% 数学って難しいの?

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\section*{▼数学って難しいの?▼}

数学なんて嫌いだ。だって、訳わかんないし難しいから。こう言う人は多いよね。うん、その通り。みんなよく分かってるじゃないの。嫌いになるのも無理ないよね。

でも、嫌いになる理由が訳わかんないからというならまだしも、難しいからというのはいただけない。難しいなら楽しいはずだから。

バカかお前は、と言われそうだが、難しいことを嬉々としてやっている人は多いものだ。ゴルフって難しいと言いながら早朝の薄暗い時間からゴルフコースへ向かうとか、このゲームはムズすぎるなんて言いながら寝る間を惜しんで没頭するとか、いやあ難しいもんだなあと言いながら俳句に興じているとか、結構あちこちで難しいことを楽しんでいるじゃないか。

だけど数学はみんなやらないよね。要するに難しくないからやる意味がないってこと?

きっとそうなんだろう。たとえば積分を例にとれば、
\[
x \to \frac{1}{2}x^2,\qquad x^2 \to \frac{1}{3}x^3,\qquad x^3 \to \frac{1}{4}x^4,\qquad \dots
\]
の流れを見て次の$x^4$の積分が何になるかは簡単に想像できる。で、積分した式の$x$に$4$や$1$を代入して引き算すれば、積分する前の式が$1$から$4$までに囲む図形の面積になる。これは小学校$5$年生にも分かることだね。なんで、高校生にもなってやるのさ。

そう、現代では数学は簡単なのだ。なぜこれほど簡単になっているのかと言えば、本来は難しいことが整理されて、多くの人が使える「道具」が発達したからである。この場合の道具とは、いわゆる公式である。定式化すれば扱いやすくなるのだ。

実は世の中にはその手のものが増えている。「◇◇の○○風△△ソテー□□添え」みたいな何時間もかけて調理する難しい料理も下ごしらえが済んだ材料を温めるだけとか、命令文を書き連ねて作る面倒なプログラミングもブロックを組み合わせて並べるだけとか、大勢の人が測量しながら造成する手間がかかる作業も機器の設定をしてボタンを押すだけとか、結構定式化が進んでいる。楽ちんだね。でも、きっとのめり込むほど楽しくならないかも。

のめり込めない理由は定式化されているから。だって、決まった範囲のことまでしかできないじゃない。下ごしらえが済んだ材料ではこだわりの味付けは難しい。ブロックで組むプログラムでは細部を制御するのは難しい。決められた設定を選んでボタンを押すだけでは特殊な成形は難しい。つまり「職人技」が使えないのだ。

みんなが難しいことにのめり込むのは職人技を身につけたいからだろう。だから、ゴルフの技に挑戦したい、ゲームのテクを極めたい、玄人はだしの一句を創りたい、のである。もし、振るだけで勝手に飛ぶゴルフクラブやら、勝手にステージが上がるゲーム機やら、お題を与えて佳作を勝手にひねるAIやら、があったらみんな使うだろうか。たぶん使わないだろう。

でも、数学の面倒を解決してくれる機械ならみんな望むはずだ。おっと、望む必要はない。だって、機械ではないけど面倒を解決してくれるものなら既にあるからだ。前にも言ったように、公式や定式化された解法がそれである。つまり、数学はそれほど難しいものではなくなってきている。公式が勝手にやってくれるからだ。あ、だからか。そういうことだからみんな数学が楽しくないんだ。

そう、数学はすでに何百年もかけて「勝手クラブ」「勝手ゲーム機」「勝手AI」の類(たぐい)を手に入れている。そういうのはたまに使うから便利なのであって、そればっかりじゃ嫌になるのは当たり前だね。もう「勝手計算」の類は機械に任せようじゃないか。この部分は難しいことではなくなっている。人がやって楽しいことはないのだ。だからこれからは、数学の職人技に相当する部分を掘り下げるべきだね。そこは難しいけど楽しいところだから。

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