図説 満州帝国  太平洋戦争研究会著  ふくろうの本  

太平洋戦争研究会(著) ふくろうの本 河出書房新社 (1996/07)
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「満州」を見直すためのスタンダードな本, 2005/3/31


本年(2005年)はポーツマス条約100周年です。日本が、おおでを振って「満州」に出て行ってから100年になるのです。そのような時、「満州」を振り返るにあたって手頃な(少しがんばれば2日で読める)書物としてベストに近い本です。たくさんの写真を見ながら、時代を追って、清朝の始まりから日清、日露の戦争を経て、日本が軍を先頭にしてどのように満州に進出し、そこで何を行ったかを(そして、少し考えれば、何を行わなかったかも)たどることが出来ます。事実を記述して良くできた概説本です。

日本の(また、中国の)国民の姿の描写は、この本では国家や軍隊がおこなったことに比べ多くはありません。が、実際に「満州」を経験された人々が、別の書物などでいつわりのない経験を書き残しておられます。しかし、終戦時の大本営情報で132万余の日本人居留民が「満州」に居たことを思えば、書き残されていないことの方が多いのです。それはさておいても、それらの書物などで庶民の生活がどうであったのかを補えば、「満州」が何であったのかを考える主要な情報は与えられたことになると思われます。

私の親も含め、「満州」を知る人々が減ってゆく時代です。中国人の友人によると、その高齢なお母さんは、「満州」で日本人がしたこと、日本人にされたことを忘れられず、未だに日本を(日本人をも)決して許せない、とおっしゃるそうです。ところが、それらを含め中国で当時起こった多くの事実を直視し、それら事実や経験に基づきその道をくり返さないよう考えることを自虐史観と称して批判する人々がおります。それら批判の正否を含め、いわば「満州」100年とも言える今年を契機に、もう一度、「満州」を見直すことは、日本と日本人の21世紀にとって大きな意味を持つと思われます。そのような時、この本が提示している事実を徹底的に批判的に読んでよいと思うのですが、そのひとつの入り口として、またスタンダードとして格好の書物と言えます。

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