% 分散投資の罠

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\section*{▼分散投資の罠▼}

\textgt{分散}は統計数学の専門用語でもあり、日常でも普通に使われていることばだ。数学的には散らばり度合いを表す数値である。値を見れば相応に分散しているかどうか分かる。

投資をしようと考えている人に対して、よく助言されるものに『分散投資』がある。たとえ話として『卵を一つのかごに入れてはいけない』と言われるものだ。要するに、資金を何か一つにまとめて投資すると、コトが起こったとき資金のすべてが損害を受けるからである。でもね、これってたぶん大金持ちに対する助言であって、一般の(さして金持ちでない)人には$\dots$、まあ馬の耳に念仏みたいなものだ。

引き続きたとえ話で進めよう。一般の人は卵をスーパーマーケットあたりで手に入れる。$1$パック$10$個入りとかね。で、それを一箇所にまとめておくとコトが起こったとき---うっかりパックを落としたときとか---全部割れてしまうかもしれない。だから、キッチンに$4$個、リビングに$3$個、寝室に$3$個みたいに分散しておけばいいんじゃない? で、結局地震の大きな揺れで、どの部屋の卵も床に落ちるのだ。これでは分散と呼べないだろう。

大金持ちなら卵は養鶏場から手に入れるものだ。だって、北海道から九州までの各地に養鶏場を持っているからね。すると、たとえばある養鶏場で鳥インフルエンザが発生して鶏が全滅したって大丈夫だ。養鶏場は他にもあるから。全滅した養鶏場は大損害だろうが、卵の流通が減って他の養鶏場の卵の値が上がるかもしれない。養鶏場が分散していてよかったよね。

だったら買ったパックの卵は、$4$個を四国の親戚の家で、$3$個は三陸の友達の家で$\dots$、なんてことはしないだろう。$10$個の卵は分散に向かない。少数のものをさらに細かく分けても効果はないものである。

投資の具体例に関して言うことはないので、このたとえ話から察してほしい。大金持ちなら資金を分散する意味はある。なにしろ分散された資金も十分大金だからだ。しかし、一般の人は少ない資金しかないものである。分散したら投資効果は大して得られないだろう。効果を得たければ(悲しいが)まとまった額にする以外にないのだ。そしてコトが起こって被害を被る(←ことばが重なってるね。害を被るだろう)。そういうのって、投資じゃなくてギャンブルだよね。

じゃあ、貧乏人に投資は無理なんだろうか? そんなことはない。分散を``資金''に対してでなく``時間''に対してすればよいのだ。つまりは積み立て。コツコツと小まめかつ定期的に貯めることだ。ただし、一回の額が塵(ちり)程度に少額ではダメだけど。塵は積もれば山になるけど、積もらせるには膨大な時間が要る。

結局投資というのは、膨大なお金がある人か膨大な時間がある人向けなのだ。罠(わな)に嵌(はま)ってはいけない。

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