沢山の人が生きる場所が街である。
その見てくれは地域地域で異なった表情を見せるそうだし、実際そうだと思うが、そこに住む者達の表情は変わらない。
はぐれた弟を探して、晴天の下うだるような暑さの街中を歩きながら、俺はそんな事を考えていた。

「何処行ったんだ、キャンの奴」

出歩く事自体は別に止められてはいない・・・が、キャンの事だ放って置いたらディーンさんに迷惑がかかることも多いだろう。
そう思ってジョグやアルス達と一緒に宿泊先を出てきたのだが、キャンの行方はさっぱり解らない。
だいたい、外に出て行く所をアルスが目撃したのが30分ほど前だ、
キャンが繁華街に潜り込むまでの時間としては十分過ぎる。
手分けして探す事にはしたが、キャンの姿は影も形も見えない。
いいかげん途方に暮れながら歩いていた俺はぼんやりとそんな事を考えていたのだが、これがいけなかった。
注意が散漫になっていたのだろう、普段なら避けられるのに通行人とぶつかってしまったのは一瞬の後の事だった。

「いって・・・・あ、失礼」
「いや、こちらこそ済まない。考え事をしてたんだ」

俺がぶつかった男は夏だと言うのに上着のフードを目深に被っており、あまり柄が良いとは思えなかったが対応は丁寧だった。
謝辞など、俺よりも先に出てきたくらいである。
しかし、俺よりも若干下からの視線に不意に怪訝そうな色が混じっている事に気付く。

「・・・俺の顔に何かついているのか?」
「あ、いや失礼。……ちょっと珍しいと思ってね。君はこの国の人間じゃないだろう、旅の人?」
「確かにそうだが、あんた一体…?」

夏場には不釣合いなフードの下から覗く彼の瞳の色が赤いのに気付いたのは、その時だった。



肉汁と玉葱と牛肉と飯、それらの味が微妙なバランスで絡み合って俺の口の中に広がってゆく。

「うん、結構いけるな・・・・」
「んー、絶妙って言うんだろうな、こう言うの」

漏らした感想に応えてくれたのは目の前で俺と同じように牛丼を掻き込んでいるライルだ。
その隣にはセレネも同じように牛丼を食べているのだが、こちらは流石に掻き込みはしていない。

今俺達が居る場所は、ムーナイア王国に隣接する国家であるフレガン王国の首都、フレムナの更に街中の牛丼屋の軒先、更にそこの大きな日傘付きの食台だった。
キャンを探してノール達と出てきたのだが、牛丼と目が合ってしまったので仕方なく食べている次第だ。
この店に決めたのは俺だが、どうやら当たりだった様である、
幸せと一緒に牛丼を更に噛み締める為に更に箸で一掬いしようとした所で、俺の隣に人が立つ気配があり、俺はその気配へと目を向けた。
立っていた人間と目が合う、相手は黙っていれば可愛い顔なのに不機嫌そうに目尻を吊り上げていた。
その少女が口を開く。

「何やってるのよ3人とも」
「えーと・・・・・・皆で牛丼食ってるんですけど」

答えた俺は、更に鋭くなった眼光に気圧される形でそのまま固まってしまった。
不機嫌そうに吊り上っていた目尻は更に吊り上り、その上の眉は逆八の字を形作っている。
そう思った次の瞬間には辺りに怒声が響いていた。

「そういう意味じゃないっ!、私が言いたいのは人探しに来ててどうしてご飯食べてるのかって事よ!」
「落ち着けよ、クレア。そんな大声出してると周りに迷惑じゃねえか」
「そうよ、貴方も一緒に食べましょう。美味しいわよ、コレ」
「姉さん・・・・・」

そう言うクレアは相変わらず不機嫌そうな顔ではあるが、先程怒鳴った時より幾分かマシな表情になった。
実の姉に対して強く出られないというのはどういった理由なんだろうか?
ちょっと気になる所ではある。

「そうそう、腹減ると無意味にイライラしたりするからなぁ、なんか食っといたほうがいいぞ」
「だからそうじゃないっ!、私が言ってるのは・・・:」
「はいはい、解ってますって」

ライルが何か言うととたんに怒る・・・・、かなりこだわってるのは良く解るが、何がそんなに気に入らないんだろうか?
なんだかとても難しい女の子な気がする・・・・。

「おーい、牛丼一つなー」
「はーい、注文ありがとうございます、牛丼いっちょー」
「なっ・・ちょっと!」

ライルの注文に、そこいらを歩いていた店員が答えて厨房の方へと消えていった。
クレアは自分の言う事を聞いていないようなライルの態度に多少むっとしている様である。

「心配すんなよ、お前の分の払いはアルスから貰うから」
「だから、そうじゃなくて・・・」

ライルの対応に、ついにクレアも怒るのを通り越して呆れ始めたようだ。
・・・・・・それよりも、払いが俺持ちっていうのはどう言う事だろう?
なんか納得いかない。

「ライル、あんまりクレアをからかうんじゃないの」
「はいはい・・・クレア、とりあえず座れよ、なんでのんきに飯食ってるのか説明してやるからよ」
「・・・・・・・・・どう言う事よ?」

憮然とした様子で俺の隣に座ったクレアを見て、ライルはちょっと面倒そうに頭を掻いている。
その隣に座ってるセレネはというと、ライルをたしなめた時以外はずーっと美味しそうに牛丼を食べている。
割とほのぼのとした風景な気がする。

