% yes? no? どっちなの?

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\begin{document}

\section*{▼yes? no? どっちなの?▼}

私は英語のことはよく分からないのだが、英語と日本語ではちょっと感覚が異なる場面に出会うことがある。たとえば
\begin{center}
``Don't you speak English well?'' ``No, I don't.''
\end{center}
の平均的というか自然というか、一般にありがちな日本語表現は
\begin{center}
「あなたは英語を話さないんですか?」 「はい、話しません。」
\end{center}
というものだろう。話しているじゃないかというツッコミは無視することにして、なんでときどき``no''が「はい」という意味合いで使われるのだろう?

そりゃあ、英語を話す人がそう言うんだから仕方ないでしょ。日本人とは感覚が違うんだよ。とか言おうものなら、おかしいのは日本人でしょ!とか返されかねない。おかしいのはどっちなんだろう。

実際はどちらもおかしくない。それどころか、どちらもまったく理にかなっているのだ。ここは数学の話題が主なので、理にかなっていることを数学っぽく示したい。

まず、ことばを記号化しておこう。``speak English well''と「英語を話す」は『E』で表すことにする。``Don't you''と「ないんですか?」はいずれも疑問を投げかける表現なので『?』としよう。ところで疑問の投げかけには、いまの例のように否定的な疑問形と、``Do you''と「するんですか?」に見られる肯定的な疑問形があるので、疑問の表現は$2$種類あるように見える。でも、そうじゃない。$2$種類というのは肯定文と否定文の$2$種類という意味である。疑問という形態は$1$種類であり、肯定文を疑問形で言うか、否定文を疑問形で言うかということだ。否定文は、肯定文を否定することだから、否定することを記号『$\neg$』で表そう。

さて、以上の記号を使って、あらためて英語と日本語を記号化すると$\dots$。

まず英語であるが、``Don't you''であれ``Do you''であれ、このような出だしは疑問文であるから、最初に使う記号は『?』であろう。しかし、``Don't you''は疑問の中でも否定の疑問であるから、『$\neg$』も同時に使われることになる。そして``speak English well''が続くので、結局``Don't you speak English well?''は『?$\neg$E』と記号化されるが、構造的には『(?$\neg$)E』と考えてよいだろう。(~)は強い結びつきを意味すると思ってほしい。

一方、日本語は「あなたは英語を話$\dots$」まででは単に『E』を表すだけで、これが肯定なのか否定なのか、さらには疑問文かどうかは分からない。『あなたは英語を話さない$\dots$』まで聞いて『E$\neg$』が分かり、『あなたは英語を話さないんですか?』でようやく『E$\neg$?』であることが分かる。これは『(E$\neg$)?』のような構造と考えてよいだろう。

さあ、これで分かったね。なぜ英語は``No, I don't.''と答えるかというと、『(?$\neg$)』すなわち``noなの''と聞かれているのだから``No,''と言うに決まってる。なぜ日本語は「はい、話しません。」と答えるかというと、『(E$\neg$)』すなわち「英語を話さない」と聞かれているのだから「はい、」と言うに決まってる。

要するに、英語の``Don't you 〜''は``〜''が何であっても聞かれているのは``noなの''かどうかなので、自分が``〜 でない''なら``No, I don't 〜''だし、``〜 である''なら``Yes, I do 〜''と答えるに過ぎない。これは``Do you 〜''と聞かれても同じである。つまり、他人が``Don't you 〜''で質問しようが``Do you 〜''で質問しようが知ったこっちゃないのであって、あくまでも自分の意見をそのまま伝えるのである。

しかし、日本語の「〜しないんですか?」は「〜しない」という言い分が正しいかどうかなので、相手の言い分が正しいなら「はい、〜しない」だし、そうでなければ「いいえ、〜する」と答えるに過ぎない。これは「〜するんですか?」と聞かれても同じで、相手の言い分が正しいなら「はい、〜する」だし、そうでなければ「いいえ、〜しない」である。つまり、相手が「〜しないのか?」で質問したか「〜するのか?」で質問したかが重要なのであって、相手の意見に対する返答をするのである。

こんな結論にすると、まるで英語を話す者は``自己中''で、日本語を話す者は相手を思いやるように聞こえるかもしれないね。まさか「そんなふうに思いませんよね?」

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