% ナゾの計算規則

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\section*{▼ナゾの計算規則▼}

ときどき、サイトの片隅で妙な計算が話題になることがある。たとえば、$14\div2(3+4)$の答はいくつか?

ぱっと見、$2(3+4)$のまとまりが$2\cdot7 = 14$だから、$14\div2(3+4) = 1$に思える。しかし、$2(3+4)$は$\times$が省略された記述なので、$14\div2(3+4) = 14\div2\times7 = 49$とも思える。どっちが正しいのだろう、ということで賑(にぎ)わうのだ。

私からすれば「勝手にやってなさい」と言いつつ、これを話題にして参加しているようなものなのでバツが悪いが、とりあえず$14\div2(3+4) = 49$として話を続けよう。しかし、これが数学的に完璧に正しいと主張するつもりはない。なぜなら、この記述の解釈が明確に定義されていたり、万人に浸透しているとは思えないからだ。要するに``あやふや''な状態に置かれているので、人それぞれ異なる解釈があって当然である。

では、何が問題なのだろう。それは、たとえば電話で「式は、$a$足す$b$分の$c$だよ」と言われたときに似たモヤモヤを含むことだ。それって、$a+\displaystyle\frac{c}{b}$なの? $\displaystyle\frac{c}{a+b}$なの?

もちろん、電話であることを前提に正確に伝えなけらばいけないとしたら、分子がどうの、分母がどうのと言うかもしれない。しかし、余分な言葉を付け加えずに伝えるとしたらどうしよう。おそらく
\begin{quote}
\begin{tabular}{lcl}
$a$足す(間をおいて)$b$分の$c$ & $\leftrightarrow$ & $a+\displaystyle\frac{c}{b}$\\
$a$足す$b$(間をおいて)分の$c$ & $\leftrightarrow$ & $\displaystyle\frac{c}{a+b}$
\end{tabular}
\end{quote}
とでも言うだろう。もっとも、互いに、間が分数の区切りであると意識していなければ成り立たない。その上、正確に伝わる保証はないのである。

また、$1$行で分数を記述しなければならないとき、$a/bc$が$a\div(bc)$なのか$a\div b\times c$なのかも、人それぞれの感覚の違いで解釈が異なる。正しい意味を伝えるなら、$a\div(bc)$は$a/(bc)$と書かなければならないし、$a\div b\times c$は$(a/b)c$と書かなければならない。括弧の使い方が重要なのだが、括弧を書くのは煩わしいし、多くの人は自分勝手に解釈しているから混乱するのだ。実際、私もこのエッセイのために自分勝手に解釈させてもらった。

私の解釈は、そもそも$14\div2(3+4)$の記述が規則違反だ。規則違反は$\times$を書いていないことである。にも関わらず$14\div2(3+4) = 49$と解釈したのは、
\begin{itemize}
\item 文字を含む式は$\times$を省略できる
\item 記号$\div$は分数で表す
\end{itemize}
という、中学生になってはじめに習う約束が根拠である。$\times$は\textbf{文字を含む式}で省略するのが基本である。数だけの式なら省略しないものだ。

誰も$54$を$5\times4$とは考えないだろう。もし、$\times$を省略したいなら$\cdot$を使えばよい。$\times$が$\cdot$になって省略と言うのも変だが、$5\times4+3\times2\times1$より$5\cdot4+3\cdot2\cdot1$の方が、和より積が優先であることを示しやすい。

しかし、$14\div2(3+4)$は括弧がある---拡大解釈すれば括弧は文字である---ために$14\div2\times(3+4)$を省略したと思えば、$\times$, $\div$が複数ある式は先頭から順に計算するのが規則だから$49$が正解だろう、と勝手に思うのである。そして実際、$2(3+4)$は自然な記述で誰もがしていることだ。

とは言え、$\times$の省略で和より積が優先であることを示しやすいと(勝手に)考えれば、$14\div2(3+4)$が$14\div\{2(3+4)\}$に見えて1になるのも致し方ないのである。もし$14\div2(3+4)$ではなく、$14\div2\sqrt{7}$と提示されたら、誰もが$14/(2\sqrt{7}) = \sqrt{7}$とするだろう。$14\div2\times\sqrt{7} = 7\sqrt{7}$とする人はまずいないはずだ。

だったら、$14\div2(3+4)$は$14\div\{2(3+4)\} = 1$と解釈するのが自然じゃない?と言うかもしれないね。別にそれでもいいけど、私は$2\sqrt{7}$は\textgt{数値}と見るが、$2(3+4)$なら\textgt{数式}と見ると言いたいのである。$2\sqrt{7}$って$2\times\sqrt{7}$として計算できるけど、実際は$2\sqrt{7} = \sqrt{28}$という数\.値だ。$2(3+4)$という数\.式とは性質が異なる。

まあ、このような話題は酒の席で延々と議論されるにはうってつけだろう。だから、数だけの式において$\times$は省略してはいけない、などと主張するつもりはないし、話題のためにはあやふやのままの方が望ましい。正確に伝えたければ括弧を使えばよいのだ。そのため括弧には、丸括弧$(\ )$、波括弧$\{\ \}$、角括弧$[\ ]$など、何種類もの括弧が用意されているのだから。

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