% 予測はお気楽

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\section*{▼予測はお気楽▼}

世には、天気予報や為替予想など将来を見通すための予測であふれている。だって人間だもの、知りたいじゃない。知ってどうするかって? 不安が和らぐでしょ。

ふむ。先が見通せれば、たとえそれがよくない知らせであっても心の準備はできそうだ。でも、それは正しい予測ができることが前提だ。翌日の天気予報は数十年前に比べれば格段に精度が高い。観測環境の整備や計算機---って電卓じゃなくて大型のコンピュータだよ---の性能向上がもたらす成果だね。しかし、長期予報は難しい。と思ったら大間違い。これほど気楽で無責任な予測はないんだ。

ときに、天気予報は数ヶ月先の長期予報を出す。寒さがピークを超える頃には早くも「夏の気温は平年並か平年より高いでしょう」みたいに知らせるやつだ。すごいね、そんな先のことまで予想しちゃうんだ。でもね、これは私でも予想できる。明日の天気予報は無理でも長期予報なら任せてくれ、と自信を持って言える。では、その自信がどこから湧いてくるか教えよう。

まず「平年」というのは過去のある期間の$30$年の平均を指す。たとえば$1981$年から$2010$年の、というように。すると、年ごとの月間平均気温(その年の月平均気温の平均)のグラフはこんな風になる。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[x=4mm, y=8.5mm]
\draw (81, 13.5) -- (110, 13.5); % (1981, 13.5) -- (2010, 13.5)
\foreach \x in {1981, 1985, 1990, ..., 2010} \draw (\x-1900, 13.5) -- (\x-1900, 13.4) node[below] {\x};
%
\draw (80, 14) -- (80, 18); % (1978, 14) -- (1978, 18)
\foreach \y in {14, 15, 16, 17, 18} \draw (80, \y) -- (79.8, \y) node[left] {\y};
%
\foreach \year / \temp in {1981/15.0, 1982/16.0, 1983/15.7, 1984/14.9, 1985/15.7, 1986/15.2, 1987/16.3, 1988/15.4, 1989/16.4, 1990/17.0, 1991/16.4, 1992/16.0, 1993/15.5, 1994/16.9, 1995/16.3, 1996/15.8, 1997/16.7, 1998/16.7, 1999/17.0, 2000/16.9, 2001/16.5, 2002/16.7, 2003/16.0, 2004/17.3, 2005/16.2, 2006/16.4, 2007/17.0, 2008/16.4, 2009/16.7, 2010/16.9} \draw[mark=*] plot (\year-1900, \temp);
%
\draw[dashed] (81, 16.26) -- (110, 16.26); % (1981, 16.26) -- (2010, 16.26)
\draw[domain=81:110, thick] plot (\x, 0.047*\x+11.7);
\end{tikzpicture}
\end{center}

当然、年ごとに寒暖の差は大きいが、全体的に上昇傾向であることは分かる。疑ってるね。一応$30$個のデータについて\textbf{最小二乗法}で求めた直線を描いてあるんだが。すると上昇傾向は一目瞭然である。ちなみに、点線が$30$個のデータの単純平均だ。つまり、ここが平年値である。もし、この傾向が続くとすると、平年値はしばらく一定の値を使うことになり、実際の気温は平年値より高くなっていくだろう。

さて「平年並」という表現は、平年値からそう大きくはずれてないことを意味する。平均気温の話なら、$\pm0.5$度以内なら許容範囲か。人によっては$\pm1.0$度以内でも平年並みと感じるかもしれないね。すると「平年並か平年より高い」という予想は、平年値を大きく下回らない限り当たる。実際、このデータで直近$10$年を見ると、少しばかり下回っているのが$2$回あるだけだ。当面、いまと同じ値の平年値を使うとすれば、今後も平年並を大きく下回る公算は低い。

「平年値」は何年かごとに新しいデータで改訂されるけど、気温が上昇傾向にあるならば、その後は平年値を上回る可能性の方が明らかに高いのだ。それなら大げさな観測をしなくても、私でも予想できる。毎年、「今年の夏は平年並か平年より高い」と言っていれば$9$割は当たるんじゃないかな。

このことは為替相場の予想にも言える。たとえば、現在円高傾向が続いていて$1$ドル$110$円であったとする。当然、相場は上下するから、円高傾向といえども$115$円程度には安くなることはあるだろう。それなら、数ヶ月先の予想は「$1$ドル$115$円〜$100$円」とでも言っておけばよいことになる。へっ! いい加減なもんだ。

とは言うものの、予想はあくまで予想でしかない。想定外の事態が起こることはある。気温が上昇傾向でも、突然の冷夏に見舞われるかもしれない。為替が円高傾向でも、急に円安に振れるかもしれない。結局、他人の言葉を鵜呑みにせず、備えはしておくべきだっていう教訓である。

\end{document}