海峡の霧 辻邦生(著) 新潮社 (2001/06)

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辻邦生文学の作者自身による解題の趣き, 2001/7/21

このエッセイ集を前回の「微光の道」とあわせて読んでみて、辻文学の主要なものをもう一度読み直してみる必要性と価値を認めた。今回のエッセイは、3部に分類され、「I.人物、II.芸術 音楽 歴史 思想、III.人生 生活 旅」からなっている。すなわち、辻文学の対象として扱われてきた主要な要素が(あちこちに塗りこめられた「恋」も含めると)ほとんど全て散りばめられている。しかし、それらは、自身の作品の解説ではほとんどなく、時に応じて記された水晶のような輝きの集合なのである。1篇を除いて1989年から1999年の最晩年のエッセイであり、それゆえにそれら92篇のどれもが水晶のごとき輝きを放つのだろうと思われる。その集合が今回の「海峡の霧」に至って、あたかもボスフォロス海峡の霧が晴れてハギア・ソフィアの大円蓋が飛行機の上から作者の目に飛び込んできたように、辻文学の解題としてくっきりと見え始めたのであった。辻文学がお好きな方も、ちょっと面白そうだと思われる方も、本書をどこからでもよいので、是非、読み始めてみてはいかが?

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