「情報収集の一環なんだよ、ほれ、あそこに牛丼作ってるオヤジがいるだろ」

ライルが指差す方向に顔を向けるクレアにつられる形で俺も視線を走らせると、
厨房と思しき場所で忙しそうに働いている人の良さそうなおじさんが見えた。

「キャンの事聞いたらさ、自分は知らんけどここいらの知り合いに聞いてくれるっていうから、特徴教えて今結果待ちってとこだな」
「それがどうして牛丼食べなきゃいけないのよ!?」
「お前も解らん事言うな・・・・。情報もらってはいそうですかで済ましたら、人間としてどうかしてるとは思わん訳か?」
「そんな事はないけど・・・でもどうしてこの暑いのに牛丼なのよ?」
「それはまあ・・・・こいつのせいだな」

そういうライルが俺を横目で見遣りながらいきなり指差した、俺はビックリして反射的に変に背筋を伸ばしてしまう。
一瞬の後、我に帰って何気なく横へ視線を向けると、今度はクレアが俺を睨んでいるのが目に入って、俺はゆっくりと視線を前へと戻した。

「・・・・・それで?」
「アルス君がね、牛丼食べさせてくれないと死ぬって言うから」
「いや、そこまで言ってないよ」
「そうそう」
「あー、二人してひどい」

正確には「ここで何か食べようよ」とかなんとか言ったんだと思うが・・・・自分で言ったことなのに良く思い出せない。
牛丼を食べる手を止めてちょっとむくれるセレネを見ながら、俺は改めてつい10分程前の事を思い出した。

宿舎であるフレガン官庁舎を出て、ライル達と手分けしてキャンを探しに街中へ出てきたら、
いい臭いがするのでついつい立ち止まってしまったのだ、
んで、そこをライル達に発見されて今に至った・・・・・はずだ、確か。

「こいつときたらあの辺に突っ立って、こう、じぃぃぃぃぃぃーと見てるんだぜ、思わず気になってだな・・・」

眉間にしわを寄せつつそう言うライルはどうやら俺の真似をしているらしい、
普段から割と鋭い目つきが更に鋭くなっているが・・・・俺がやってもこうはならないと思うんだけどなあ・・・・・。
そう思いつつとりあえず言い訳を口にした。

「いや、だってさ・・・美味しそうだったんだよ、臭いが」
「たしかに美味しいけど・・・・・・、なんか鬼気迫るものがあったわよ、あの凝視には」
「だってさー、フレムナにつくまでの間、寄り道とか全然できなかったから・・・・」

ライルとセレネから色々言われる事に包み隠し無しの返答を返しつつも、
そんなに凄い表情だったのか・・・とか思って、ちょっと気持ちが沈んだ。
以後気をつけよう・・・・・。

「まあ、それは仕方ねえなあ・・・・なんか滅茶苦茶急いでる奴がいたせいで美味そうなもんは殆ど見逃さなきゃならなかったしな」
「何よ、私が悪いって言うの!?」

俺の横でクレアが口調を荒げた。

・・・・ムーナムを出て、フレガンへ移動する間、彼女はずーっと先頭だった・・・・というか、
皆が割とゆっくり進んでるのに、彼女は黙々と自分のペースで馬を走らせていたので彼女を放って置く訳にも行かず、皆で彼女を追う形になっていたのだが。

「急いだ方がいいじゃない!、・・・・・どう考えても、大変なのよ、今は」

激しさを持った言葉は語尾までその激しさを続けられなかった・・・・・、周りから変に注目されている事に気付いて、自分で声の大きさを絞った様だ。
目の前のライルは、困った様に頭を掻きつつ言葉を放った。

「そりゃあ、まあ・・・・・急いだ方が良かったのかもしれんがよ・・・・そうやって急いだら目立つとか思わなかったのかよ?」
「目立つ・・・・・・?」
「ああ、目立ってたぞ、10人近い人間が馬で急いでるんだ。アレを見た奴は何かあるんだろうなって思うだろうな」

目立つとまずい・・・・出発前にディーンさんが言ってた事だ。
出発直後から急ぐ彼女を目の当たりにして、ディーンさんが大きな溜息を吐いていたのは俺も良く覚えている。

「・・・・・今度から気をつけるわ」
「まあ、いいけどよ。ここいら辺はまだ平和な方だと思うからそんなに目立ちやしないだだろ、この前の事でムーナムから逃げてきた連中だと思われたかもしれないし」

決まり悪そうにうつむくクレアのほうを見ながら、ライルはそう言って自分の手に持った牛丼の残りを口に運ぶと口をもぐもぐと動かしている、丼の中身はもう殆ど無い。
隣のセレネはというとまだ半分ほど残っていた。
二人が食べる速度は割と速いと思うのだが、この牛丼、元々かなりの量なのでなかなか減らない。
俺など、まだ半分も食べていないのだが・・・・多分、普通の牛丼だと3人前くらいの量だと思うんだが・・・どうなってるんだよ、この二人。
そう思っていると、クレアの声が耳に入ってきた。

