#15 カウントダウン v01
before
『……は48時間以内に崩壊する危険があります。みなさん、おちついて、おちついてください。我々は万が一の場合に備え、脱出船の準備を進めていました』
 政府からの緊急放送があると言うので、モニターしていたら案の定だ。
 戦いもせずに、努力もせずに逃げ出す!?
 そんなことはミルクは真っ平御免だった。
 シャラク星に生まれ住んだ15年はそんな簡単に捨てられるものではなかったし、なにより、このシャラク星の為に、あたしたちの為に戦っているカニパンがいる……。
『シャラク星市民ののみなさん、どうかパニックを起こすことなく、政府の指示に従って、脱出の準備を……』
「ちょぉっと待った!」
 政府放送に割り込む。
 もともと計画していた放送だけど、よりインパクトある方がいいだろうと言うことで、政府の緊急発表を乗っ取ることをプロデューサーが即断即決したのだった。
 まぁ、あとで、どんなお咎めがあるか知らないけど……。
「あきらめるのはまだ早い!」
 今、わたしに出来ることは伝えること。人々に知ってもらうこと。このシャラク星の為に生命を懸けてる人がいると気付いてもらうこと……。
「この惑星はあたしたちが生まれ育った大切な故郷なのよ。それをいきなり捨てろだなんて、あんまりじゃない! みんなそれで平気なの? 今まで暮らしてきたシャラク星を、そんなに簡単に捨てられるの!? あたしは最後まであきらめないわ。なぜなら今も地下の惑星管理ブロックで、シャラク星のために戦っている発明家がいるから…。 あたしもこれから乗り込んで、その様子をレポートするわ。だからみんな、最後まであきらめないで!」
 一旦、放送を切る。あとは地下ブロックに侵入してからだ。
 どれだけのことをみんなに伝えられるかはわからない。結局、シャラク星を捨てることになるのかも知れない。
 ……。
 ……それでも、カニパンがどうにかしてくれる、何かしてくれる……。そんな気持ちだけはミルクの中から消えなかった。

「まさか、こんなところに惑星管理ブロックへの入り口があったなんてね……」
 地下鉄入り口前でボルシチさんを待ちながらナッツさんが言った。
 あたりは人影すら感じられない。みんな避難してしまったようだ。
 しかし、管理ブロック行の作業用エレベータに通じる通路が、こんな地下鉄の駅の空調室に通じてるのもなんだかまぬけな話だった。
 実は探せばまだあるのかも知れない。
「シャラク星建造時に幾つか作られた、作業用通路の名残らしいですけん」
 放送隊の中継設備の方はもうちょっと掛かりそうだったので、少し手持ちぶたさだった。
 ラビオリが何か頼んでたのだが、ボルシチさんはどこに行ってるのだろう?
 ぱぁ〜ん。ぱっぱー。
 っと、そのとき、ボルシチさんが運転しているトレーラーが着いた。
 シートが掛かっていて何だかわからないけど、かなり大物を運んできたようだ。
「よお、ご苦労さん」
 ラビオリが駆け寄る。
「言われたとおり、ばっちり調整しといたゼ」
「一体、どこに行ってたの?」
 ナッツさんが訊く。
「いよいよ決着を付けようという大事な一戦だ。手ブラで行ったんじゃ向こうさまに失礼ってもんだろ」
 ……決着……。あたしの心にも着くだろうか……。
 ファオファオファオファオ……。
 サイレンを鳴らして……デバッグ隊車両だわ。
「デバッグ隊だわ」
「ちぃ、もう手が回ったのか!?」
 政府放送妨害の件だとすると、デバッグ隊が来るのはちょっと違うような気がするのだが……。
「おっさん、付けられたんじゃないのか」
「オレの所為だってのか」
 キキーッ。
 ファオファオファ…。
 車両が停止して隊員が降りてくる。全員完全装備だ。
 ざっ。
 !?
 降りてきた10人のデバッグ隊員がナッツさんの前で整列する。
「隊長、我々もおともします」
「あんた達……」
「こんな危険な仕事に、隊長一人行かせるわけにはいきませんよ」
 わたし達を止めに来たんじゃなくて、一緒に行ってくれると言うのだろうか。
「うれしいこと言ってくれるじゃない…。けどね……」
 ぱきん。
 !?
 ナッツさんがデバッグ隊の隊員証を砕き割った。
「わたしはもう、あなた達の隊長じゃないわ。これからの行動は、わたしの個人的な判断によるもの。上層部の決定に背いて惑星管理ブロックに乗り込むの。付いてきても給料は出ない。それどころか、ヘタすりゃ命令違反でクビかもね…」
 ナッツさんが低い調子で言う。
 ここまで真剣なナッツさんは初めてだった。
「隊長」
 ぱきん。ぱきん。ばきん。
 整列した隊員が次々に隊員証を砕き割っていく…。
「覚悟の上です」
「シャラク星が壊れるってときに給料の心配したって、しょうがないでしょ」
「一緒に行かせてください」
 ……。あたしの胸にこみ上げてくる、この熱いものはいったいなんなんだろう……。
「あなたたち……」
「なんだ、踏ん切りがつかないのか?」
 ラビオリが言う。
 一人だけ、隊員証を見つめて迷っているようだ。
 ……。あれが普通の人の態度かも知れない。
「なら、さっさと帰るんだな。こっから先、臆病者の出る幕は無ぇゼ」
「なんだときさま!」
「こいつは赤ん坊が生まれたばかりなんだ」
「っと、すまん。失言だった」
 そう、冷静に見て、あたし達の行動が正しいとはとても言えない。どっちかと言うと、愚かな行動と行った方が当てはまるだろう。
 まして、守るべき人がいるのなら……。
「ありがと…。その気持ちだけで、十分よ。あなは帰って自分の家族を守るべきだわ」
「いえ。自分は、子供にとって自慢できる父親でいたいですから!」
 ぱきん。
 その隊員も右手に力をいれて隊員証を割った。
 自分の家族を守るのも、自慢できる父親でいるのもどっちも正しいような気がする。
 もちろん、そんなに簡単に答の出るものでもないだろうし、出ないものかも知れない。
 それでも、一人でも、人手が増えるのはミルクにとっては心強かった。
「ほんと、デバッグ隊ってのは、そろいもそろってバカばっかなんだから」
「お言葉ですが、それも皆、隊長のご指導によるものと、存じますが」
「くすっ。確かにね。では、改めて司令を出します。我々はこれより、地下管理ブロックに侵攻。全力を以て賢者のプログラム阻止に当ります。以上!」
「了解!」
 皆が守りたいものはそれぞれ別なのかも知れない。ただ、一つ共通なのは「シャラク星」それだけだ。
 それに、隊員が如何にナッツさんを信頼しているか。
 ……。あたしはナッツさんみたいな大人にはなれそうもない。
「ふぅ」
 一つため息をして、空を見上げる。まだ青い空。戻ってきてまた見れるといいんだけど……。
「こっちはOKです!」
 放送中継の回線も確保が済んだ様だ。
 いよいよ突入だ。
 待ってなさいよ、カニパン。
 髪をなびかせてミルクは大きく振り返った。

