ロシア革命史(1) 岩波文庫(2000/07) トロツキー(著) 藤井一行(訳)
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2月革命、レーニン帰国は未だし, 2009/4/13
ロシア革命とその後の歴史をどう評価するかは、文明史的観点から極めて大きな課題である。自分なりに、ぼつぼつその作業をして行こうと思う。そのひとつとして本書を読んでみることとした。
「ロシア革命史」は、全2巻からなり、第1巻では、主として1917年の2月革命を扱い、第2巻で10月革命を扱う。岩波文庫では5分冊からなり、原本第1巻が第1、2分冊に、第2巻が第3〜5分冊に割り振られている。
第1分冊では、冒頭でロシアの発展の特殊性を、不均等に発展する歴史の帰結として、いろいろな遅れた要素が西欧仕込みの進んだ要素と結合した結果であるとする「結合発展の法則」により説明する。資本の集中は過度に進み、民衆はひどく遅れたままに置かれていて、何かでつつけば爆発しかねない状況にあったといってよい。
ロシアは、第1次世界大戦でブルジョアジーが膨大な儲けを得る一方で、どの国より多くの死者(250万人)を出した。この戦争は、ロシア国民の各階層にさまざまな影響を与え、ツァーリの支配は内部からも瓦解し始め、民衆の蜂起も起こり皇帝の退位が避けられない方向へと動いてゆく。2月23日の女性デモからはじまる人民の決起は、軍隊の決起をも伴って帝政崩壊に至る。その結果、なぜか資本家、地主を中心とする臨時政府が出来上がり、著者はこれを「2月革命の不思議」と呼ぶ。それは、執行委員会なる政府組織が、1905〜7年の第1革命時にうまれたソヴェトという労働者・兵士の代表組織を拠り所に画策した結果であった。その後、ソヴェトを国家権力機関とするかどうかの綱引きがソヴェト組織内部で繰り広げられる。この時期、メニシェヴィキとエスエルは、民主主義者=社会主義者を自認するが、常に自由主義者(立憲君主制を唱えたカデットなど)に権力を渡そうとしたのであった。その政府とソヴェトとの二重構造が出来上がる。これらの時期、ボリシェビキは少数派である。
トロツキーは、こうしたロシア社会の変化を客観的かつ克明に描く。時の流れの全体を俯瞰しながら、その中の主流がどこにあるかを示し、その流れがどのような力の抗争の中でどちらに動くかを勤労者や農村出身の兵士などの立場に立って描いている。これはまさに、マルクスやエンゲルスが、彼らの活動の中で執筆した諸文献と同じ描き方である。文は人なり、といわれるが、その意味では第1分冊を読んだだけでも著者の「人」が彷彿としてくるのである。