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ゴーン。ドコーン。 幾つもの爆発を続ける新惑星。 シャラク星から宇宙船で脱出する人々には、この火球はどのように映っているのだろうか……。 「カニパーン!」 キッドが泣きそうな声を上げる。 「カニパン……」 「急いでタイシ星に救命挺を差し向けて」 ナッツさんが指示を飛ばす。 「無理です隊長! 救命挺は有りません」 「くっ……。シャラク星から脱出した人々の宇宙挺はまわせないの!?」 「ダメです隊長。残骸のため近付けません」 いま、新惑星に近付くのは素人目にも自殺行為だった。 不定期に起こる爆発と衝撃で飛び散り散乱する破片……。 「それに、あの爆発ではもう生存者は……」 ! 「じゃあ、カニパンは死んだって言うの! カニパンが死ぬわけないじゃない。あたしは信じてる。カニパンのこと」 半分自分に言い聞かせるようにミルクは言う。 心のどこかに半分あきらめている自分がいる。それでも、それでも、わたし達にできることは信じることだけな以上、それだけは止めてはいけない。 「ミルク……」 「そうデシ。ミルクしゃんの言うとおりデシ!」 「あたし、レポート続けるわよ。死んだと思ってたのに、シャラク星を救ったヒーローが炎の中から現れる。そう言うのが一番おいしいシチュエーションなんだから」 最後まで信じる。そして……、そして、それがダメだったときは、最後まで見届ける。それが残された者の、彼の意志を受け継いだ者の、彼が守ろうとしたものの義務なのだから……。 「とうとう爆発したタイシ星。しかし、そこにはまだ生存者が居るはずです。彼らが無事戻ってくることを祈りましょう」 そう、わたしには、まだ、伝える義務がある……。 以前のわたし、5年前のわたしだったら、きっととっくに逃げ出してる……。 でも、今はそうじゃない。 ミルクはキッと表情を引き締めた。 ゴーン。ドーン。 断続的に続く爆発。 「まだタイシ星は小爆発を繰り返しています。いえ、もはやこれは惑星とは言えません。でも、その中にはまだ生命有る者が残されているのです!」 さっきからずっと同じコトばかり言ってる……。 「はっ、はっ、はっ……。隊長! コアの受入作業は、順調に進んでいるようです」 デバッグ隊員が走ってきてナッツ隊長に連絡する。 「そう」 「なによ、生きてるなら早く出て来なさいよ、カニパぁン。もうレポートすることなくなっちゃったじゃないの。視聴者は飽きっぽいんだから、いつまでも待ってやしないわよ!」 時間が経てば経つほど、可能性がなくなっていく……。 「オレたちは信じて待ってるよ。あいつが戻ってくるのを」 ごそごそとキッドを修理しながらラビオリが言う。 「オレやキッドや、それにナッツさん、ボルシチさんも…」 「ラビオリ……」 ちぇ。いつもカッコいいんだから……。 ラビオリのやさしさが身に染みる…。 「あいつはどんなピンチでも切り抜けられるヤツさ!」 「そうデシ。キッドを残してカニパンが居なくなるわけ無いデシ!」 パタン。キッドの背中のハッチを閉める。 「よぉし。修理完了」 「わ〜いデシ!」 キッドがまた元気に動きまわる。あとはカニパンが戻ってくるだけだ……。 「コアも順調にシャラク星に向かってる」 順調に行けば、コアは再びシャラク星のエネルギーとして働いてくれそうだ。惑星自体を以前のように戻すには、多くの時間と人々の努力を要するだろうが……。 「心配なのは、カニパンとアンしゃんデシ…」 ドゴーン! キッドがそう呟いた瞬間、新惑星に一際大きな爆発が発生した。続いて眩しい光りが視界を襲う。今までの小爆発とは、爆発原因が違うようだ。惑星システムに関わるような部分なのかも知れない……。 「うわ〜っ! タイシ星が爆発したデシ!」 「むごい……」 「タイシ星が消えてなくなる…」 口々に皆が呟く。 シャラク星のコアを必要とした惑星とはいえ、一つの惑星が消え行く様は、やはり人の心に何かを示さずにはいられない。 それが何かは、わからないが……。 「あれは……01じゃないかしら!?」 ある一つのモニタを見ながらナッツさんが叫んだ。 