% 値段が上がっている最中は...

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\begin{document}

\section*{▼値段が上がっている最中は$\dots$▼}

まずは問題から。給料が一年で$8$千円ずつ増額する契約(A)と、半年で$4$千円ずつ増額する契約(B)はどちらが得か? 言葉づらだけ読めば、半年で$4$千円は一年で$8$千円と同じ割合に見える。しかし実際は、半年で$4$千円ずつ増額する方が断然得だ。よく知られた話だと思う。

そのことを確かめるには、手間を惜しまず一覧表にでもするとよい。たとえば最初に$10$万円---$100$千円ということだね---から始まるとしよう。

\begin{center}
\begin{tabular}{c||c|c||c|c||c|c}
& 0年1--6月 & 0年7--12月 & 1年1--6月 & 1年7--12月 & 2年0--6月 & $\dots$ \\ \hline\hline
A & 100千円 & 100千円 & 108千円 & 108千円 & 116千円 & $\dots$ \\ \hline
B & 100千円 & 104千円 & 108千円 & 112千円 & 116千円 & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}

見ての通り、半年で$4$千円ずつ増額する契約(B)の方が各年の後半部分で$4$千円多い。もしこれが四半年で$2$千円ずつ増額する契約(C)であったなら
\begin{center}
\begin{tabular}{c||c|c|c|c||c|c}
& 0年1--3月 & 0年4--6月 & 0年7--9月 & 0年10--12月 & 1年1--3月 & $\dots$ \\ \hline\hline
C & 100千円 & 102千円 & 104千円 & 106千円 & 108千円 & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
となって、(B)よりさらに好条件となる。つまり、小刻みに金額が上がる方が総額は多くなる。

逆に、給料が減額される場合を考えてみよう。たとえば、給料が一年で$8$千円ずつ減額する契約(A$'$)と、半年で$4$千円ずつ減額する契約(B$'$)としよう。この場合は
\begin{center}
\begin{tabular}{c||c|c||c|c||c|c}
& 0年1--6月 & 0年7--12月 & 1年1--6月 & 1年7--12月 & 2年1--6月 & $\dots$\\ \hline\hline
A$'$ & 100千円 & 100千円 & 92千円 & 92千円 & 84千円 & $\dots$\\ \hline
B$'$ & 100千円 & 96千円 & 92千円 & 88千円 & 84千円 & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
となるから、小刻みに金額が下がる方が総額は少なくなることが分かる。もちろん、四半年で$2$千円ずつ下がれば打撃はより大きい。

すると結論として、
\begin{enumerate}
\item[] 「値段が上がっている最中は小刻みに分ける方が``得!''」
\item[] 「値段が下がっている最中は小刻みに分ける方が``損!''」
\end{enumerate}
となるね。ふう、参ったね、どうも。間違ってるよ。正しくは、
\begin{enumerate}
\item[] 『値段が上がっている最中は小刻みに分ける方が``総額が多くなる''』
\item[] 『値段が下がっている最中は小刻みに分ける方が``総額が少なくなる''』
\end{enumerate}
である。得か損かというのは、総額が多く(少なく)なったとき、その額を受け取るか支払うかでまるで逆になるはずだろう。

世の中には短絡的に損得勘定をする人が少なからずいるようで、``支払うべき''ものの値段が上がっているのに小刻みに分けて支払っている。何のことかって? たとえばガソリンの値段だ。ガソリンの値段が上がり始めると、なぜかいつも満タン(たとえば50L)で行っている給油を「$20$Lだけ」とか言って小刻みに入れるのだ。ガソリンの値段が上がっている最中に小刻みに給油すると、支払う総額が多くなるのは上の例からも明らかだというのに。きっと、給油所に儲けさせてあげようと思ってるんだね。

もし、ガソリン代を節約しようと思うなら、ガソリンの値段が下がっている最中にこそ小刻みにすべきで、上がっている最中は常に満タンにしなくてはならない。しかし、この先数週間のガソリンの値段を正確に予測することってできるのだろうか。予測可能なら給油の量を最適に調整できるだろうが、予測不可能なら給油の量を調整する意味はない。

投資の世界ではよく行われている方法\footnote{ドルコスト平均法と呼ばれる。}だが、たとえば毎月ゴールドを積み立てるとき、「月々$10$g」というように一定の``量''を買うのではなく、「月々$1$万円」というように一定の``額''を買うことにするのである。月々$1$万円と決めると、ゴールドの値段によって、ある月は$8$gしか買えないがある月は$12$g買えるということが起こる。でも、値段が上下するのであれば、一定期間後のゴールド保有量に対する投資額は有利になる。

もしガソリンを小刻みに給油するのであれば、「毎回$20$L」という一定量を給油するのではなく、「毎回$2$千円」という一定額を給油する方がまだマシかもしれない。ただし、それはガソリンの値段が上がり下がりを繰り返すことが前提である。そうでなければ、むしろ浪費になる可能性が高い。でもね。よほど大量にガソリンを消費するのでなければ、小刻み給油の恩恵は微々たるものじゃないかな。そんなみみっちいことを気にする人が車なんて所有しちゃダメでしょ。

\end{document}