人間は、
環境に適応することによって、様々な姿をみせる動物だ。
そして、その環境が熾烈なものだったとしても、
適応してしまうと、何も感じなくなってしまうものらしい。
 
遺跡発掘隊の仕事というのは結局の所、肉体労働である。
そういうわけか遺跡発掘隊の面々の中には、
朝から無意味にハイテンションな奴や、
朝から死にそうになってる奴をちらほらと見かける。
 
しかし、彼等は
そういう同僚達に囲まれていても、
別段それをおかしいとも思わないのだろうか?
 
今日も遺跡発掘隊の一日が始まる。

でかいあくびを噛み殺し、俺は空を見上げた。
良く晴れていてとても気持ち良い。
支給されたアナログ腕時計の針は午前十時をさそうとしていた。
そろそろ、休憩時刻だ。
少々早いが、俺は休憩にすることを決めた。

「今から休憩ー!」

俺は声を張り上げた。

「はーい」
「ふあーい」
「わかりましたあ」
「・・・・・・・・・・・・」

返事は3つだ、
そして、俺の周りの集まってきた人間は4人。
一人は、

「ちょっと早いんじゃないですか、九条さん」
「いいんだよ、どうせ搬出作業なんてあとちょっとで終わるんだから」
「森本さんに怒られても知りませんよ」
「いいの、オッサンは中で作業中でどうせ昼過ぎまで出てきやしないんだから」
「いいんですか?・・・・・本当に適当なんだから・・・・・・」

そう言って、俺の目の前の女の子は溜息をついた。
支給された作業着もなかなか様になっている。
・・・・美人は何着ても似合うということだろうか。

「俺が適当じゃなかったら、こんな仕事やろうとすら思ってないって」
「それもそうですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

自虐的な発言をあっさり肯定され、俺は絶句した。
彼女は木村素子(きむら もとこ)
結構、真面目な女の子だ。
美人だが、割ときつい所もあるのが玉に傷だと思う。

「九条さん、僕そのへんで寝てますから、休憩終わったら呼んでください」

近寄ってきたうちの一人、細目の男はいつも通り、笑ってるんだかそうでないんだか解らない表情でそう言った。

「まだ、寝るのかよ・・・・・・岡田君よう」
「僕は1日の半分以上寝てないと、死んじゃいますから」
「そういう台詞を笑いながら言うんじゃない」
「笑ってませんよ、僕」
「お前の顔はいつも笑ってるし、実際笑ってるの、俺がそう決めた。大体、そんなに寝なくても死にゃしないだろ」
「死にますよ、僕の親戚はみんなそうです」
「はぁ?なんで、それしきの事で死ぬんだよ?」
「数世代前にかけられた呪いのせいです、末代までたたるという」
「・・・・・・・・マジ?」
「マジです」
「嘘だろ?」
「本当です」

奴の目はマジだった、いつもと違って笑ってなかったし、
線にもなっていなかった。
第一珍しく瞳が見えている。

「・・・・・・・・・・・・大変だな、寝てていいよ・・・・・・・・」

はっきり冷や汗と解る感触と供に俺はようやくその一言を搾り出す。
しかし・・・。

「冗談ですよ、九条さん。それじゃ」

奴はあっさり自分の言った事を覆した、
一瞬呆け、その後、怒りが身を焦がす感覚に拳を震わせた。
こういう詐欺師の卵を見逃してはならない。

「・・・・・・・・お前、死にたいらしいな」
「あの、九条さん、目がマジですよ。・・・・・ギッギブッ、ギブアーップ!・・・・・・・・・・・・」

男は身体を数回振るわせると、動かなくなった。
今、俺にチョークスリーパーであの世に送られた男は岡田信樹、昼寝マニアだ。
どのくらいマニアかというと、大量のまくらをコレクションし、
尊敬するのが、野比のび太というくらいのマニアだ。
今は良く眠れて幸せに違いない。
いいことをした。
そう思っていると、背後から三人目の声がした。

「九条ちゃん、喉かわいたから飲み物ちょうだい」
「俺が欲しいくらいだっつーの」

ただでさえ脳天気な声が、なんだか癪に障った。
いつもならどうという事は無いのだが、タイミングが悪い。
俺は不機嫌そうな声を意図的に使うと言うかなり大人気無い行動に出た。

「えー、九条ちゃん年上なんだから、くれたっていいじゃん、ちょうだい」
「誰が年上なんだよ、誰が?俺より2才も年上なくせして」
「見た目と中身は私のほうが年下なんだからいいじゃない」

