% 古風な正多角形
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\section*{▼古風な正多角形▼}
たとえば正五角形。ワードプロセッサで「せいごかっけい」と入力すると、たいていは「正五角形」と変換するようである。しかし「せいじっかっけい」はたいていダメである。「正十角形」を出したければ「せい``じゅっ''かっけい」としなきゃいけないという話ではない。これでもダメなことが多い。そもそも「十」は「じっ」と読むのが正しいはずだ(自信はないが)。まあ、そんなことはどうでもよい。数学の世界で正多角形を表す言い方は
\begin{center}
正n角形\quad($n \ge 3$)
\end{center}
とすれば間違いない。こんな書き方があるからこそ、正$n$角形の内角の和は$180\times(n-2)^\circ$である、などという言い方が可能なのだ。
その点を強調するなら、むしろ漢数字を用いた書き方、たとえば「正三角形」などは邪道である。ただ、多くの人は習慣でそう書くだろう。しかし、正$123$角形に対して「正百二十三角形」と書く人がいるとは思えない。ましてや、「正壱佰弐拾参角形」とか「正百廿三角形」とか書くはずがない。じゃあ、正$9$角形なら「正九角形」と書く? 正$17$角形なら「正十七角形」と書く?
なかなか微妙な問題である。こういう問題は、そもそも習慣が影響しているから、数学的にどうのこうの言う話ではないだろう。きっと多数決を取れば、正$3$角形と正三角形なら正三角形の勝ちとかなるんだろうけど。
しかし、私は批判を覚悟で言いたいのだ。正多角形は「正$n$角形」と書くのが正統な表現であると。
批判を覚悟しているのは、この発言ではない。こう言っておきながら私はほとんどの場合「正三角形」と書く。当然ながら、このことに対する批判を覚悟している。でも、あえて言おう。正三角形は特別なのだ。だから「正三角形」と書くのを許す。正五角形も特別である。だから、これも「正五角形」と書くのを許す。理由は、ワードプロセッサが上手に変換するからではない。これらの正多角形は古風だからだ。
では、古風な正多角形って何だろう。それは
\begin{center}
定木とコンパスのみを使って作図できる正多角形
\end{center}
のことだ。``定規''でなく``定木''と書いたことに注意してほしい。目盛がないって意味だ。古風でしょ。
$n = 3$, $4$, $5$, $6$ならこの条件で作図できることはよく知られている。したがって「正四角形」と「正六角形」も許す。他にどんなものがあるのだろう。このことについては、ガウスが結論を出している。それは$n$が
\begin{itemize}
\item $n = 2^k$
\item $n = 2^{2^k}+1$
\item $n = 上記2種類の積$
\end{itemize}
を満たす場合である。すなわち$n = 4$, $8$, $16$, $32$, $\dots$は許される多角形である。$n = 3$, $5$, $17$, $257$, $\dots$も許される。で、これらの積$n = 12$, $20$, $24$, $40$, $\dots$もよい。残念ながらこの中に$9$はないので、正九角形は許されないということになる。
結論である。正多角形は「正$n$角形」と書くのが正統だが、$n$に漢数字を当てることができるのは、
\[
n = 3,\ 4,\ 5,\ 6,\ 8,\ 12,\ 16,\ 17,\ 20,\ \dots
\]
である。もし、どうしても算用数字を使いたくない---たとえば「正$7$角形」を漢字で表したい---というのであれば、正四角形を正方形と呼ぶように、正$7$角形に新しい呼び方を与えてもらいたい。
\end{document}