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短期大学における改組転換の背景と全体動向
 

大倉恭輔(実践女子短期大学)
 

はじめに

第1節 短期大学の改組転換の背景

a項 2014年までの18歳人口および進学希望者の全体推計

b項 短大の社会的地位の変化

c項 志願者動向とその要因

第2節 新増設および改組転換の状況

a項 短大・短大学科新増設の現況

b項 短大の改組転換の全体状況(H3〜8年度分)

(1) 短大の4大開設と短大の維持

(2) 新増設・改組転換の目的と内容

(3) 新・増設および改革の具体的な方向性

おわりに

資料 新・増設学部の志願者動向


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  はじめに

 本稿は、1) 短期大学の改組転換にいたる社会的背景 2) 短期大学の改組転換の全体状況の、2点に関する基本的なデータを紹介する。また、そうしたデータに対して、若干のコメントが付加される。
 18歳人口の減少にともなう、いわゆる「冬の時代」にあって、全国の短大・4大が、どのような対応をしているのか。ことに、4大と専修学校との挟み撃ちにあうかたちになっている短大が、どのような策を講じているのかについて確認をしてみたい。

 

  第1節 短期大学の改組転換の背景

 

 a項 2014年までの18歳人口および進学希望者の全体推計

表1 文部省推計による進学希望者と入学定員との関係 (万人)

1996 1999 2004 2009 2014 '96-'14比
18歳人口 173.2 154.4 141.1 120.0 118.7 31%減
志願者計 109.6 93.4 87.7 70.7 71.2 35%減
短大 23.8 17.7 16.2 13.8 13.6

43%減
4大 85.8 75.7 71.5 56.9 57.6

33%減
入学定員計 69.3 70.6 65.7 67.9 70.1

横ばい
短大 19.4 18.7 15.8 14.7 13.6

30%減
4大 49.9 51.9 49.9 53.2 56.5

13%増
入学者計 80.0 74.8 71.1 70.7 71.2

11%減
短大 22.1 17.7 16.2 13.8 13.6

38%減
4大 57.9 57.1 54.9 56.9 57.6

横ばい
短大進学率 12.8% 11.5% 11.5% 11.5% 11.5%

10%減
4大進学率 33.4% 37.0% 38.9% 47.4% 48.5%

45%増

 1996年秋、文部省大学審議会の推計が発表され、これにもとづき、受験産業各社がシミュレーションを行っている。これらは、個々に多少の相違はあるものの、短大が大変厳しい状況にあるという点で一致している。

 表1は、文部省の試案であるが、短大志願率の推計は、以下のような手順によって行われている。

  1. 現役短大志願率:95〜96年度の実績にもとづき、97年度以降を0.6ポイントの減少率とする。
  2. 臨時定員が5割に落ち着く2000年以降は、その時点の短大志願率想定値である11.5%のままで固定する。

 いうまでもなく、この表における着目点は、以下の3点である。

 # 1999年には、「短大全入」。

96年の短大志願者・・・・・・・23万8千人(定員19万4千)
99年(臨定終了)・・・・・・・17万7千人(定員18万7千)
04年(臨定の延長期間終了)・・16万2千人(定員15万8千)

 # 4大志願者の減少率に対し、短大志願者の減少率の方が大きい。

  • 2014年までの段階で、4大進学率が48.5%までゆくのに対し、短大進学率は11.5%にとどまる。
  • 表の掲出は行わないが、2014年の時点での、短大・4大志願者における女子のシェアについて、リクルートが試算したところによると、最低で48%・最高で53%となっている。

 # 2009年には、「4大全入」。

  • 4大志願者は、短大同様減少を続けるが、2004年からゆるやかな上昇傾向をみせる。しかし、いずれにしても、2009年には、4大志願者は全員入学が可能となる。

 すなわち、全国で約600校ある短大が、2年後には、17万7千人のパイをわけあうことにある。単純計算でいえば、1校あたり295名の志願者である。そして、こうした危機的状況は、4大も同じであるということである。

 なお、ベネッセの試算では、現役女子の短大志願者は、2005年の段階で11万6千人となっている。実際、経済指標など、他のいくつかの要因を考慮するとき、文部省のデータよりも、ベネッセの試算の方が信頼できるとの意見もあることを付記しておく。

