% 困ったちゃんは改心させられない
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\section*{▼困ったちゃんは改心させられない▼}
誰もが``困ったちゃん''に遭遇したことがあるはずだ。私がここで言う困ったちゃんとは、「どうして○○してはいけないんですか。納得できるように説明してください」などと言っておきながら、誰がどんな説明をしても頑として納得しない人のことだ。残念ながら私はこのような人たちを納得させることはできない。それどころか、このような人たちを改心させられないことを証明しようと思う。
たとえば「どうして人を殺してはいけないのですか」などと言って困らせる人がいるとしよう。私たちは大抵、そんなの常識だろとか、法律で決まってるじゃないかとか、法律以前に人間としての約束なんだよとか、あらゆる説明をするのだが、でも納得してくれない。とーぜん、だね。だって、納得できない理由を証明できるんだから。
まず、なぜ困ったちゃんが、人を殺してはいけないかに対する回答をことごとく否定するかと言えば、根底に「人を殺してもよい」という考えがあるからだろう。本気でそう信じているかどうかは別にして、当人の心の中には人を殺してよい理屈が存在しているのである。あー、言葉遣いが間違ってるよ。よく「規則は破るためにある」などと嘯(うそぶ)く輩(やから)がいるが、困ったちゃんの考えはそれと同じだ。「人は殺されるためにいる」「商品は万引きするために陳列されている」みたいな。でも、間違い。これらは正しくは
\begin{center}
「規則は破ることができる」\quad「人は殺すことができる」\quad「商品は万引きすることができる」
\end{center}
だ。まあ、言葉遣いに関してはどっちでもいいや。いずれにせよ、``良くないこと''であるってのが肝心なとこだから。つまり、現代社会においては間違ったことなんだ。こういうのは数学の世界で\textbf{偽(ぎ)}という。
さて、ここで少し数学の横道に逸(そ)れてみる。たとえば
\begin{center}
実数$x$が負の数ならば、$2\times x$は負の数である
\end{center}
という命題は正しい。「実数$x$が負の数である」という仮定に問題はないし、「$2\times x$は負の数である」という結論にも問題はない。このとき、命題は\textbf{真(しん)}であるという。命題が真である理屈は、正しい仮定から正しい結論が導かれていることによる。
一方で、
\begin{center}
実数$x$が負の数ならば、$2\times x$は正の数である
\end{center}
という命題は偽である。理屈としては、正しい仮定であるにもかかわらず結論が正しくないことによる。
ところが、である。数学の世界では
\begin{center}
実数$x^2$が負の数ならば、$2\times x^2$は正の数である
\end{center}
という命題は、なんと真である。ちょっと待って。仮定の「実数$x^2$が負の数」ってあり得ないでしょ。間違った仮定から始まる命題が何で真なのさ、と思った人。きちんとした理屈は高校の教科書・参考書に載っているので、そちらを見てもらいたい。日常の感覚では、仮定が間違ってる命題は偽であると思うかもしれないが、実は日常の感覚に従えば、仮定の段階から間違っている話なら、もう何でも有りだろということなのである。
漫画読んでる? 漫画における仮定は登場人物にあたると思ってよい。こんな人物がいました、という仮定から話は始まる。でも現実には妖怪だのしゃべる犬なんていないんだよ。すなわち仮定は偽だ。そして漫画では「うそだろー」ってことが、しょっちゅう起こる。ほらね、仮定が偽なら何でも有りでしょ。
で、話をもとに戻そう。どこに戻るんだっけ。あ、そうだ、「どうして人を殺してはいけないか」という考えが偽ってところだ。困ったちゃんは偽である考えに取り憑かれている。つまり、その先は何でも有りってことだ。
「人を殺しちゃいけない理由? 常識だろ!」『常識ってのは人それぞれの主観だよね。主観に頼るんなら、人を殺してもいいんじゃない?』
「人を殺しちゃいけない理由? 法律で決まってるじゃん!」『それは人を殺したら裁かれるって規則があるってことだよね。人を殺すこと自体はいいんじゃない?』
「人を殺しちゃいけない理由? 人間としての約束なんだよ!」『いつ約束したの。私は約束した覚えはないから、人を殺してもいいんじゃない?』
結局、困ったちゃんの仮定が偽なんだから、結論である他人の反論はすべて偽、自分の言い分はすべて真、というのは有りである。数学的な見地から見ても理にかなっちゃうので、困ったちゃんを納得させるのは無理なことなのである。
\end{document}