目の前の女性は、一見すると10代後半・・・・いや前半でもいけるかもしれないような容姿だった。
だが、俺より年上なのである、
かなり、なめている。

「その見た目に最初は騙されたけど、今じゃそうはいかない、嫌です」
「じゃあ、九条ちゃん、年下として先輩におごんなさい」
「それもイヤ」
「えー!、ちょうだいちょうだい!、くれないと泣いちゃうから!」
「泣け」
「びええええええええええん、九条ちゃんがいぢめるー」
「泣いてもあげませんよ〜」

適当に返事をして、そっぽを向くと。
俺は持参したオレンジジュースをストローでずずっと飲んだ。

「じゃあ、じゃあ、お姉さんが夜のお相手してあげるからぁん、飲み物ちょうだい」
「あんたの身体はオレンジジュースくらいの価値しかないんかい・・・・」
「いいでしょー、ねー」
「駄目ですよ、それに、いっくらスタイル良くても俺の趣味じゃないですから駄目です」

どこまで本気なのか全く解らないが、そんなことはどうでもいい、とにかく適当にあしらう事に決めた。

「えー、じゃあ、素子ちゃんが私のかわりになるからー・・・・・」
「んー、それなら考えてもいいかなー・・・」
「勝手に人の身体を景品にしないでくださいっ!」

お嬢ちゃんは怒っている、
さすがに自分の身の危険を感じたようだ。
しかし、流石に五月蝿くなってきた、ここらでこっちから折れてやったほうが後腐れもなくて丁度良い。

「いやいや、冗談だって。お嬢ちゃんにお相手してもらわなくても飲み物くらいあげるって」
「そういう問題じゃありませんっ!」

げんこつが炸裂した、
痛い。

「いったーい・・・・・、お嬢ちゃん、いくら俺に気があるからってこの仕打ちは・・・・」

今度はマッハの勢いでびんたが炸裂した、
声も無く俺と俺の水筒は宙を舞い、俺はそのまま茂みに突き刺さった。
俺の水筒が頭にぶち当たって追い討ちが入る。
痛い・・・・・・・・・・・・・今度からからかうのはほどほどにしよう、これ以上は多分身がもたない。

「九条ちゃ―ん、飲み物もらってもいい?」
「・・・・・いいけど・・・・、木下さん。・・・・大竹さんに・・・・・飲み物・・・・・預けて・・・・・なかった・・・・・・?」
「おお、そういえばそうだった!九条ちゃんサンキュね!」
「サンキュね、じゃ・・・・・なくって・・・・・助けろよ・・・・・・・、ゲフッ・・・・・・・・・・・」

この天真爛漫系の女性は木下湊(きのした みなと)、一応俺より年上の26才なのだが、
見た目は10代なので要注意だ。
悪知恵は年齢相応に働くようだし・・・。
今でも何人か騙されっぱなしのやつがいるのではないだろうか?
ただまあ、どういうわけかスタイルはいい・・・・俺の守備範囲外なんでどうでもいいけど。
あと九条ちゃんって言うな・・・・・・。

「大丈夫かい、九条君?」

大柄の男が話し掛けてきた、

「・・・・・・大竹さん、俺は・・・・死ぬかもしれないっす・・・・・・」
「そうか、心配はいらない、手厚く埋葬しよう」
「・・・・・・冗談です・・・」

マジ臭い事を言われたので素直に起きる事にする。
ゆっくりとした動作で身体を起こすと、深呼吸をした。

「骨とかは大丈夫なのかな?」
「はあ、なんとか」
「頑丈だね、流石に若いだけはある」
「若さとは関係無いと思いますが・・・・」
「いやいや、関係あるよ。若いほど硬い・・・・」
「・・・・下品ですからやめましょう、大竹さん」

この大柄の男は大竹法慈(おおたけ ほうじ)という名前だ。
俺より年上なのだが、立場は一応俺の部下にあたる。
(なんか知らんが、俺はこの5人組の代表者なんてのをやらされているのだ。・・・やだなぁ)
とはいえ、年上を呼び捨てにするのもなんだし、
自分でも責任者なんてがらじゃないな、とか思うので敬語で話している。
しかし・・・この人は26才なのだ・・・。
木下さんと同年齢ってのがビックリな感じである・・・世の中って奴はこれだからわからん・・・。
普段はぼーっとしてる人なんだが、いったん話し出すと結構しゃべる人だと思う。