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 b項 短大の社会的地位の変化

 「短大・4大の危機」は、基本的には18歳人口の減少によるものである。しかし、短大の危機とその対処については、その他の要因を考慮する必要があろう。たとえば、短大については、複数の資料が、以下のような構造の存在を指摘している。

  # 社会変化にともなう短大の魅力減

    • 社会・企業における4大卒業者への要求の増大
      業務の機械化にともなう、一般職の相対的な縮小傾向
      企業側のニーズに対する、短大卒業者の非対応性
              ↓
    • 短大卒業者の不採用・就職難
              ↓
    • 就職のための機関(短大志願理由の最重要ポイントのひとつ)としての、短大の意義・機能の無効化
              ↓
    • 短大の魅力減・短大志願者の減少は当然

 短大の社会的な位置づけ/機能のひとつとして、企業の事務一般職の供給という側面があることはいうまでもない。しかし、社会構造・経済動向の変化や、企業側での職務の変化・OA化の進展などに対し、短大側の教育目的・内容(職業技能教育を含む)が対応しきれていないという事実がある。

 そのために、短大卒業者への企業側ニーズが低下するという状況が現出する。また、そのことが、高校卒業者の短大への評価・志願率を低下させることになり、一種の悪循環が生じているわけである。

 当然のことながら、就職実績のよかった「名門校」ほど落ち込みは激しくなる。そうした、落ち込みへの事前の対応・社会的評価の維持に、各短大とも模索を続けているわけだが、学習院女子短大・東洋英和女学院短大の「廃止 → 4大への転換」はその象徴的な事例であるというのが、受験産業各社の見解である。

 また、企業側のニーズの問題に関連するが、より大きな流れとしての、女子の「社会進出への志向の増大」という側面も無視できない。このために、女子受験者における「短大より4大」「女子大より共学」の傾向が加速され、結果としての短大・女子大離れを生じさせていると考えられる。

 さらには、4大側の受験生獲得の方策としての「2科目入試制」の導入・増加が、従来の短大専願者を4大受験へ向かわせていることも、短大の危機を促進させている大きな要因である。ことに、前出のデータからいえば、4大志願者の増加傾向が続くにもかかわらず、4大への入学は容易になる一方である。よって、短大の受験生獲得・存続のためは、入試制度の面においても、なんらかの方策を講ずる必要があると思われる。

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   c項 志願者動向とその要因

 全体的な短大離れという状況はあるにしても、その様態は短大・学科によって異なることも、多くの資料が明らかにしている。では、それらの差異は、どのような要因から生じているのだろうか。

 ひとつは、学科特性である。ここ数年の志願者動向を見ると、英文・国文系は厳しい状況にある。たとえば、この3年間で、教養系・人文系の女子短大志願者は40%減となっている。これに対して、いわゆる「実学的」方向性をもった短大・学科は生き残っている/いくようである。そうした方向性の代表として、医療・看護系、福祉系、幼児教育系などがあげられる。

 その他に、その短大の立地を要因として指摘するものもある。事実、英文・国文系学科でも、立地のよい短大では、減少傾向の傾斜が緩やかであったり、現状を維持しているところは存在している。ことに女子学生の獲得において、立地という条件は無視できない部分があるようである。

 とはいえ、そうした要因が、すべての短大に一様に作用するものでもないことは、たとえば、過去4年間の主要短大の入試動向からも確認されよう。

表−2 短期大学志願者状況比較(平成9年度入試分まで)

大学名 学科・専攻・コース 定員 94年度 95年度 96年度 97年度
実践女子 国文 180 517 509 496 468
  英文 リベラル+ビズネス 180 705 800 689 607
生活文化 生活文化 180 644 508 505 551
食物栄養 80 386 295 346 472
    620 2252 2112 2036 2098
青山学院女子 国文 200 1083 923 1172 897
(教養・芸術を除く。ただし、志願者総数には含む。) 英文 英文 180 1590 1543 - -
英語 120 1638 1612 3900 3332
家政 160 1094 807 967 773
児童教育 150 671 642 735 578
    950 7301 6703 8269 6670
跡見学園女子 文 国文 75 656 591 448

