% おひとり様の憂鬱(ゆううつ)
\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's Math Page}
\renewcommand\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\section*{▼おひとり様の憂鬱(ゆううつ)▼}
何かの折に、ひとりでタクシーを利用したとする。タクシー券なんて気の利いたものがなければ当然自腹を切るのだが、移動した距離の割に『うへっ』と思う料金だったりするものだ。『しまった、誰かと相乗りすればよかった』。そうすれば支払いは半額で済んだのにね。
タクシーに限らず、複数人で利用できるものをひとりで利用する場合、大体は割高になるものだ。なにしろ割り勘にできないから。これはおひとり様にとっては憂鬱であるが、実は支払いを受ける方も憂鬱だと思う。とくに旅館業なんかは。
旅館などの宿泊料金は、多くの場合
\begin{center}
\begin{tabular}{l|ccc}
部屋 & ご利用人数 & おひとりの料金 & 宿泊費の合計 \\ \hline
& $2$人 & $17{,}000$円 & $34{,}000$円 \\
△△の間 & $3$人 & $15{,}000$円 & $45{,}000$円 \\
& $4$人 & $13{,}500$円 & $54{,}000$円
\end{tabular}
\end{center}
のように、同じ部屋であっても利用人数によってひとりあたりの料金が違うものである。人数が多いほどひとりあたりの占有空間が狭くなるので、多人数ほど割安に設定しているのかもしれない。
でも、他の理由もあるだろう。上の表はかなり作為的に作っているけど、料金の想定は、ひとりが食べる夕食・朝食やひとりが使うタオル・寝具などにかかる費用を$8{,}000$円としてみた。それで一万円以上請求するのか、と思ってはいけない。旅館は部屋の維持・修繕にもお金がかかるものだ。一棟を何年で償却するかにもよるが、この例では一部屋の日割り償却費を$20{,}000$円としてみた。だから実際は
\begin{center}
\begin{tabular}{l|ccc}
部屋 & 人数 & ひとりの料金($食事+償却費の均等割$) & 旅館の収入 \\ \hline
& $2$人 & $18{,}000$円($8{,}000+10{,}000$)& $36{,}000$円 \\
△△の間 & $3$人 & $14{,}666$円($8{,}000+6{,}666$) & $44{,}000$円 \\
& $4$人 & $13{,}000$円($8{,}000+5{,}000$) & $52{,}000$円
\end{tabular}
\end{center}
のように計算されるはずなのだ。
しかし、これを正直に請求すると半端がある上に、$3$人、$4$人に比べ$2$人のときの料金がかなり割高に見えてしまう。そこで、料金差を縮めた料金表が先のものである(宿泊者の割合が$2人:3人:4人 = 2:2:1$のとき、総収入が同じになるようにした)。
さて、ここにおひとり様が宿泊するとどうなるだろう。旅館にしてみれば$(8{,}000+20{,}000)$円の費用がかかるのだから、正直に$28{,}000$円を請求したいものだ。しかし、それではあまりに高額すぎる。他の人数とのバランスを考えれば$20{,}000$円ほどが妥当じゃなかろうか。で、不足分する$8{,}000$円は$2$人以上の客に上乗せするか? たとえ上乗せできたとしても、おひとり様が殺到する事態になったら困る。赤字の可能性も視野に入るじゃないか。ああ、憂鬱である。
憂鬱の根源は均等割にある。$100$(未分割)を均等割すれば$50$($2$等分)、$33.3$($3$等分)、$25$($4$等分)、$20$($5$等分)、$\dots$となるが、減少幅は$-50$、$-16.6$、$-8.3$、$-5$、$\dots$である。明らかに、未分割から$2$等分のところだけ突出して減少幅が大きい。これがおひとり様にのしかかるのだ。これを和らげるには、日割りの償却費が小さくなければならない。たとえば償却費が$2{,}000$円だったら、ひとりのときの料金は$(8{,}000+2{,}000)$円/人であり、$4$人のときの料金は$(8{,}000+500)$円/人ということだ。至極、妥当に思える。
でもね。正直に計算した、ひとりのときの料金が$28{,}000$円/人で、$4$人のときの料金が$13{,}000$円/人だって至極、妥当なんだよ。じゃあ、相応の対価でやりとりすべきかというとそうでもない。世の中は杓子定規にできないものだからね。割り切った考えにならないのは、なんとも憂鬱なものである。
\end{document}