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バシュウ、バシュウ。 「すごい、すごい、デバッグ隊とナムル兵の壮絶な銃撃戦!」 カメラに向かって中継を続ける。 カニパンが単身、新惑星に突入してもう数分。 デバッグ隊にはこれ以上進むつもりもなく、ナムル側も侵入を許さなければそれでいいので、違いに離れての銃撃戦が続くのみだった。 「あぶねえぞ。もっと離れてろ、ミルク!」 ラビオリが怒鳴る。 「あたしだって、マイクで戦うアイドルよ!」 ホントは何か喋ってないと、中継を続けてないと自分がどうにかなりそうだった。 少なくとも、TVに映るアイドルでいる間は冷静でいられる……。 ばしゅう。 不意に足元に一撃の銃弾が着弾した。 「あん、キャ!」 どん。 びっくりして後ろに飛び退くと、すぐ後ろに迫っていたカメラさんにぶつかってひっくりこけた。 「あたた……」 アイドルとしてはいささかみっともなかったが、ここで動じたところを見せないのもアイドルとしての努めだ。 「前線はこの様に依然として激しい銃撃戦が行われており危険です。わたしたちは少し下がって中継を続けたいと思います」 内心カメラさんにごめんなさいをしながらミルクはカメラに向かって続けた。 実際のところ、どのぐらいの人達がこの中継を見ているのだろうか……。 地上の人達にそうのんびりと、TVを見てる時間があるはずはなかった。ただ結果を待つよりは生きるために努力する方が、生きるものとしての当然の行動であろう。 それでも、わたしは、わたし達はこの放送を止める気はなかった。 カニパンが行って十数分。 バシュウ、バシュウ。 あいかわらず続く膠着した銃撃戦。こんな展開では視聴者が飽きてしまう……などと思ってしまうのはTVメディアに侵されてる証だろうか……。 銃撃戦の最中に累々と転がる停止したロボト達。 200年前の大天才タイシ博士の発明したなかよし回路。未だにその原理と構成は解明されていない。 以前、カニパンが漏らしたコトがある。「なかよし回路ってのは、魂のプログラムなんだ…」。笑いながら言ったカニパンは本気だとは思えなかったが……。 ……? ……キィーン……。 銃撃の音の合間に微かに聞こえる音……。 ……停止したロボト……達……から…!? 一台からでなく、すべてのロボト達から……だろうか。 ロボト達が微かに光りに包まれているようにも見えるが……。 ……。 ほどなく、音も光りも納まった様に見える…。単なる気の所為だったのかも知れない……。 「ワタシハタイシ……ワタシハタイシ……」 突如、壁、床全体が共鳴するような音……声!? 「わたしはタイシ……わたしはタイシ……」 こ、この声は…! 「ううっ……」 皆、耳を塞ぐ。しかし、耳の奥底から響く。頭蓋骨に直接、音が伝わってくる感じだ。 銃撃戦はいつしか止まっていた。皆それどころではないのだ。 ! 足元から震動が伝わる。すぐにその震動は大きくなり、体のバランスを気にしなければならないほどの揺れになった。 新惑星が揺れている! ドゴーン。 何かが爆発した音だ。しかも一つや二つではない。 ゴゴゴゴ……。 ガシン、ゴーン。ガーン。 揺れが激しくなり、壁が剥離し、天井板や、パイプが接合部分から大きな音を立てて分断される。 これは、局所的なレベルを超えている。もっと大きな範囲での現象、そう、新惑星全土に及ぶ……。 「きゃーっ……」 それはそうと、今は落下物から自分の身を守らなければならなかった。 ガラガラガラ……。 「うわぁあああぁ……」 どのぐらい揺れが続いたのだろうか……。 辛うじて、わたしは無事、デバッグ隊の方もそう重傷者はいないようだった。しかし、ナムル兵の方は、高所にあった足場が崩壊して、無事な者は皆無の様だ。 「負傷者を救出して引き上げるわよ!」 ナッツさんが一声上げると、デバッグ隊のみんなが一斉に動き出した。 この惑星はもうダメだ。ナッツさんの一言はそれを表していた。 何が起こったのかわたし達に知る術はない。 単身突入したカニパンが何かしたのだろうか? アンは? 揺れが始まる前に響いたタイシ博士の声は何だったのだろうか? 兎も角、わたし達には判断する材料が足りなさすぎた。 無駄に考えるよりは、生き延びるコトを考えた方がいいだろう。 生きてなければカニパンにも会えない……。 「ふぅ」 なんとか、シャラク星の管理ブロックまでもどって来た。 「これで、全員!?」 ナッツさんが、救助状況を確認する。 崩壊を始めた新惑星。無人の都市のオレンジ色の火の海が眼下に眩しい。 少なくとも新惑星表層はすでに人の存在できる場所ではない……。 「カニパン……」 ミルクは呟いて初めて、自分の喉がカラカラだと言うことに気が付いた。 ! 輸送ケーブルをこちら側に向かってくる機体が! キッドだ!! プシュー。気密ドアが開く。 カニパン! 「うぅ〜」 ……戻ってきたのは、キッドと負傷した3人のナムル兵だけで、カニパンの姿はなかった。 キッドもかなり無理して来たようだった。 「キッド、カニパンは!?」 感情を押し殺して訊く。 「まだ新惑星にいるデシ。今から助けに行くデシ」 ああ、まだ生きてるんだ……。生きてる……。 「やめろ、その体じゃ無理だ」 「行くデシ!」 ボルシチさんがキッドを押し留める。 キッド状態から再び崩壊しつつある新惑星に向かうのは無理そうだった……。 ゴーン、爆発の頻度が上がったような気がする。 「カニパン……」 崩れ行く新惑星を再び臨みながらミルクはつぶやいた。 生きてる……。 ……そううれしくないことがミルクには不思議だった。 そう、カニパンの生命が保証されてるわけではないのだ。再びカニパンの笑顔を見られると決まったわけではなかった。 状況は刻々と厳しくなりつつある……。 コアが新惑星からタイシ星にゆっくり戻ってきている。タイシ星の崩壊はこれで止められるかもしれない……。 けれど……。 ドゴーン。 一際大きな爆発が起こり、火球が大きく広がる。 「あああ……」 ミルクには、ただただ見つめることしか出来なかった……。 | next |