% 0.999... = 1 の不思議

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\begin{document}

\section*{◆$0.999\dots = 1$の不思議◆}

$0.999\dotsb$が$1$に等しいということが、どうしても納得いかない人は多いものです。このことを説明した文章を読んでも釈然としないし、どうもはぐらかされてるような気がするのでしょう。いくつかの代表的な説明がありますので、例として示しておきましょう。

\begin{quotation}
\noindent\textbf{[説明1]} $0.333\dots = \dfrac{1}{3}$ですね。この両辺を$3$倍してみましょう。
\[
0.999\dots = 1
\]
になりました。
\end{quotation}

\begin{quotation}
\noindent\textbf{[説明2]} $0.999\dotsb$は正確にいくつになるのでしょうか。
\begin{equation}
0.999\dots = x \label{p999}
\end{equation}
とおいてみます。そして、この両辺を$10$倍します。すると
\begin{equation}
9.999\dots = 10x \label{9p999}
\end{equation}
になります。ここで$(\ref{9p999})-(\ref{p999})$として辺々引きます。
\begin{eqnarray*}
9 &=& 9x \\
x &=& 1~.
\end{eqnarray*}
やはり$x$(すなわち0.999$\dotsb$)は$1$です。
\end{quotation}

\begin{quotation}
\noindent\textbf{[説明3]} $1-0.999\dotsb$を計算して、答が$0$になれば$0.999\dots = 1$といえるでしょう。普通引き算は下の桁から計算を始めますが、この場合は上の桁から始めなければなりません。多少不自由な気持ちで計算をする必要がありますが
\[
1-0.999\dots = 0.000\dotsb
\]
です。
\end{quotation}

\begin{quotation}
\noindent\textbf{[説明4]} 無限等比級数の和を求める公式を知っている人なら次のようにするでしょう。
\[
0.999\dots = 0.9+0.09+0.009+0.0009+0.00009+\dotsb
\]
は初項$a = 0.9$、公比$r = 0.1$の無限等比級数です。その和$S$は
\[
S = \frac{a}{1-r}
\]
で与えられるので、この式より$S = 1$が得られます。
\end{quotation}

さて、このような説明でなるほどと納得できるなら何の問題もありません。これで納得できない人の言い分は次のようなものではないでしょうか。『たしかに式の上では同じように見える。でも、$0.999\dotsb$と$1$ではほんのわずかだが$0.999\dotsb$の方が小さいじゃないか』と。

その気持ちはわからないわけじゃないけど、やっぱりそうじゃないんです。$0.999\dotsb$と1は\textbf{完璧に}等しいのです。これを等しいと思えない一番の原因は「無限」のとらえ方に\textbf{日常の感覚}を持ち込んでいることです。つまり$0.999\dotsb$は、どこまでいっても、\textbf{いつまでたっても}、無限に$9$が並んでいると考えてしまうからです。

無限の状態はこの世に存在していません。私たちの思考の中にだけあるものです。さっきの[説明4]を例にとります。$0.999\dots = 0.9+0.09+0.009+0.0009+0.00009+\dotsb$の計算をしてその和を求めるということは、あなたが次のような操作をすることと同じです。定規の$0$の目盛りから始めて、まず最初に$0$と$1$の途中$\dfrac{9}{10}$の位置に印をつけます。この位置が$0.9$にあたります。するとその$0.9$の位置の右側に$\dfrac{1}{10}$だけの隙間ができます。そこで次に$0.9$と$1$の間にできた隙間に対して$\dfrac{9}{10}$だけ右の位置に印をつけます。これで印は$0.9+0.09$を示しているはずです。しかしまだその右側にはわずかの隙間があります。そこでまたその隙間の$\dfrac{9}{10}$だけ右の位置に印をつけます。その位置が$0.9+0.09+0.009$にあたります。さらにこの操作をどこまでも続けると$0.9+0.09+0.009+0.0009+0.00009+\dotsb$の位置に印がつくことになるでしょう。それが$0.999\dotsb$の位置です。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=10]
\draw (0, 0) -- (1, 0);
\foreach \x in {0, 1} \draw (\x, 0.02) -- (\x, 0) node[below] {$\x$};
\foreach \x in {0.9, 0.99} \draw (\x, 0.01) -- (\x, 0) node[above] {\tiny$\x$};
\draw (0.999, 0.01) -- (0.999, 0) node[above right] {\tiny$\dots$};
\end{tikzpicture}
\end{center}

これでは$0.999\dots = 1$であることを納得できませんよね。それどころか『やっぱり\textbf{いつまでたっても}$1$のわずか手前に隙間ができてるじゃないか。だから$0.999\dotsb$は$1$よりほんの少し小さいんだよ』と言われかねませんね。でも、その反応こそ\textbf{日常の感覚}にほかならないのです。