-
    英文 75 1009 694 509 857
家政 75 817 619 770 458
生活芸術 75 439 406 377 280
    300 2921 2310 2104 1595
大妻女子 家政 家政 800 1494 1481 1195 1018
  家政 食物栄養 200 923 872 839 571
国文 300 1224 1150 1011 857
英文 300 1705 1496 1392 1419
生活 165 434 451 331 341
日本文学 165 637 452 313 350
実務英語 165 819 646 569 496
    2095 7236 6548 5650 5052
学習院女子 人文 国文 150 706 705 619

-
(文化史を除く。ただし、志願者総数には含む。) 英語 1類

180

295 297 558

-
英語 2類 571 573 523

-
家庭生活 1類

120

328 393 558

-
家庭生活 2類 290 196 252

-
    600 2856 2705 3291

-
共立女子 生活科学 280 2285 2598 1537 1763
  文1 日語・文 150 1533 1020 547 641
英語・文 150 1239 1123 766 952
    580 5057 4741 2850 3356
昭和女子 国語国文1 150 782 385 419 438
(地方試験分を除く。ただし、志願者総数には含む。) 英語英文1 150 742 472 568 682
生活文化 150 662 340 457 716
食物 150 419 293 293 481
初等教育 100 496 325 342 576
    700 3101 1815 2079 2893
東京家政 保育 200 927 894 1617

-
(保育のみ掲出。)   900 3056 3205 3852

-

* 本学入試課提供の資料を加工

 

 国文・英文、さらには生活/家政系の落ち込みは明白である。ただし、青山学院をみると、国文・英文は「隔年現象」はあるものの、他短大ほどの落ち込みは見せていない。これに対し、児童教育は隔年現象を見せながらも微減という傾向にある。つまり、文学系学科であっても、それなりの志願者数を維持できる場合と、「都心」の「実学」的な学科であっても、思ったほど志願者が見込めない場合とがあるということである。

 これらのデータは、学科特性や立地に加え、さらにはそれぞれの短大/学生の校風などが関連しあい、全体的な受験者動向が作り出されていることの証左であると思われる。逆にいえば、英文だから見込みがないとか、実学だから大丈夫であるとかは、単純に判断はできないということである。

 こうした背景・時代にあって、短大という教育機関は存続できるのだろうか。この点について、私短協会長は「短期間での専門教育の修得」と「資格取得」の2点をあげ、短大への需要は維持できるとコメントしている。しかし、この2点こそは専修学校の特質であり、文部省の設置基準のしばりの厳しい短大が、これに競合し打ち勝てるかは、疑問の残るところである。

 つまるところ、まずは、各校がこれまでの伝統や実績の上に立っての対応が基本のように思われる。とはいえ、そこでの対応をみると、時代のニーズにあわせた学科の新・増設を目指すところも多いようである。では、各短大は、実際にどのような改組転換を考え、また行っているのだろうか。次節では、この点に関するデータを紹介する。

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    第2節 新増設および改組転換の状況

 

   a項 短大・短大学科新増設の現況

 平成8年度設置申請分での、短大・短大学科の新・増設の状況は、以下のようになっている。

* 短大新設:公立=3校・私立=3校
* 学科新設:公立=1校・私立=9校

表−3 平成8年度設置の短大・短大学科

短大新設

学科新設

校名/学科

入学定員

校名/学科

入学定員
■東京都立   ■新見女子  
 文化国際

100

 地域福祉

50

 経営情報1部

140

■神戸女子  
 経営情報2部

80

 総合生活

350

 都市生活

40

 食物栄養

200

 健康科学

40

■足利  
 経営システム(夜間)

100

 看護(3年制)

50

■奈良県立医大看護   ■東京経営  
 看護

80

 経営税務(昼間)

140

■和歌山県立医大看護    経営税務夜間)

20

 看護

80

■山野美容   
■秋田桂城    美容健康

130

 看護(3年制)

50

■新潟青稜女子  
 人間福祉

40

 福祉心理

100

 地域社会

100

 国際文化

100

■日赤秋田   ■富山女子  
 看護

80

 福祉

80

 介護福祉

50

■飯田女子  
■群馬社会福祉    看護(3年制)

60

 社会福祉 介護福祉

80

■藤田保健衛生大学  
 社会福祉 社会福祉

80

 医療情報技術

65

 社会福祉 福祉心理

40

■羽衣学園  
     国際教養

100

 