「しかし、九条君。据え膳を食わないとは君も欲の無い男だね」
「何が、『据え膳』すか!・・木下さんのアレは冗談ですよ、冗談」

ジュースをすすりつつ、大竹さんの冗談とも本気とも思えない言葉に応じた。

「あたしは結構本気だよ九条ちゃん」

俺はすすっていたジュースを吹き出した。

「九条ちゃん、見てくれは結構いいからなぁ・・・・お姉さんが手ほどきして・・・」
「やめろっつーの・・・笑えん」

口元をぬぐいつつ、呟く。
ただでさえ刺激が少ない職場でこの手の良からぬ噂が蔓延したら俺は首を括りたくなってしまう。

「そうかい、うらやましい話なのに」
「あー、大竹君てば相手してほしいの?、だったら言ってくれればいいのに〜」
「ええっ!・・お、お願いするよ・・・どきどき」
「何の話をしてるんですか・・・二人とも」
「18禁な話だよ、九条ちゃんわかんない?」
「子供が聞いたらどうすんだよ・・・・」
「大丈夫だ九条君、子供が読むかもしれないけど、ギリギリ大丈夫だ」
「何を訳の解らん事を・・・・・」
「となると、後は九条君と素子ちゃんの話か」
「なんで、そうなるんですか・・・・・」

逸れかけた矛先が予想外の方向に行っている、いい加減にしやがれ。

「大丈夫だ九条君、嫌よ嫌よも好き好き大好き、襲っちゃえば・・・・・」

そこまで言った時、大竹さんの巨体が空中へ飛んだ。
後ろからお嬢ちゃんに蹴られたからである。
いい蹴りだ。

「痛そ〜・・・」

原因の一端が自分にもあるくせに、木下さんときたらまるで自分は関係無いみたいに・・・・。
・・・・それはともかく、俺にも危機が迫ってきた、お嬢ちゃんだ。

「く〜じょ〜うさ〜ん・・・」

お嬢ちゃんは目が座っていた。
ついでに指など鳴らしている、似合わないからよせい・・・と言いたかったが、意外と怖い、さらに様になっている。

「いや、大竹さんが勝手に言ってただけだって、俺は間違ってもそんな人道に反するような事はしないって」
「ああいう話を止めるのが九条さんの役目でしょう!」
「悪かったって、あとで飲み物でもおごるから勘弁してくれ」
「駄目です!」

俺は覚悟を決めた、
親友の護よ、俺はおまえに借りた5千円はどうも返せなさそうだ、許せ・・・・。

「チョコパフェじゃなきゃ駄目です」
「・・・・・・・了解」
「今回はこれで許しますけど、ああいう悪趣味な冗談はこれっきりにして下さいね」

とりあえず、俺の命はチョコパフェで助かったらしい、あなどりがたしチョコパフェ。

「おお、ここにいたのか、九条」

安心している所へ再び背後から声がかかった。
応えて振りかえった俺の目の前に俺と似た格好の男が立っていた。

「俺と同じ服を着てるお前は誰だ」
「何言ってんだ、支給の作業着でサイズも一緒なんだから同じであたりまえだろうが」
「じゃあ、お前は誰だ」
「ついこないだ自己紹介しただろうが、それともお前は1週間もしないうちに忘れたのか?」
「忘れた」
「・・・・・・同僚の黒川健太(くろかわ けんた)デス、ヨロシク・・・・・・」
「知ってるよ」
「殴ろうかお前」

黒川君は割と二枚目系の顔の額に青筋を浮かべた。
ちなみに俺と同年齢だ。

「やだなぁ、冗談だよ、冗談。それより何の用だ?」
「・・・連絡があるから組長は隊長室に集合だとさ。・・森本のダンナは?」
「(遺跡の)中だぜ」
「なるほど・・・携帯にかけても繋がらねえわけだ、直接会いに行くしかねえか」

なんとここら辺は携帯電話が使用可能なのだ。
未開の土地のくせに、なんでそういう所は便利なんだろう?

「どうでもいいけど、なんで黒川組の組長が使い走りやってんだ?部下の人、使えば」
「身分的に俺が一番下なんだよ」

そういうと、黒川君はちょっと複雑そうな表情を浮かべた。

「何で?」
「山本さんに使いっぱしりしてもらうわけにはいかんし、皆川さんと鈴木さんは年上だし、残りの大原君は料理長だろ」
「ああ、お前の所の受持ちって『厨房その他』だからなあ・・・そりゃあ大原君に頭があがらんか・・」

厨房において料理長は絶対だ、それに大原君は若いが料理の事に関してはかなり厳しい。
食材を適当に扱おうものなら焼き鳥用の櫛を投げつけてくるくらいである。

「まあな、今もみんなして料理長の手伝いで食堂で勤務中で忙しいしな、俺もダンナに連絡入れたらすぐ戻らねえと」
「リーダーなんて名ばかりって所か、俺と同じだけど俺と違う方向に苦労してんな」
「お前の所は珍妙な奴がそろってるからな・・・・それよりなんでお前、頭から泥だらけなんだ?」
「ああ、そりゃあ頭から地面に突き刺さったからな」
「はぁ?・・・・・どういう事だ?」

黒川君は怪訝そうな顔になった。

「いや、言葉通りの意味さ。ちょっと死にかけた」
「まーた、お嬢ちゃんに迂闊なこと言ってクリティカルヒットくらったな?可愛い顔してなかなか暴力的だからなあ、彼女」
「どういう意味ですか、黒川さん?」