「平和・・・なの?そこら中に武装した人間がいるような気がするけど?」

そう話してる俺等の周りにも何人か金属製の鎧なんか着てる奴がいる、無論兵士とかではなくて、多分、傭兵とかだろう。
ムーナイアの国内では見かけるのも珍しかったのに、ここでは割と普通だ。
実際の話、今現在のラムサウス大陸は大陸全土至る所戦場だらけで、国内に戦場が無いのはムーナイアかアスバルド都市連合くらいのものだ、
だからそんなに珍しい光景じゃないし、むしろこっちのほうが普通な気がする。
・・・今の主戦場はドルゴード近辺とオルファス・・・今居るフレガンからはどっちも北の方向だ、実際にはだいぶ距離と方角が違うけど・・・。
ちなみにムーナムはフレガンの北東に位置している、俺達は街道沿いにずっと南西に来たというわけだ。
俺自身この辺は初めてだから来る途中色々と珍しいと思う風景も見れた、大半は荒涼とした荒野ではあったが。

「平和だよ、街道沿いに露店がポツポツと立ってるぐらいだしな。ドルゴードとか、セリュタリアの天都周辺に比べればまだマシだ」
「まあそうかもね、アスバルドとかも傭兵が集まってるみたいだし、ムーナイアが平和過ぎるのかもしれないわね、これからは解らないけど」
「そう言う物なの?」
「そういう物だよ、お前何だかんだ言いつつ、知らない事多いな」
「五月蝿いわね、これから勉強するわよ」

黙って3人の会話を聞きながら、俺はなんとなくひっかかる物を感じていた、話の内容に・・・ではない。
何か・・・・良く解らないけど何か見落としてる気がした・・・いや、聞いてただけだから正確には聞き落としてるのだろうが。

「・・・・・ん、来たな」

クレアをからかって楽しんでいるらしいライルが不意にそう言ったので、ライルの視線を追うとさっき注文した牛丼が来る所だった。

「本当に美味しいんでしょうね?」
「不味いと思ったら、残りは俺が食ってやるよ」
「嫌よ、私のなんだから不味くても全部食べるわよ、それが礼儀でしょ?」
「うん、えらいわよ、クレア」

屈託のない笑顔でそうクレアを誉めているセレネを見ていると、死んだ母親を思い出す。
俺の母親は大した事じゃないのに色々と本気で俺を誉める人だったが・・・・なんかセレネとイメージがだぶる・・・。
そんな事を考えながら、俺はふと重要な事実に気付いた。
クレアが食べてる分の払いは俺だ、だからクレアが食べてるのは俺の牛丼なのだ・・・・。

「・・・・本当に美味しいわね、これ」

丁度放たれた言葉に目を向けると眼前にクレアの整った横顔があった。
俺が出会ってから今までで一番柔らかい表情をしているクレアを見ながら、おそらくはこれが彼女の素の表情なんだろうなと、なんとなく思った。
珍しい物も見れたし、まぁ・・・・牛丼一杯くらいいいか。
そんな気になりながら、俺は自分の分を懸命に食べる事を再開した。



フレムナ在住の父の知り合い達への挨拶を済ませて、泊まっている官庁舎の部屋に戻った時は、もう正午を過ぎようかという時刻だった。
朝方部屋を出たので半日が潰れた計算になる。
普段着に着替えて部屋を出たところで、私はシファインさんの姿を見つけた。

「今お帰りでしたか、ディーンさん」
「ええ・・・・、シファインさんは、こんな所に一人でどうしたんです?」
「留守番です、ライル君達が外へ出てますから」
「外に?」

言いながら自分でも表情が硬くなるのが解った、あいつはどうしてこう・・・。

「ああ、ライル君が言い出した事ではないんです、キャンがいなくなってしまって、それで皆で探しに出て行ったんです。ライル君達は、どちらかといえば付き合わされてる方ですよ」
「・・・・・そうですか」
「随分と心配してらっしゃるんですね、弟さんの事は」
「え?」

不意にそう言われて、一瞬呆けてしまう。

「解りますよ、彼と貴方の性格を考えれば・・・・もっとも初めてお会いしてから日も浅いですし、違っていたら気を悪くしないで欲しいのですけど」
「あ・・・いや、そうです。ライルはいつも心配ばかりさせる弟でした」

そういって、昔の事を思い出した。
幼い弟の泣き顔や、一緒に遊んだり、ドーガ先生の元で供に修行した時の事の光景が脳裏をよぎった。

「仲がよろしかったんですね・・・うらやましいです」
「うらやましい・・・?」

意外な一言だった、つい聞き返した私に、シファインさんは笑って答える。

「私には、家族も兄弟もいませんでしたから」

答えを聞いて、しまったと思った。
気遣いが足りない・・・、これでは一団の長としての示しも何もあったものではない。

「あ・・・すいません、シファインさん、答えにくい事を」
「いえいえ、気にしてませんから。・・・・・それより、その『シファインさん』と言うのはよしませんか、ミトラでいいですよ、みんなもそう呼んでますし」
「いや、しかし・・・」

一度『ミトラさん』とつい呼んでしまった事があったが・・・あまり良くないと思ったのですぐにシファインさんに戻してしまったのだ。
彼は、年上だと言う事を感じさせない人だが、それでも年上の人に向かってそういう呼び方は無い気がする・・。
ライル達にはあえて五月蝿く言う事も無かろうと言ってないのだが。

「お気遣いは無用と言ったはずです・・・失礼だなんて思ったりしてませんから」
「・・・解りました、じゃあ、私の事も『ディーンさん』ではなく、『ディーン君』と呼んでくれませんか、それぐらいされないとそんな気になれません」