 内容をみると、その多くは「看護・福祉」系となっている。また、それを設置しているのは、地方の短大が多いことがわかる。これは、若年人口の減少と老齢化の進行に悩む、地域のニーズへの対応に他ならない。また、私立短大では福祉系学科の新設の方が多い。

 これは、設備投資や設置基準などの関係から、看護学科の設置が困難であること、同時に福祉に対する社会的ニーズを見越してのことであろう。

 とはいえ、「(社会)福祉」学科の設置も、設置基準の面などから、それなりに困難をともなう。そのため、「介護福祉」「福祉文化」といった関連領域/名称で設置するところも多い。

 なお、表として掲出はしないが、短大・学科の平成10年度開設予定の申請状況は、以下の通りである。

* 短期大学の設置:2校(3年制看護学科・国際人間学科)
* 短大学科の設置:5校(福祉学科・社会福祉学科/2校・福祉援助学科・人間福祉学科)

 ここ数年続く福祉系学科の新・増設ラッシュは、福祉に対する社会的なニーズと受験生のニーズを反映したものである。その意味で、改革・新増設の方向性としては、妥当なものといえよう。しかし、同時に、これから改組を考える場合、福祉分野は過当競争に入ることに留意すべきであることを、これらのデータは指し示しているように思われる。

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   b項 短大の改組転換の全体状況(H3〜8年度分)

 上述のように、いかにニーズがあろうとも、すべての短大が「看護・福祉系」の学科を新・増設できるわけではない。また、そうすることがすべての短大において適切な方向性であるわけでもない。そこで、本項では、この「冬の時代」を迎えるにあたって、各短大がどのような方策を講じているかの、全体動向について確認を行いたい。

(1) 短大の4大開設と短大の維持

 前節の表−1(2014年までの志願者動向推計)からも明らかなように、18才人口の減少のもとづく「危機的状況」という点では、短大・4大ともに同じ状況にある。しかしながら、志願者動向の面などでは、4大の方に分があるようである。そのこともあってか、多くの短大では、4大への転換をはかるところが増加してきている。

 たとえば、平成3年から8年度にかけて、4大を開設した短大は以下の通りである。

# 4大を開設した短大:41校(新設4大53校中)
 * 既存の短大に手をつけずに開設:6校
 * 短大を廃止して4大を開設:3校

 ただし、視点を変えれば、41校のうち32校は、短大を存続させながら4大を開設しているわけである。これは、経営上の見地にもとづくものと考えてよい。

 短大と4大が併設されている学校法人の場合、その財政的基盤を短大に依拠しているところも多く、実践もその例にもれない。現時点においても、志願者の減少が続く中、短大の収益は大きいため、財政との関連から、早急な短大の廃止・4大転換から生じるリスクを避けようとしているものと考えられる。

 少なくとも、短大という教育機関を現行の形式・内容のままでゆくとするならば、いずれは4大化を検討する時期が来ることになろう。しかし、「当面の短大の維持 → 時期をみての4大化」という方向性をとるにしても、4大転換の適切なタイミングを見極めることは、きわめて困難である。

 その意味で、下記のように、多くの短大が「漸次縮小+4大(学部)開設」路線をとっていることは、合理的な判断・方針であると考えられる。しかし、反面、「冬の時代」の打開策としては積極策とはいえず、なにより、短大という教育機関の今後のあり方を再考した結果だとは考えにくいものがある。

 いわゆる「良妻賢母」の育成機関としての短大は、すでに役割を終えたといってよい。しかし、社会人の再教育機関などの方向性を考慮するとき、短大=2年間の高等教育という場の有する可能性をいたずらに閉じて、改組転換をなすことは避けるべきであろう。

 短大のあり方について論ずることは、本稿の目的ではないため、これ以上の言及は控えたい。だが、いずれにせよ、短大の縮小がひとつの大きな流れとなっていることは、確認されよう。では、同じ学校法人の中に短大と4大を併設しているところでは、「4大・学部・学科の新増設」に際して、併設短大をどのように扱っているのだろうか。

# 平成3年から8年度までの改組転換の状況
 * 併設短大の縮小を行ったもの:35校(廃止4校を含む)
# 平成10年度開設申請の状況
 * 併設短大の縮小を行ったもの:22校(申請31校中)

 これらの数字をどのように評価するかについては、そもそも評価の基準がなく、また本章担当者の任ではないため、明言は避けたい。しかし、危機的状況がさらに深刻化してゆく中、短大の縮小路線の是非を含めて、早急に何らかの判断を下さなければ、他短大の後塵を拝することになることは確実である。

