『ボクはきらめき高校の生徒になりたいッ!』 第2話

 朝。
 目覚まし時計の音がときメモ寝不足状態のオレを無慈悲に叩き起こす。虹野さんには好意的でもオレにはそうじゃないようだ。なーんちゃって。う〜ん我ながらかっこいいセリフである。
 ふと見るとテレビもゲーム機も通電状態だ。やはりときメモプレイ中に寝てしまったようである。
「……凄まじい夢を見たな。それにしても……虹野さん……かわいかったなあ……」
 鏡に映るオレの顔は情けないほどニヤニヤしている。
 よっしゃ! もう一度寝てさっきの夢の続きでしょ〜っ! といきたいところだが、実はかなり切羽詰ってる時刻だ。すなわち学校に遅刻しそうってわけ。
 それにしても、くっそーっ! みのりちゃんが邪魔しなければ……でもまあ、かわいいから許しちゃおーっと。っていうか悪いのは筆者だ! そうだ筆者が悪いんだどうしてくれんだよ筆者!! って遅刻するぞ>筆者。
 そうだ、こんなこと言ってる場合じゃねーんだってばっ! っていうかオレも時間ギリギリに目覚ましをセットしてんなよ。
 オレは、ルパンよろしく泳ぐようにパジャマを脱ぎ、制服に着替えると、のび太みたいに食パンをくわえて家を飛び出した……かったのだが、あいにくオレは、家の中での装備をTシャツにトランクスと決めてるし我が家の朝食はご飯を食うべしとされているので、普通に制服に着替えて何も食わずに家の外へ出た。
「あら、ヒムロ君、ちょうどよかった」
 道路へ出ると、隣に住む田中さん家のおばさんがオレを呼びとめた。あ、ちなみに"ヒムロ君"ってのはオレの名前だ。名字は「高杉」名前は「氷室」。オレの親もとんでもない名前をつけてくれたものだ。以前親に、オレの名前を「氷室」にした理由を聞いたら、
「ロックバンド『BOOWY』のボーカル、氷室京介のファンだから」
という答えが返ってきた。オレが生まれたときに『BOOWY』は存在してないと思うのだが……。っていうか「京介」ならともかく名字の方つけるか、普通。どう考えても他に理由があるに違いない。それにしても、第2話まで主人公の名前が出ててこないってのもどうかと思うのだが……。まあ、今はそんなことどうでもいい。
「あ、おばさんおはようございます。なんすか?」
 オレがそうたずねると、おばさんは1つの包みをオレに差し出した。
「ヒムロ君、悪いんだけどこのお弁当、ウチの詩織に届けてくれない? 詩織ったら、たま〜に抜けてるのよねぇ」
「あ、別にいいっすよ」
 …………詩織……詩織…………詩織だぁ!?
 今、確かにおばさんは「詩織」って言ったぞっ!! そんな! 田中さんとこに「詩織」なんて娘はいねえ! いるのは1つ下の「春奈」っていう名前はかわいいけどかわいいのは名前だけではっきり言ってアザラシみたいな……いや、トドみたいな……いや、セイウチみたいな……そんなのどうだっていい! ようするにすげえブサイクな娘しかいねえってことだ!
 オレはとっさに田中さん家の表札に目をやった。
「藤崎」
 うおっ! ふ、「藤崎」になってるっ! しかも驚くことに表札のフォントはMSゴシック! いや、それはウソだけど、とにかく田中家が藤崎家になっているのは確かだ。だが、オレの目の前におばさんは、どっからどうも見ても田中さん家のおばさんだ。
 考えられるのは、オレの預かり知らぬところでおばさんが離婚して旧姓の「藤崎」に戻ったか藤崎って人と再婚したか。それともまだ……夢から覚めてないか……。
「ヒムロ君、どうしたの? ぼーっとして。あ、それじゃ、このお弁当頼んだわね」
 おばさんはそう言うと、混乱しているオレに弁当を渡して家の中へ入っていってしまった。無論、「藤崎」の表札のついた家へ……。
 なんてこったっ! オレはまだ夢から覚めてないのかっ!?
 オレはそれを確かめるべく、例によって自分の頬をつねろうと思ったが一瞬考え、夢から覚めてないってことはまた虹野さんに会えるってことじゃんラッキーということに気づき、さっさと(虹野さんに会いに)学校へ向かうことにした。


