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 「面白がるカ」のために

  大倉恭輔(実践女子短期大学)

 

 毎年四月、二年生向けのオリエンテーションでのゼミ紹介で、繰り返していることばがあります。
 「世の中には、君たちの知らない面白いことがいっばいあるよ。君たちが、今、面白いと思っていることでも、見方・やり方を変えてみると、もっと面白くなるよ。」
 
 生活文化専攻A系の授業内容・カリキュラムには、大きな特徴があります。ひとつは、開講科目の多様性です。これは、「現代社会の理解と、それに対応できる技能の修得」という、本専攻の目的のために、どうしても必要なことですし、必然的な結果でもあるのです。
 
 もうひとつは、そうした多彩な科目を、個人の興味や関心にもとづいて、組み合わせ・履修できることです。複雑化する一方の現代社会のあり方やしくみを理解するための切り口(=方法論)は、無数にあります。そして、その切り口を学生自身が見つけだしてほしいとの考えから、選択科目の比重を多くするとともに、履修の自由度を高めているわけです。
 
 けれども、そこには、大きなメリットと同時に、デメリットもあります。それは、二年間学んできたことの、全体像を実感しにくいということです。実際、残念なことですが、就職の面接の席で、「生活文化専攻A系というところで、何を勉強してきたのですか?」と問われて、ことばに詰まってしまう学生がおります。
 
 せっかく切り口が見えてきても、それを実践する場がなければ、勉強の成果はあがりません。この点への反省から、A系では、三年前から卒論ゼミを設置・開始することになりました。
 
 とはいっても、これは大変なことです。一般的な学部・学科のゼミは、ある程度、教員の研究テーマに興味を持っている学生たちの集まりです。ところが、A系の場合、「面白い」と思っていることがバラバラな学生たちが、さまざまな切り口を携えてやってくるからです。
 
 さいわい、本ゼミを希望する学生は、メディア社会やそこでのコミュニケーションのあり方に関して、興味・問題意識を持っているという点では共通性があります。それでも、彼女たちが学期開始時に持ってくるテーマの多彩さといったら……。
 
 過去二年間のテーマとしては、「スポーツを見るということ・応援の意味と撥能」「エルキュール・ポアロにおけるメディアとその利用」「ディズニーランド論」「日本人の読書とそのイメージ」「宝塚の歴史」「ウディー・アレンと都市性」「差別意識の要因・日本人論の系譜から考える」などなど。
 
 今年はといえば、「ヒッチコック論」「ドリカム論」「RPGゲーム論」(ファミコンです)、そして、ちょつと変わったものとして「学校案内パンフレットの内容分析」などがあります。
 
 いくら、自分の研究テーマが「メディア社会における人間」だからといって、また、筆者の性格にミーハーな部分があるからといって、これらすべてにつきあうことは、なかなかシンドイことです。
 
 また、大衆文化・メディア文化の研究では、まとまったかたちで資料が残されていることが少ないため、彼女たちの苦労も並大抵ではありません。それでも、活字メディアならなんとかなるのですが、電波メディアや映像メディアをテーマにしようとすると、これはもう大変です。
 
 もちろん、異なった興味を持った人間の集まりですから、ゼミ運営にも工夫がいります。けれど、そのことが逆に、自分のテーマ自体の意義を問い直すことや、ある方法論がいろいろなテーマに応用できることに気づくという、メリットも生み出します。
 
 そうして、資料をかき集め、ゼミ生同士で議論を重ね、論文を書きあげた彼女たちから、「ものを”見る・考える”って、こういうことなんですね。」という声を開くことは、ほんとうにうれしいものです。
 
 自分たちの生活の中で、身近すぎて見過ごしがちなものや、とるに足らないと思われているものに潜む面白さを知ること。さらに面白がることそのこと自体の面白さ・大切さを知ること。
 
 心理学は、人間を人間たらしめる根元的な力のひとつに、「知的好奇心」があることを証明しています。そして、本ゼミは、学生ひとりひとりの好きなもの・ことを素材として利用しながら、その根元的な力を育成し、体系づける場なのだといえましょう。
 
 すでにご承知のように、生活文化専攻は、平成八年度から従来のA系とB系を一本化します。さらに、私たちの生活や人生において、これからその重要性を増す「余暇生活・文化」に関する科目群を設置し、余暇生活相談員の資格認定を行ぅ専攻とすべく、文部省に申請中です。
 
 短大生活文化学科はさらなる飛躍をとげるでしょう。けれど、それは同時に、卒論テーマのバリエーションも拡がることを意味します。そのことを思うと………。いやいや、ホントに楽しみなことです。

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