苦笑しながら、そう言った。
天雷騎士団でも「団長」とか「団長殿」とか「エミュタイン卿」とか・・・あまり自分でも似つかわしくない呼ばれ方をしているのだ、
それはそれで悪くは無いのだが・・・なんだか他人行儀で、そう呼ばれる時の私は私で無い気がしている。
目の前の男からは、何故だかそう呼ばれたくない。

「・・・解りました、ディーン君」
「これからもよろしくお願いしますね、ミトラさん」

お互いそう言って、軽く笑った。
なんだか、とても久々に心から笑った様な気がした。

「ああ、戻ってらしたんですね、丁度良かったです」

不意に声をかけられて横を向くと、ジィルガ女史が立っていた。

「どうしました、ジィルガ女史?」
「ええ、ディーン君・・・ああ、いやいや、エミュタイン卿に会談の予定が入りましたのでご報告に」
「会談?」
「ええ、フレガンの国家主席、ミアクロイ=ブラウフェン様から今夜の夕食をご一緒に・・と。同行者も何人かよろしいそうですが、どうしましょうか?」

会食か・・・、同行者を連れて来いということは・・・・・割と堅い席になるのだろう。向いていそうな人間を思い浮かべる。

「では、ミトラさんと・・・貴方と私の3人で行きましょう。ライル達はああいう場所は苦手でしょうし、よろしいですか、ミトラさん」
「解りました、御供させていただきますよ、ディーン君」
「・・では、先方にそう申し伝えておきます・・・。それにしても、二人供仲良くなったのね、『ミトラさん』に『ディーン君』なんだから・・・いつからそんなに仲良くなったんだか」

それまで堅い喋り方をしていたジィルガ女史が不意に語調を崩したので、つい笑ってしまう。
私の隣ではミトラさんも同じ様に笑っていた。

「ついさっき、ですよ。シルヴィア先輩」
「もう、ミトラさんまでそんな・・・ディーン君も天雷騎士団の団長になってから他人行儀な呼び方になるし・・・」
「仕方ないでしょう、人前で国王陛下の秘書官に向かって『シルヴィア姉さん』なんて呼び方はもう出来ませんよ」
「寂しい事を言うわねえ・・・こういう時ぐらいはいいでしょう?」

おどけたようにそう言う彼女の表情は、昔から変わらない優しさがある。
私が彼女の事をシルヴィア姉さんと呼んでいたのは過去の事だ、
そんなに前の事ではないはずだが、改めて考えると懐かしい。
しかしそれでも、もうそう呼ぶ事は出来ない、そう呼ばないと自分で決めたからだ。

「駄目です。私がどれだけ苦労して矯正したか知っているでしょう?」

ずっと固定だった呼び方を、公的な場で会う機会が急増したが為に苦労して矯正したのだ、寂しいとかそう言う理由で苦労を水の泡にすろ事も出来ない。
思考のレベルで呼び方を変えるのは大変だったのだから。

「はいはい・・・昔から真面目な所は相変わらずねぇ・・・ミトラさんもそう思うでしょう?」
「昔の事は知りませんけど、ディーン君が真面目な方だと言う点に関しては同意します」
「二人して、私の事で盛り上がらないで下さいよ、お願いですから」

放って置くとこれ以上何を言われるか解ったものではない。
そう思いながら二人を見ると、顔を見合わせて笑っていた、何を言っても無駄か・・・私は諦めてなすがままに任せる事にした。
しかし、そう覚悟を決めた直後に、ジィルガ女史は再び表情を正すと、再び話し出した。

「ええと、それで、昼食はどうしましょうか?」
「ああ・・・ライル達はライル達で出掛けている様ですし、多分外で食べてくるでしょうから、私達は私達でどこか出ましょう」
「そうですか、解りました。リクエストは何かありますか?」
「ミトラさん、何かあります?」
「いえ、特には」
「では、私も特に無いですし、ジィルガ女史にお任せします」

そう言ったのには、ちょっとした理由があった。
この人は昔から何故か色々と妙な事を知っていて、ムーナム市街の隠れた名所の場所など、色々と教えてもらった事は数多い。
昔は、年長者としての経験に寄る物だと思っていたのだが、最近どうにもそれだけではないらしいと思うようになっている。
ただまあ、それが国外でも発揮されるとは限らないのだが・・・・。

「解りました、そうですね、郷土料理で良い所があるそうですから、ちょっと行って見ましょうか。割と近いはずですから」

幸いにも、期待は裏切られなかった様である・・・・・私は苦笑しながら、歩き出したジィルガ女史に続いて歩き出した。



「・・・・・さて、この辺かな・・・」
「本当に済まない、知り会ったばかりでこんな・・・」
「気にしないでくれ、困ってる人がいれば助けたくなるんだ。迷惑だなんて思っちゃいないからそんなに礼ばかり言わないでくれよ」

フードを被った男は俺の言葉に振り向きながらそう言った。
俺が連れてこられたのはフレムナで若い人間が集まる地域だった、俺がぶつかったその男は、こっちの事情を聞くと協力を申し出てくれた。
そこまでしてもらう事はないと一応断りはしたのだが、地元なのだし、ぶつかったのも何かの縁だからと全く引き下がろうとしなかった。
かといって、それは善意の押し売りなどではないと俺は断言できる、彼は俺の言う事を聞き流したりすることは全く無かったし、
俺が何かする事を押し止め様ともしなかった、ただ俺のやる事に対して恐らくは最も適切な方法で補助してくれているだけなのだ。
俺は運が良かったのかもしれないと思った。