黒川君の後ろには、お嬢ちゃんが立っていた。
目が『きゅぴーん』と光った気がした。



「連絡って何だったんですか?」

そういうお嬢ちゃんの前にはビッグサイズのチョコパフェが置かれている。
ちなみに俺と黒川君のおごりだ。
夏の陽光が差し込む大食堂は、冷房が効いている上、静かでいい感じである。
俺はテーブルを挟んでお嬢ちゃんと向かい合っていた。

「いや、午後からの行動についての指示があっただけさ」

こう言っている黒川君ともうひとり、彼の連れさえいなければデートに見えたかもしれないが、そんな事は俺にはどうでもよかった。

「それで、九条さん、私達のグループはどうするんですか」
「んーと、こいつの所の手伝い、なんか料理長が人手欲しがってるんだってさ」
「こいつってゆーな」
「じゃあ、そいつ」
「なめてんのか、コラ」

俺と黒川君はにらみあった。
どっちかっつーと、見つめ合う感じかもしれない。
そこに無邪気な声が響く。

「健ちゃん、怒っちゃだめだよ、早死にするから」
「大丈夫だよ紫(ゆかり)ちゃん、健ちゃんは生命線が長いから簡単に死なないって」
「健ちゃんってゆーな、コラ」

彼女が黒川君の連れだ、名前は山本紫(やまもと ゆかり)、年齢は6才。
はっきり言って若い、若すぎる感じだ。
元気一杯夢一杯といった様子である。
今日はこの大食堂の近くで遊んでいたので、
黒川君が声をかけて連れてきたのだ。
ちなみに彼女の前には半分くらいなくなったバニラアイスがある。
これはお嬢ちゃんのおごりだ。

「えー、健ちゃんって呼んだら駄目なの」
「いや、紫ちゃんはいいんだよ」

黒川君は柄にもなくうろたえている。
面白いからもう少しからかってやることにする。

「紫ちゃんは良くて、慎ちゃんは駄目なのかよ?」
「誰だよ、慎ちゃんって?」
「慎一だから慎ちゃん」

そこで、黒川君はあからさまに俺を馬鹿にした表情を見せた。

「なるほどぉ、慎ちゃんだからDX(デラックス)チョコパフェなんて頼んでるわけかぁ、ほほぉ」
「そういう健ちゃんはカスタードプリンを頼んでいるじゃないですか」
「い、いやこれは・・・」

ククク、アホめ、俺をやりこめるつもりで逆に泥沼に足を突っ込みやがった。
ここは一気に追いこんでしまうことにしよう。

「いやあ、べつにいいですよう。僕チンはコ・ド・モですから、DXチョコパフェなんぞ食ってるのがお似合いですしぃ・・・、
 黒川君のようなお・と・なの男とは違いますからぁ、・・・で、黒川君は何食べてるんですか?」
「カ・・・・・カスタードプリンだよ」
「へぇぇぇぇ・・・・・・・・、なるほどぉ・・・・ぷ・り・んねぇ・・・・・」
「うるせえ!、プリンを馬鹿にすんなっ!」

追い詰められていよいよキレたらしい黒川君だったが、怒る理由がプリンでは様にならない。
俺は必死で笑いをこらえた。視線をお嬢ちゃんの方向へ反らすと、彼女もそうらしい。
紫ちゃんはというと、目の前で起きている出来事にうろたえ気味である。

「別に馬鹿にしてないよ、かすたあどぷりんなんて」
「いいや、てめぇは馬鹿にしてやがる!いいか、プリンはな、・・あ・甘くておいしいんだぞ!」
「甘いものなんて女子供の食い物だとか言ってなかったかなー?、この前一緒に飲んだ時」

黒川君の表情が一際引きつる、そしてその次に放った一言が傑作だった。

「・・・・う、うるせえ、プリンはな、プリンだけが男の食い物なんだよっ!」

こらえきれずに俺は吹き出した。
同時にお嬢ちゃんも笑い出す、俺と彼女の笑い声で辺りは音の洪水となった。
その中に、呆然自失した格好の黒川君と、
一人取り残された格好になった紫ちゃんがいた。
紫ちゃんは何が起きたのか俺とお嬢ちゃんを交互に見ている。

「二人供どうしたの・・・・?健ちゃんがプリン好きな事がどうかしたの?」
「い・・・いや、プリンが好きなのはいいんだけどね・・・・むきになるのがおかしくて・・・・くっくっく」

紫ちゃんの素朴な疑問に答えつつも、俺の笑いはなかなか止まらなかった。
黒川君はというと、茫然自失を通り越し、幽体離脱してるのではないかと思うくらいのうつろな表情になっている。
ちょっと気の毒だ。
黒川君が顔色を無くしているのに気付いてか、紫ちゃんはちょっと不機嫌そうになった。

