「Weekly Needs」1995.3.12号(Vol.1 No.1)

Vol.1 No.1 表紙 長田神社前商店街 入口の鳥居 長田神社前商店街 入口の鳥居 長田神社前商店街 入口の鳥居

Vol.1目次次号へ


特集!粉じんよ、みんなの体を蝕まないで!<パートT>


 洗濯のすすぎ水が一向にきれいにならない、六甲山から見た神戸は黄色い霧に包まれている、せき込む、目が痛い、鼻がツーンとする、あなたの周りのそんな現象の原因になっているものは何でしょうか。最近耳にするアスベストは関係あるのでしょうか?倒壊家屋の撤去作業が急ピッチで進む長田でいったい何が起きているのでしょうか?
今、長田では何が?
 四日市喘息時にも匹敵するという神戸中の粉じんの正体は、有害な化学物質です。今回の震災で家屋の倒壊や炎上、及び廃材の野焼き等が原因で建材に含まれていたものが空気中に散乱し、まん延しているのです。
アスベストって何?
 去る2月中旬、大学教授、専門家を含むボランティアグループが、東灘区で大気調査をしたところ、基準値の25倍にあたる量のアスベストが検出されました。粉じんに含まれるアスベスト(石綿)は、断熱材として使用されてきましたが、現在では肺ガンを誘発することが解っています。アスベストは「水に溶けない」「燃えない」等の特質を持ち、目に見えないほどの微細な繊維なのでガーゼを通過してしまうため、普通のマスクでは防止できません。
ダイオキシンと枯葉剤
 塩素化合物であるダイオキシンは、ベトナム戦争時に枯葉剤に使用された有毒物質です。今回は、火災によって発生しました。調査結果はまだ出ていませんが、専門家らは、状況から見てこれが検出されるのは確実だとしています。これらの有害物質は体内に蓄積され、肺ガン、中皮種、アトピー、喘息などの症状を引き起こす原因になるのです。
誰がいつ病気になる?
 アメリカとカナダの断熱労働者の検疫調査によると、肺ガンで死亡する確率は、非喫煙者で一般生活者を1とすると、非喫煙者で石綿労働者が5、かつ喫煙者だと50に跳ね上がるとされています。しかし、影響度にはたいへん個人差があり、肉体的、精神的な要素も大きな差をもたらします。
有毒物質を防ぐ方法
 これらの物質だけでなく、有毒ガスなどをも防ぐためには、マスクを着用し、それらを吸収しないように自己防衛するしかありません。これは、現時点で出来る簡単で最も有効な手段です。
正しいマスクの選び方
 マスクを有効に着用するために、今回の神戸の環境問題についても既に調査を開始した精神と身体両面のケアをするボランティア団体・波羅宮オフィス(代表:ワゲネット順子さん)にアドバイスを戴きました。
 まず、有害物質が非常に細かいという特性を考慮すると、当然風邪対策のガーゼマスクでは防ぎきれません。活性炭が入っているものは有害物質、臭い、ホコリ等を吸収する働きがあるので有効です。不織布(ふしょくふ)という生地はアスベスト対策に有効ですが、やはり様々な物質を防ぐ最大公約数として、活性炭が厚く入っているものがよいでしょう。「農薬散布、防塵」の表記が目安です。
マスクをつける時には
 次に、外気の侵入を防ぐために、マスクの周りに隙間がなく、密着するものが良いでしょう。具体的には、鼻の形に曲がるノーズブリッジ入りのものや、ゴム、スポンジ等で隙間を埋められるものです。
 そして、やはり経済面と性能面を考慮しても、何度でも再生できるマスクをお勧めします。
長田を守ろう
 皆さん、外出する時は、自分の将来を守るために必ずマスクをしましょう。それができなかった時は、せめてうがいを慣行して下さい。二十年、三十年後の三次災害を防ぐためにも、地域ぐるみでマスク着用を習慣化し、長田の未来を創っていきましょう。