「あれ・・、ノール?」
「ん・・・・ジョグ」

不意に掛けられた声に首を振ると、ジョグが立っている。
俺に一声掛けて真っ先にキャンを追っていったジョグがここにいるという事は、探す場所はこの辺りで間違ってはいない様だ。

「ジョグ、キャンはどこに?」
「いや、この辺で見失っちゃったんだ。ごめん」
「この人込みじゃあ仕方ないな。全くキャンの奴・・・・」
「まあまあ・・・落ち着けよ」

ジョグになだめられるが、どうにもキャンの勝手に我慢がならなかった。
どうしてあいつはこう・・・。

「・・・・ノール、そっちの方は?」

ジョグの声でようやく我に帰る。
ジョグを見ると俺の方を見てはいるが、見ているのは俺を通り越して更に向こうだった。
その方向に誰がいたのか思い出して、俺は慌てて言葉を並べる。

「ああ、すまん。ジョグ、こちらはバニング=シルフィードさん。地元の方だ、キャンを探すのを手伝ってもらってる、とても良い方だ」

バニング=シルフィード、それが俺が不注意でぶつかってしまったフードの男の名前だ。

「あ、ジョグ=シーロンです、お世話になってます」
「いえいえ、お世話と言うほどの事もしてないし、そんなに良い奴でもないですよ」

そう言ってシルフィードさんは微笑んでいる。
偶然でここまで巻きこんでいるのに今まで嫌な顔一つしない、俺は心底済まないと思った。

「さてと、じゃあとりあえず俺がここいらの知り合いに声をかけてくるから、ここでちょっと待っててくれるか?」
「あ、それなら俺も一緒に行かせてくれ、探してるのは俺なのに貴方にばかり行かせる訳にはいかない」

そう言ってついていこうとすると、そこで始めて彼は俺を押し止めた。

「違うんだ、別に君達に遠慮してるとかそういうんじゃなくて・・・・一緒に来られるとちょっとややこしい事になるんだ・・・なんていうのかな・・・あ、邪魔って訳じゃないんだよ」
「・・・どう言う事だ?」
「詳しくは後で説明するから、とりあえず俺の言う事を聞いてもらえないか、お願いだからさ・・・頼むよ」
「ノール・・ここはシルフィードさんの言う事聞いといた方が良いと思う」

横で囁くジョグと、目の前でとてもすまなそうではあるけど真剣な表情のシルフィードさんを見るとこれ以上強く出る事はためらわれた。

「解ったよ・・・、よろしく頼む、シルフィードさん」
「ああ、それとシルフィードさんってのは無しだ、バーニィでいいよ。んじゃ」

そう言い残すと、返事を返す間も無く喧騒の中へと消えていく。

「なんか良い人っぽいけど・・・どうしてあんな人と一緒なんだ、ノール?」
「・・・ああ、歩いてて偶然ぶつかったんだ・・・・・・」

生返事を返しつつ、俺はずっとシルフィードさんが消えた方向を見ていた。

「ぶつかったって・・・・それだけで協力してくれてるのか?」
「ああ・・・・・・」
「へえ・・・珍しい人もいたもんだな」
「ああ」

どうも解らない・・・何をこだわってるんだ・・・後で説明するとは言ってたが・・・・・・。

「あー、赤頭だぁー、人差し指隠せっ!」

聞こえた声に反射的に振り向くと子供が数人走り去るのが見えた。

「・・・・赤頭・・・・?俺の事か?」
「・・・・あんま、気にすんなよ、ノール。子供の言う事だし・・・なんか珍しかっただけだって、きっと」

ジョグが困った様に笑いながらそう言う・・・・、
俺の悪口に対してフォローを入れるのはこいつのくせのようなものだ。
自分の事には無頓着なくせに俺の事にはやたらにこだわる・・・。

「そうか・・?、それにしては、何かおかしくないか・・?」

意識して見れば、周りが俺を見る目も何かおかしい違う気がする・・・。
若い人間だとそうでもないが、年配になるに従って顕著になっているような・・・・。
何か決まりが悪い・・・・・自分の知らない所で何かが動いてる気がして、俺は溜息を吐いていた。



蝉の声が一際派手に聞こえる。
昼下がりの空はより一層蒼かった。

食事を済ませて店主のおやじと何事か話しているライルとセレネを少し離れ木陰から見ながら、傍らのクレアを見遣ると、
俺が涼んでいる木とは別の木に寄りかかって目を閉じている、集中でもしているようだ。
話かけようかと思ったが邪魔しちゃ悪いのでやめる事にした。

「何よ?」
「へっ!?」

驚きが声になる。
声を掛けてきたのはクレアだった。

「え?、あれ?、どうかした?」
「それはこっちの台詞、何よ、何か言いたいんじゃないの?」

俺の方を片目で見遣りつつそう言っている。
こちらから話し掛ける事はあっても、向こうからはないだろうと思っていただけに意外な展開だ。

「ああ、いや。大した事じゃないんだけどさ・・・ちょっと話せないかなあ・・とか思って」
「それで・・・?何の用?」
「うん・・・・、姉妹仲、良いんだね。昔から?}

そう言った俺にクレアは言葉ではなく、伏せていた顔を上げて両目を開くという動作で応えてくれた。
驚いたのだろうか?

