% 誤情報は拡散する
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\section*{▼デマや誤情報は拡散する▼}
SNSが大流行(おおはや)りの昨今、デマや誤情報が拡散されている。でも、そんなことはネット社会が来る前から蔓延(はびこ)っていたのである。ただ、人目(ひとめ)につきにくかっただけで。だって、デマや誤情報が広がる理由は、梅雨時に雨が降りやすいってことぐらい自然なことだからだ。
その理由は「人は、知らないことの方が知っていることより圧倒的に多い」というものである。その上で、「人は知らないことを聞くと、『へえ、そうなんだ』と感じることが『いや、それ違うよ』と感じることより圧倒的に多い」からだ。なぜなら、『それ、違うよ』と言えるためには正しいことを知っている必要があるが、知っていることは知らないことよりはるかに少ない。だから『へえ、そうなんだ』となる。
もし、『へえ、そうなんだ』と思った後に『いや、ちょっと待てよ』と考え直せば、聞いたことの真偽を確かめられただろう。でも、そんなことする人はあんまりいない。
ちょっとモデルを使って調べよう。人は知らないことが$90$\%、知っていることが$10$\%であると仮定すると、聞いた話Xが初めて聞く話である可能性は$90$\%、知ってる話である可能性は$10$\%だ。その上で、『へえ、そうなんだ』と反応するのが$90$\%、『いや、ちょっと待てよ』と反応するのが$10$\%であると仮定すると、聞いた話Xがデマや誤情報なら、Xがそのまま伝わる---つまりデマが広がる---可能性は$90\%\times90\% = 81$\%である。で、そうでない---つまりデマが訂正される---可能性は$19$\%となる。
さて、ある人が話Xを聞いて他の人に伝える場合、その伝わり方は
\begin{center}
\begin{tabular}{|l|l|l|l}\cline{1-3}
0層 & 1層 & 2層 & \\ \cline{1-3}
話X & Xのまま $81$\% & (Xのまま)のまま $81\%\times81\% = 65.61$\% & (話Xのまま)\\ \cline{3-3}
&& (Xのまま)の訂正 $81\%\times19\% = 15.39$\% & (話Xの訂正)\\ \cline{2-3}
& Xの訂正 $19$\% & (Xの訂正)のまま $19\%\times81\% = 15.39$\% & (話Xの訂正)\\ \cline{3-3}
&& (Xの訂正)の訂正 $19\%\times19\% = 3.61$\% & (話Xのまま)\\ \cline{1-3}
\end{tabular}
\end{center}
となるだろう。2層目に伝わったとき、話Xのまま伝わる可能性は$69.22$\%、話Xが訂正されて伝わる可能性は$30.78$\%である。話が訂正されて伝わる可能性は少し増えている。もし話Xがデマや誤情報だった場合、誤情報が訂正されて伝わる可能性が増えるのはよい兆候である。しかしこれが繰り返されても、すべてが正しい情報に置き換わることはない。最終的には$50\%$-$50\%$に収束するだけだ。はじめのうちは誤情報の方が多数なので、全体では誤情報の勢力の方が多いことになる。
それでは逆に、話Xが正しい情報だったらどうだろう。同じことが繰り返されるなら、やはり最終的に$50$\%-$50$\%に収束し全体では正しい情報の方が多いことになるだろう。いずれにせよ、正しい情報と誤った情報は同じくらい行き渡るのだ。誤情報だけ駆逐されることはないのである。
だったら、デマや誤情報を拡散させないために何ができるだろうか。それには、すべての人が0層の位置で正しい情報を受け取ることだ。つまり、人伝(ひとづ)てに聞くことが排除できればよいのだけれど\dots それって無理な話だよね。ならば、すべての人が人伝ての話を鵜呑みにしない習慣を手にいれることだけれど\dots これも無理な話だ。要するに八方塞(ふさ)がりなのだ。
結局、世の中の真偽を正しく判断できるためには、自分自身があらゆることに精通するしかないけれど\dots やっぱり無理な話。人は自分の知識・理解の範囲でしか物事を判断できないのだら、浅い知識や経験で語られることが蔓延するのは必然である。べつに数学の話を持ち出すまでもなく、浅い知識・経験の人たちが人伝てに見聞きすることが、デマや誤情報を拡散させている原因だと思うのだけど。
\end{document}