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  (2) 新増設・改組転換の目的と内容

 本項では、平成3年度以降に改組転換を行った79校(短大:15校・4大:64校)に対して実施された、アンケート調査の結果を紹介する。各校が、どのような目的から、どのような改革を行ったのか。また、短大と4大では、それらの目的や改革の方向にどのような差異があるのかに着目してみたい。  

表−4 改革を行った短大・4大の目的の比較 (%)

理由 \ 学校種別

短大(15校)

4大(64校)
開設当初からの構想 6.7 17.2
一部学部学科の不振打開 20.0 10.9
大学冬の時代をのりきる 60.0 53.1
自治体等からの要請 33.3 29.7
受験生の指向への対応

60.0

42.2

短大の発展が見込めないため

17.2

 

 繰り返しになるが、進学動向に関する客観的な状況から、本学(に限らないが)の将来を考えるとき、なんらの方策もまったく講じないというわけにはゆかないだろう。当然のことながら、将来構想策定のためには、適切なデータにもとづいた多角的な検討。議論が必要である。ただし、このとき、限定された(=改革を行った短大・4大の)資料によって、判断を強いられることが少なくない。

 たとえば、全国600校の短大が、すべて改組転換に着手しているわけではない。しかし、公刊資料に頼ろうとするとき、改革に着手していない短大に関するデータが、きわめて少ないという実状にぶつかるのである。

 では、そうした留保をつけた上で、上記のデータをみるとき、どのようなことがわかるのであろうか。

 短大と4大の回答は同様の分布を示しているが、いくつかの点で異なっていることがわかる。たとえば、短大では、「自治体の要請」にそって改革が行われる率が多いことである。これは、先述の看護・福祉面での人材の確保を含めた、地域産業への人材確保の要請にもとづくものと考えられる。

 だが、ことに切実な問題/データという意味で、「一部学科の不振打開」と「受験生の指向への対応」に着目せざるを得ない。この2項目について、短大と4大を比較すると、前者で約10ポイント・後者で約18ポイントの差をつけて、短大の数字が大きくなっていることがわかる。

 つまり、同じ「冬の時代」にあっても、短大の場合は、学科のあり方の再考を行い、受験生のニーズにあった教育/教育機関のための改革が必要とであるということである。

 加えて、そのような改革を行った短大・4大が、そこにとどまっているのではないことにも注目すべきだろう。今回参照した資料では、アンケート対象校に「新たな新増設の意向」をたずねている。

 下の表−5は、短大・4大の合計値であるが、約53%の学校が、さらなる改革を具体的に考慮・申請中であることがわかる。これは、現在の状況に対応する上で、いくつかの段階を経るような、大規模な改革を行う必要があると考えていることの証左であるといえよう。

表−5 新増設に関する予定(短大・4大合計 %)

近く文部省に申請予定

24.1

申請予定はないが、具体的に考慮中

29.1

具体的ではないが、改組転換を希望

31.6

考えていない

10.1

NA

5.1

 

 さらに、そこで検討されている新増設の内容については、以下のような回答が得られている。

表−6 短大・4大別新増設内容 (%)

内容 \ 学校種別

短大

4大
一部学部学科の定員増 16.7 30.9
新学部学科設置 25.0 50.9
一部学部学科の廃止・定員減 16.7 1.8
一部学部学科の組み替え 25.0 32.7
短大の廃止

0.0

4大の設置

50.0

専攻科設置・定員増

33.3

大学院設置・定員増

52.7

その他 8.3 12.7
NA 8.3 7.3

 

 「短大の廃止」を考えているところはないものの、50%の短大が、「4大の設置」を考慮中であると回答している。ここにも、短大の将来に対するひとつの評価・認識のあり方をみることができよう。

 また、「新学科設置」と「一部学科の組み替え」を考慮中という回答が、それぞれ25%となっている。これに対し、「一部学科の定員増」と「一部学科の廃止・定員減」は、ともに16.7%となっている。

