パリ燃ゆ T〜V   大佛 次郎(著)   朝日新聞社 (2008/3/7)

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パリ・コミューンを作家として追うと・・・, 2013/5/10

パリ・コミューンをこの上なく詳しく描いたドキュメンタリー小説。それは、3巻合計で1695頁というボリュームもさることながら、史実を当時の新聞、著作から引き、日を追い、時間を追い、ときには一つのことをいくつかの角度から眺めて生き生きと描写するところで特徴づけられます。この本を読めば、パリ・コミューンの具体的姿が脳裏にリアルに焼きつきます。パリに土地勘のある読者なら、一層リアルにそのドラマを追体験できるでしょうし、この本を読んで後にパリを訪れる読者は、「パリ燃ゆ」の舞台を体験できるでしょう。

第1巻は、著者がサン・ドニ美術館にパリ・コミューン政府の指導者の一人であるドレクリューズの最期を描いた絵をはじめとする関係絵画を見に行くところから始まります。取り分けて著者は、そこで見せられたルイズ・ミシェルを描いた絵に触発され、彼女の生い立ちをたどります。こうした導入は、小説家らしいものであり、全巻を通じてゴンクールの日記が多く引かれること、アルフォンス・ドーデーなど当時フランスに生き、パリ・コミューンについて作品を残す作家に触れるのも大佛の個性なのでしょう。ちなみに、本書最後の部分は、ブランキが獄中からクレマンソオに送った手紙の引用が中心になっています。

著者の描くパリ・コミューンを追いながら、私は、ひとりでに、何故、パリコミューンがこの時期に起こったのか、如何に又何故、壊滅に至ったのかなどを想いました。多分、著者もそれらを明かすべく筆を執ったのでしょうが、まさにそれを考える素材が散りばめられています。何故この時期に、に関しては、遡ってルイ・ポナパルトがクーデターを起こし皇帝にまでなるあたりから、主として政治・社会の姿を描きますし、壊滅に至った経過は、実にリアルに描かれています。経済は、ほとんど描かれません。そして、結論は、読者に任されます。

この本の読書の余録として、フランスの作家の小説、たとえば、ドーデーの「月曜物語」に納められたいくつかの短編、それらが良く理解できるようになったことに驚きました。外国小説を読んでいまひとつピンと来ないことの原因に、その背景を知らないことがあります。同じことは、やはりコミューンを我が国隠岐の島に丁度同じ時代に見ることができ、その一端を松本侑子の「神と語って夢ならず」が書いていますが、この理解が容易に可能であることにも裏返して言えるのです。そして、これら二つのコミューンの異同を考えることも出来るのです。

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