたかも$\dfrac{d}{dx}$と$y$の積のように扱うことがあります。}。

さて、ようやく本題に入れます。

$2$階導関数とは、$y$を$2$回微分するわけです。$1$回微分すれば$\dfrac{dy}{dx}$ですが、これを簡略した記述に従って$y'$としておきます。この$y'$をもう$1$度微分するのですから$\dfrac{dy'}{dx}$です。これは
\begin{eqnarray*}
\frac{dy'}{dx} &=& \frac{d}{dx}y' \\
&=& \frac{d}{dx}\,\frac{dy}{dx}
\end{eqnarray*}
のことなので、結局$2$階導関数を
\begin{equation}
\frac{d^2y}{dx^2} \label{d2y/dx2}
\end{equation}
と書くのは、文字の並びからいっても理にかなっています。文字の並びを言うならば、分母は$d^2x^2$だろうと思えるでしょうが、はじめに言ったように$dx$で一文字扱いということなので、$dx^2$でよいわけです。

それなら分子だって、$dy^2$とすれば良さそうなものですけれど、$y = f(x)$が長い式のときは
\[
\frac{d}{dx}y
\]
としたわけなので、$dy^2$にしてしまうと
\[
\frac{d}{dx^2}y^2
\]
が、「関数$y^2$の微分」のように見えてかえって都合が悪くなります。

また、$2$階導関数を
\[
\frac{(dy)^2}{(dx)^2}
\]
のように書いたらどうか、という意見もあるかと思います。しかし、数学ではなるべく$(~)$を使わないように記述しているので、このような書き方は見かけたことがありません。かといって、$(~)$を減らすために$\left(\dfrac{dy}{dx}\right)^2$としてしまっては、微分した$\dfrac{dy}{dx}$をさらに$2$乗する意味になるので問題外です。

しかし、いくら$(~)$の理由があるからといっても、$(~)$を使わないで済むのは$\dfrac{d^2y}{dx^2}$のような場合です。この記述は、$n$階導関数に対しても
\[
\frac{d^ny}{dx^n}
\]
とできます。特別な混乱を生じないからです。

でも、簡略化したはずの$y'$に対してはそうはいきません。「$'$」一つにつき$1$回の微分であるのは分かりやすいのですが、$n$階導関数では
\[
y^{'''\dots'}
\]
のように、$'$を$n$個必要とします。せっかくの簡略化が台無しです。それではと、$y'^{n}$で微分の回数を示そうとすると、それは$y'$の$n$乗の意味になってしまい困ります。そこで
\[
y^{(n)}
\]
の書き方があるのです。なるべく$(~)$は使いたくなくても仕方ありません。すると$f(x)$の$n$階導関数は
\[
f^{(n)}(x)
\]
となるわけです。

結局のところ、(\ref{d2y/dx2})の書き方は妙なものではなく、一番自然な記述ということなのです。

\end{document}