% ゲーム差無視のマジックナンバー

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\section*{▼ゲーム差無視のマジックナンバー▼}

日本のプロ野球は、シーズン終盤になればリーグ優勝するチームが気になるものである。このとき、優勝までのカウントダウンを測るマジックナンバーが示されることがよくある。マジックナンバーとは、優勝に近いチームが{\gt 対象とする他チームに対して}、自軍があと何勝で---裏返せば、対象チームがあと何敗で---優勝できるかを表す数である。具体的には、{\gt 対象の他チームが残り試合を全勝すると仮定}したとき、優勝に近いチームが優勝するために必要な勝ち数を表している。

たとえばAチームとBチームが以下の状況で優勝を争っているとき、
\begin{center}
\begin{tabular}{ccccccl}
チーム & 勝 & 負 & 分 & (試合残) & ゲーム差 & (対戦残)\\ \hline
A & $70$ & $55$ & 5 & $(13)$ & --- & ┐ \\[-12pt]
&&&&& & ├(3) \\[-12pt]
B & $65$ & $58$ & 6 & $(14)$ & $4$ & ┘ \\
\end{tabular}
\end{center}
AチームにはマジックナンバーM$10$が灯(とも)る。なぜなら、Bチームが残り$14$試合を全勝する---つまりAチームは(Bチームとの対戦残$3$試合のため)必ず$3$敗する---としても、Aチームはそれ以外で$10$勝すればよいからだ。その結果、Aチーム:$80$勝$58$敗、Bチーム:$79$勝$58$敗で、AチームがBチームを上回る。

念のために書いておくが、マジックナンバーとは当該$2$チームに対して示される数字である。小学生なら言いそうなことだが、あるチームXだけが開幕$3$連勝でシーズンが明けたとき『Xのマジックナンバーは$140$だ!』とはならない。XがYに対してマジックナンバーが出る条件は、Yの残り試合が全勝と仮定することであるから、その場合Xは$140$勝できない。でも、そのシーズンはもうΧ対Yの試合がないなら、XはYに対してM$140$である。しかし他にもチームはあるのだから、他のチームが全勝すると仮定したら当然Xは$140$勝できない。つまり、そんな早い時期にマジックナンバーが出ることはないのである。もしXがM$140$となるなら、Xはそのリーグの他のチームと対戦をしない場合に限る。じゃあ、Xはどこで試合するの?

ところで、ときどきマジックナンバーが現在$2$位のチームに灯ることがある。理由は、マジックナンバーが当該$2$チームの関係を表す数字だから。そのため$2$チームの上位下位には無関係で、単に一方が残り試合を全勝したときに、もう一方が何勝で優勝ラインに届くかが問題になっているに過ぎない。したがって、現在$3$位のチームであってもマジックナンバーが灯ることはある。たとえば
\begin{center}
\begin{tabular}{cccccclll}
チーム & 勝 & 負 & 分 & (試合残) & ゲーム差 & \multicolumn{3}{c}{(対戦残)}\\ \hline
飛雄馬スターズ & $69$ & $58$ & 7 & $(9)$ & --- & ┐ & & ┐ \\[-12pt]
&&&&& & ├(2) & & | \\[-12pt]
花形モーターズ & $68$ & $58$ & 7 & $(10)$ & $0.5$ & ┘ & ┐ & ├(2) \\[-12pt]
&&&&&& & ├(2) & | \\[-12pt]
豊作アグリーズ & $67$ & $58$ & 2 & $(16)$ & $0.5$ & & ┘ & ┘ \\
\end{tabular}
\end{center}
のような場合がその例に当たる。

飛雄馬スターズと花形モーターズの間にマジックナンバーは灯らない。なぜならどちらのチームも、相手が残り試合全勝なら自軍は$2$敗を喫するので、相手を上回る勝ち数が望めないからだ。

しかし豊作アグリーズは、飛雄馬スターズに対してM$14$を灯すことが可能だ。なぜなら、飛雄馬スターズが全勝して$78$勝$58$敗(勝率$.5735$)になっても、豊作アグリーズは残りを$14$勝$2$敗で$81$勝$60$敗(勝率$.5745$)になる---当然花形モーターズには$2$勝する---からだ。同じことは花形モーターズに対しても言えてM$14$を灯すことができる。なぜなら、花形モーターズが全勝して$78$勝$58$敗(勝率$.5735$)になっても、豊作アグリーズは残りを$14$勝$2$敗で$81$勝$60$敗(勝率$.5745$)になる---当然飛雄馬スターズには$2$勝する---からだ。

都合のよい作り話かもしれないが、このように接戦でありながら残り試合数に差があるならば、常識の範疇を越えることは起こるものだ\footnote{首位のチームにマジックナンバーが灯ったとき、その対象チームが最下位ということもあり得る(Fを対象に、AにM$1$が灯る)。\par \begin{tabular}{ccccccll}
チーム & 勝 & 負 & 分 & (試合残) & ゲーム差 & \multicolumn{2}{c}{(対戦残)}\\ \hline
A & $69$ & $66$ & 4 & $(4)$ & --- & ┐ & ┐ \\[-8pt]
&&&&& & ├(1) & | \\[-8pt]
B & $71$ & $71$ & 0 & $(1)$ & $1.5$ & ┘ & | \\[-8pt]
&&&&&& & | \\[-8pt]
C & $71$ & $71$ & 1 & $(0)$ & $0$ & & | \\[-8pt]
&&&&& & & ├(3) \\[-8pt]
D & $70$ & $70$ & 3 & $(0)$ & $0$ & & | \\[-8pt]
&&&&& & & | \\[-8pt]
E & $70$ & $71$ & 2 & $(0)$ & $0.5$ & & | \\[-8pt]
&&&&&& & | \\[-8pt]
F & $68$ & $70$ & 2 & $(3)$ & $0.5$ & & ┘ \\
\end{tabular}
}。

\end{document}