 さっさと(虹野さんに会いに)学校に向かったオレだったが、途中で、夢なんだから遅刻でいいや別に虹野さんが逃げちゃうわけじゃないしと思い、のんびり歩いて行ったら見事に正門は閉ざされていた。時間的にはもう一限目がとっくに始まってるから、当たり前と言えば当たり前か。
 オレはふと、閉ざされた門の横にある、レンガで飾られた塀に書かれた文字に気づいた。
「明青学園 高等部」ってそれは『タッチ』>オレ。そうではなくて、
「私立きらめき高校」
 確かにそう書いてある。オレの通っていた学校は見事に「私立きらめき高校」になっていた! これは夢か幻か!? オレはそれを確かめるべく自分の頬をつねるのもそろそろしつこいのでやめよう。ともあれ、(虹野さんがいるから)憧れのきらめき高校に(虹野さんと一緒に)通えるんだ。この際、夢でも幻でも良いではないか。みたいな。
「さてと、仕方がない。裏門の扉を登るか」
 オレは機転を利かせ、使う労力を最低限にすべく、比較的乗り越えるのが容易な裏門へ回わった。正門ってけっこう高いし、職員室からだと門を乗り越えてるのが丸見えだからなあ。夢の中でまで怒られるもヤだし。
 裏門へ回ると、そこにはすでに先客がいて、門を乗り越えようしている真っ最中だった。
 制服は確かにきらめき高校の制服だ! そして制服できらめき高校だってわかるってことは、門を乗り越えようとしているのは当然、女子!
 彼女はオレがいることに気づいていないのか、豪快に門を乗り越えた。そして豪快にいいモノを見せてくれた。くわっ! 白い!! 眼福眼福。夢とはいえ、今日はついてるぜ。いや、こんな夢見てるってことはオレ、たまってるのかも……。そう思うとちょいと悲しいぞ。
「あっ! ヒー君じゃ〜ん! なんだぁ、ヒー君も遅刻ぅ?」
 今、門を乗り越えた、きらめき高校らしく(?)髪の赤い女の子は、門越しにオレの方を向いてそう言い放った。
 オレは周囲を見渡した。だが、どう見たってオレ以外に人はいない。いるのは微生物さんくらいのものだ。
「なにキョロキョロしてんのよ! ヒー君ってアンタのことでしょ〜が。朝っぱらからボケてんじゃないの!」
 そう言う彼女の指は確実にオレを指している。
 まあ、オレの名前は「ヒムロ」だから、略して「ヒー君」と呼ばれてもおかしくはないわな。っていうか朝日奈さん! そうだよ! 彼女は朝日奈さんじゃないか〜!
「なに人の顔見て驚いてるのよ! それってぇ、超失礼って感じだよねぇ」
 さて、ここでときメモおなじみの三択が登場!

・ 「いや、朝日奈さんがかわいかったもんだから、つい」
・ 「いや、まさかこんな時間に朝日奈さんに会うとは思わなかったから、つい」
・ 「いや、朝日奈さんのパンツてっきり黒とか履いてるのかと思ったら以外にもシンプルな白だったから、つい」

 キミならどれを選ぶ? と、ウェブらしくあなたに選択肢を選んでもらうところなのだが、3通りの文章を書くのはどう考えたってかったるいのでそれは無しです>筆者。
 さーて、ヒムロ君の選択は!?
「いや、まさかこんな時間に朝日奈さんに会うとは思わなかったから、つい」
 なんて無難な選択なんだオレ! まあ、朝日奈さんのときめき度が上がってもあとで困るだけだし。オレはあくまで虹野さん一筋!
「そういえばはじめてだよねぇ。まあ、私はけっこうこの時間に来たりするっていうかぁ。ヒー君って、見かけによらず遅刻しないんだよねぇ」
「っていうか朝日奈さんに会ったこと自体、今日がはじめてだし」
「へ、なんか言った?」
「いや、なんも」
 ここでそういうことを言うのは得策ではない気がする。上手く話を合わせておいたほうがいいよな。
「ま、いいや。ほら、いつまで門越しに話してるつもり? ヒー君もさっさとこっち来ちゃいなよぉ!」
「お、そうだった」
 オレはカバンを門の向こうに放り投げると、自分も門の向こうに放り投げたら楽だよなでも着地に失敗したら痛そうだよな骨とか折れるかもと思いつつ普通に門を乗り越えた。
「そいじゃ、いこっか」
 朝日奈さんはそう言って昇降口の方へ歩き出した。と思ったらオレのほうを振り向いた。
「あ、そうそう、ヒー君? お昼、ヒー君のおごりだからね」
「へっ、なぜに?」
「さっき、私のパンツ見たっしょ!」
「な、気づいてたのか!?」
「やっぱり! 超ラッキーッ! 言ってみるもんだよねぇ」
「げ、カマかけられたのか……」
 なんか、理不尽な気持ち……。あ、そうだ。預かってる詩織の弁当を朝日奈さんに……ってそんな恐ろしいことできるわけないか。っていうか朝日奈さんってこんなしゃべり方だったっけか?(……勉強不足でスイマセン>筆者)

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