「本当に大した事じゃないのね・・・、驚いたわ」
「え・・・、ごめん」
「別に謝らなくて良いわよ」

そういう彼女の言葉には呆れの色が見て取れる、いきなり滑ったかなあ・・・俺はまたもちょっと落ち込んだ。

「ええ、仲は良かったわよ、昔から・・・・。お父さんは忙しかったから、セレネ姉さんとミネルヴァ姉さんと私の3人で家事とか分担してたわ」
「ミネルヴァさんって言うの?もう一人のお姉さん?」

そう言うと、今度は鋭くした視線に射抜かれる・・・。
何か不味い事でも言ってしまったのかと、俺は口を閉じた。

「セレネ姉さんに聞いたの・・・?、そうね、一番上よ、ミネルヴァ姉さんは。でも、実際はシルヴィアがいたから、一番上って気はしないわね」

多少怪訝そうではあったが、話は続けてくれる。
どうにも警戒されているようだ、別に他意があるわけではないので、痛くない腹を探られている訳で、あんまり良い気分はしない。別に悪い気もしてないが。

「シルヴィアさんって、そんなに付き合い長いんだ」
「まあ・・・ね。私が物心着いた時にはもう家に居たわね」
「一緒に住んでたの!?」
「ええ、ずっとって訳じゃないけど。・・・・・それで、こんな事聞いてどうするの?」

言われて返答に詰まる、何をするのかと聞かれて彼女を満足させられるような返答は思いつかなかった。
仕方が無いのでありのままを話す事にする。

「あー、いや、別にどうもしないけど、ちょっと興味があったんで・・・」
「ふーん・・・・?、本当に変な人ね、あなた」

―そこで、一瞬時が止まる。かつて聞いたその言葉とそれを発した主の姿が脳裏を過り・・・・それが陽炎の様に目の前に現れて、一瞬で消えた―

「・・話、終わったみたいね・・・」

クレアがそう言うのを耳だけで捕らえて視線をライル達が居た方へ向けると、二人がこっちへ歩いてくる所だった。
俺に全く構う様子も無く二人の方へ歩き出しているクレアの後を追って、俺はゆっくりと歩き出した。

「ここに来る途中の広場の所でさっき見掛けたってさ、さっさと捕まえて帰ろう」

額の汗を軽くぬぐうと、俺は頷いて歩き出す。
蝉の声は相変わらず五月蝿かった。



「こっちだな・・・」

程なくして帰ってきたシルフィードさんの後をついてジョグと二人で歩く。
回りからの視線が含む感情が相変わらず俺には違和感になって感じられた。
先を歩いているシルフィードさんに詳しく聞いたものか、さっきからずっと迷っている形になっている。

「・・どうしたんだ?何かあったのか?」

気付いた時には、彼はもう振り返っていて、こちらを心配そうな目で見ている。

「ああ、ちょっと・・・な。あの、シルフィードさん」
「うーん、だからバーニィでいいって。んで、何だい?聞きたい事?」
「ああ・・・、さっき言おうとしてた事・・もしかして俺の身体に関係する事じゃないのか・・・?」
「・・・・・、もしかして何か言われたのか?」

不意にフードの下から除く瞳が険しい表情を見せた。
俺は黙ったままでただ頷くと、詳しく説明した。

「そうか・・・、先に説明するべきだったかな・・・。答えから言うと、・・ええと、ノールス君だったよね?、原因は君の髪と目の色だよ」
「どう言う事なんだ?」
「民間伝承って奴でね・・・ここら辺には緋王伝説ってのがあるんだ・・・詳しい説明は長くなるから省くけど、そのせいでフレガンでは紅い髪と目をした奴はちょっと特別扱いされるんだ」
「そう・・・だったのか」
「ああ、気を悪くしたと思うけど、別に害は無いはずだから、フレガン国内ではちょっとだけ我慢してくれ」

そう言うフードの下の顔は、すまなそうに微笑んでいる。
俺はそうされる事が何かとても申し訳無く思えて、言葉を返していた。

「いや、訳が解らないからちょっと居心地が悪かっただけさ、理由が解ればそんなに嫌な事じゃない。気を使わないでくれ」
「・・・・ああ」

今度はさっきとは違って力強い笑顔だった、隣から聞こえた含み笑いにそっちを見ると、ジョグも笑っている様である。

「・・・・何がおかしいんだよ」
「いや、ノールが一生懸命だから・・笑ったのは悪かったよ」
「俺もすまない、あんまり真剣だったからさ。まあなんていうか、地元の人間としては悪い印象持たれなくてほっとしたよ」
「ああいや、別にシルフィードさんは気にしなくて良いんだ・・」
「バーニィ!、頼むよ、シルフィードさんなんて呼ばれてるとどうにも落ち着かないんだ・・・」

