長田区の福祉のまちづくり

神戸協同病院院長:上田 耕蔵 氏(1997.春)

(「Weekly Needs」Vol.3 No.32(1997.6.12)33(6.26)34(7.10)35(7.24)号より)

 

テキスト版もあり(ダウンロードしてね)

「すたあと長田」ホームへ戻る


 1995年(平成7年)国勢調査(総務庁)では神戸市の高齢化率(65歳人口比率)は13.5%に対して、長田区の高齢化率は17.2%であった。現在高齢化率は年に0.4〜0.5%上昇している。また1996年度(平成8年度)の1年間でも長田区の人口は約4000人減ったので(震災前は年2000人減っていた)、2000年(平成12年)には高齢化率は20%を超えることが予想される。2020年には30%をさらに超えるだろう。

  1. なぜ福祉のまちづくりが必要か
  2. 福祉のまちづくり
  3. バリヤーフリーの家やまち
  4. シルバー住宅・コレクテイブ住宅
  5. 福祉施設
  6. 用語の脚注


[1]なぜ福祉のまちづくりが必要か


 安心して高齢者が暮らせるまちづくりは避けて通れない課題となっている。なぜなら、

@住みなれたまちで人生を送ることをもっとも望んでいるのは高齢者である。
A親・高齢の親類が安心して暮らせたら、その子供たちも安心だ。
B福祉施設や集会室は、また地域のコミュニテイの基地でもある。
 若者にとっても住みよいまちになる。
C福祉施設は、(もう来ないだろうが)大災害時の防災拠点になる。
D高齢化のピークは2020年〜2030年、つまり今のはたらき盛りの40歳代が
 大挙して後期高齢者(75歳以上)になる時である。

福祉のまちづくりは、まさに中年の課題である。20年後を考えて今から行動しよう。


[2]福祉のまちづくり


ハードでは、

@バリヤーフリーのまちや家
Aシルバー住宅(含・コレクティブ住宅)
B福祉施設
それ以上に必要なのはソフトである。
C福祉サービス事業
D老若世帯間の地域コミュニテイ
しかしそれ以前の課題として、地元に必要数の公営住宅を建てること、生活を支える地域の産業をどう復興するかがある。

ハードソフト
バリヤーフリーのまちや家コミュニティー作り
シルバー住宅
コレクティブ住宅
生活支援員の業務
福祉施設福祉サービス事業
必要な小規模公営住宅の建設・地元産業の復興


[3]バリヤーフリーの(ひとにやさしい)家やまち


 まちについては歩道などの段差は少なくなってきている。JR新長田新駅舎にもエレベーターが設置された。新規公営住宅もバリヤーフリーで建築されてきている。しかし一般家屋はどうかというと、どうもそうではない。せっかく苦労して再建する場合でも、たとえば玄関の段差などは昔のままだ。自分の体が不自由になった場合のことを考えて建てていないのは残念だ。しかし狭い敷地に再建した場合、車イスで動ける廊下のスペースをなかなかとれないという面もある。


[4]シルバー住宅・コレクテイブ住宅


 仮設あるいは地域には虚弱な老人が多く、単なる公営住宅への入居では孤独死が心配される。一方、福祉施設は非常に不足している。こうした状況を考慮して、公営住宅の約2割にシルバーハウジングが採用されることとなった。神戸市で約2000戸が建設される。新規では長田区には4カ所、計139戸できる。
(→東尻池第2・西尻池・浜添・片山:下記の表を参照)

シルバー住宅とは、

@車椅子で生活できるバリヤーフリー仕様(段差のない作り)
A倒れても発見できる警報システム
B生活支援員による安否確認を行う
低所得向け高齢者住宅である。また調理困難な世帯は、1食450円の負担で配食サービスも受けられる。