「笑っちゃ駄目だよ、健ちゃんが3度のご飯よりプリンが好きでもいいじゃない、紫だってプリン好きだよ」
「紫ちゃん・・・ありがと」

黒川君は幾分表情を取り戻すと涙目で礼を言った。

「悪い・・・・ハァハァ・・・あの、紫ちゃん、三度のご飯よりってどういう事・・・?」
「だってそうでしょ、プリンだけが食べ物だって言ったんだよ」

黒川君は立ったまま後ろへ倒れた。
同時に俺とお嬢ちゃんは爆笑を再開させた。
止めの一撃と言った所だろうか。
紫ちゃんは自分が何か変な事を言ったのかとうろたえている。
無邪気ゆえの罪・・と言った所か。
俺としては男泣かせな女の子に成長しない事を祈るばかりだ。

「4人でずいぶん楽しそうねえ」

不意に声をかけられて、俺は笑いをこらえて声のほうへ顔を向けた。
立っていたのは妙齢の女性だ。
軽くウェーブのかかった黒髪が色っぽい。
ウェイターの服をきているが、それがまた似合っている。
名前は山本敦子(やまもと あつこ)。
彼女は・・・・

「あー、お母さん。どうしたの?」
「お仕事よ。紫はいい子にしてた?、お兄ちゃん達やお姉ちゃんに迷惑かけてない?」
「うん」
「ええ、全然いい子にしてましたよ」
「そう・・・・ところで、黒川さんは・・・どうして『ああ』なの?」
「・・・ちょっぴりショックな事があったのよ、あんまり気にしないでいいわよ」

ようやく笑いをこらえたお嬢ちゃんがそう言った。
実は彼女達は同年齢なのだが、全然そう見えないのがかなりスゴイ。
だから、山本さんは俺よりも年下のはずなのだが、ずっと年上に感じるため、俺もなんとなく敬語で話してしまう。
彼女からは敬語を使う必要は無いと言われたが、それでは俺がやりにくいのであまり気にしないで欲しいと言ってある。
さっきの木下さんとは逆のパターンだ。

「あの、お仕事って?」
「ええ、注文を取りに来たのよ、もうすぐお昼でしょう」
「ああ、もうそんな時間か。今日の昼飯って何があるんです?」
「聞いてどうするんです九条さん、定食食べるんじゃないんですか?」

お嬢ちゃんの突っ込みは相変わらず厳しい。

「いやま、定食食べるけどさ、聞きたいじゃん、やっぱ」
「興味本位で聞くのは営業妨害になりますよ、・・・私は定食を・・・。黒川さんと紫ちゃんは?」
「・・・・・定食・・・・・・・」
「紫はカツ丼」
「渋いね、紫ちゃん」
「はいはい、定食三つにカツ丼一つね。会計は私が済ませておきますから」
「いいんですか?」
「紫の相手をしてくれたお礼って所です、それより食べ終わったらすぐ手伝いに入って下さいね」
「うーす」

注文を取ると山本さんは去って行く。
後ろ姿も色っぽい・・・・。

「あれこそ大人の色気って奴だな」
「九条のお兄ちゃん、紫のお父さんになりたいの?」

俺の呟きに紫ちゃんから鋭い突っ込みが入る。
ものすごい質問だ、返答いかんによっては大変な事になるだろう。

「そいつは難しい質問だな。紫ちゃんみたいな子が俺の娘なら楽しいだろうけど、
 俺じゃあ山本さんの相手は務まらないだろうからなあ。だから一応回答はNOだね」
「ふーん、難しいんだね。紫は九条のお兄ちゃんがお父さんでもいいんだけどなあ」
「そういう事は健ちゃんに頼みなさい」
「だめだよ、健ちゃんは紫の旦那さんになるんだもん」

となりで呆けてた黒川君は横へ倒れこんだ。

「よかったなあ、健ちゃん。紫の上を立派に育て上げた源氏の君の気分だぞぉ♪」
「うるせぇよ!だぁほっ!」
「安心していいよ健ちゃん、今すぐって話じゃないし。紫がおっきくなってから考えてくれればいいから。それまでは結婚しちゃ駄目だよ」
「うっうっうっ、涙が出るほどありがたい話だよ・・・」

黒川君には顔は二枚目、中身は三枚目っていう表現がぴったりだ。
気の毒な事である。
俺だって人の事は言えないが。



「ふぁぁ・・・・」

夕飯時の殺人的な忙しさからようやく開放されて、大きなあくびが一つ出た。
調査隊の人間は全員で20人だが、ここにいたりいなかったりする支援スタッフ等もあわせると最大でその三倍の人数になる。
それらの夕食事を作るのが黒川君のチームの役目なのだが、
仕事が多くなる時は暇な人間は手伝いに借り出される事になる。
そういうわけで、今日の俺はひたすらジャガイモの皮むきと皿洗いをこなさなければならなかった。