懇願する様にそう言われると、流石に聞かないわけにもいかないだろう。

「解った、じゃあ俺の事もノールって呼び捨てでいいから。それとこいつのこともジョグって呼んでやってくれ」
「うん・・・いいのかい?」

話し掛けられたジョグは笑顔で頷くと、言葉を続けた。

「ああ、変わりに俺もバーニィって呼ばして貰うから・・・それであいこ」
「そっか、あいこだな、よろしく、ジョグ」
「ああ、よろしく」

そう言いながら、二人は握手などしている。
どうやらジョグはバーニィの事が気に入ったらしい・・・、特に気に入った相手にはこういう反応をするのである。

「さて、行こうか、探してた弟さんだっけ?何か他にも探してる人がいるみたいなんだけど、心当たりある?」

ライル達の事が思い浮かんだ。

「ああ、多分俺達の仲間だよ、手分けしてたんだけど、わざわざ探す手間が省けるかもな」
「よし、じゃあ行こう」

俺達はさっきまでとは違って、誰が言うともなく走り出していた。



聞いた通り街中の広場でキャンの姿を見つける事が出来た。
逃げられる可能性もあるのでこっそりと近寄る。

「いやー、今日は良い日だよ、こんな美味しいアイスが食べられるなんて」
「そいつはよござんしたねえ」

言うなりアイス売りをやってたお姉さんと話をしていたキャンの首根っこをつかむと、引きずって歩き出す。

「えっ?、あっ?ライル?、ちょっと、痛いよ!」
「おお、そりゃあスマン」

言うなり話してやると、キャンは態勢を崩して転びかけ、それでもギリギリで踏みとどまった。

「もう、ひどいなあ、いきなり」
「うるせえ、出かける時に俺に声掛けてかなかった罰だ。お前を探すの大変だったんだぞ、ノールなんかカンカンだったし」
「えっ、兄さんいるの!?」

とたんに顔色が悪くなる、アルスとは別の意味で面白い奴だ。

「心配すんな、ここにはいねーよ」
「ああ、良かった・・・・」

安心した様に嘆息している、まあノールの口やかましさとこいつの性格を考えれば当然の反応と言えるかもしれないが。

「だけどま、コレに懲りて出かける時は誰かに出掛け先ぐらい言って行けよ、何かと面倒なんだからよ」
「わっかりましたー」
「うむ、大変よろしい」

多分わかっちゃいないだろうが別に良い。
一回注意すれば解る奴だろうし、五月蝿く言うと泣き出しそうだ。

「まあ見つかったんだし、良かったじゃん。キャンのおかげで俺、美味しい牛丼食べれたし」
「えー、牛丼?熱くない」

アルスは牛丼の味でも思い出しているのか、幸せそうな顔をしている・・・・いつもと大して変わらないが。

「いや、この暑い時に食べるのが美味しいんだよ」
「ふーん、冬にアイス食べるようなもんかぁ、珍味だよね、そういうの」
「そうそう、でもちゃんとした時期に食べるのも美味しいんだよな・・・そのアイス美味いの?」
「うん、作るのに結構手間暇かかってるらしいよ。買ってくれば?」
「ああ、どこで売ってるんだ?」
「あそこ」

そう言ってキャンはさっきまで話していたアイス売りの方を指差す、見るとセレネが丁度買っている所だった、素早い。

「アルス、買いに行くなら俺の分も」
「おう」

そう言いながらアルスは片手を差し出したきり動かない。

「何だよ?」
「お金」
「おごれ」
「やだよ、さっきクレアに牛丼おごったのもライルの差し金なんだから」

ちっ、どうでもいい事を細かく覚えてやがる、意外と根に持つタイプかもしれない・・・、
そう思いながら財布を探っていると、セレネが戻ってきた。
入れ替わりにキャンがまた売り子さんに寄って行く。

「はい、二人供」

そう言って、紙容器入りのアイスを差し出してくる。
差し出されたのでなんとなく受け取って、とりあえず礼もそこそこに木陰のベンチに座って俺は食べ始めた。

「ありがとう、奢ってもらっちゃって。悪いね、何か」
「アルス君、さっきクレアの分出してくれたでしょう?そのお礼。あ、ライル、後でお金貰うからね」
「・・・・・・おごれ」
「おごって下さい、でしょ?」
「・・・・おごって下さい、お願いします」
「嫌よ」

屈託の無い笑顔でそう言いきるセレネを前に、俺は絶句した。
どっちみち一緒じゃねえか・・・声に出さずにそう思いながら、木ベらで甘く冷たい塊をすくって食べる。

「えーと、・・・・クレアはどこにいるのかしら?」
「ああ、さっきあっちの方にいたから・・俺持っていくよ」
「そう、それじゃお願いするわね」

自分の分とクレアの分、二つの容器を持ってアルスは歩き去っていく。
頭から尻尾を生やしたその背を見送りながら、俺はアイスをまたすくう。
アルスの奴・・・割とマメだな・・・あんなののどこが良いんだか・・・。

「どうしたのよ、渋い顔しちゃって」

声と供にセレネが隣に腰を下ろした。
「いや・・・ちょっと、アルスの事をな・・・、クレアに構ってると酷い目に遭わされるとか思わねえのかな、あいつ」
「あなたじゃないんだから、そんな事ないわよ、きっと」
「どういう意味だよ〜・・・」
「クレアに酷い目に遭わされるのって意外と難しいのよ。あの子、冷めてるから」
「そうか・・・?」

クレアが冷めている・・・とてもそうは思えない・・・。
俺の記憶にあるクレアと言えば、怒ってる顔か俺を睨む顔しかしていない気がする・・・。
笑ってる顔なんてそれこそ子供の頃とかじゃなきゃ思い出せんし・・・。

「そうよ。・・・まあ、ライルには解らないか・・・」
「うん、まあな・・・・」
「うん・・・・。でも、アルス君にはちょっと頑張って欲しいかな・・・」
「何でだ?」

食べる手を止めて、俺はセレネの方を向く。
セレネも手を休めてこちらを見ていた。

「アルス君、色んな事良く見てるから・・あの子の事も解ってあげてくれるかもなって・・・」
「大丈夫なんじゃねえか、アルス、クレアの事好きみたいだし」

俺の言葉にセレネは溜息を吐いた、俺がなんか間違った事を言う時の反応だが・・・何か間違ってたのだろうか?