<長田区・須磨区のシルバー住宅>
所在 名称完成時期戸数備考
須磨区既着工松風第31996. 744戸特養ホーム併設(脚注参照)
 新規松風第41997. 746戸 
 新規白川台1997.1227戸一般住宅あり
長田区既整備長田北第21992.38戸特養ホーム併設
 新規東尻池第21997. 920戸D型デイ併設(脚注参照)
 新規浜添(コレクティブ型)1998. 321戸一般住宅8戸あり
 新規片山(コレクティブ型)1997. 3 6戸 
 新規西尻池1998. 792戸一般住宅あり

 

 21世紀の超高齢化社会への対応としても歓迎されるが、被災地シルバー住宅は大きな課題をもっている。

@介護などのケアは付いていない
 別にヘルパーさんを頼む必要がある。また寝たきりになった場合、介護ができる家族がいないと、住宅を退去しなければならない。

Aソフト体制の見直しが必須
 入居希望者は「見守ってほしい」後期高齢者(75歳以上)が中心である。中でも虚弱老人は「閉じこもり」がちであり、そのままではねたきり・痴呆への道を急いでしまうことになる。被災地のシルバー住宅は一層「ふれあい」と「ケア」が求められるわけだが、現状の《ソフト》=《生活支援員による「見守り」システム》では、「閉じこもり」を防止できない。極端な表現をすると、シルバーは「閉じこもり」を「見守る」住宅となってしまう。生活支援員と協力して地域でも支えていこう。


 コレクテイブ住宅は「(老若)複数世帯の協同居住」である。長田区には2カ所、計35戸できる(浜添29・片山6)。
 「真野(浜添)ふれあい住宅」は、高齢者21戸と一般8戸の老若世帯構成であり、より助け合いが期待できる。1階にある協同室は床暖房で快適だ。ここで雑談したりお茶を飲んだり、たまには気のあったもの同士で料理を作り楽しく食事もできる。一般の公営住宅と違い、通路は南側に広くとってあり、花壇やテーブルも置かれる。北側(裏側)はバルコニーで区切られず通路になっているが、2軒ごとに各住居を分けた通路とつながっており、まるで路地のようだ。玄関の引き戸を閉めて自分の部屋にこもっても、裏側の通路から「どないしたん。」と声をかけてくれる。下町長屋のごとく自然と、住民がふれあい助け合えるつくりになっている。

 人の孤立を防ぎ「ふれあい」と「自治」を育てていくのがコレクテイブ住宅であるが、21世紀は超高齢化だけでなく、シングル化(一人暮らし)が進む。公営の実験住宅ができる意義は大きいが、初めての試みである。地元のみんなで支えていこう。


[5]福祉施設

※用語説明は用語の脚注でどうぞ

 1997年3月、神戸市は1997〜2000年度(平成9〜12年度)の「市民福祉総合計画(後期実施計画)」を発表した。神戸市の2000年の人口を1997年3月の141万8千人とし、高齢化率を16.0%と仮定して新ゴールドプラン新GPの達成率をもとめた。1997年度予算(施設ができ上がるのは約2年後になる)で新GPの達成率が100%を上回るのは、特養ホーム(特別養護老人ホーム)の106%とショートステイの122%のみである。2001年度予算ではデイサービス(医療機関が行うデイケアをふくめる)の新GP達成率は74%まで伸びる。老健施設は85%と計画している。

 ただし神戸市の人口が震災前(1995年1月)の152万人のままなら、特養ホームの達成率は100%となる。2000年の高齢化率が全国平均と同じ17.0%なら94%に低下する。人口と高齢化率の増減で達成率は上下する。

 

<神戸市の後期実施計画>
 全国2000年
新ゴールドプラン
神戸市2000年
新GP当てはめ
神戸市後期実施計画
1997年度→新GP比2001年度→新GP比
ホームヘルプ17万人1777人    
デイサービス1万7千カ所178カ所71カ所40%132カ所74%
ショートステイ6万人627人763人122%980人156%
在宅支援センター1万カ所105カ所14カ所13%37カ所35%
特養ホーム29万人3031人3210人106%4010人132%
老健施設28万人2927人1305人45%2500人85%
ケアハウス10万人1045人130人12%460人44%
 全国神戸市長田区2000年の日本の高齢化率は17.0%
と推定される。神戸市の高齢化率
は1995年国勢調査時に13.5%であ
ったが、2000年には16.0%と推定
される。神戸市の人口は1997年3
月時点のものを採用。
高齢化率17.0%16.0%20.7%
総人口12738万人141.8万人90166人
2000年高齢人口2165万人22.7万人18664人
要介護人口280万人29336人2314人
要介護/高齢人口12.9%12.9%12.4%