「でかい口だな、九条」
「御挨拶っすね、森本のオッサン。で、何の御用ですか」

話しかけてきたのは調査隊の副隊長でもある森本権太郎その人だ。
俺のような年下からオッサン呼ばわりされても気にしないというできた人だが、
外見ではそういう所がわからないのが世の中の上手く出来てない所だろうか。
女の子には怖がられているらしい。
とはいえ、2m近い身長に筋肉の鎧で完全武装した姿は、端的に表現すればゴリラだ。
怖がるなというほうが無理なのかもしれない。

「うむ、麻雀のメンツが足りんから入ってくれ」
「またですか・・・場所は?」
「例によって例のごとく大町の部屋だ、俺は先に行ってるからな。黒川も連れてくるんだぞ」
「うーす、片付け終わったら行きますよ」
「じゃあ後でな」

悠然と去って行く森本のオッサンの後姿を見とどけて、俺は片付けを再開させた。

「森本さん、何のご用だったんですか?」

話しかけてきたのは、俺が昼間あの世に送ったはずの岡田君だった。
一瞥して、皿を戸棚へ運びつつ応える。

「麻雀のメンツになってくれってさ、岡田君、混ざる?」
「僕はもう寝ます、昼間なら相手になりますけどね、夜は頭寝てるし止めときますよ」
「まあ、そうだろうな。・・あのさ、黒川君知らない?」
「えーと、確か向こうのほうで、なんかブツブツ言いながら片付けやってましたよ」
「そーか、なるほどね。サンキュ、参考になった」

最後の皿を押し込むと、俺は手伝い用のエプロンを脱いで横に持ち直した。

「どういたしまして。それじゃ、僕はもうあがります」
「ああ、お休み」

普段と別段変わらない表情だが、明らかに普段より眠そうな岡田君を置いて、
俺は一人黒川君のもとへと歩き出した。
強制連行するためだ。



「なんで俺が混ざらなきゃならんのだ!」
「そういう割にはちゃんとついてきてるじゃねえか」
「俺は落ち込んでるんだよ!」
「元気じゃねえか」
「ふざけんなっ!」

黒川君は怒ってるが、元気になって良かったと思う。
こういうやつがずっと落ち込んでると、接するこちらも気が滅入る。

「はいはい、じゃあさっさと俺に振り込んで負けてくれ」
「絶対にてめえをハコにしてやる・・・・!」
「おお、怖い」

話が一区切りついた所でようやく目的地に着いた。
同じ調査隊の隊員の一人である、大町満(おおまち みつる)の部屋の扉を開けると、
中は既に闘いの場になっていた。

「おそいぜ、九条」

出迎えてくれたのは部屋の主でもある大町さんだ。
俺より一つ年上の人で、かなりの麻雀狂だ。
個人で全自動雀卓を持ってるくらいだから、かなりの物だと思う。

「いやあ、すんませんね大町さん。黒川君が遅くて」
「俺のせいにすんな!」
「もめてないで始めましょう、他はもう始まってるんだし」
「お嬢ちゃんも入るのか?」
「嫌なんですか?」

冷静に会話に割り込んできたお嬢ちゃんに対して、俺は少々嫌な顔をしてしまった。
・・・理由があってもあまりやらないほうがいいとは思ったが、やってしまった事は仕方ない。

「・・・だってなあ、お嬢ちゃんってなんとなく苦手なんだもん」
「運が悪いだけですよ、大体私はそんなに強くないじゃないですか」
「そういう問題じゃないんだよ・・・あんな変則的な待ちになんであんなに振り込むのか、自分でも不思議だからな」
「だから運が悪いんですよ」
「運だけじゃない気もするんだけどなあ・・・・」

ぼやきながら、牌を混ぜて積んでゆく。
この卓を囲む人間は全員がかなりの経験者なので、そのスピードは速い。

「ロン、トイトイ三暗刻、ドラ6!」
「ふざけんな!、なんだそのドラ6ってのは!?」
「ドラが6枚あるって事よ、トシ君あったま悪ーい」
「だまれ、馬鹿女!誰がトシ君だ」
「いや〜、緒方さん怖〜い♪」
「あー、トシ君が鬼みたいな顔するから由香が怖がってるじゃない、いっけないんだー」
「長老〜・・・・なんとか言ってやってくださいよ〜、この馬鹿女供に・・・」
「子の倍満だから16000点だな」
「・・・・・・・・・」