爆発の衝撃で吹き飛ばされた破片のなかにそれらしきシルエットが映る。 「01デシか!?」 「モニターを最大限にズームして!」 モニタにズームされて映ったその姿。それは確かに01だった。 新惑星に墜ちていった01……。 「01デシ! カニパンは行きてるデシ!」 キッドが突然叫ぶ。 「キッド!?」 「キッドにはわかるデシ! カニパン、カニパ〜ン! カニパン応答願うデシ! カニパーン!」 『ん!? キッドか!?』 幾らかのノイズに混じって聞こえるその声は!? 「カニパン…。無事だったデシか?」 『01の中に居る。アンも一緒だ』 カニパン! 生きてた! 生きてるんだ! 「よかったデシ!」 「カニパン! アンも無事だったんだわ!」 自分でも驚く素直な一言だった。 「やったあ」 デバッグ隊のみんなが口々に叫ぶ。 「全くカニパンにはいつもハラハラさせられるわ」 ナッツさんが言う。全くだ。いつもいつも……。 「よかったな、ミルク」 ラビオリが声を掛ける。 「ええ…」 あたしにはそれぐらいの返事しか出来ないかった。 こんなことじゃいけない。 笑顔でカニパンを迎えるんだ。 「おい、キッド!?」 「カニパンを迎えに行くデシ!」 キッドがひょこひょこエアロックの方に向かう。 「キッド、無理するんじゃねえぞ。修理したばかりなんだからな」 「さ、01を収容する準備をして」 「はい」 デバッグ隊の方は受入体勢をとる準備に入った。 あたしにも、最後の仕事が残ってる。 「みなさん、見てください。崩壊するタイシ星からカニパンが脱出しました。今、デバッグ隊がカニパンを収容しようとしています」 『助かった、助かったよ、アン!』 『カニパン…』 スピーカーを通して聞こえるカニパンと……アンの声。 スピーカーを通して聞こえる二人の近さ。それは二人の心の距離にも思える……。 『カニパーン、カニパーン、迎えに来たデシ!』 『キッド! キッドが来てくれたんだ!』 キッドがロケットをつけて01のところまで迎えに行く。 『カニパーン、アンしゃん、よかったデシ。キッド助かると思ってたデシ!」 『何言ってんだか聞こえないよ』 「カニパン! あたし、カニパンの無事を信じてたわ! 今の感想は!?」 モニタが繋がり、カニパンの顔が映る。 バイザーモニタ越しにみるカニパンの顔……。こんなに大人っぽかったけ? 『ミルク……』 そう小さく言ったカニパンの少し申しなさ気な瞳が、わたしにはキツイ…。 たかだか数時間で、こんな表情が出来るぐらいに、カニパンは成長した…。それはアンとの絆の深まりを意味していた。 「カニパン、怪我はない? アンも無事なの?」 ナッツさんがぐっと割り込む。 『はい、心配掛けて済みません』 「ナムルは?」 『……、……』 ナルムは惑星と運命を共にしたのだろうか……。 「そう……。コアの収容作業は順調に進んでるわ。み〜んなあなたとアンのおかげよ」 モニタに映ってる01……。 あたしとカニパンの距離は、この実際の距離よりずっと離れてしまったのかもしれない……。 ぽん。 「元気出せよ。ミルク」 そう言いながらラビオリが肩を叩く。 はっと、泣きそうな顔をしてたのに気付く。 そう、こんな顔をしてる場合ではなかった。 「……、ん」 ミルクは振り向いて一つ笑顔を見せると、ラビオリの気持ちを察したように、アイドルの顔に戻った。 「さーて、帰ってきたカニパンの、独占インタビューの準備しなきゃ」 「カニパン! あなたのモニターに、今、コアの収容作業を映し出すわ。見て」 『はい』 ナッツさんが、収容作業のモニタをまわすよう指示をだす。 コアは少しずつだか着々とシャラク星に近付きつつあった。 !? モニタに映る01の後ろを高速で飛ぶ物体が横切った。 ウー。ウー。 警報が鳴り響く。 「なに!?」 「大変です、隊長!」 「どうしたの!?」 「どこかの宇宙挺が、コア目指して突っ込んできます!」 「ええっ!?」 『この船でコアを木っ端微塵にしてくれる。シャラク星にピリオドを打つのは、わたしだ!』 突如、オープン通信に入る声。 「あの声は、ナムルだ!」 「ウソでしょ!?」 『ククククク……』 『やめろ〜!』 ナムルの笑いとカニパンの叫びが交錯した。 | next |