 ことに福祉施設の中核である特養ホームの定員数の伸びがいちじるしい。特養ホームは震災前には全国の県・政令指定都市のランキングで下から数番目であったのに対して顕著な改善である。不十分さは残るものの、明らかに震災が神戸市の福祉計画をプッシュしたと言える。


 特養ホームの問題点は、

@市街地では「不足」がつづく
市街地で新GPを達成する区はまだ少数である。また市街地では老健施設の建設は進まないので、決して「多い」数ではない。
A「入所者のプライバシー」と「地域との交流」が維持される施設と運営の課題
B最近の特養入所者は重症化しており「医療との連携」が重要となる
 長田区での特養ホームについて見ると、現在は長田ケアホームの1カ所のみであるが、1997年度予算で鹿松町(長田区北部)が認められた。
 今後の計画としては二葉町5丁目(新長田再開発地区内)と番町(旧・西市民病院あと)が予定されている。

資料:1997年度予算まででの特養ホーム整備状況(各区別)→


<長田区の後期実施計画当てはめ>
 長田区2000年
新GP当てはめ
長田区
1997年度予算→新GP比2001年目標
ホームヘルプ141人   
デイサービス14.1カ所7カ所50%10.4カ所
ショートステイ50人40人81%77人
在宅支援センター8.3カ所2カ所24%2.9カ所
特養ホーム240人100人42%317人
老健施設231人0人0%198人
ケアハウス83人0人0%36人

 デイサービスは地域福祉サービスの基本である。患者さんを自宅に閉じこめずに、積極的に地域・住民とふれあい、交流していくことが生きがいとなる。これはまた「まちづくり」に繋がっていく。長田区は1997年度予算では7カ所となる。これとデイケア(医療側が行うデイサービス)を加えると11カ所となっている。さらに今後できる特養ホーム2カ所分(二葉町・番町)が加わると、数の上では新GP達成となる。今後は地域的配置バランスを踏まえた小規模デイサービスの建設が求められるだろう。

 庄山町デイサービスセンターは「福祉法人駒どり」が担当する。1992年より、地域の医療生協組合員・ボランティアにより宅老所「駒どり」が始まったが、震災を契機に事業化が計画された。神戸医療生協から土地建物の寄付を受けて法人化を申請し、1997年秋より板宿庄山町にデイサービスを開始する運びとなったものである。

 今後、二葉町・番町などでは、行政からの特養ホーム向けの土地提供の入札に参加して、住民立の特養ホームの建設を目指している。

<長田区のデイサービス・デイケア>
デイサービスA型B型C型D型E型備考開設時期
重介護現行軽介護小規模痴呆毎日 
市立長田在宅福祉センター
(さるびあ)
 15人  10人 1987. 7
市立西部高齢者介護支援センター 15人   特養併設1993. 6
市立若松デイサービスセンター   10人  1995. 4
市立片山デイサービスセンター   10人  1997. 5
庄山町デイサービスセンター 20人    1997.10
市立真野デイサービスセンター   10人  1997.?
鹿松デイサービスセンター 20人   特養併設1999.?
<小計> 70人 30人10人計110人 
デイケア 
適寿病院20人 
兵庫病院20人
番町診療所20人
神戸協同病院20人
<小計>計80人
合計 190人

(神戸協同病院院長:上田 耕蔵

 


※用語の脚注

これは本Web作者によるものです。
(福祉施設については国立犀潟病院の資料を参照させて頂きました)