「アルス君、まだクレアの事好きになってないわよ」
「なんで断言できるんだよ」
「気にはなってるみたいだけど・・・あれは好きって言うのとはまだ違うわよ・・・・純粋に興味を持ってるだけ・・・だと思う」
「・・・そうかあ・・・?」

良く解らない・・・というか、アルスとは馬は合うがそう言う事を詳しく考えた事はなかった。
出会ってから日が浅いせいもあるが。

「アルス君、表情とか意外とはっきりしてるじゃない、楽しい時は凄く楽しそうにしてるし・・・」
「うん・・・まあ、言われてみればそうだな。あれだけ顔に出る奴も珍しいしな・・・」
「でしょう?、それに彼、『面白そうだから』って言ってたじゃない。あれは・・照れ隠しとかそういうのじゃなくて、本当にそうおもってるんじゃないかなあって思うのよ・・」

ああ・・・言われてみれば確かにそうかもしれない。
あの男は隠し事かそう言う事は出来そうに無い顔だ・・・・顔は関係ないか、あんまり。

「んー、んじゃあ、今の所は俺等は黙って見てるのが一番良いか・・・、アルスはともかく、クレアは変に気を回すと臍曲げそうだからな」
「そうね」

話が一応の決着を見たところで、ふと視界に見知った姿が入ってきたので確認する。
ノールとジョグだった、誰だか知らないがフードを被った妙な男と話をしながらこっちへ歩いてきている。
見ていると、向こうもこっちに気付いたらしく、こちらへ歩み寄ってきた。

「よう」
「ああ、ライル。キャンは見つかったか?」
「あそこでナンパ中だ」

楽しそうに売り子の女性とお話中のキャンを指差してやると、ノールは渋い表情でそちらへ歩き出そうとする、
が、ジョグが困った表情でそれを押し止めた。
暑いせいなのか、二人供無言だ。

「・・・・そっちの御方は・・・・?」

二人はさておき、フードの男が気になった。
近寄って見ると、この男、どうにも只者で無い雰囲気がある・・・。
夏場に不釣合いなフードのせいだけではないだろう・・これは。
かなりできる奴だ、多分。

「ん、ああ。こちらバニング=シルフィードさん、地元の方だ。あいつを見つけるのを手伝って下さってな・・。バーニィ、こいつはライル=ローディスって言うんだ、隣の女性は・・」
「セレネ=モーナムです、よろしく」

一応、名前的にはそれなりの有名人なので気を使ったのか、セレネは辺り障りの無い所で偽名を出したようである、抜け目が無い。

「ご挨拶どうも・・・。さてと、探してた人も見つかったみたいだな。俺はもう行くけど、何か会ったら気軽に呼んでくれ、この辺の事でなら力になるよ」
「ああ、ありがとう……あーと、いつもここら辺にいるのか?」

話し掛けられたノールはセレネが偽名を使った事に驚きでもしているのか、反応がちょっと鈍い。
しかし、ノールが返答を返した相手はその事には大した反応を見せなかっただけではなく、
ノールの言葉を聞いてからフードの奥の瞳を驚いたように見開いた。
純粋に何かを思い出して驚いたと言う所だろう。
外からの光を受けて輝くその瞳の色は、見紛う事無き赤であり、強い意思を感じさせる物だった。
ノールと同じだ……偶然が否かは解らないが。

「あー、スマン!、俺とした事が肝心な事を忘れる所だったよ。フレガンの官庁舎って解るかな、多分そこらの人間に聞けば解るだろうけど、俺、そこに住んでるから」
「公務員だったのか?」
「違うけど……まあ、似たような物かな。受付で特殊歩兵団のバニング=シルフィードって言えば俺の部屋は教えてくれるから」

先程の俺の勘の正体が、その時解った。

「そうか、それじゃあバニングさん、一緒に行こうぜ、俺達の滞在先もその官庁舎なんでさ」
「まさか……昨日から泊まってる人達なのか?」
「そう言う事だ。歩きながら弟い居辛、ちょっとお話とか聞かせてもらえるかな、興味があるんだよ」
「興味…、何に対して?」
「『紅の獅子』って奴にちょっと…な」

『紅の獅子』、それはフレガン特殊歩兵団内の特殊部隊の俗称だ。そして、おじさんから最初に聞いた親父のてがかりでもある。

「……俺の解る範囲で良いなら、質問には答えるよ」
「ああ、それで良いよ、ご協力どーも」

思わぬ所で思わぬ縁が繋がるもんだと俺は内心驚いていた。
そう思いながら立ち上がりかけて、手に持っていたアイスの存在を思い出す。
残りを一気に口に放り込むと、後頭部に鈍い痛みが走った。

「あわてて食べる事ないのに……もう」

目を閉じてるので呆れたようなセレネの声だけが聞こえた、多分、その顔も呆れ顔なのだろう。
”詰めの甘さが残るなぁ”と内心で舌打ちしつつ、俺は自分の高騰部を軽く叩きながらゆっくりと立ちあがった。



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