% 巴戦の確率

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\section*{▼巴戦の確率▼}

トーナメント戦なら最後の対戦で優勝者が決まるのだが、ひと通りの対戦が終わったにもかかわらず優勝を決定できないことがある。具体的には、大相撲で$15$日間の取組が終了したとき、最高成績がたとえば$12$勝$3$敗で複数人いる場合などだ。対象者が二人なら直接もう一番対戦するとか、$4$人以上ならトーナメント形式で決するとかの決まりがあるようだが、対象者が$3$人のときは巴(ともえ)戦を行うことになっている。

巴戦というのは、$3$人のうち二人が対戦者で一人が控えとなって、対戦で勝ったものが次に控えと対戦し、負けた者が控えに回るという仕組みで取組を続ける方法である。この間、最初に$2$連勝した者が優勝となる。

ちょっと考えると分かることだが、初めに控えに回った者は損である。なぜなら、控えは勝者と対戦するわけだから、ここで勝たない限り優勝の目はない。負ければ初めの取組で勝った者が優勝者だ。

一方、最初の対戦で負けても優勝の目は消えない。なぜなら、このときの勝者が控えに負ければ再度自分の対戦が訪れる。もちろん次は勝たなければならないのだが、チャンスが与えられることに変わりはない。

実際に、$3$人の実力が全くの互角と仮定して確率の計算をすると、最初の対戦者となる二人が優勝できる確率はともに$5/14$で、控えに回った者が優勝できる確率は$4/14$である(計算方法は述べないので、どこかのサイトで調べてみるとよいだろう)。

また、$3$人の実力がじゃんけんのように「三すくみ」の状態($A > B > C > A$)にあると、勝ち残りの者は必ず控えに負けてしまうので、永久に$2$連勝する者が現れないということが理屈の上では起こり得る。そこで「{\bfseries 同一相手に連敗したら脱落}」という規則を加えてみたらどうだろう。

すると、巴戦の取組は以下の$10$通りの場合しかあり得ない。最初の対戦がA-B(控えC)である。

\begin{center}
\small
$\begin{tabular}{l|c|c}
勝○ - 負●(■は脱落)& 優勝 & 確率\\ \hline
A○ - B●、\quad A○ - C● & A & $1/4$\\
A● - B○、\quad B○ - C● & B & $1/4$\\
A○ - B●、\quad A● - C○、\quad C○ - B● & C & $1/8$\\
A● - B○、\quad B● - C○、\quad C○ - A● & C & $1/8$\\
A○ - B●、\quad A● - C○、\quad C● - B○、\quad B○ - A● & B & $1/16$\\
A○ - B●、\quad A● - C○、\quad C● - B○、\quad B■ - A○、\quad A○ - C● & A & $1/32$\\
A○ - B●、\quad A● - C○、\quad C● - B○、\quad B■ - A○、\quad A■ - C○ & C & $1/32$\\
A● - B○、\quad B● - C○、\quad C● - A○、\quad A○ - B● & A & $1/16$\\
A● - B○、\quad B● - C○、\quad C● - A○、\quad A■ - B○、\quad B○ - C● & B & $1/32$\\
A● - B○、\quad B● - C○、\quad C● - A○、\quad A■ - B○、\quad B■ - C○ & C & $1/32$
\end{tabular}$
\end{center}

この結果、脱落が二人出て連勝せずとも優勝となることも生じるが、最初の対戦者となる二人が優勝できる確率はともに$11/32$で、控えに回った者が優勝できる確率は$10/32$となる。最初に控えに回った者が未だわずかに不利だが、途中で$1$回負けても優勝の可能性が残るし、二人が脱落して優勝する特典も付いているので、まずまず公平な規則ではないだろうか。

もっとも過去の巴戦の記録を調べてみると、勝ち負けが入り乱れて延々取組が続いたことはないようで、最初の勝者が連勝するか、控えが連勝するかして$3$番以内で決着がついている。$3$番以内で決着がつくならば、誰でも優勝の確率は$1/3$と考えてよい。なぜなら、最初の一番で対戦する二人は、次の勝負にも勝って$2$連勝しなければ優勝はない。$4$番めの対戦は回ってこないからだ。一方、最初に控えに回った者も$2$連勝しなければ優勝はない。つまり、誰もが相手の二人に連勝することが優勝の条件となり、まことに公平である。大相撲の巴戦においては、転ばぬ先の杖は要らないようだ。

\end{document}