% 算数っぽくない元号の計算

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\section*{▼算数っぽくない元号の計算▼}

和暦に使われる元号は「令和」で$248$番目になるそうだ。日本では同時に西暦も使っているので少々ややこしいこともある。それは、和暦を西暦に、もしくは西暦を和暦にする必要が生じたときである。日常生活において「慶應」以前の元号を西暦にすることはまずないだろう。しかし「明治」以降ならときどきそういう用途があるものだ。でも、実際はそんなにややこしいことはない気がする。足し算と引き算ができればよいのだから。

たとえば、昭和$57$年なら$25$を足して西暦$1982$年である。明治$10$年なら$67$を足して$1877$年となる。昭和は常に西暦$19$xx年だから迷うことはないが、明治は$40$年ならば$67$を足すと$107$になってしまうので、これは西暦$1907$年と読み換えなくてはならない。

西暦を和暦にするには引き算をすればよいが、ちょっと難しいことがある。西暦$1920$年だったら、それが明治か大正か昭和か分かっていなくてはならないからだ。西暦$1920$年は大正なので、$20$から$11$を引いて大正$9$年である。

このように単純な計算で変換できるのは、もちろん元号の元年が西暦何年かが分かっているからである。元号の元年と西暦の対応は
\begin{center}
\begin{tabular}{ll}
元号 & 西暦\\ \hline
明治元年 & 1868年\\
大正元年 & 1912年\\
昭和元年 & 1926年\\
平成元年 & 1989年\\
令和元年 & 2019年\\
\end{tabular}
\end{center}
である。このことから、昭和$\to$西暦は$+25$、令和$\to$西暦は$+18$などとなるのだ。で、一瞬、昭和は$+26$、令和は$+19$じゃないの?と思うかもしれないが、ちゃんと考えれば$1$少ないことは当然であると分かる。これは、たとえば「$100$mの区間に(両端を含めず)$20$mごとに木を植えるとき木は何本必要か」という算数の問題に通じる。必要な木の本数は$100\div20$ではない。起点と終点の両端を含めないので、それより$1$少ない。

そんなわけで元号の計算は算数っぽいと感じるだろうが、実際はもう一段上の思考が必要で、そこが少々ややこしい。

それは区間の年数を知りたいときに訪れる。たとえば、西暦$1996$年から西暦$2025$年までが何年間か知りたいとしよう。それは$2025-1996+1 = 30$年である。表現の問題もあるが、西暦$1996$年から西暦$2025$年までと言ったら、$1996$年と$2025$年は大雑把に$1$年分と考えるものである。大雑把なことが嫌いなら、○月○日まで計算に含めよう。でも、ここでは起点と終点の両端を含めているので$+1$が要る。なぜなら、$1996$年は起点---すなわち$0$---としてではなく、数え始め---すなわち$1$---とみているからだ。ここまでは算数的だ。

ただし、その先はむしろ数学っぽい。本質は元号をまたいだときに、それが何年間か知りたいときなのだ。平成$8$年から令和$7$年までは何年間だろう。それは、一旦西暦に直せば
\[
(2000+18+7)-(1900+88+8)+1 = 30
\]
と計算できる。でも、これって煩(わずら)わしくない?

実は、平成が$31$年間あったことから
\[
(31+7)-8 = 31+(7-8) = 30
\]
と計算できる($2$番目の式は後の式作りのために直したものだ)。おっと、今度は$+1$は必要ないの? そう、必要ないのだ。なぜなら、たとえば平成の$31$年目は令和の$1$年目にあたるので、数え始めが起点になるからで、ここに$+1$が含まれる。元号と年数の対応は
\begin{center}
\begin{tabular}{ll}
元号 & 年数\\ \hline
明治 & 45年間\\
大正 & 15年間\\
昭和 & 64年間\\
平成 & 31年間\\
\end{tabular}
\end{center}
であるから、他の場合も同じだ。ここでも、平成の$31$年間というのは前述の考えと同様に、元年と最後の年は大雑把に$1$年として数えている。

しかし、元号を$2$回以上またぐときは注意が要る。たとえば、明治$25$年から平成$15$年までは$45+15+64+(15-25) = 114$年ではない。この場合は元号を$3$回またいでいるので、数え始めの起点を$3$回含んでいることになる。したがって、$+1$が$3$回加算されてしまった。$+1$は起点と終点を$1$年分と数えるために必要なので、元号を何回またごうとも$+1$は$1$回加えればよい。$2$回加算し過ぎだ。よって、$114-2 = 112$年間が正しい。

ここには、植木算だから$1$を足すだとか、円周上に木を植えるから$1$は足さないとかの形式的な手順を当てはめるだけでは解決できないものがある。要するに仕組みを理解した上で計算しなければならない。小学校で行われる算数の授業は、仕組みを考えさせるように構成されているかもしれないが、結局は「○◯算のときはこう解く」みたいなことになっている。

年号の計算も突き詰めれば、「西暦・和暦の変換なら〇〇」「元号を$1$回またぐ期間なら〇〇」「元号を$2$回以上またぐ期間なら〇〇」のようになるのかもしれないが、取っ掛かりの時点では仕組みの理解が欠かせないはずだ。元号には、単に形式的な計算ではうまくいない場合があることが算数っぽくないのだ。

でも、もう一歩踏み込むと数学的な発想になるものだ。元号をまたぐときは、前の元号の終点と次の元号の始点が重なるので、元号の年数は$1$少なく数えることになる。このことから平成$8$年から令和$7$年までの計算は
\[
(31-1)+(7-8)+1 = 30
\]
である。式だけを見ると無駄な$-1$と$+1$を増やしたように見えるだろうが、実際はこれが公式となる。すなわち、明治$25$年から平成$15$年までなら
\[
(45-1)+(15-1)+(64-1)+(15-25)+1 = 112
\]
となるのだ。

元号をネタに、形式的に問題解決をする風潮について皮肉を言ってるように聞こえたかな? まあ、そうかもしれないね。

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