支払い点数を宣告されて劇画調の表情で凍りついた若い男は緒方利明(おがた としあき)。
その緒方君をトシ君呼ばわりしている、いまだに学生気分が抜けきっていないらしい女の子は安原彩子(やすはら あやこ)。
支払い点数を宣告した飄々とした好々爺風の男が佐方大吉(さかた だいきち)で、
倍満をあがったラッキーガールは吉田由香(よしだ ゆか)という名前だ。

彼等について、俺が知っている事を簡潔に列挙すると、
・緒方利明 23才 森本のオッサンの部下で黒川君の後輩。勢いが良くて頑丈。
・安原彩子 20才 ゆるおこと久安隊長直属の部下(久安組の組員ともいう)で、やかましい女の子。
・佐方大吉 50才 常勤隊員中最年長者、久安組の組員、長老と呼ばれても気にしない出来たお方。
・吉田由香 20才 久安組の組員、「安原とは高校からの同級生で仲がいい」らしい。動きとかがなんか怪しい(いろんな意味で)。
という所だ。
彼等とは知り合って日が浅い上にあまり話した事が無いのでまだよく知らない事も多い。
ただ一言いえるのは、全員只者ではないらしいということである。
ここにはまともな奴はいないという事だろうか?

「九条さん、ぼーっとしてないでツモって下さい」
「あ、わりい」

第一ツモ牌はドラだ。
さいさきは良さそうである。
代わりに余った字牌を場に捨てる。

「その牌、ポンだ」
「最初から飛ばしてますね、今夜は」
「別に他意は無いさ、役作りに必要だから鳴いたまでだよ」

昼間の大町さんには無い雰囲気が今の大町さんにはある。
人間、光る瞬間がどこかにあるとかよくいわれるが、
ここまではっきりしてる人も珍しい。
ついでにいうと、ここにいる人間のほとんどは趣味に生きているようだ。
普段はなんか頼りなさそうな人が多いが、そういう人は部屋を訪ねると不思議と生き生きとしている。

「その牌チィィィィィィ〜♪」
「考え無しに鳴いてんじゃねえだろうな、木下のお嬢ちゃん?」
「そうですよ、木下さん」
「ん〜、ちっちっちっ、森本のおじちゃんも大原料理長君もこの木下湊さんのすごい戦略をわかってないわね〜♪」
「わかるわけないでしょう、ただこないだ対面からチーしたから心配してるだけです」
「そんな過去の話はどうでもいいのっ!、私は今を生きる女なのっ!」

やかましいことこの上ない光景だが見た目は高校生3人を教師が指導しているという感じだ。
高校では普通は麻雀は教えてくれないから、実際には(多分)ありえん話だが、それを差し引いてもふざけている。
森本さんが教師、他の三人が高校生ということになるが、
実際、他の三人は高校生といっても差し支えはない。
木下さんは年齢は規格外だが、見た目は高校生並だ、はっきり言って若い。
他の二人のうちの一人、大原隆(おおはら たかし)は木下さんの発言にもあるとおり、ここの食堂の料理長であり、
必然的にかなり重要な存在になる。
だが、年齢は18才だ。
高校の卒業と同時にここに就職したらしい、実家は料亭で、彼は三男だという。
実家にいてもよかったがなんとなく家を出る気になったのだ、と言っていた。

「過去って、4、5日前の事をいうのかよ」
「うるさいわよ、宮原!」
「年下だからって呼び捨てにすんなよな」
「あんたが失礼だからよっ!」
「そりゃあ、すんませんでした・・・・カン」

高校生同士のじゃれあいにも似た痴話喧嘩・・・・とか言ったら、木下さんに睨まれそうだから、言うのは止めておくことにする。
ここで呼び捨てにされて怒っているのは、宮原信士(みやはら しんじ)、年齢は料理長と同じ18才だ。
料理長とは幼馴染で、高校まで学校も一緒だということである。
ここへの就職もその縁らしい。
無愛想なやつだが、俺を含めた他の調査隊の関係者との仲は悪くない。
直属の上司である久安隊長からの評価もなかなかのものらしい、
俺も、どっちかというとああいう連中を部下にするより、こいつみたいな奴が部下だったら、なんぼか気も楽になると思ったが、
過ぎた事を今更どうこう言っても仕方ないだろう。

「カンってあんた、何よそれ!カンドラのったじゃない!」
「うるせえな、ものすごい戦略があるんだったら、俺のことなんかどうでもいいだろ」
「どうでもよくないわよ!カンドラのってるのよ、危ないじゃない!」
「・・・・・・どうでもいいけどカンドラって何だよ?」