市民福祉総合計画
新GPにある達成目標をふまえた神戸市の福祉行政に関する後期実施計画(1997〜2000年度分)のこと。1997年3月発表。

新ゴールドプラン新GP
高齢者保健福祉推進十か年戦略の見直しのこと(1994年12月、大蔵・厚生・自治各省の合意)

ホームヘルプ(サービス)
ひとり暮らしやねたきりの高齢者がいる家庭を、派遣申請に基づいてホームヘルパーが訪問し、家事、介護、相談など日常生活の援助を行うこと。

デイサービス(〜老人デイサービスセンター)
在宅の虚弱高齢者や寝たきり高齢者を対象とし、通所により、デイサービスセンターにおいて各種サービスを提供すること。リフトバス等を用いて送迎を行うところや、訪問事業を行うところもある。サービス内容は食事・入浴・日常動作訓練・健康チェック・レクリエーション・生活指導・家族介護者教室など。サービス内容により、以下の5つのタイプがある。

A型:(重介護型)
基本事業(生活指導、日常生活動作訓練、養護、家族介護者教室、健康チェック、送迎)、通所事業(入浴サービス、給食サービス)、訪問事業(入浴サービス、給食サービス)の全部を実施する施設。
B型:(基本型)
基本事業、通所事業の全てを実施し、訪問事業の各サービスについては選択して実施する施設。
C型:(軽介護型)
基本事業6項目中、「送迎」を必須とし、他の5項目中3項目を選択して実施するとともに、通所事業及び訪問事業の5つのサービス中2項目を選択して実施する施設。
D型:(小規模型)
基本事業については、生活指導(レクレーションを含む)、養護、健康チェックを、通所事業については給食サービスを実施するとともに、入浴サービスについては選択して実施する施設。
E型:(痴呆老人向け毎日通所型)
事業の実施はD型と同じ。ただし、対象者を痴呆老人とするもの。

ショートステイ
老人短期入所、またはそのための施設を指す。寝たきりや痴呆・虚弱な高齢者が一時的に家庭介護が困難になった時、一定期間を限度(1・2週間位)に福祉施設(特養ホーム等)などで生活すること。さらに長期にわたる入所(ミドルステイ)を行うところもある。

在宅(介護)支援センター
介護を行っている家族が、身近なところで気軽に専門家に相談でき、市町村の窓口に行かなくとも必要な保健福祉サービスが受けられるように調整するための、保健・医療・福祉にまたがる在宅サービスの窓口。ホームヘルパーの派遣や、ショートステイ、デイサービス、訪問入浴サービスなど、各種の在宅福祉サービスを提供している機関や、訪問看護、訪問リハビリといった保険医療機関(訪問看護ステーションを含め)などと連絡を取り、実施するサービスの組み合わせなどの調整を行う。

特養ホーム(=特別養護老人ホーム)
原則として、65歳以上で身体上または精神上に著しい障害があるために、常時介護を必要とするが、家庭ではこれを受けることが困難な老人を入所させ、日常生活上の必要な介護を行う施設。
(養護老人ホームの中でも、常時介護が必要な方を対象とするもの。)

養護老人ホーム
65歳以上で、身体上、精神上または環境上の理由と経済的な理由から、家庭で養護を受けることが困難な老人を入所させ、健全な日常生活の確保を図ろうとする施設。

老健施設(=老人保健施設)
疾病、負傷などにより、寝たきりの状態にある老人、またはこれに準じる状態にある老人に対し、看護、医学的管理のもとにおける介護及び機能訓練その他の必要な医療を行うとともに、その日常生活上の世話を行う施設。

ケアハウス
60歳以上で、自炊できない程度の身体機能の低下が認められ、または独立して生活するには不安があり、家庭による援助を受けることが困難な者が利用できる施設。入所者のプライバシーを確保しながら在宅福祉サービスも利用できる新しいタイプの老人ホーム。


戻る
numata@sakuraia.c.u-tokyo.ac.jp