% 世の中すべて運!

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\section*{▼世の中すべて運!▼}

『運も実力のうち』とはよく言われることだが、実際は運と実力は無関係だ。運が実力の一部のように見えるのは、幸運を活かすためには実力が伴っていなければならないからで、実力があるから幸運を引き寄せるわけではない。実力があろうとなかろうと、運は「幸運」もしくは「不運」という形でやってくる。

たとえば実力が互角の二者が対戦を繰り返した場合、最終的な勝ち負けは五分五分になるかもしれないが、途中、一方が勝ち続けることはかなり頻繁に起こる。日本のプロ野球だと、全チームの戦力は結構似たり寄ったりである。それでも、シーズン中に$5$連敗や$6$連敗するチームなんてのはザラにある。むしろ、首位を快走しているチームにありがちだ(と思えるのは、印象が強く残るからだろう)。実際、$勝ち : 負け$の確率が$1/2 : 1/2$なら、$6$連敗する確率は$(1/2)^6 = 1/128$である。毎シーズン起こって当然だろう。問題はどのチームにいつ起こるかだが、それは偶然に左右される。すなわち「運」だ。

さて、プロ野球で開幕からいきなり$6$連敗を喫したチーム(東京Losers)があったとする。東京Losersはあからさまに他チームより劣っていたわけではない。運悪く$6$連敗を食らったのだ。もし東京Losersを贔屓(ひいき)にしていたら、今シーズンはなかったことにして、別のことに時間を使おう。というのも、優勝なんて望み薄だからだ。理由を述べよう。

かりにシーズン$140$試合で$80$勝$60$敗以上が優勝ラインとしてみよう。平均$4$勝$3$敗のペースだ。すると東京Losersは残り試合を$80$勝$54$敗以上の成績で乗り切らなければならない。$6$連敗のチームがあれば、$5$勝$1$敗程度のチーム(大阪Winners)があっても不思議ではないだろう。すると大阪Winnersは残り試合を$75$勝$59$敗以上の成績で優勝ラインに届くことになる。それぞれの優勝確率はどれぐらいだろうか。

どのチームも$勝ち : 負け$の確率が$1/2 : 1/2$と仮定するなら、東京Losersと大阪Winnersが優勝する確率はそれぞれ
\[
\sum_{r=0}^{54} {}_{134}\textrm{C}_{r}\left(\frac{1}{2}\right)^{134-r}\left(\frac{1}{2}\right)^r \approx 0.015、\qquad \sum_{r=0}^{59} {}_{134}\textrm{C}_{r}\left(\frac{1}{2}\right)^{134-r}\left(\frac{1}{2}\right)^r \approx 0.131
\]
である\footnote{Microsoft Excelで計算したので信用してね。}。$1.5$\%、$13.1$\%という優勝確率はいかにも心細いが、それは勝率$5$割を仮定したからだ。

運悪く$6$連敗をした東京Losersは平均$4$勝$3$敗のペース、すなわち勝率$4/7$の実力があったとしよう。それなら約$30.6$\%の確率で、残り試合を$80$勝$54$敗以上の成績にできる。しかし、大阪Winnersなら平均$10$勝$9$敗のペース、すなわち勝率$10/19$の実力でも約$30.4$\%の確率で、残り試合を$75$勝$59$敗以上の成績で終えられるのだ。このことは、勝率$4/7$のチームが勝率$10/19$のチームとシーズン終盤まで接戦を演じるハメになることを意味する。なんと、運悪く開幕$6$連敗したせいで。

もし大阪Winnersの実力も東京Losers同様$4$勝$3$敗ペースなら、約$70.5$\%の確率で$75$勝$59$敗以上にできてしまう。大阪Winnersは東京Losersより$2$倍以上も優勝確率が高い。なんてこった。それもこれも開幕$6$連敗の不運が原因なのだ。ここから得られる教訓は、出だしの不運はその後を悪くし、出だしの幸運はその後を良くする、である。やっぱり今シーズンはなかったことにしたくなるよね。

大阪Winnersは幸運である。勝率$10/19$の実力が備わっていれば、勝率$4/7$の東京Losersと互角の勝負になるからだ。だとしても大阪Winnersは、実力があったから運を引き寄せたのではない。大阪Winnersの幸運は実力とは関係なく、単に東京Losersが不運だったからなのである。そのため、大阪Winnersは出だしで有利になった。あとはこの幸運を活かせたら優勝だ。

成功した人は自らの努力を誇らしく思うかもしれないが、それは勘違いである。その人には、努力が続けられるような環境が\textbf{運よく}備わっていたに過ぎない。努力が実を結んだのは、成功に至る出だしに幸運があったからなのだ。それは、取り組みの最初に「当たりを引いた」ことかもしれないし、努力の最中に「引き上げてくれる人の目に留まった」ことかもしれない。成功した人に平均以上の実力があったとしても、当たりを引いたり人の目に留まるのは偶然なのだ。

世の中とはそんなものである。実力が天と地ほど違えば別だが、運があれば有利になり、運がなければ不利になるだけのこと。東京Losersと大阪Winnersの例のように、ものごとは運で左右されてしまう。

\end{document}