信士は結構麻雀の経験は長いハズだが・・・・・・どうやらマジボケのようだ。とりあえず聞かなかった事にしておく。

「あんたふざけるのも大概にしなさい、あんたがカンした牌は全部ドラになったの、ドラ4なのよあんたは!」
「隆、そうだったか?」
「そうだよ、白の次は中がドラだから」
「ふーん、・・・・もしかして結構すごくないか?」
「まあ、すごいといえばすごいかな・・・」
「そうか、すごいのか。そりゃすごい」
「な・に・を他人事みたいにいってんのよっ、あ・ん・た・はっ!!」
「何を怒ってるんだよ」

涼しい顔で信士はそう言った。

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ、あんたには、絶っ対に負けないわっ!このあたしのプライドに賭けて、勝つ!」
「何を熱くなってんだ、お嬢ちゃんよう。落ち着いて打てば振り込むこともねえだろ」
「森本のおじちゃんは黙ってて!、これが落ち着いていられますかっ!」
「対抗心燃やしてくれるのはいいけどよ、勝ったところで俺に得があるわけでもねえんだ。気楽にやってくれよ、頼むから」

相変わらず冷めている様な態度は木下さんの感情を更に煽る結果になっている。
せいぜい負けた連中が缶ビールがジュースをおごらされるくらいなのに、何をそんなにむきになるんだか・・・。
でも、それだけ真剣ということかもしれない。

「むむむむむむむむぅぅぅぅぅぅ、な、なら、あんたが勝ったらこのあたしを好きにしていいわっ!」

俺は驚きでツモった牌を卓の真中へ落としかけた。
何を言ってるんだこの人は・・・・・・。

「アホかあんたは・・・・・・、本気かよ・・?」
「本気も本気よ」
「木下さん、負けたらどうするんです・・・・」

料理長は少しうろたえ気味のようだ、やはり10代には刺激が強かったのだろうか?

「大丈夫よっ、私は負けないっ!、よって負けた時のことなんて考えなくてもいいのよっ!」
「大丈夫なのか・・・・・?」

森本さんはあきれているようだ。

「向こうの卓、どうなるんでしょうね」

お嬢ちゃんが極めて他人事のように呟いた。
クールすぎて、ちょっと怖い・・・・・・。

今日も荒れてるなあ、などとその場の混乱から一人外れているかのような感想を抱きながら、
俺は、お嬢ちゃんの跳満のアタリ牌を捨てた―


大自然の中、遺跡発掘隊の寮の夜は更けてゆく。
朝日が昇るその時まで、
彼等にしばしの休息の時を。
 
しかしながら、
彼等にとっての休息は、
厳密な休息ではないらしい。
 
朝から無意味にハイテンションの奴や、
朝から死にそうになってる奴が多いのはそういうわけなのだ。
 
環境に適応するということは、
結局の所、
そういうことらしい。

後書き

遺跡発掘隊の話の第2話。
第1話を衝動的に書いたツケなのかどうかは知らんけど、書くのに半年くらいかかってます。
第1話を書いたせいか、9月頃にHPを一部リニューアルしました。
案内者達(つまりはこの話の登場人物達)の台詞もちょっといじったりしましたが、あまり変わり映えしないのはなんでだろう?
あー、脱線した。
 
内容については、
「基本的な「ギャグ話」というコンセプトを守りつつ、新キャラ(俺としては全然新キャラじゃないんだが)を紹介して、さらに日常を書く」
という、ヘッポコ物書きにはかなり無茶な事をやりました、となりますな。
話としてまとまりが無いため、後半尻切れ気味なのはお許し下さいませ。
自分的には頑張ったのですわ、得に麻雀の所を(大笑い)。
麻雀の部分については、もう毎週のようにやってて変に詳しいので、かなり突っ込んだ(素人にしては)表現にしたつもりです。
麻雀が解らない人ごめんなさい、これを機に麻雀に詳しくなってくれ!
 
これから、ちまちまとした訂正とかやらんといかんのですが、
この話、最低だと世に出ないかもしれません(俺的になんかどうでもよい感じになってるので)。
そういうわけで、この後書きを読んでる方はかなりラッキーですぞ!
話がずれますが、これを書いてる途中で、第1話をちょいちょいと修正しました。
なんせ勢い任せで書いた話で誤字脱字も多かったので・・・・・

んでは、あるかどうか解らない第3話の後書きでこれを読んでいるあなたと間接的に関われる事を願って。

1999年11月9日 PM10:41
自宅にて


後書き・Ver1.02

某所に差し上げたお話なのですが、よく考えるとこんな話を他人様のHPに贈るなんて、どうかしてますね。
鬼門人なあの方には本当に頭が下がります。
許してねブースカ君、今度はもっとまともなモノ贈るから。

この度、自分のHP上で公開する気になったので(うわ、贈呈品にしたのに・・・コイツってば最低・笑)色々と加筆修正してみました。
感想など聞かせて頂けると幸いです。

2000年5月9日 PM4:38
自宅にて


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