 これらをあわせ考えると、今回のアンケート対象短大では、受験生ニーズに合わせ、積極策に出ていることがわかる。もちろん、定員が変わらないままで新学科の設置は行い得ないため、おそらくは、学科の組み替えと臨時定員分の維持で対処しようとしているものと思われる。(ただし、短大における「一部学科の定員減」については、次に述べる4大の拡張策とも関連しよう。)

 こうした方向性は4大でも同様だが、「新学部・学科の設置」については、短大よりも大きな数字があがってきている。本データでは、回答している4大における併設短大の有無が不明であるが、少なくと、そのうちのある程度までは、併設短大の定員を組み込むことで新増設をはかろうとしているものと思われる。

 そして、この、4大における「学部・学科の新増設」や「定員増」が、4大志願者の増加傾向を見越したものであり、今のうちの、その受け皿を用意しておこうという考えにもとづいていることは明白である。

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  (3) 新・増設および改革の具体的な方向性

 多くの短大・4大が、新たな学部・学科の設置を検討しているわけだが、それらは、具体的には、どのようなものなのだろうか。同アンケートでは、短大と4大で、多少の相違が生じている。

  • 短大
    • 社会・社会福祉・社会事業関係
    • 人文関係
    • 法律・商業・経済関係
       
  • 4大
    • 社会
    • 文・人文・外国語

 すなわち、社会福祉・社会事業系の学科の新・増設を考えている点に、短大の特徴があるわけである。これは、すでに紹介した、平成8年度の短大・短大学科の新・増設の状況からもうなずけるところである。

 ところで、今回のアンケートからは、新・増設を行いたい具体的な学部・学科の名称が不明である。そこで、4大を含めた新設学部・学科の動向について、少しく違った視点からのデータを紹介したい。

表−7 1980年以降の新設学部

キーワード 学部名例
国際 国際学部 国際文化学部 国際言語学部 国際政治経済学部 国際商学部 国際経済学部 国際コミユニケーション学部
情報 情報学部 図書館情報学部 経済情報学部 環境情報学部 情報工学部 情報科学部 社会情報学部 文化情報学部 総合情報学部 情報文化学部 都市情報学部 情報社会科学部
科学 流通科学部 発達科学部 経営科学部 スポーツ健康科学部 政策科学部 産業科学技術学部 健康科学部 人間科学部 社会科学部 情報社会科学部
環境 環境学部 環境情報学部 生活環境学部 環境科学部 人間環境学部
文化 文化学部 日本文化学部 現代文化学部 文化情報学部 情報文化学部 国際文化学部 比較文化学部 人間文化学部
人間 人間生活学部 総合人間学部 人間関係学部 人間社会学部 人間文化学部 人間環境学部
政策 政策科学部 総合政策学部
福祉 医療福祉学部 看護福祉学部 保健福祉学部
新しい理工系 生命理工学部 システムエ学部 開発工学部 医用工学部 デザイン工学部 生物理工学部 コンピュータ理工学部 生物資源学部
その他 不動産学部 生物産業学部 鍼灸学部 行政社会学部 医療技術学部 保健衛生学部 食品栄養学部 造形芸術学部 デザイン学部 総合管理学部 産業保健学部 コミュニケーション学部 現代社会学部

* 新設学部は96年度予定まで含む(文部省資料より加工)

 

 表−7からは、ここ数年に新・増設された多くの学部が、ある一定のコンセプト/キーワードから分類されることがわかる。とはいえ、一瞥して、その教育目的やカリキュラムを思い浮かべることが困難な、学部名称も多い。これは、複雑化・多様化し、進化し続ける学問領域への対応から、従来のディシプリンとは異なった学部・学科名称が必要となったことがひとつの理由であろう。

 しかし、その他に、4点ほどその理由を考えることができよう。
 第1は、何か目新しい名称のものを設置して、受験生を獲得しようという戦略。第2に、学部・学科の再編にあたって、個々の教員の専門分野/配置の関係から、統合的な名称をつけざるを得ないという事情。第3に、再編にあたって、文部省の審査(教員資格・設備など)をクリアするために、関連領域・下位領域分野の名称/カリキュラムでの設置を余儀なくされるというテクニカルな部分。第4に、短大からの4大変換の場合が中心であるが、既存学部・学科との関係(研究・教育領域のバッティングの回避)である。

 いくつかの短大での事例をみればわかるように、国文学科と英文学科の不振打開策として、これらを統合して「言語文化学部・学科」「国際コミュニケーション学部・学科」の設置を行うところがある。