 来週は、須磨区でのアスベスト・粉じんの測定現場に同行したルポに、詳しいデータを交えてお送りする予定です。


雇用関連最新情報


羅災証明書は、あらゆる手続きに必要な書類です
 羅災証明書は、震災による建物の損壊があったことを証明するもので、原則として所有者や使用者の本人・家族に交付されるものです。発行には印鑑が必要ですが、やむを得ない場合はサインでも可。羅災証明書は、各種税金の控除、銀行の預金通帳再発行の期間短縮、NTTの電話工事料金の減免措置、運転免許証やパスポートの再交付に利用できるほか、受験生は特別に各大学が被災学生のために設けた入試を受ける際に、必要書類として提出する場合があります。受付は阪神地区の各市区役所にて。郵送可。土・日曜も受付を行うところもあるので、問い合わせてみて下さい。
震災に伴う解雇・内定取消など雇用トラブルホットライン開設
 神戸地区労・ワーカーズユニオンは、阪神大震災に伴う解雇や内定取消といった様々な雇用トラブルの相談に応じる「阪神大震災労働・雇用ホットライン」(078-232-1838)を開設。神戸市中央区雲井通1-1、同事務所で午前9時〜午後5時まで受け付けています。
 また、各公共職業安定所でも雇用保険の受給手続き、雇用調整助成金、失業給付、職業紹介等の相談に応じています。原則として平日午前9時〜午後5時まで。その他、各労働基準監督署でも労働関係の電話相談に応じています。フリーダイヤル兵庫労働基準局0120-601700(以下略)。
失業手当給付のお知らせ・給付金額は各個人さまざま
 被災地の離職者に特例的に失業手当が給付されます。震災による勤務先の休業で、賃金が貰えなくなった一時的な離職者も失業手当を特例的に受け取ることができます。対象は災害救助法に適用される八市六町。給付金額は一日あたりの平均賃金の6〜8割相当額。兵庫県と大阪府、岡山県などの公共職業安定所に特別相談窓口を設けて被災者の相談を受け付けています。(以下の電話番号・略)

おばあちゃんはどこへいくのか


 たとえば、ここに一人のおばあちゃんがいたとする。あの大震災の日、おばあちゃんは倒壊した家屋の下敷きになった。戦前からある家だもの、当然かもしれない。そのおばあちゃんの話をしよう。

 明るくなって、あちこちで人声が聞こえた。あれは隣のおじいさんと、同じ町内のおにいさんだ。おばあちゃんは必死に声をあげた。助けて!助けて!
 人が駆けてくる音。「おばあちゃん、いま助けるからね」。のこぎりで切る音、何かを持ち上げる音がして、ふっと体が軽くなって、それからおばあちゃんは抱きかかえられて明るい外に出た。地震が起きて一時間あとのことだった。
 こうして救われた沢山のおばあちゃん、おじいちゃんがいる。もちろん子供たちも、大人も。

 それからはずっと避難所だった。小学校の体育館にズラッと百以上も布団が並んで、近所の人もいっぱいいて、こういう共同生活は久しぶりだったので、それなりに楽しかった。ちょっと疲れたこともあったけど。
 でも、時には体育館の天井を見上げていると、壊れてしまった家のことや、これからの生活のことをどうしても考えてしまう。仮設住宅に申し込もうかどうしようか。こんな歳になって、ぜんぜん知らない人たちばかりの土地に行って生活するのは、いくらなんでもつらすぎる。

 噂ではおばあちゃんの家があったあたりは市の計画で広い道路になってしまうという。近くに高層住宅が建つ予定というけれど、そこに確実に入れる保証はない。入れても、家賃は今までの何倍にもなる。とても払えない。
 おばあちゃんは、いったいどこに行ったらいいのだろう。体育館の天井を眺めながら、おばあちゃんはまたため息をつく。
 このおばあちゃんには具体的なモデルがいるわけではない。でも、こんなおばあちゃんは、いま長田中に、神戸中にいっぱいいる。

 地図を広げて長田やほかの地域を見る。焼けた後、倒壊した家屋の地帯を上から見ると、この地域をどうしようか、どういう都市をこれからつくって行こうかと思う。たいていの都市計画プランナーはそうだ。まして、そこが戦前から焼け残って、新しい都市づくりの障害になっている(とプランナーが考える)地帯であれば、なおさらだ。
 でも、そのプランには、ついこの間までそこに住んでいて生活していた人間の姿はない。おばあちゃんたちの姿はない。
 私たちは、神戸のこれからを考えるとき、そういう視点から見てみようと思う。つまり、おばあちゃんはどこにいくのか、という視点である。

(この項つづく)



numata@sakuraia.c.u-tokyo.ac.jp