『キッド01!』
 インカム越しに聞く、久々のカニパンの声。
 キッド01とBKがアームの攻撃からぎりぎりカニパンの乗ってるポッドを救出する。
 管理ブロック最下部に達っするなり、01をボルシチさん、BKをラビオリがそれぞれコントロールして、カニパンの救援に向かわせたのだ。
『BKmk2! お前達どうして!?』
「へへっ。間一髪セーフだな」
『え!?』
「よっ」
『ラビオリ!』
「ぼうず、とっとと片付けて引き上げようぜ」
『ボルシチも…来てくれたのか!』
「オレ達だけじゃねぇぜ」
「いよいよタイシ星に乗り込むわよ! 各自装備を最終点検して。それが完了次第出発よ!」
「了解!」
 すでに、コアはシャラク星を離れタイシ星に向かっていた。
 向かいに見えるタイシ星の六角柱の構造物から光りが漏れている。ビル街の様だった。タイシ星はすでに惑星として活動を始めている証拠だった。
 カニパンの行動自体はむこうの妨害であまり上手くいってないようだ。
 それでも何より、生きていることがうれしかった。
 でも……アンはどうしたのだろう?
「みんな見てる!? 今もこうしてシャラク星の為に戦っている人達がいるわ。彼らががんばってる限り、あたしは絶対にあきらめない! だからみんなも希望を捨てないで!」
 カメラに向かって呼び掛ける。
『ミルク……、それにナッツさんまで』
「ポチさんもいますけん」
『ポチさん』
「なに、ぼやぼやしてんのよ! 01やBKがいなかったらどうなったと思ってんの。だらしないわねぇ。そんなことじゃアンに嫌われるわよ」
 何気にさぐりを入れるあたし……。あんまりカッコいいことじゃないけど、やっぱり訊かずにいられない。
『んっ、ぐっ…』
「なによ、ひょっとして図星!? だっさー。アンタ、振られたんだ」
 どきん。
 やだ、うれしい。あたし。
『ぅ、うるさいなぁ!』
「あんたねぇ、振られたぐらいでくよくよしてんじゃないわよ。男ならそのくやしさを倍にして返してやんなさい」
「それを言うなら、バネにして跳ね返せ、じゃねえか?」
 ラビオリが一言多い。
「ぅ…、どっちでも同じよ!」
 もう、こいつももう一言少なければ、もっとカッコいいのに。
『くすっ。よっしゃあ! いくぞキッド!』
『はいデシ!』
 妨害するアームを01とBKに任せてキッドとカニパンのボッドが再びコアを支えているメインアームに向かって行った。


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