 いうまでもなく、文学の枠にとらわれず、言語文化を研究・教授することには大きな意義がある。また、現代社会の理解や学生の就職との関係からも、国際コミュニケーションを学ぶことは、有意義かつ有用である。しかし、単なる目新しさや改組のための設置基準対策から、そうした合併策をとることは避けるべきであろう。そのようにして設置された学部・学科は、すぐに受験生・学生にその安易さを見破られようし、状況がここまで来ているとき、一時しのぎにすらならないと思われる。

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    おわりに

 今回紹介したデータ・資料から、得られたことをまとめると、以下のようになる。

  • ごく近い将来、短大・4大ともに「全入体制」に突入する。
     
  • それにより、研究・教育・経営の諸側面において、多くの困難が生じることは必然であり、なんらかの対処=改革を行う必要がある。
     
  • とくに、短大は社会的なニーズの対象からもはずれ、その存立基盤から危うくなっている。
     
  • 文学・家政系学科の落ち込みに対し、実学系学科の人気という、全体的な流れができている。
     
  • ただし、志願者動向には、当該短大の特性など、複数の要因が関連している。そのため、志願者減に対する一元的な解決策は存在しないと思われる。
     
  • 短大・学科の新増設の現況は、看護・福祉系が中心となっているが、すでに過当競争の段階にあるといえる。
     
  • 4大・学部を新増設する場合でも、おそらくは、財政上の必要から、短大を維持する学校法人が多い。
     
  • 改革を行った諸短大の例をみると、一部学科の不振打開と受験生のニーズ対応に重きをおいている。
     
  • こうした改革においては、短大(全体・一部)の定員縮小によって、短大の新学科あるいは4大・学部の新・増設が行われる場合が多い。
     
  • 短大の4大・学部設置は、4大進学率の増大への対処を優先したものと考えられる。
     
  • 新・増設する学部・学科は、「国際・情報・環境・文化・人間・福祉」などのキーワードから分類することができる。
     
  • ただし、設置基準への対応などから、統合的な学部・学科名称となることも多いようである。
     
  • しかし、そうした実務上の制限から、名称だけでなく、コンセプトに明確性を欠く学部・学科を設置して「改革」となすことは、避けるべきと思われる。

 
 冒頭でも述べたように、本稿は、短大・大学のおかれている危機的な状況と、それへの対応の全体状況に関する基礎的な資料の紹介を目的としている。よって、これらの(限定的な)データにもとづくかたちで、短期大学というものの将来や、そのための改革の具体的な方策について提案をすることは、いっさい行わなかった。

 しかし、戦後の学制改革から生まれた「短期大学」という存在が、50年目にして(ようやく?)その存立基盤を問われているわけである。短大の危機・改革は、単なる志願者の減少という側面からのみ論じられるべきではない。しかし、これをひとつのチャンスとして、短大・女子大・女子教育について、少しずつメモを取ってゆくつもりである。

 また、その結果は、随時、このページに掲出する予定であるので、ご参照いただければ幸いである。

 

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 資料 新・増設学部の志願者動向

 以下、最近3年間に開設された新・増設学部(4年制大学)における、志願者動向を紹介する。リストをみればわかる通り、すべての大学が、短大を併設しているわけでもなければ、女子大のみが抽出されているわけでもない。

 しかし、「冬の時代」に向けて、各大学がどのような学部を新・増設したのか、そうした新設学部が受験生からどう評価したのかを知る上で、ひとつの手がかりになると思われる。

 

表−8 3年目を迎えた新・増設大学・学部(19校)

  1993年 1994年 1995年
大学/学部 募集 志願 合格 倍率 志願 合格 倍率 志願 合格 倍率
静修女子/人文 150 819 419 2.0 620 451 1.4 841 445 1.9
東京成徳/人文 80 2300 254 9.1 3284 294 11.2 2643 444 6.0
駒沢女子/人文 80 1082 148 7.3 1942 240 8.1 2257 293 7.7
中京学院/経営