$0.999\dotsb$はどこまでも無限に$9$が並んでいる数ですが、\textbf{いつまでたっても}並び続けていません。あなたが$1$秒間で$0.999\dotsb$という数を思考したら、$1$秒で無限の$9$が続く数ができあがるのです。別の言い方をすれば
\[
0.999\dots = 0.9+0.09+0.009+0.0009+0.00009+\dotsb
\]
でしたから、この無限の足し算でさえ$1$秒で終わっています。無限回の足し算が有限の時間内にできてしまうのです。この\textbf{日常と違う感覚}に支えられているのが$0.999\dots$という数です。

と言ったところで、やっぱり納得しがたいのではありませんか? でも、それは誰のせいでもありません。原因は「無限」にあるからです。一体どれほどの人が無限を認識できるのでしょうか。おそらくほとんどの人が無限を甘く見ているはずです。

さっきの定規に印をつける例をもう一度考えます。あなたは定規の右側に残った隙間に対して、その$\dfrac{9}{10}$の位置に印を刻むことを無限に繰り返しています。あなたは、直接$1$の目盛の上に印を刻むことはしませんが、隙間の$\dfrac{9}{10}$を確実に、しかも無限に繰り返すのです。この無限の行為が曲者なんです。印を刻む行為が無限になされるのですから、どれだけわずかの隙間があろうとも、すぐさまそこには無限の印が$1$に向かって刻まれていきます。つまり、無限の行為が隙間を与えることを許さないのです。ですから、あなたが$1$の手前に隙間を見つけるチャンスは\textbf{絶対に}ありません。$0.999\dotsb$と$1$との間に隙間を指摘できない以上、$0.999\dotsb$と$1$はくっついていると考えざるをえません。

実は、$0.999\dotsb$と$1$は表記法が違うだけで、実際は同じ数なのです。$0.333\dotsb$と$\dfrac{1}{3}$は表記のしかたが違っても等しい数であるように、$0.999\dotsb$と$1$も等しい数なのです。実際に$\dfrac{1}{3}$を小数表記にしてみましょう。次に示す割り算で、小数点以下に$3$が無限に並びます。このことから$\dfrac{1}{3}$の小数表記が$0.333\dotsb$であることが確認できます。

\begin{center}
\tabcolsep=3pt
\def\arraystretch{.85}
\small
\begin{tabular}{rrllllc}
& & $0.$ & $3$ & $3$ & $3$ & $\dotsb$ \\ \cline{3-7}
$3$ & ) & $1.$ & & & & \\
& & & $9$ & & & \\ \cline{3-5}
& & & $1$ & $0$ & & \\
& & & & $9$ & & \\ \cline{4-6}
& & & & $1$ & $0$ & \\
& & & & & $9$ & \\ \cline{5-7}
& & & & & $1$ & $\dotsb$
\end{tabular}
\end{center}

では、$0.999\dotsb$はどうでしょう。これを説明するのに少し変わった計算を紹介しましょう。$5\div5$の計算です。普通ならこの答は$1$となることは間違いありません。でも、ここでの目的は$5\div5$の計算結果を別の表記法で表すことです。割り算において$1$をたてることをせず、$0.9$とたてます。引き算すると$5$が残ります。$0$をおろして$50$。次に$9$をたてます。割り算においては最大で$9$までしかたてられないからです。引き算をするとまた$5$が残ります。$0$をおろして$50$。以下同じことの繰り返しとなって、$0.999\dotsb$となりました。この計算は余りが常に$5$で、$50$を越えない範囲で$9$をたて続けるという点で$1\div3$と同様のことをしています。

\begin{center}
\tabcolsep=3pt
\def\arraystretch{.85}
\small
\begin{tabular}{rrllllc}
& & $0.$ & $9$ & $9$ & $9$ & $\dotsb$ \\ \cline{3-7}
$5$ & ) & $5.$ & & & & \\
& & $4$ & $5$ & & & \\ \cline{3-5}
& & & $5$ & $0$ & & \\
& & & $4$ & $5$ & & \\ \cline{4-6}
& & & & $5$ & $0$ & \\
& & & & $4$ & $5$ & \\ \cline{5-7}
& & & & & $5$ & $\dotsb$
\end{tabular}
\end{center}

この計算は決して間違っていません。唯一気がかりなのは計算の途中で$10$をたてることができない点です。もし$10$をたてることが許されていて、$9$をたて続けている最中に$10$をたてることに気づいたとしたら$\dots$。そう、その瞬間から桁あがりが続々と生じ、それが左へ左へと波及し、最後には$1.000\dotsb0$となることでしょう。$1.000\dotsb0$は有限の表記方法です。一方、$0.999\dotsb$は無限の表記方法と考えられます。$0.999\dotsb$が現れる背景($5\div5$)に目を向ければ、$0.999\dotsb$の表記は$1$の表記と同じことなのです。

\end{document}