90
3680 165 22.3 2948 186 15.8 2760 270 10.2
愛知みずほ/人文科 80

1353

192

7.0

1082

117

9.2

944

195

4.8

成安造形/造形 90

1129

158

7.1

920

193

4.8

1109

215

5.2

北海道医療/看護福祉 78

882

263

3.4

2437

409

6.0

1642

250

6.6

北海学園/人文 120

134

309

4.4

1322

325

4.1

1410

286

4.9

    /II 人文 70

144

131

1.1

471

169

2.8

272

122

2.2

順天堂/スポーツ健康

110

1524

186

8.2

1829

246

7.4

1996

207

9.6

大正/人間

240

4118

521

7.9

10497

302

34.8

9179

445

20.6

  /

240

5917

447

13.2

13073

352

37.1

11736

443

26.5

中央/総合政策

152

11233

557

20.2

5440

438

12.4

4007

419

9.6

東京理科/経営

200

1185

347

3.4

4217

876

4.8

3337

865

3.9

桐蔭学園横浜/

75

702

149

4.7

3259

169

19.3

未発表
近畿/生物理工

120

4496

428

10.5

4361

851

5.1

3488

670

5.2

神戸女学院/人間科学

85

1057

281

3.8

1009

240

4.2

803

196

4.1

広島工業/環境

75

1127

317

3.6

729

130

5.6

1112

353

3.2

広島女学院/生活科学

210

674

470

1.4

1042

408

2.6

892

405

2.2

東亜/デザイン

30

113

56

2.0

291

73

4.0

248

105

2.4

九州産業/経済

405

5959

953

6.3

4519

961

4.7

6467

1458

4.4

                                ページトップへ  

表−9 2年目を迎えた新・増設大学・学部(31校)

  1994年

1995年
大学/学部

募集
志願 合格 倍率 志願 合格 倍率
つくば国際/産業社会

120

2,421

257

9.4

2,839

258

11.0

目白/人文

140

1,675

243

6.9

2,732

247

11.1

清和/

125

2,272

239

9.5

1,669

297

5.6

  /法二

32

245

42

5.8

394

36

10.9

長岡造形/造形

140

1,631

234

7.0

1,766

343

5.1

新渇経営/経営情報

133

1,844

281

6.6

1,788

343

5.2

新渇国際情報/情報文化

155

2,077

320

6.5

1,269

364

3.5

静岡産業/経営

70

1,634

198

8.3

非公表
    /経営二

40

197

64

3.1

非公表
鈴鹿国際/国際

100

2,519

188

13.4

1,622

309

5.2

山陽学園/国際文化

90

359

206

1.7

402

346

1.2

比治山/現代文化

120

850

140

6.1

770

430

1.8

福山平成/経営

155

1,833

353

5.2

1,862

464

4.0

西南女学院/保健福祉

78

442

200

2.2

429

140

3.1

長崎純心/人文

l06

656

205

3.2

625

287

2.2

鹿児島純心女子/看護

28

189

34

5.6

347

64

5.4

   /国際言語文化

80

159

109

1.5

216

178

1.2

名桜/国際

2l0

1,566

304

5.2

1,113

368

3.0

北里/

180

2,773

433

6.4

3,764

504

7.5

東京薬科/生命料学

110

2,340

245

9.6

1,972

271

7.3

東京工芸/芸術

156

2,928

302

9.7

3,837

444

8.6

新潟産業/人文

80

601

203

3.0

1,055

329

3.2

岐阜経済/経営

350

3,320

494

6.7

3,171

765

4.1

常葉学園浜松/国際経済

100

659

160

4.1

1,461

325

4.5

立命館/政策科学

240

9,169

626

14.6

9,166

549

16.7

大阪学院/経営科学

200

4,860

711

6.8

4,590

719

6.4

    /流通料学

200

4,086

770

5.3

3,843

638

6.0

関西/総合情報

270

15,585

942

16.5

9,196

900

10.2

園田学院女子/国際文化

160

335

105

3.2

377

211

1.8

武庫川女子/生活環境

200

1,631

465

3.5

1,888

231

8.2

九州産業/国際文化

140

1,306

225

5.8

1,836

284

6.5

久留米/経済

162

2,305

547

4.2

2,112

581

3.6

九州国際/経済

298

8,633

572

15.1

5,071

815

6.2

    /経済二

32

88

46

1.9

132

50

2.6

活水女子/音楽

50

127

91

1.4

110

96

1.1

熊本学園/外国語

150

733

396

1.9

1,148

413

2.8

    /社会福祉

150

1,249

320

3.9

1,711

313

5.5

以上 

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